軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1204 消える魔球のような優しさ

魔王さん、我が子たちと打ち解けるキャンペーン開催。

「はあ、仕方ないんなー」

真っ先に動いたのは魔王女のマリネちゃんだった。

まだ七歳だというのにシゴでき魔王女。

「じゃあ、パパのためにお絵描きするのん。お父さんといえば子どものヘッタクソな絵を仕事机の周りに飾っておくのがセオリーなんな」

そんなセオリーを熟知している子どもが嫌だ。

「チョチョイで……描けたのんー」

とマリネちゃんの労作を拝見させてもらったが……。

……印象派?

この輪郭があいまいな筆遣いの中に調和的な色合いが心に安らぎを持たせる。

「……マリネちゃん、これはひとまず仕舞っておこう」

「芸術は非難される宿命なんな」

「いや……、とりあえず最後の切り札としてとっておこう」

実際マリネちゃんの絵にはそうさせるだけの『力』を感じさせる。

こんなの見せたら親バカの魔王さんは即座に『天才我が娘美術館』とかを開設しそう。

それはひとまず置いておいて……。

まずは俺たち農場チームが魔王さんの家庭円満のために知恵を絞るぜ。

まず俺が提供する一案、それは……。

キャッチボールだ!!

「きゃっちぼーる? また聖者殿が面妖な概念を持ち出したな……!?」

魔王さんも困惑風。

しかし、親子仲を深めるについてキャッチボールこそ定番の中の定番!

それを思いついた俺こそまさに家庭円満のエキスパートと言えよう!!

父と子が、夕暮れの家先の路上にて投げ合うキャッチボール。

投げ放たれるのは球だけでなく、その中に込められた想いや気持ち。

会話のたとえをキャッチボールとするぐらい、二者の間だけで成立するコミュニケーションなのだ!

「な、なるほど……! そのキャッチボールを我とゴティアで行えば互いの心は通い合って親子の絆も深まるということなのだな!」

「まず会話から入らないのん?」

マリネちゃんの直球過ぎる正論をやり過ごし、キャッチボールを実現するための準備を進める。

……こういうのはイベント性が大事だから!!

キャッチボールのために絶対必要なものはまず、ボール。

それもそうだ、ボールなくして何を投げたらいいのかわからない。

さらにそこそこ必要なもの……グローブ。

これはボールをキャッチした時に手を痛めないためのものだが、ガチな野球ならともかく家族のキャッチボール程度ならお遊びのようなものだし、そこまで本格的な装備は必要ないかな、と思ったが……。

「……どうした、聖者殿?」

魔王さんの、相変わらず筋骨隆々な体躯。

まあ、平和な世の中になって戦う必要もなくプニッてはいるものの、その内側にはまだまだ歴戦の筋肉が潜んでいる。

今の魔王さんは『動けるデブ』といった風情。

そんなフィジカルは依然として凄まじい魔王さんが、遊び事でも加減ができないのはまた事実。

いつぞやの神フィギュアでもそうした性格が災いしてゴティアくんにドン引きされてしまったが。

そんな魔王さんが、キャッチボールでも全力投球でぶん投げてしまったら……。

捕る側のゴティアくんはまだまだ児童なのだが。

「……やっぱりグローブもいるな」

俺たちは必要に駆られてボールとグローブの制作へと乗り出した。

そこで訪ねた先は、エルフの革製品開発チームの下だ。

ボールもグローブも大体革製なので。

エルフ革製品チームを率いるマエルガが『また変なものを思いついて……』という顔をしていたが、こちらの要望を伝えるとチョチョイでそれらしいものを作ってくれるから頼れる。

特にグローブなんて手の形に合わせなきゃいけないから構造も複雑だろうに、よく聞き伝いだけでしっかり作れるものだ。

ボールの方が意外に難しく、とりあえずなんかの記憶を頼りに、森から採ってきた蔦を巻いて球体を作り、野球ボール大になるまでやる。

なんか巻きまとめるのが楽しくなって気づいたらサッカーボールぐらいになって失敗した。

一度の失敗を経て作り直した蔦の毛糸に、マエルガが用意してくれたなめし革で包み込んで、上手いこと裁縫したら、思った以上に野球ボールになった。

才能を感じる……。

よし!

これでとにかくキャッチボールの準備が整った!

あとはこのボールを投げて捕って、投げて捕っての繰り返しだ!!

しかし、このまま直で魔王さんとゴティアくんにキャッチボールを勧めてよいものか?

たかがキャッチボール、されどキャッチボール。

何が起きるかわからないのが世の中だし。ファンタジー異世界となればなおさらボールに手足が生えてどこかへ飛び去ってしまうなんて事態にもなりかねない。

なので一旦リハーサルを行うことにした。

魔王さんとゴティアくん親子の前に……。

まず俺とジュニアでキャッチボールだ!

俺の息子三兄弟における長男ジュニア。

その父親である俺とのキャッチボールにおいてもなんらかの思いの交感が生まれるはずだ!

魔王さん、俺たちのキャッチボールで何かを感じ取っていただきたい!

準備はいいかジュニア!?

「しまってこー」

ジュニアもやる気に満ち溢れている。

俺たち親子にだって充分にスキンシップする資格が与えられている。

さあ来いジュニア! お前の思いのたけをたっぷりボールに込めて投げつけてみろ!

「れいんぼーすぱーくぼーるー」

「!?」

ジュニアが投げてきたボールは、何故か眩いばかりに発光したばかりでなく途中から分裂して七つか八つになり、それらが無茶苦茶な軌道でもって俺に迫ってくる!?

「うおおおおおおおおッッ!?」

無意識に突き出したグローブに運よくボールが入った。

よし捕れた!?

ボールが七つか八つに分裂(?)していたのでその中の一つを当てずっぽうで捕ったから……まあ七分の一もしくは八分の一の確率に買ったということ?

というか今の魔球?

なんでキャッチボールごときに魔球を投げてくるんだウチの息子は?

ほぅら、早速想定外のことが起こった!

これがファンタジー異世界ってもんよ!!

「ピッチャーこうたいー」

「なかつぎ、とうじょー」

と俺が魔球に驚いている隙に、なんかマウンドでも新たな動きが……?

ピッチャー交代?

次の投手は……次男ノリト!?

いや、別にキャッチボールは次男ともやるけど、何故このタイミングで交代?

いきなり魔球なんか投げるから肩を痛めたのかジュニア?

だから少年野球での変化球は体を痛めると!

心配する俺をよそに、次男ノリトも投球フォームに入る。

「ちょうきゅうはおーでんえいだんー」

「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおッッ!?」

まさかのノリトも魔球を投げてきた!?

いや、これ魔球か!?

野球ボールが電撃の入り混じった闘気で覆われ、なんかやたらと殺意の上がった状態からノリトが拳で打ち出すようにしてボールが射出!?

なんだか敵軍の百や二百はなぎ倒していくような勢いで俺めがけて飛んでくるボール、それも何とか捕った。

「ぐおおおおおおおおおおおおッッ!!」

その代わりグローブに収まった瞬間、投球の威力を抑えきれずに俺の両足が地面にめり込みながら一メートルは後退した。

……グローブをはめてて本当によかった!!

ジュニアだけでなくノリトまでこんな魔球を投げてくるなんて。

ウチの子たちは本当にわんぱくだな!!

「ぱぱ、びっくりー」

「どっきりだいせいこうー」

目論見通りだったのか、ハイタッチし合う我が家の長男と次男。

三男ショウタロウは赤ちゃんなのでさすがにキャッチボール参戦はできないだろう。

……助かった。

とまあ、これがキャッチボールというものです。

いかがでしょう魔王さん?

参考になったでしょうか?

「うぬぅううう……、キャッチボールとは、かくも厳しい修練だったのか……!?」

ここまでの経緯を見たらそういう感想になりますよね?

魔王さん。

正しくない印象が植え付けられている……!

「ここまで激しい衝突でなければ心は伝わらない。人と人がわかり合うことの難しさを見せつけられた気分だ。我も弛んだ気持ちを引き締めなければ、ゴティアの前に立つことなど叶わぬ!」

ああ、魔王さんの真面目さがよくない方法に……。

「そのためにはまず、この我自身がキャッチボールの何たるかを知らねばならぬ。至らぬことに我は、幼き頃にその機会を得られなかった。自分がキャッチボールの思い出を持たずして、我が子にキャッチボールの素晴らしさを説くことができようか!?」

いやあの魔王さん……!?

もうちょっと肩の力を抜いて考えましょう……!?

「しかし、まだ遅いということはない。キャッチボールの思い出がないというのなら……これから作ればいいのだ!!」

魔王さん、何言ってるんです?

キャッチボールの思い出ならこれからすぐゴティアくんと投げ合えばいいでしょう?

「いいや、それはあくまで我が親としてのキャッチボール……。ゴティアに最高の思い出を残してやるために、我もなくてはならない……子としてのキャッチボールの思い出が!!」