作品タイトル不明
1223 蟷螂の馬車
俺、唐突に呼び出されて困惑している。
何なの? このお祭り騒ぎ?
俺としてはキメリさんから『面白いことがあるから、お越しください』としか聞いていないんじゃが?
「面白いことはありますよ」
おッ、キメリさん?
知事なんてお堅い職についているからウソつくなんてないとは思っていましたが。
何かよからぬことを企んでいるならアリアロスさんにチクりますよ?
「とんでもない! 今日の催しはとてつもなく有意義かつ楽しいものとなっております! 聖者様もきっとご満足いただけるものかと!!」
そうすか。
しかし具体的に何を行うのかまったくわかっていない今、期待も警戒もできない。
むしろ完全に未知な分、警戒心の方が断然強い。
人は未知なるものを恐れる。
それでいい加減、今日ここで何が行われるのか発表いただきたいのですけれど?
何やるの?
恐竜着ぐるみレースとか?
「勝負です!」
この世界いつもどこかで勝負してんなー。
それも異世界の宿命か。
「馬車vs列車による、運輸対決です!!」
なるほど運輸対決か!
異世界鉄道は、ここ最近発明されたまったく新しい概念だし、大々的に知名度を上げるためにも何らかのイベントで話題性を上げるのはいい考えだよな!
ちょっと待って!
それにしたって企画が無理やり過ぎませんか!?
馬車vs列車って。
旧文明と新文明ぐらいの隔たりがある。
そんなのどうやったって勝負が見えてるんだし下手すりゃ一方的でもあるよ!?
試合として成立するんかいな!
馬車さん(?)だってよくそんな勝負引き受けてくれたよ!
ちゃんと内容わかってる?
キメリさんが騙して参加させたんじゃないだろうね!?
「いえ、この勝負はむしろ馬車ギルドからの申し出です」
馬車ギルド?
冒険者ギルドみたいなものか? そんなギルドまであるんだな異世界って。
「魔国には大抵の職業にギルド(組合)がありますよ。職人一人一人が協力して御上と渡り合って行こうという手段ですね」
馬車ギルドもまた、寄り合うことで全国への流通ネットワークを形成しているということなのだから助け合いの強さがわかるというもの。
「今回、聖者様に挑戦状を叩きつけたのはあちらの、馬車ギルドマスターのクレテス・ポナカさんです」
「アンタかぁああああああッッ!? 我々のシマを踏み荒らそうというのはぁああああああッッ!!」
なんかいかつい禿げ頭のおっちゃんがこっちに来た!?
ドスドスドスドスドスドスドスドス……、と足音を踏み鳴らして怖い!?
「ワシは馬車ギルドのマスター! お前があの鉄道とかいうものの開発者か! アンタからのケンカ、しかとこっちで買い取らせてもらった! ウマと共に歩みしワシらの底力、見せてくれようぞ! ただでは死なんぞ覚えておきやぁあああああああああッッ!!」
うああああああ。
物凄いハイテンションで取り付く島もない。
というかこれ、死を目の前にしてやけっぱちのテンションでは?
どうせ最期なんだから好きに暴れてやれと言う。
『オレたちに勝負を挑もうなんて、哀れな野郎どもだぜ!』
そう言ってヒーロー然と舞い降りてくる剣は、ウチの異世界鉄道車両が一角の太郎じゃないか。
いや一郎か?
『どっちでもねえ! アルファだって言ってるだろ! 勝手に改名させようとすんな!』
すまないな一郎。
日ごろから農場戦を行き来して働いているコイツらは、俺より早く話を聞いていたのではないだろうか?
その時ちゃんと吟味しなかったのか?
馬車と列車の競争なんて、剣でガトリング砲と戦うようなものじゃないか。
勝負の結果は目に見えている。
そんな勝負に勝って嬉しいのか?
あまりに一方的だと『待った』を掛けようとしなかったのか?
『いいや、全然?』
この野郎。
『わかってねえなあ聖者様、こういう勝率十割だから美味しいんじゃねえか。オレたちの凄さを改めて知らしめるチャンスだぜ! 何よりオレはなあ、競い合うのが好きなんじゃねえ、勝つのが好きなんだよ!!』
コイツ勇者じゃなくて悪役寄りだった。
最後に勇者の必殺技の実験台になってバラバラになりそう。
まあ、あの異世界鉄道車両一号は元から性格に難ありだったから仕方ないにしても。
他の車両たちも同じ意見なんだろうか?
もうちょっと話をまとめる方向に進まない?
『あのアホ兄が言うのは戯言ながら、挑まれれば受けるのが勝負の作法と存じます』
『みずから戦いを求めに行くのは蛮勇の所業ながら、降りかかる戦火を迎え撃つことこそ真の勇者の振る舞い!!』
次郎と三郎もこんな意見だった。
元から勇者ロボットだから戦いには肯定的なのか。
しかし俺の一般人視線から言うと、どうにもこんな戦いはフェアに映らない。
双方の基礎力にあまりにも差がありすぎるからな。
一方的な試合は見ていて痛々しくなってくるものだし……。
「キメリさん、キメリさん……」
「何でしょう聖者様?」
「勝負って具体的にはどんなことするんです?」
「それはもちろん、ここから同時にスタートして、どちらが先に農場国へたどり着けるかを競います」
純粋なスピードと持久力勝負。
そんなの列車が勝つに決まってますやん、レールを爆弾で吹っ飛ばしでもしない限り。
文明舐めんなよ。
異世界鉄道を起草したのは俺だし、車両たちに至ってはオレが生みの親という立場。
俺自身は圧倒的に異世界車両どもの味方をすべきだが、素直にそうは思えないアンフェアさがそこにはある。
そうなるとどうしても不利な方を応援したくなる俺は、判官贔屓なニポン人体質ってことなんだろうな。
……。
俺、沈思黙考することごく数秒。
「俺も、鉄道側の人間として一つ提案いいだろうか?」
「何でしょう?」
キメリさんは一瞬戸惑っていたが……。
「それはもちろん聖者様の御意見であれば最優先で取り上げさせていただきます!」
「よろしい」
では俺が決めた勝負方式を採用していただこう。
名付けて、キノコドラネコ一般宅配競争!
* * *
さて、馬車側列車側にはそれぞれ十の荷物が配されています。
その荷物のラベルに記されている住所へそれぞれ荷物を送り届けてください。
置き配不可!
すべての荷物を宅配し終えた方が勝ち!
それではヨーイ……ドン・ト・ケアール!
『『『えええええええッッ!?』』』
これに困惑したのは、ウチの異世界車両たち。
勝負のフィールドはキメリさんが治めるロンドメルトの街をお借りした。
街中にちりばめられた十の住所にそれぞれ荷物を配り歩くのだ。
もちろん、そのルールで本領を発揮したのは馬車ギルドさんたちの方だった。
「失礼いたしますお荷物です!」
「こちらにハンコかサインをお願いいたします!!」
「犬が吠えてきます、怖い!」
慣れた感じでみるみる荷物を消化していく。
そう、旧式なツールたる馬車が列車に勝る要素……それは“小回り”。
鉄道は高スピードで、大量の荷物を運ぶことができるが、所詮それは線路が敷かれたルート上だけの話。
レールから外れてはどこにも行けないのが列車の弱点といえば弱点だ。
どんなに進んだ文明の産物でも、欠点なしではいられない。
それもまた世界が続く限りの真理だった。
レール上から一歩も外れられない車両ども。この時点でもう勝負は決まったかに思えた。
しかし……。
『うおおおおおッ! この程度で諦めてなるものか!』
『簡単に負けを認めては、我らを生み出してくれた皆様に申し訳ない!』
『私たちの持てる力を結集して……!!』
『『『究極合体!!』』』
そういやアイツらにはアレがあった。
合体してスーパーロボットになることで、線路から外れても行動できる。
しかし巨大ロボットの手で荷物を抱えながらの運送は、何気に非効率極まりない。
二足歩行は振動えげつないぞ。
割れ物もあるのに大丈夫か?
『『『すみません、荷物のお届けに……え? 隣!?』』』
『『『ギャアアアッ!? 配達中に転んでしまった! 荷物がぁあああッ!?』』』
『『『なんで指定した時間にいないんですか!?』』』
慣れない個別配達に戸惑って、馬車チームとの差は埋まるどころか広がる一方。
見たかい列車たちよ、いかに文明が進歩し、その産物のキミらが音速を超えるスピードで走っても。
すべてをキミたちだけで完結させることはできないんだよ。
お互いのできることとできないことを重ね合わせて世界は回ってるんだと。
この勝負を通して悟ってほしいところだ。