作品タイトル不明
1222 パラダイムシフトの被害者
ワシはクレテス・ポナカ。
全国の物流を担う馬車ギルドの大元締めじゃ。
馬車による荷運びも複雑なところがあって、縄張りとか商家との関係性とか、ひとたび取引を誤れば死人が出るようなイザコザにもなりかねないのでワシらのような調停役が必要となってくる。
ワシらは物流が集中する過密都市から僻地の小村からと、適切に人員を振り分けることが役割。
そのおかげでどんな場所でも物資が滞ることがなく、あるいは人が溢れて職を失ったりといった不具合も起こらない。
それがワシたち馬車ギルドの存在意義ってこった。
これはまあ、他の職業ギルド全般にも言えることだがな。
すべての荷運び人は、馬車及び荷駄を購入する際にギルドへ届け出をし、同時に漏れなくギルドへ加入しなくてはならない。
これは同職間でのトラブルをなくすのと同時に、密輸業者の締め付けも兼ねた対策だ。
我ら物流の担い手は常に、禁制商品を巡る犯罪と背中合わせ。
時に身に覚えのない冤罪を被らされる……そんな災難から身を守るためにも相互扶助の原則は必要なのだ。
……もちろん、より儲けを出すためにも。
無数にいる荷運び人たちに豊かな生活をさせてやるためにも、儲け話には常に敏感でなくてはならない。
幸い、ワシらの仕事は生活に欠かせないものだから、そこまで深く考えなくても儲け話は比較的わかりやすく視界に入ってくる。
最近だと農場国……というのが、それはもう。
……デカいシノギの匂いがする。
国一つ立ち上げるというだけで大事業。
そして大きな事業には多くの物資が流れていくものだ。
実際、開拓作業は魔国人間国の両方が支援を決め、莫大な物資が送り届けられることとなる。
その物資を運ぶのがワシらの仕事だ。
予想通りに大儲けさせてもらったわい。
ギルド加入者の多くを差し向けて、各地から発送された支援物資を辺鄙な開拓地まで送り届けるのだ。
これだけで膨大な利益が発生する。
まさに濡れ手に粟。
特需と言っていい大儲け状態に、ワシらの業界は好景気を謳歌していた。
このままひた走ろうと、ワシらはギルド幹部会で話し合って農場国への人員をより増やすことに決定した。
これから冬が来て、より多くの物資を運び込まねばならなくなるだろうからな。
合わせて人員増加し、さらなる儲けを狙ってやる!
そう思って交渉に乗り出したところ……。
「……ええッ? これ以上の人員加増は必要ないんですか!?」
「そう、必要ない」
今日は、農場国物流の最前線。
現地からもっとも近くにあるロンドメルトの知事キメリ女史と会談だった。
すんなり増員を受け入れてくれるかと思いきや、予想外の渋い対応。
こちらも焦り、汗が噴き出す。
「どうしてです!? これから冬ですよ! 現地での食料調達もままならなくなり支援が不可欠でしょう!? その支援物資を運ぶために、我々も充分な体制を……!!」
「もちろん冬の備えは必要です。我が街は、開拓の絶対成功を約して、全力での支援を魔王様から命じられています。我々は王命を果たすことを最優先に考えています」
だしょう!?
だったら何卒、荷運びの増員を!
冬の開拓地を飢えさせないためにも、万全の支援体制を整えるべきでは!?
「ええ、だから既に万全の支援体制は整っているんです」
へッ?
「各地からの支援物資は問題なく現地に届いています。だからこれ以上の増員は不要、ということなのです」
いや、待て待て待て待て待て……。
ちょっと待った待った。
そんなバカな!?
我々の計算では、現状の人数で物資を運びきるには相当な時間がかかるはずだぞ?
なのにちゃんと現場は回っている?
そんなの……、どこかで不正があるとしか考えられないじゃないかッ!?
我ら馬車ギルドに加入していないモグリの荷運びが紛れ込んできたかッ?
いけませんぞキメリ知事!
ギルド側でしっかり管理されていない人員を雇い入れては風紀の乱れ……、ひいては犯罪にもつながりかねません!
ここは是非とも真っ当なギルドメンバー荷運び人を採用ください!
「んー、ギルドマスターの心配はもっともですが、不正はないとこちらは確信しております」
やっぱりギルド外からの雇い入れが!?
一体どこのどいつだコノヤロウ!
馬車ギルドへの加入なく馬車を購入するなんて完全にイリーガルじゃないか!
そんなの絶対安心できませんよ!
考えをお改めください知事。
「何か勘違いをされているようですが、彼らは馬車を使用していませんよ」
はッ? そんなバカな!?
馬車がなければ運べる荷物の量などたかが知れている。
そんなザマで荷運びの仕事が成立するわけがないじゃないか。
「時代が変わったということです。馬車だけが運輸のスタンダードではありません。新しい選択肢が加わったということです」
どういうことですか?
「説明するより実際見てもらった方が早いでしょう。ご案内いたします。ちょうど到着予定時刻ですので。……先方、本当に時間に正確なんですよ」
そっちから不正者に会わせていただけるとは、渡りに船とはこのことよ!
よろしい、望むところです。
ところでなんでキメリ知事はそんなにニヤリ顔なんですか?
なんか見せびらかすみたいな?
* * *
そうしてキメリ知事の案内で場所移動すると、着いたのは街の片隅。
まあ搬入搬出を考えたら街外れの方が都合いいのはわかるけど。
でもなんだ、この立派な建物は?
看板に『東急ロンドメルト駅』って書いてある、どういうこと?
なんだ?
この妙な地形は?
地面から高めに床がしつらえてあって、その間に大きな溝が掘ってある?
その溝に……何か大きくて長いものが滑り込んできた!?
なんだアレはぁああああああッッ!?
驚くワシに、キメリ知事が『してやったり』の表情。
「これが農場国への輸送を一手に担う鉄道です。これが膨大な物資を彼の地へ運び込んでいるのですよ」
あの巨大な鉄の蛇みたいなものが?
これどうやって動いてるんだ? 馬が引いているわけでもなさそうだし……そもそもここまで巨大な鉄の塊を引っ張るには何頭いるんだ?
『キメリ知事お疲れ様です。荷物の積み替えをお願いします』
「ご苦労様ガンマ。今日はアナタの担当で助かったわ。アルファは何かにつけて雑だから……」
『アリアロスさんとのデートを邪魔されてすっかりアルファが苦手になってますね』
「そういうのじゃないから」
そうこうしているうちに周囲から人が……しかも大量に駆け寄ってくる。
鉄の蛇の側面についている扉を開けると、中から何やら荷物を運び出している。
しかも尋常じゃ無い量。
この量そのものに衝撃を受けて震えるのは、馬車ギルドマスターであるワシなればこそだろう。
ワシはギルドマスターとして、馬車一台分の荷物量を見分けることができる。
その能力を持って今、鉄の大蛇から運び出される荷物の量を換算すると……!
馬車十台……二十台……三十台……!?
……バカな! まだ上がり続けるだと!?
「このように鉄道の運搬量は、馬車を遥かに凌ぎます。なので我が街から農場国の区間においては鉄道を利用する方が遥かにお得なのですよ。ご理解いただけましたか?」
ぬぐおおおおおお……!
いや、しかし……!?
このような馬車ギルド認可のない運搬手段に頼っては……!?
「あら、鉄道は馬車ではないのですから、馬車ギルドに所属する必要はないんじゃなくて?」
ぐぬ……!?
そんなトンチのようなことを……!?
だが今のワシは、誰に言われるよりも自分自身で圧倒的な敗北感を覚えていた。
速さ、積載量、どちらも馬車で、この巨大な鉄蛇には遥かに及ばぬ……!
ワシが知事でも同じ判断をする。
それぐらい差は歴然だった。
「実はここだけの話ながら、魔王様がこの鉄道に大変興味を持たれて各地への展開を計画されているそうです」
「なんとッ!?」
「しかも人間国側も計画に乗って近々、魔都と人間国の王都を繋ぐ一大路線が築かれるとか……」
そんなことになったらますますウチの商売が上がったり担ってしまうじゃないか!?
認めん! 認めるわけにはいかぬ!
認めてしまったらワシだけではない、馬車ギルド全体が窮地に立つことになる!
ここまで圧倒的な商売敵が現れたのだ。
何が何でも踏みとどまらなければ、アッという間にシェアを奪いつくされてしまうぞ!!
「勝負……!」
「は?」
「勝負だ! その鉄道とやらが、馬車にどれだけやりあえるか勝負してやる!」
向こうの代表者と話をつけていただきたいキメリ知事!
我々が、まだまだ世界に必要とされてるってことを見せてやりますよ!!