軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1279 ジュニアの冒険:荒ぶる大地

歓迎会終わって翌朝。

ついに僕の、冒険者として初の仕事が始まった。

「うー、二日酔い頭痛い……!」

「頭痛―い……!」

シャルドットさんもヒビナさんも、昨晩の深酒を引きずっている模様。

こうなるとわかっていて、何故なおも酒を飲み続けるのだろうか?

「うっさいやーい! 人にゃーな、飲まなきゃやってられないこともあるんだ!」

そうなんですか?

お酒を飲んだことのない僕にはまだまだわからない話だ。

たしかに同じようなことを母さんも言っていた記憶があるが。

そろそろ本題に入りたいのですが。

朝もはよから、こんな野原に呼び出されて何なんです?

「えへへ、ジュニアきゅんにはこれより冒険者の初仕事を受けてもらいまーす!」

それでこの野原ですか?

振り返れば、王都の街並みは遠くに。なんだか既視感のあるこの立ち位置。

昨日の適性審査とほぼ同じような気がしますけど、また度胸試しでもするんですか。

「チチチチチッチッチッチッチチチチ、ジュニアきゅんは甘いなあ」

舌の鳴らし方が独特。

今更ながらだけど『きゅん』付けってどういう系統の日本語?

「今日の相手は、一つ星モンスターなんかとはわけが違うよ。これは最近になってできた冒険者ギルドの恒例行事みたいなものでね。単純作業で退屈なんだけど、放置しておくと大変なことにもなりかねないからサボるわけにもいかず……」

とヒビナさんは痛しかゆしといった表情を作る。

なんだ?

そもそも冒険者の主な仕事はダンジョン探索とのことだからこうして外に出ることも本来イレギュラーなことだ。

その上に、実のところ野原に集まっているのは僕とヒビナさんとシャルドットさんの三人のみではない。

他にも数多くの人がたむろしていて、開催前のコミケか、って風情になっている。

僕はコミケ行ったことないけど。

こうして集まっている人たち全員冒険者なのか?

これだけの人が集合するなんて何事?

「農場国ではなかった? ここ最近起き始めた現象でさ、専門家もまだ完全に解明できていないって話で、目下完全な謎現象なんだけど……」

と言っているうちに、早速異変が起こった。

地鳴り?

大地が揺れているし、どこからか聞こえてくる大きくて重い音。

「来たか……、大方予報通りだな」

見ればシャルドットさんが早速プロフェッショナルの顔になっていた。

二日酔いはもう吹き飛んだのか?

「野郎ども索敵開始! やっこさんの位置を割り出せ! 進行方向が重要だぞ! 王都に向かってくるなら危険度◎だ!!」

テキパキと周りの冒険者に指示を飛ばす。

さすがA級冒険者と言うべきか、リーダーシップに富んでいる。

それはいいが……。

「そろそろ何があるか説明してくれませんか!?」

おいてけぼりの新人がここにいるんですが!?

説明なしで現場に放り出すってブラック企業ですか!?

「いやぁサプライズしようかなって」

現場にサプライズいる!?

なんでもサプライズればいいってもんでもないぞ!

よくない、よくないよサプライズ症候群!!

「それに実際見た方が、説明するより早いってのもあるし」

「聞くより見ることが冒険者にとって重要だ」

シャルドットさんまでこっちに寄ってきた。

一応新人への気配りはしてくれているらしい。

「ほら、もう見えてきたぞ」

シャルドットさんが遠くのお山を指さす。

そこに何が?

山しかないじゃないか? と思ったが違う。

山じゃない。

山が揺れていた、そして動いていた。

実際にあるのは、山のように巨大な何かだ。

それがこの地鳴りを、鳴らしているのか?

たしかに一歩踏みしめただけで大地鳴動しそうなナリだが。

アッという間に近づいてきて、様相もハッキリわかるようになった。

と言ってもなんと形容すればいいか……。

巨大獣。

それ以外に上手い言い表しが思いつかない。

とにかく真っ先に浮かぶ印象が巨大さだ。

全長は約七十メートルといったところだろうか。

ちゃんと手足頭と思しき部位はあり、生物のていはとってあるが、とても生物とは思えないだけの巨大さがただただ印象のすべて。

手足と言っても短いのでずんぐりむっくりとした感じだ。

さらに全身をぼっさぼさの体毛が覆って、……しかもその毛一本一本も枯れ木程度の太さや長さなんだろうが……、そんなのに覆われているのでそれこそ、ちょっとした小山がズンズン移動しているかのように見えてしまう。

それを一言で言い表すならば、やっぱり巨大怪獣だろうか。

……いや禍威獣っていうんだっけ?

そして僕は、あの禍威獣もとい怪獣に心当たりがあった。

「あれは……人間国にもいたのか」

「おや知ってる? やっぱり世界規模での災厄なんだね」

ヒビナさんがため息交じりに言う。

「山ほど大きい巨大獣、ここ数年になって急に目撃例が出始めたのよねえ。正体は今もって不明だけれど」

「はあ……」

「何かしらの環境変化が生んだ災害級のモンスターか、それとも神が人間を罰するために送り込んだとか色々な説があるけれど、真実は闇の中。唯一ハッキリしているのは、アレを放置しておいたら街や村が大変なことになる、ってことだけ」

たしかに。

あんな巨獣が街中に踏み込もうなら、想像するまでもなく集落は壊滅するだろう。

「あの巨獣自体目的があって動いてるようじゃないみたいだから、村か街に直撃する可能性は、それこそ運次第なのよね。だからあの巨獣の行く末を監視するのが今回のクエスト」

でも……。

監視するだけならこれだけの人数は必要ないんでは?

と思って、すぐに思い当たる。

これだけの冒険者が必要になる事態を。

「そう、もし万が一にも巨獣が街か村に向かっているなら身を挺してでも止める。それが今日のクエストだ」

あの巨獣は、別にモンスターではない。

だから、狙って人を襲ったりすることもないので、街or村を見つけたからと言って『そこ目掛けて突貫!』ということにはならない。

例えるならば台風のようにフラフラと、上陸するかは状況次第という感じだ。

さすればそんな巨獣の正体とは?

モンスターとは違うんでしょう?

僕は知っている、あの巨獣がいかにして生まれたかを。

すべての始まりは農場国において、新肥料の開発が行われたことから……。

あの当時、ヴィールはドラゴンエキスの始末に頭を抱えていた。

ラーメンスープに入れてゴンこつラーメンとして売り出す手法が頭打ちとなり、抱えた在庫を消費する手立てがついになくなった。

そこで新たな活路を見出したのがウチの母さん。

母さんもハイパー魚肥に替わる、新しい超絶肥料の開発に打ち込んでいた。

そこで目をつけられたのがドラゴンエキス。

モンスター魚ですら、撒けば数日で作物を実らせるくらいに強力な肥料となる。

ドラゴンともなればその効力は何倍になるのか。

ドラゴンエキスを消費したいヴィール。

新しい肥料を開発したい母さん。

そこに需要と供給が一致してしまった。

結果生みだされた新肥料、ドラゴン肥料は期待通りの働きをし、農場国の生産量を倍々で高めてくれた。

農場国発展の陰にドラゴン肥料があると言っても過言ではない。

しかし……、好事魔多しとはよく言ったもの。

上手い話には必ず落とし穴がある、今回も例外ではなかった。

当然ながらあまりにも過剰な栄養をもったドラゴンエキス。

地面に浸み込めば、ただ土の栄養価をブーストさせるにとどまらず、ついに収めきれなくなった栄養が大地から溢れ出て、実体化まで果たした。

あたかもダンジョンの滞留マナがモンスター化するかのように。

そうして出来上がったのがあの巨獣。

あの巨獣の正体は、溢れ出るほどのドラゴンパワーが凝縮されて生み出された疑似生命ってことだ。

農場国ではその生い立ちから地顕獣などと呼ばれている。

農地への過剰な栄養提供から生み出された、明らかなる公害だ。

この竜顕獣が初めて確認された際、さすがに父さんもマジギレして母さんもヴィールも滅茶苦茶怒られていた。

さすが父さんも締めるべきところは締めるんだな、と思った。

だが怒ったところで根本的解決はせず、地顕獣は恒久的な災害……天災? として認知されるようになった。

平和になった今でも世界を騒がせる厄介モノの種は尽きないのだった。