作品タイトル不明
1324 ジュニアの冒険:『究極』の選択1
『ではまず、座ろうなんだな』
「はい?」
『長い話になるだろうから立ち話はキツいんだな。ボクは脚が悪いんだな』
はあ、そういうことであれば……。
用意されたテーブルを挟んで、神と向かい合わせに座る。
『これでおむすびでもあれば完璧なんだな』
ついさっき食べてたじゃないですか。
あ……。
お茶入れましょうか?
不死山から直接訪れたために背負っていた登山セットの中に、茶葉も水も湯沸かしセットも入っている。
『きょほーう、さすが聖者くんの息子なんだな!』
長く喋ると喉が渇くから飲み物は欲しい。
こっちで用意したものならヨモツヘグイにもならないから安心だな。
……そういや思い出した。
僕は腹が減ってるんだった!!
カップが二つ並んだところで会話再開。
『まず初めに言っておくけれど、ボクはいい神様なんかじゃないんだな』
「え?」
いや、そんなことはないでしょう。
アナタがくれたギフトのお陰で父さんはこの異世界で生き抜くことができたし、その父さんの活躍で戦争が終わり、世界に平和が訪れた。
ここまでの大きな、そして肯定的な出来事を引き起こした根源であるヘパイストス神がいい神様でないわけがない。
『結果論なんだな。ボクは世界の平和なんて考えたこともないんだな』
ヘパイストス神は自分のカップをフーフー何度も息吹きかけて中のお茶を冷まそうとしていた。
猫舌?
『ボクはただモノ作りが好きなだけの神なんだな。自分の思い通りのものを形にする、それだけが生き甲斐だし、それにしか興味がないんだな』
『だから自分の作り出した神器が、どんな奇跡を引き起こそうとまったく我関せずだったんだね。そりゃ世界終末剣とか躊躇いもなしに納品するわけだ』
やや空気化していたヘルメス神が呟く。
『だからヘラお母さんがゼウスパパを解放しようと他の神と争って、神界戦争が勃発しようとした時も傍観したんだな。ゼウスパパが邪神と融合して地上に這い出た時も駆けつけなかったし。それよりも工房にこもってモノ作りしていたかったんだな』
『それでもゼウス父上やヘラ様への恨みが強くて注文以上のものを作ったりもしたよね』
しかしいうなればヘパイストス神の能動的な世界への関与などその程度なのだ。
モノ作り以外何も興味がない神ヘパイストス。
『聖者くんに与えた「至高の担い手」もそうなんだな。こういうのが作れそう、作れたら楽しいだろうな、で作って、一番上手く使ってくれそうな聖者くんに進呈したんだな』
モノ作りにしか興味がないヘパイストス神は、そこでもう『至高の担い手』への興味は失せてしまった。
彼の作品は彼の手を離れ、彼は仕事をやり遂げたのだから。
その後に父さんが引き起こした戦争終結の偉業も、数々の事物で世界の文化水準を押し上げたことも、数々の種族が手を取り合って平和な世界が出来上がったのも……。
すべては偶然の産物……!?
『これだけは言える、「至高の担い手」によって起こった世界の肯定的な変化は「至高の担い手」単体で引き起こされたものではない。その持ち主が聖者くんだったからこそ起こったんだ』
父さんという善良で素朴な人だからこそ『至高の担い手』の変化は、緩やかにかつ建設的に世界へもたらされていった。
もし『至高の担い手』を贈られたのが父さんではなく、もっと野心的な人物だったら?
世界への変化はもっと激烈なものとなり、より急激な変化が……。
その途中で何万人もの生活が乱され、たくさんの犠牲者が出たかもしれない。
いやそれならまだいい方かもしれない。
悪人が『至高の担い手』を得ていたら世界は凄惨になっていたかもしれない。
『至高の担い手』にはそれだけのポテンシャルがあるのだから。
でも『至高の担い手』が父さんに渡ったのはまったくの偶然。
ヘパイストス神がたまたまアテナの代役をしていたタイミングで異世界にやってきたのが父さんだったから。
たったそれだけの偶然で、この世界の命運は決まった?
『いやいやいや、さすがにそこまでじゃないんだな』
ヘパイストス神が俄かに否定する。
『たしかにボクはモノ作りにしか興味がないけれど、悪い結果になるとわかっていて何もしないほど良識ぶっ壊れてはいないんだな。もしあの時ボクの前にやってきたのがヤバい人だったら「至高の担い手」じゃなくもっとテキトーなものを渡していたんだな』
『よかった……その程度の良識はあって……!』
どうやら最悪の事態は元からなかったようだ。
きっとヘパイストス神は父さんだからこそ数ある自作品の中から『至高の担い手』を選んで渡したんだろう。
ヘパイストス神はモノ作りが好きというが、父さんにもそういった部分がある。
きっと二人は似た者同士なのだ。
そうしたシンパシーが父さんの中にある『至高の担い手』を必要以上に高めたのかもしれない。
偶然は、運命だったのかもしれない。
『それはあったのかもしれないんだな。聖者くんはボクの想像を超えて「至高の担い手」と噛み合った。手にしたものの潜在能力を限界以上まで引き出すのが「至高の担い手」だけれど。その「至高の担い手」自身も聖者くんによって百パーセント以上の能力を引き出されたのかもしれない』
ヘパイストス神、僕を見て言う。
『キミに能力が受け継がれたのも、そんな奇跡の一端であったのかもしれないんだな』
ここで話が戻ってきた。
父さんのことではなく、その息子の僕のことだ。
『ボクが何を言いたかったかというと、ボクは自分の趣味以外に興味がない神だけども、それでも最低限の良識は備えているつもりの神でもあるんだな。さすがにゼウスパパほど良識も真心も品性も終わってないんだな』
そんなヘパイストス神の目下の懸念が、僕。
『ボクはこれでも、彼なら安心だと信じて聖者くんに「至高の担い手」を贈ったんだな。その信頼に応えて聖者くんはとてもよく「至高の担い手」を活用してくれた。でもジュニアくん、キミは違うんだな』
うッ。
『ボクはキミのことを知らない……というか聖者くんに「至高の担い手」を贈った時は生まれてすらいなかったんだから知りようがないんだな。そんなキミに遺伝という形で「至高の担い手」が渡ってしまった。いや、それよりもさらに進化した「究極の担い手」が』
それはヘパイストス神にとって完全なる想定外だったんだろう。
元々遺伝することすら予期していないんだから、どれだけ青天の霹靂であったか想像に難くない。
『聖者くんのことは信頼できるがキミのことはわからない。キミが「究極の担い手」を適切に使ってくれるか。もしも悪いことに使って世界に混乱をもたらしたのなら、その責任は元をたどってボクにまで行きつくんだな』
すべての始まり、父さんに『至高の担い手』を贈ったヘパイストス神に。
『ボクは、神としての責任は取りたくないけれど自分の作ったモノへの責任はちゃんととりたいんだな。だからキミが「究極の担い手」を使うに信頼できる人物かちゃんと問いたい』
……。
もし僕が、『究極の担い手』に相応しくないと結論になったら。
『神々のルールの話が前に出たけれど、「神は一度与えたものを取り上げてはならない」というルールがあるんだな。だからボクは聖者くんから「至高の担い手」を奪えない。既に一度与えてしまったものは、でもジュニアくんのは違うんだな』
「!?」
僕の「究極の担い手」は、ヘパイストス神から与えられたものじゃない。
あくまで遺伝という形で父さんから分かれ出たもの。言うなれば自然発生したもの。
『でも「至高の担い手」の類似品であるからにはボクからのアクセス権もないではないんだな。一苦労はすると思うけど、キミから「究極の担い手」を取り上げるのは可能だと言っておくんだな』
『待て待て待て待て……!』
堪らずといった風にヘルメス神が割って入る。
『その決定はあまりに横暴だよヘパイストス兄さん。ジュニアくんはこの年齢になるまで「究極の担い手」を使い続け、道義的に誤ったことは一度もない。この一事だけで彼に「究極の担い手」を持たせるに問題ないことは明らかだ!』
『この先もどうなるかわからないんだな。聖者くん親子の能力が、使いようによっては世界のバランスを大きく崩すことは既に立証済み。ならば今のうちに、回収可能な息子の分だけでも回収することは正しいんじゃないかな?』
確認するように僕を見つめるヘパイストス神。
無責任なんてとんでもない。この神は大きくかかる責任に向き合っている。神としての責任じゃなくて、自分が作ったモノに対する責任かもだが。
僕は考える。
僕が生まれた時からともにあった『究極の担い手』。それが世界に災いをもたらすなら今、分かたれるべきなのか?
「……『究極の担い手』を回収するのは、やめてください」
『何故かな?』
「僕はやがて父の跡を継ぐ。父の果たそうとした事業を引き継ぎ、さらに先へと進めていく。その時、父と同じ能力がある方がよりスムーズに引き継ぐことができる。僕は……聖者の息子なんです」
『至高の担い手』と『究極の担い手』。
類似する能力は、それもまた親子の繋がりでもある。
それだけが僕ら親子の絆だとは言わない。
経験、記憶、父と共に培ってきたものは様々あるが、そのどれもが大切な絆だ。
僕はそのどれ一つだろうと失いたくない。
『欲張りなんだなあ』
「欲張りではいけませんか?」
『全然。欲張りだからこそ妥協しないモノ作りができるんだな。キミは聖者くんの後継者に足る欲の大きさの持ち主なんだな』
それは……褒められているんだろうか?
『そしてボクも欲張りなので、もう一回だけキミを試させてもらうんだな。神のルールを使って、もう一度……』
神のルール?
『キミが「究極の担い手」を手放さないと言うんなら、保険をかけておきたいんだな。「神は一度与えたものを取り上げてはならない」と対になるルール……』
――『神はさらなるものを与えてはならない』。
『……を使って』