作品タイトル不明
1172 人魚王妃の内助
あーしは天使ソンゴクフォンだー!
あー、だりぃ!!
あーしがお茶会の手伝い!? なーしてそんなだりぃことせにゃならんのか!
お茶会つーとアレっしょ!?
扇子持った髪型縦ロールのお嬢様がテーブル囲んで『おほほほほほ』『ざますざます』とか言っちゃうアレっしょ!?
テーブルの上には岡持ちに詰めたお菓子満載で!
かぁーッッ! マジだっる! きっしょ!
お嬢様なんて、あーしみてーなギャルの対極にある存在じゃねーか!
なんでそんなのの楽しみをお膳立てしなきゃなんねーっつーんだよ常考!
上皇も『常考しろ』って条項についかするっつーの!!
「意味のわからんキレ散らし方はやめな」
あッ! パッファ姐さん!
今は人魚の国のお妃さまで、二児の母のパッファ姐さん!
「お茶会だからっつってくるのが皆お嬢様なわけねーだろ。前にも言ったように王妃であるアタイ主催のお茶会なんだから年齢層もうチョイ高めだよ」
はぁー、有閑マダムの集いってヤツっすね。
「そもそもテメー、ギャルがお嬢様をおもてなししておかしいみたいに言ってるけれど、ギャルもお嬢様も陽キャで同カテゴライズだろ。Light-LawとLight-Chaos程度の違いだろ! 陰キャから見たらどっちも同じようなもんなんだから、いちいち異種族扱いしてんじゃねー!!」
姐さんこそ、よくわからないキレ方してるっすよ!?
別に姐さん陰キャじゃないだろうに、陰キャ代表みたいな喋り方しないでくださいよ!?
「……魔女とは、達人クラスの魔法薬学師とも言い換えられる。研究者とは普段研究に没頭して、外界との接触は少ない。つまり魔女はすべからく陰キャと言えるのですよ」
はッ!? その声は!?
赤毛にポニテの若奥様……ランプアイさん!?
パッファ姐さんのお友だちじゃねーか!
「予想通りソンゴクフォンさんの扱いに手を焼いているようですねパッファさん。……わたくしの方で受け付けておいた、お茶会参加希望者をまとめておきましたよ」「助かるランプアイ! アンタがこんなに頼りになるなんて、嫁入りした当初は思いもしなかったよ……!」
ランプアイさんから差し出された紙の束を受け取るパッファ姐さん。
ぺらぺらと捲って流し見するほどに、姐さんの顔がウッとしかまる。
「……うはぁクソ数多い。予想はしてたけどさすがに産休明け一発目のお茶会は注目度高いねえ」
「この規模だと、お茶会というよりはちょっとした昼餐会になりそうですね。それだけ多いのでしょう、長く休暇で姿を見せなかったアナタを一目見たいと思う輩が」
「あたしゃ客寄せパンダかっつーの。ってかランプアイ、アンタまで産休明け復帰一発目になるから相乗効果あんじゃねーの?」
「出産育児で長く空けていた氷炎の魔女が揃って復帰となりますからね。話題性も上がるでしょう」
「アンタはアンタでソロライブでもしてた方がいんじゃねーの? 分散しようよ分散」
「それでは当日は、アナタの補佐しなくてよろしいと?」
「すみません! どうか屋台骨となってアタイを支えてください!!」
なんか会話が弾んでんねー?
あれ? あの二人前々から仲悪いと思ってたけど違ったっけ?
「社交界の荒波を、一致団結して乗り越えようとする彼女たちはいわば戦友。独身の頃と同じ気分ではいられないのよ」
はッ!?
再び別の誰かの声!?
その声は……先代人魚王妃のシーラ様!
「パッファちゃんのお友だちの天使さんよねえ。今回はアナタもお茶会を手伝ってくださるんですって? よしなにお願いしますわね」
こちらこそ、よろしくお願いしますゲフンゲフン!!
……ヤッベェよ。
シーラ様はパッファ姐さんと戦ってるところを見てるからクソ強いってことは、あーしも知ってんよ……。
天使のあーしですら、心の中のタマが縮み上がるぐらいに恐怖を覚えるんだから常軌を逸した強さ。
強さで言えば、当然アレキサンダーのダンナが上なんだけどあの人は、大抵何しても受け入れてくれる度量の広さがある。
対して目の前の絶対強者は、ヤンチャしすぎた分だけキッチリ締め上げてくる因果応報の御方、それがシーラ様!!
実際、この人にシメられてピリオドの向こう側を見た……という経験者は枚挙にいとまがないほど!
あーしもその一人になることだけは絶対にヤヴァい!!
「うふふふふ、天使さんのお知り合いがいるなんてパッファちゃんも顔が広いわねえ。現・人魚王妃としての株もますます上がるわ」
そう言うシーラ様は、両手に二人の赤ん坊を抱えて、さらに両脇にはヨチヨチ歩きの幼児が二人伴われている。
それぞれパッファ姐さんとそのマヴ・ランプアイさんがおなかを痛めて生んだお子様ってこと?
二人の公務の際は、シーラ様が面倒を見るぐらいの甲斐性は示されるらしい。
「王妃業は煩わしいわよねえ。本当ならこんなに可愛い子どもたちの傍に片時離さずいてやりたいっていうのに、それも叶わないんですから」
「……」
「そう思われますわよね?」
はいぃいいいッッ!?
とりあえず合意しておけの構え!!
不用意に対立して命を削らせたくないの構え!!
「それでも務めを果たさないわけにはいかないのですわ。好きになった男がたまたま王者だったというだけで。……でも、そのことを辛いと思ったことはないの。アタシも通った道ですもの、パッファさんの気持ちはアタシが一番よくわかっているつもりよ」
現人魚王妃を慮る先代人魚王妃。
この人たちって、嫁姑としてパッファ姐さんの結婚前から仲悪かったような気がしてたんだけど……?
何、やっぱり仲いいの?
「それも王妃という特殊な立場ゆえよ。人魚国のすべてを預かる人魚王を、もっとも傍から支えるのが人魚王妃。ただお互いを思いやり合うだけじゃ通用しないほどに大きな義務を持つものよ」
はぁー。
あッ、ここのお菓子食べていいっすか?
「アタシもただ息子の愛する女性としてだけパッファさんを受け入れてあげたかったけれど、そうもいかないのが王族としての立場なの。その点パッファさんはよくやってくれているわ。それはもうアタシの想像以上に」
そりゃそうっすよ!
だってあーしの自慢のパッファ姐さんっすよ!!
「最初はちょっと不安だったのよねえ。なんだがツンツン尖ってるお嬢さんだったし、ゾス・サイラちゃんのお弟子だっていうから、あの子のマインドを受け継いでなんにでも反発する子だったらどうしようかと思ってたの。ゾスちゃんの時みたいに力ずくで矯正しなきゃとかね?」
……それは。
矯正率、百パーセントっすね。
「でもそんなもの杞憂で、パッファちゃんは自発的に理想の王妃様となっていったわ。元々魔女として実力実績が豊富ですもの。無手無学の町娘よりはよっぽど素養があると言ってよかったわ」
まあ、何も誇れるものなしでやれるほど王妃って立場も軽くないっすよね。
その点パッファ姐さんは『凍寒の魔女』として、邪魔するヤツは指先一つで粉砕骨折させるほどの単純暴力保持者なんで!
何も取り得がないなんてことはないぜ!!
「魔女って、案外人気があるのよねえ主に若い子たちに。知ってる? なんでも今、市井では王妃パッファのファンクラブがあるらしいの。主な会員は嫁入り前のお嬢様たちらしいわよ。凄いわよねえ、アタシの時にはそんなのなかったのに」
パッファ姐さんって、同性からの人気高そうっすからねえ……。
なんつーの? オラオラ系? ああ見えて姉御肌で面倒見のいい気質だからその辺、箱入りお嬢様には憧れの対象としてブッ刺さるんすかねえ?
「ちなみにランプアイさんのファンクラブもあるそうよ」
うへぇ……。
「強くて美しくて、そこそこ危険な香りがするアングラレディが、淑女の最高峰というべき王妃の座について完璧に職務をこなしている。……そりゃ人気も上がるわよね。知ってる? パッファさんあれで礼儀作法とか完璧なのよ」
うん、知ってる。
あーしら一時期寝食を共にした旅の仲間だったんすよ。
パッファ姐さんが食事の所作も流麗だし、人に会うたびにお辞儀の角度まで細かく指示されて叱られたあーし本人の体験談!
「弟子時代にゾス・サイラちゃんから徹底して叩き込まれたそうなんだけど。師弟揃って意外性の塊よねえ。あんな反骨心だけでここまでやってきましたみたいな二人が何より礼節を重んじているなんて」
アウトローだからこそ礼儀は大切って常々言ってましたよ。
礼儀を放り棄てた時こそ殴り合いの時だって。
「おかげでパッファちゃん、息子と結婚した時点で既に王妃として完成されていたからねえ。ゾス・サイラちゃんだって理想の宰相なんだから。本当に国の宝よ、あの師弟は。アタシなんかダーリンと結婚してから必死に礼儀作法を覚えたのに、本当に羨ましいこと」
正真正銘のアウトローが言っている……。
「そんなパッファちゃんですら、王妃となってからここまでの道のりは険しいものだった。世の中には認めたがらない人がどこにも必ずいるものですからねえ。特に憧れの対象となると同時に、妬みの対象ともなる偉い立場の人間は」
『アタシもそうだったけれど……』とシーラ様は前置きして。
「『王妃の座が欲しい』とか『自分の立場が危うくなる』とか、そういうもっともらしい理由を持ってる人もいるけれど本当に厄介なのは特に理由もなく他人を邪魔してくる人たちよねえ」
何ですと!?
まさかパッファ姐さんにもそういう厄介虫が!?
「有名税っていうのかしら。でもそんなの結局は滅茶苦茶する人の自己正当化の屁理屈でしかないのよねえ。パッファちゃんについても、市井出身だからとか、魔女としての異例の経歴だとか、ただ綺麗で恵まれてて許せないとか、そんなたわけた理由で足を引っ張ろうとする輩のなんと多いことか」
綺麗だから許せないって!?
別にアンタらがブスに生まれたことにパッファ姐さんの責任はねーべよ!
「今回のお茶会だって、『パッファ王妃は産後を理由に休みすぎている』なんて批判を受けて急遽開催せざるを得なくなったのよ。本当ならもう少し子どもたちと一緒に過ごしたいだろうに。母親から引き離される子どもたちの寂しさを、批判する人たちは汲んでくれないのかしらねえ……」
なんだとコラァ……!?
パッファ姐さんの母親としての安らぎをブチ切る愚物ども、断固許すマジ!
そんな輩共は、この天使ソンゴクフォン様が駆逐してやりまさぁー!
見てろよお茶会当日!!
「ふふふ、天使さんもいい具合に火が付いたわね。パッファちゃんのいい援護になったかしら?」
……アレ?
あーしも先代人魚王妃に上手いこと乗せられてる?