作品タイトル不明
1194 初見殺しは甘え
カッカッカッカ! オレは優秀な冒険者!!
もう六年もB級に留まり続けている男なんだぜ!
今日は新しくできたというダンジョンに観光がてら挑戦よ!
なんでも新しくできるという国に突如発生したダンジョン!
そこには冒険者をドロップアウトした落ちこぼれどももいるという話じゃねえか!
冒険者としてはあまりに無能で、生きていくために職替えするしかなかった連中。
そんなヤツらの多くが開拓者として、こんな僻地へ逃げ込んでいるってわけだ。
だったらなおさら、このオレが訪ねていってやらねえとな!
勇敢なるプロ冒険者の姿を見せつけて、落伍者たちに自分たちの惨めさを益々味わってもらわねえと!!
負け犬は、常に負け犬であることを自覚して生きていかなきゃならねえんだぜ!
そうして、いよいよダンジョンに入る。
どうせあの負け犬どもがチビチビ攻略しているダンジョンだろ?
素人から見ればそこそこの難易度でも、オレたちプロには散歩気分で楽勝だぜ。
一日で攻略して、プロ冒険者の格ってものを知らしめてやる。
さーて、中に入ってみると……。
何の変哲もないな。
いたって普通のダンジョンだ。
「ケッ、多少は警戒したけど、警戒し損だったな。ヤバいところ少しもねえじゃねえか」
と言うのはオレの隣で、オレと同じぐらいのキャリアを積んできた同格冒険者だ。
実績でオレと被るので目障りという感じもするが……。
現状についてはたしかにコイツの言う通りでもある。
何の変哲もなく静か。
モンスターの姿がまったく見当たらない。
まあ、さすがに入った瞬間襲い掛かってくる“お出迎え”パターンは早々ないんだが……。
「拍子抜けじゃねえか。……まあ負け犬どもの住んでいる土地にあるダンジョンも、負け犬ダンジョンってことなんだろうな」
そういうことだろうな。
こんなダンジョン五分以内にクリアして、外のドロップアウトどもの度肝を抜いてやるとしようぜ。
「そうだな! そうしてこそ連中も自分の惨めさを……ぶわぞんぁッッ!?」
ッ?
何?
何なんだ?
急にいきなり、何の前触れもなく同僚冒険者が吹っ飛んだ!?
一体何事!?
わけがわからなくて困惑している最中も、一緒に入ってきた冒険者たちが次々と吹っ飛ばされて行動不能に陥っていく。
攻撃!?
それとも何かの罠!?
まったくわけがわからない。
周囲にモンスターは見当たらないし、攻撃の気配も窺えない。
なんだ、なんだ、なんだ、なんなんだッ!?
今までのダンジョン攻略経験でも味わったことがない経験に、まったくわけがわからなくなってパニックに陥る。
その瞬間オレにも衝撃が走って意識途絶。
何が起こったのかわからないままでダンジョン外へ放り出された。
* * *
「あっれれー? おっかしーなー? おぢさんたちって優秀なんじゃなかったのかなー?」
外に出ると、いきなり小娘から煽られた。
ぐぬぬぬぬぬぬ……!?
なんだコイツ? プロの冒険者に対して失礼な!?
「プロってー、開始十秒以内にやられて叩き出されるものなのー? だったらおれ様だって今日中に冒険者になれるー? 冒険者チョロすぎー?」
ぐぬぁあああああああッッ!!
何なんだこのナマイキすぎるガキは!?
えッ? このダンジョンの主?
ドラゴンが人間に変身した姿?
……あッ、ハイ……。
「どっちにしろ、テメーらが無様に瞬殺された事実は変わらねえがな。ねえ、どんな気持ち? 散々偉そうにしておきながら圧倒的敗者で惨めで無様な気持ち?」
うるせぇえええええええッッ!
大体ズルいだろう! 何の気配もない、感知できない攻撃って!
ルール逸脱のアンフェア設定だ!
「アンフェアって……?」
「何言ってるんだ? ダンジョン相手に綺麗も汚いもないだろ?」
「ゲームでもしているつもりでだったとか? 冒険者ってそんな覚悟でやってたのかよ?」
煩いぞ落伍者どもが!
この土地済みの元冒険者の開拓者ども、ヒソヒソ陰口言ってんじゃねー。
「ここにいる連中の大半は、元冒険者であると同時に元傭兵でもある。日夜戦争で死と隣り合わせであった彼らからすれば、お前らの甘ったるい考えはさぞかし奇異に見えるだろうよ」
ぐぬッ?
そ、それでも……あのルール違反な攻撃は……!?
一体どういう理屈の攻撃なんだ!? タネ明かしぐらいしてもいいだろ!?
「モンスターを透明化させただけだが」
透明化!?
そんなことができるの!? そのせいで!?
「まあ、あとはもう一つ追加で、モンスターが立てる音をすべて効果も付け加えておいたからな。油断してたらそりゃー、何が起こっているのかわけもわからなかったんじゃねーか?」
そ、そんなことが!?
道理で何が起こっているかまったくわけがわからなかったはずだ!
オレたちは見えないモンスターに一方的に殴り飛ばされたってことか!
なんてことするんだ卑怯者!!
「卑怯? そんなクレームは心外だな。むしろおれ様は優しいと思うぞ?」
どこがだ!?
「だって消したのは姿と音だけで、匂いはちゃんと残してやったんだからな。プロの冒険者を名乗るなら匂いだけでも敵の存在の有無を嗅ぎ分けろよ。それに触感だってあるんだぞ。攻撃するためにはお前らに触れなきゃなんねーんだから、接触の瞬間に反射的にかわすぐらいできるだろ、プロの冒険者なら?」
なッ!?
お前……いくら冒険者だからって、何でもできるというわけでは……!
「えぇー? できないのー? あんだけ自慢げにイキッていながら、相手が透明無音になっただけで何の対処もできないんだー? 冒険者って貧弱―? ぷくくくくくくくくくく……!」
このドラゴンぁああああああッッ!
いいだろうやってやらぁあああああッ! 姿が見えないぐらいなんだ! それこそ経験豊富な冒険者には対処の方法ぐらいいくらでもあらぁああああああッッ!!
しかし周囲にいる冒険者仲間どもはあからさまに日和って……。
「おいッ? いいのかそんな大口叩いて……!?」
「シルバーウルフみたいなオオカミ獣人でもない限り、匂いで敵に反応するなんて無理すぎるぞ!」
……と止めにかかる。
うるせえ、お前たちも冒険者ならプライドを持て!
オレたちだって冒険者だ! やりようはいくらでもある!
とりあえずダンジョンの構造を把握してゴールへの最短ルートを導き出し、モンスターに出遭う前に駆け抜けてしまえば……。
「……あ、言い忘れたけどこのダンジョン、入るたびに構造変わるぞ」
どえええええええええええええええええええッッ!?
「むしろ変わらないなんて誰が言った? ダメだぞプロの冒険者なら最悪の事態を想定しないと。ちなみに都合よく武器やアイテムも落ちてないし、全フロアモンスターハウスにしておいたから。でもプロの冒険者からしたら、まだまだ温いよなあ。頑張ってー」
ちょっと待て!
こんなのクリアさせる気まったくないじゃないか!
ズルくて酷すぎる。
クリア絶対不可能なんてダンジョンとしてどうなんだ?
「あ? 何を言ってるんだ、それが当然だろ? ダンジョン主から見れば貴様ら全員侵入者。『生かして帰さん』ぐらいの心づもりで当たるに決まってるだろう」
そうだけど、そうだどぉおおおおおおおおおおおッッ!?
「仕掛けがこれで尽きたと思っているなら、やっぱり甘すぎるにもほどがあるぞ。入り口から出口まで、即しトラップで埋め尽くされたフロアだ! ちなみに天井や壁に触れても即死! フロア内の空気を吸っても即死だ! でもこれぐらいプロの冒険者ならゲロ甘難易度だよなぁ!?」
ぐぎゃああああああああッッ!?
おぇえええええええええッッ!?
もう無理、無理無理無理無理無理無理無理無理ッ!
こんなのプロの冒険者だろうとどうしようもない!!
もう嫌だッ! こんなダンジョン嫌だぁああああああッッ!!