作品タイトル不明
1238 孤独のラーメン発見ドラゴン
閑話休題。
おれ様なのだ。
究極! 最強! この世のすべてがひれ伏す恐るべき存在グリンツェルドラゴンのヴィール!!
誰もおれ様を見過ごすことなどできないのだ!!
まあ、今はお忍びで来ているから見過ごしてくれる方が助かるのだがな。
そのためにニンゲンの姿に化けているのだし。
今日は、王都まで来ているのだ。
ご主人様とその取り巻きどもを送ってやったついでだな。おれはこんなニンゲンどもの集落に用事なんかないから、送り届けたらとっとと帰ってもよかった。
……が、よく考えたら用事ともいえない小用程度ならあったので、ついでとばかりにすましておくことにしたのだ。
本当に“ついで”としておくのがちょうどいい些末事ではあるがな。
最近、ニンゲンどもの街中でもラーメンが流行しているらしい。
ハッ! 真のラーメンの源泉であり本流はおれ様なんだけどな!
ご主人様から教えてもらった料理におれなりのアレンジを加え、完成の域まで高めたものが、おれ様のゴンこつラーメン!
そのゴンこつラーメンを様々なところで振る舞い、披露してきた結果……それを食してきた幾人かが感銘を受け、自分たちで見様見真似のラーメンモドキを創り出したようだ。
いつの間にか、そうした動きが社会現象化し、いくつものラーメンモドキが生まれて店まで出しているとか。
これがラーメンニューウェイブってことなのか!?
今ではそうしたウェイブが極まって、いくつものラーメン店が軒を連ねて『どっちが売れるか』で勝負を繰り広げているんだとか。
とにかく本家本元のおれ様を差し置き、頂点を競い合うなどおこがましいにもほどがある。
よって今日、おれ様が直々にラーメンモドキどもの出来栄えを審査してやろう。
そう思って送り届けたご主人様たちと一旦別れて、あらかじめリサーチしてあった王都のある一区画……。
『ラーメン激戦区』と呼ばれる場所へと向かった。
この地区では、いつごろからかラーメンを専門に扱う店が立ち並び、さらにそれにつられて新店舗が開業という循環を繰り返し、いつしかラーメンテーマパークみたいなエリアになった。
そんな場所に今、到着!
「まるでテーマパークみたいだ、テンション上がるなぁ~」
右も左もラーメン屋!
手前も奥もラーメン屋!
見渡す限りのラーメン街、おれの模倣者どもがこんなに増えているのか、と思うとむしろ照れ臭くもあるな。
しかし模倣は所詮模倣、真なるオリジナルであるところのアルティメット・ワンおれ様に敵うはずもない。
今日はそのことを確認するために、猿真似のニセモノラーメンを賞味してやるのだ!
とはいえたくさんお店があるから……どこから入るか迷うなあ。
こういう時は心と体を空っぽに……んぬ、あそこの店から線が伸びている気がするのだ。
では最初に入る店が決まったな。
『らーめん海の心』
……何故、海?
ラーメンと海が何の関係があるのか?
まったく理解はできないが、それれも店の中に入ってみたらわかるだろう。
もしや……店の中が海とか!?
「らっしゃーせー」
普通の店内だった。
カウンターがあって椅子が並んでいる。
何の変哲もない店内だ。
なんだ、身構えてソンしたな。
単に店名でコケ脅ししたかっただけか?
「御注文は何にいたしましょう?」
「ラーメンを頼むのだ」
何も付け加えずに頼むラーメンこそその店のスタンダード。
この店の思想理念能力がむき出しとなって出てくる。トッピングによる下駄など履かせないのだ。
さあ、出すがいい。お前たちの素の生き様を!
このドラゴン・ヴィール様が一すすりに味わってやろう!!
「ラーメンお待ちしましたぁー」
何ぃいいいいいいいいッッ!?
このラーメンは!?
透明!?
スープが透明なのだ!?
どういうことだ!? ラーメンスープといえギトギトに濁りきっていて、その分幾百育億もの味を内包して、その奥行き複雑さでもって客の舌を唸らせるものではないか!?
しかしこんな透明なスープ……。
まるでお吸い物ではないか、これでは内包される味の種類も濃度もたかが知れている。
はッ、まさかこの透明さを、海の透明さになぞらえての店名とか!?
だとしたら小手先小細工もいいところだな。
この透明スープと一口味見してから喝破してやるのだ!!
では、いただきます……。
ズズズッ。
……!?
これはッ!?
魚介ッ!? 魚介の味が広がっていく!?
この透明スープに溶け込んだ味は、魚介の味!
しかも一種類だけじゃない、魚、カニエビ、貝など! そして魚も一種類じゃない、様々な魚の骨から味を煮出して、それらを絶妙の配合で組み合わせている。
そうかッ、それゆえの『海の心』なのかッ!?
このスープにはまさしく海の心が詰め込まれている。最後に海そのものとしての塩でまとめられた魚介塩ラーメン!!
おれ様のゴンこつラーメンとは、まさにまったく別の方法論からまとめられた傑作!
見事なのだ!!
「ごちそうさまでした!」
「ありがとうございましたー」
ううむ、最初の一発目からクリーンヒットを貰ってしまったのだ。
おれ様のゴンこつラーメンから始まった異世界ラーメン。その原型を組みながらまったく違うアイデアで別物に近い模倣品を作り上げるとは。
この世界のニンゲンどももなかなかにやるものだ。
さあ次の見せに行くか。
おれ様の腹はラーメン一杯ではとてもパンパンにはならないぞ、何しろ元がドラゴンだからな。
何しろこれだけたくさんのラーメン屋が並んでいるのに、なんで一食だけに限定しなけれればならないのか!?
この地域のラーメン屋を制覇する気で食い尽くすのだー!!
そして二店目は、この店にする。
『ラーメン・エイトプリンス』
前の店よりさらに難解な店名だが、入る前から難しく考えるのはもうやめだ。
答えはすべてラーメンが教えてくれることは前の店で学習した。
美味しいラーメンの前でゴチャゴチャ理屈をこねるなど不毛。素直に無心で、ラーメンからくだされる神託を受け取るのだ。
そして当のラーメンご降臨。
おお……ここのラーメンは醤油系か。
茶色ではあるが透き通ったスープ。無数に浮かぶ油の玉。
それと同時に具の少ないシンプルさが気になった。
まあおれは潔くていいと思うけどな。
トッピングなど飾りを多くして芯の部分を誤魔化す行為にも繋がりかねないからな。
全部盛りなんて特別な日に自分へのご褒美のつもりでやるぐらいでいいのだ。
……しかし、そんなシンプルな構成であるからこそ気になる。
この醤油ラーメンに盛られた大根おろしみたいな一塊。
何だこれ?
やはり野菜か何かを細かく刻んだもの……それこそ大根おろしの“おろした”のと大差ないくらい細かく刻まれたものは……。
……わかったぞ! 玉ねぎだ!
玉ねぎを細かく刻んで入れている!
ラーメンに玉ねぎ? そんな発想があるとは!
しかも玉ねぎにある独特の甘みがスープにも溶け出し、麺にも絡んで……美味い!
これも独特の美味さだ!!
ラーメンにこんな味の引き出し方があるとは!
くッ、なんということだ、この異世界ラーメンパイオニアであるおれの方が教えられるとは……!?
このエイトプリンスラーメンも驚嘆に値する味。
そう、料理もまた一つの文化、文化とは多くの人の間を駆け巡ることによって尋常じゃない速さで進歩する。
おれ様も創始者なんだとふんぞり返っていたらアッという間に取り残されるのだ。
そもそも正確には創始者じゃないし。
うむ、ヒトのラーメンを食べて初心に帰った気分だな。
では三軒目に行くとするか。
うおおおおおおッッ!? ここのラーメンは、麺の上に肉や野菜が山盛り盛られているのだ!?
こんなの人が食える量なのか!?
寿命を削って食っているとしか思えないのだ!!
しかも客は何か呪文みたいなのを唱えているし……!
そうか、この店では呪文を唱えないとラーメンは食えないんだな!?
そういうことなら任せておけ!
おれ様だって、いろんな場所で色んなことを経験している!
お店で唱える呪文だって履修済みなのだ!
見ていろ、華麗に決めてやるのだ!
「トッピングはいかがなさいますか?」
よし来た!!
「トール・アイスアメリカーノ・ライトアイス・キャラメルシロップなのだ!」
「野菜は多めでよろしいですか?」
「はいッ!!」