軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

108 精霊メイド

俺が前にいた世界では「メイドは部屋に妖精が住んでいるように、掃除しなければならない」という言葉があったそうだ。

外国のことだから詳しくは知らんけど。

そのこころは? というと「妖精は人には見えないから、それと同じようにメイドも仕事をしているところを主人や客に見せてはいけない」という意味らしい。

掃除片付けは見苦しいもの。一定以上の身分の人には見せない方が好ましい、という配慮からだろうが。

しかし。

ここ異世界に来て「妖精のように」どころか「妖精に」メイドさせることになろうとは。

いや正確には精霊だけど。

* * *

「家事の手伝いが欲しい!」

と、最初にそう言ったのはプラティだ。

「お屋敷を建てたのはいいけど、その管理が行き届いてなくて気になっていたのよね……!」

家の管理は当然必要だ。

掃除に洗濯、何処かが壊れた時の補修。

これまでそういったことは、皆で当番を持ち回りしていたものの、皆それぞれメインの仕事があって、その分注意が行き渡り難かった。

専業ハウスキーパーが欲しい、という発想は、元々人魚の王族であるプラティならではだろう。

「それで……、彼女たちを」

子どものように小さな大地の精霊たちを見る。

見た目完全に子どもだが、元々そういう形態で立派な大人らしい。

「あの子たち、働いて旦那様の役に立ちたいんでしょう。畑仕事はゴブ吉ちゃんたちとバッティングしちゃうし!」

それはそうだが……。

こっちの都合だけで勝手に決めてもどうなの? 精霊たちにも精霊たちの意思が……。

「ばんじ、おっけーです!!」

快諾。

どう見ても小学生程度の姿で、拳をぎゅっと握り込む。

「聖者様のお役に立てるなら、どんな仕事もばっちこいです!」

「あたしたちは、仕事をしたいのです! 仕事をしなければ生きている価値はないのです! 仕事ください! 仕事!」

何やら俺が前いた世界のある一定の層に聞かせたくない、いや聞かせてやりたいセリフを吐いておる。

「でも、いいのか? キミたち大地の精霊だろう? 家の中とはいえ、地面に直接触れてない場所で作業するのは……?」

「だいじょーぶ! そんな縛りはないのです!」

「聖者様は、あたしたちを見縊りすぎです!」

そうですか。

すみません。

「じゃあ、何故最初は畑仕事をしてたんだ? しかも俺たちにバレないようにしてまで?」

「おてつだいは、相手が気づかぬように知らないうちに。それが、あたしたち精霊界のトレンドなのです!」

そうですか。

何言ってんだコイツら?

まんま靴屋の小人みたいな話だな。

しかしプラティの言う通り、屋敷の管理を本業としてくれる人材がいてほしいことはたしかだ。

最初は魔王さんにでも頼んで執事かメイドでも送り込んでもらおうと思ったが……。

「…………!」

精霊たちの縋るような目で見られてはどうしようもない。

「許可」

俺は根負けした。

* * *

こうして我が農場に新たな仲間が加わることになった。

いや、あるいは彼女たちは最初からそこにいたと言っていいのかもしれないが。

大地の精霊。

『地母神の祝福』によって実体化した彼女らは、見た目小さな女の子。子どものように小さいというか、全長が中型犬程度しかない感じだ。

だから子どもというよりは小人と表現した方が正確かも知れない。

そんな精霊たちが、今日も我が屋敷内を駆け回っている。

「おそうじですー」

「おかたづけですー」

遊んでいるように見えて、仕事はちゃんとしているのだ。

試しに、何処でもいいので部屋の隅を指先でなぞってみた、その指先を見てみる。

「埃一つない……!」

優秀。

大地の精霊たちは、幼い見た目に反して超優秀な仕事人だった。

初めて存在を確認したのは真夜中のことだったが、現在は普通に昼間に働いている。

朝、土の中から這い出して、屋敷に入り掃除して、あらかた仕事が終わる夕方になるとまた土の中に入っていく。

夜に働いていたから夜行性かと思っていたが……。

「そんなことないです?」

「夜に働いていたのは、住人の皆さんにバレないようにするためです?」

「それが精霊のきょーじです?」

矜持なのか。

そうか。

しかし、見た目通りの年齢でないとはいえ、こんな小さい子の口から「夜に働く」という言葉が出ると……。

……背徳感というか淫靡さが。

「精霊は数いるから仕事も捗って助かるわねえ」

とプラティも大満足。

事実、今俺の目の前には五人も小人少女がいて、その他にも数名屋敷の中を駆け回っている。

はたきを持っている者もいれば、箒を持っている者もいる。

要請を受けて俺やエルフらが拵えたものだが。

彼女らが装備しているのはそれだけでなく……。

「なんでメイド服着ているの?」

精霊少女たちはメイド姿だった。

メイド。

すべての男たちが大好き(多分)。

ロリな精霊たちがメイド服を着ている。最初は着ていなかったはずなのに。

精霊にはそういう仕様にチェンジできる機能が!?

「バティが拵えたのよ」

と思いきや、普通にあの服飾オタクの犯行だった。

「『屋敷に働く女の子にメイド服を着せないでどうします!!』って言いながら怒涛の勢いで量産してたわよメイド服。オークボちゃんやエルロンからの注文を一時中断して」

それはどうかと。

「でもそのおかげで、屋敷の中が華やかになったじゃない? やっぱりメイドのいるお屋敷は輝きが違うわね」

たしかに。

そんな様々な人間の気遣いによって爆誕したロリっ子メイドを擁する我が屋敷。

負ける気がしない。

誰かと戦う気もないけど。

「聖者様、ありがとーです!」

「かわいいおべべ、大好きです!」

と、精霊たちにも大好評だ。

彼女らは仕事が終わるとメイド服を脱ぎ、ちゃんと畳んでから土に還っていくという。

そして翌朝、土から這い出して、またメイド服を着て仕事をするのだ。

「しかしこんだけ頑張ってくれるなら、何かご褒美を上げたいところだな……!」

信賞必罰は人を使うに疎かにしてはいけないところ。

精霊ちゃんたちの働きに、相応のものをもって報いたい。

精霊たちは、みずから働きを買って出たので遠慮するかと思いきや。

「バター!」

「バターが欲しいです!!」

旺盛に要求してきた。

「バターは、大地の精霊や妖精の大好物らしいわね。魔国でも、たまに農村の手伝いをする妖精へのお礼は、一欠片のバターか、妖精用の服が相場だって」

服ならもうバティがやってるじゃないか。

するとたしかに残るはバター。

精霊たちの望みは叶えてやりたいが。

バターは難しい。

だってないもの。