軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1125 市民の反応1:少年の夢

ボクの名前はディムロタスです。

八歳です。

ボクは皆からバカにされてます。

ありもしないものを信じているからバカだって。

ボクはバカじゃありません。

だって本当に見たから。

六歳の冬の夜、ボクの部屋にプレゼントを置いていった赤い服のオジサン。

アレが聖者さんだったんです。

パパとママが言ってました。

いい子には聖者さんがやってきてプレゼントを届けてくれるんだって。

ボクはいい子にしていたから聖者さんが来てくれたってこと?

でもあの夜はなんだか眠れなくて、部屋を暗くしてベッドに入っても全然眠れなかったの。

だから部屋に入ってくる聖者さんがわかったんだけど。

友だちのインセルマンジュくんやデビルズコアくんは早くに寝ちゃったから見てないんだって。

だからボクの言うことはウソだって言ってる。

「ディムロタスがまたウソ言ってるぞー!」

「せいじゃなんていねーって! いるわけねーって!」

ずっとボクのことをからかってくる。

聖者はいる! 聖者いるもん!

だって大人たちも聖者さんのことを噂して、あっちで起こった地震は聖者さんのお怒りだとか、こないだ落ちた雷は聖者さんのくしゃみだとか、色々言ってる。

大人が言うくらいだから聖者さんはいるんだもん!!

「バッカじゃねーの? 大人だってキテレツ唐変木なことは言うんだぜ!」

「そーだよ! 地震は地層のひずみに累積した圧力の開放によって発生するんだぜ!! 迷信なんか信じてんじゃねーよ!!」

「かーちゃんも『言うこと聞かない聖者に食べられちまうよ』っていうっけどバカだよなー。人食い人種なんているかっつーの!!」

「ただの脅しなの丸わかりだよなー!!」

何かあるたびにそんなことを言って、ボクのこともバカにしてくるんだ。

ボクも悔しくなってあの二人とは遊ばなくなった。

寂しくても一人で遊んだほうがいいや。

だってボクは本当に聖者さんを見たんだから……!

自分に嘘をつくことはできないんだい!

「いい心意気じゃねえか、ボウズ!」

誰?

声がした方を向くと、そこには一人のお兄さんが立っていた。

この辺じゃ見かけないお兄さんだ。

「オレの名はディアブロ! 魔都の第十三住宅街をシメる番長だ!」

第十三住宅街?

それだったらボクが住んでいるここ第十七住宅街の隣の隣の隣の隣じゃないの?

「男には、わけもなく遠出したくなる日があるのさ。母ちゃんには夕飯までに帰れって言われてるからここらで引き返さなきゃあいけねえが。……ここが、今のオレの限界ってところなんだろうな……!」

そ、そうですか。

たしかに、ボクもそろそろおやつの時間だから帰らないと。

「ふッ、いちいちおやつを食べに帰らねえといけねーとは、お前もまだまだガキだな」

えッ?

じゃあお兄ちゃんはまさか、おやつなしでも午後を乗り切れるの!?

凄い!?

「今日の分のおやつは携帯してるから時間になればどこでも食うことができるぜ! ポケットの中にはビスケットが二つだ!!」

凄い!!

前もってお母さんからおやつを渡されているということ!? そこまでの信頼を親から勝ち取るなんて八歳のボクにはまだ無理だよ!?

「フッ、だが今日は遠出した甲斐があったってもんだな。こんな素敵な出会いが待っていたとは。……ボウズ、オレはもう名乗ったぜ、お前も堂々と名乗りな!」

ハッ!?

すみません、せっかく礼儀正しく名乗っていただいたのに気づきませんで……。

ボクはディムロタス! 八歳!

「ほう、八歳か……大人と子どものちょうど中間ぐらいの歳だな」

そうかな?

それよりもディアブロお兄ちゃんは、どうしてボクに声をかけたの?

『素敵な出会い』って言ったけれど、それってもしかしてボクのこと?

「その『もしかして』だぜ。こんなにも健気に聖者のことを信じているバカヤローがいるなんてな。今晩のディナーで父ちゃん母ちゃんに報告することが増えたぜ」

お兄ちゃんも、ボクのことをバカにするの?

聖者なんていもしないものを信じているバカだって!?

「聖者がいるか? いないか? そんなことはどうでもいいことだぜ」

えッ?

でも大人も子どもも皆、聖者がいるかいないかでメチャクチャ言い争っているよ?

『夢と現実の区別もつかないバカだ』『ロマンを解さぬ野暮天だ』って。

「本当に大事なのは、自分の気持ちを信じる心だぜ。いると言ったらいる! その心をどんなに否定されても捨てずにいる強い意志の持ち主。そんなバカヤローならオレは好きだぜ」

ディアブロお兄ちゃんはボクに向かって指を突き出したかと思ったら『ばきゅーん』とか言い出した。

何?

「ディムロタスよ。テメエが『聖者はいる』と心に固く信じるんなら。それを曲げずにいることが一番大事だぜ。人に言われてすぐ意見変えるようなフラついたヤツは“ジッセン”じゃ役立たずさ」

ディアブロお兄ちゃん……!

「さあ、オレは夕飯のシチューが呼んでるからそろそろ帰るとするぜ。宿題もやんなきゃだしな。……その前にディムロタスよ、一ついいことを教えてやるぜ」

えッ、何?

カッコいい人生の歩み方?

「何でも近日、魔王様が式典を行うんだそうだぜ。情報通でいつもアンテナを張っているオレには最新情報が入ってくるのさ」

あッ、それボクのパパとママも言ってたよ。

祝い事のようだから皆で見に行こうかって!

「フッ、そうか……。しかし耳より情報はここからだ。何でもその式典に聖者が出てくるとか言う噂だぜ」

えッ? どういうこと?

なんで式典に聖者さんが?

「詳しいことはオレにもわからねえ。でもよ、お前が聖者を信じるというなら追いかけてみるのも一興じゃねえか?」

うん!

ボク、パパとママにお願いして連れてってもらえるように頼んでみるよ!

元々行くつもりみたいだから楽勝だと思う!

ありがとうディアブロお兄ちゃん!

お兄ちゃんのことは忘れないよ! きっとまたいつかどこかで会えるよね!?

* * *

そして。

式典当日。

無事パパとママに連れて行ってもらったボクは、聖者さんを見た。

聖者さんは見ただけで凄いとわかった。

着ているものは違ったけれどやっぱり清らかで神秘的で。

『神様の生まれ変わり』みたいなことを言われてたけどまったくその通りだと思った。

聖者はいた!

やっぱりいたんだ!!

聖者さんは実在していただけでなく世界をよくするために協力してくれるんだって!

凄いや聖者さん!

聖者さんとそんな約束ができる魔王さんも凄い!!

聖者さんは夢の中だけの存在じゃない!

ちゃんと実在するんだ!

しかも想像していたのと少しも劣らない、聖者さんは偉大な御方だった。

聖者さんは流星のように天空から降ってきて、登場シーンからしてボクらの度肝を抜いた。

きっと怒れば地も揺らすし、くしゃみの拍子に雷もなるに違いない!

ボクが手を振ると聖者さんもにこやかに手を振り返してくれた。

いい人だ。

式典から帰った次の日、同じように式典に来ていたのかインセルマンジュくんやデビルズコアくんが申し訳なさそうに近づいてきた。

「ディムロタスくん、ごめん……キミのことをウソつき呼ばわりして……」

「聖者は本当にいたんだね。自分の見たことだけが真実だと思い込んでいて恥ずかしいよ」

いいんだ、お互いにわかり合うことができたんなら。

これでボクたちはまた友だち同士だね。

ディアブロお兄ちゃんのお陰で、そして聖者さんのお陰でボクは前に進むことができたよ。

本当にありがとう!!