軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1065 勇者、聖者の農場へ

勇者モモコとの邂逅は、俺にとっても若干の驚きを伴わせた。

そんなに長いこと農場を探し求める人物がいたなんて。

ならばご案内しましょう、と思って勇者モモコさんを農場へご案内した。

「ここが……、ここが聖者の農場……!?」

農場の全景を目の当たりにしたモモコさんは、全身を細かく打ち震わせていた。

そんなに感動的だったんだろうか?

「雪しかないじゃない!!」

うむ、そうだ。

だって今の季節は冬だからな。そもそもここ農場は、なかなかの豪雪地帯で冬になると一気に雪で埋もれる。

一面の銀世界になる。

なので畑とか、田んぼとか、そうした農場ならではという施設もこの季節は雪の下敷きになり、顔を出すことはない。

なので現状我が農場は、ただの雪景色にしかなっていなかった。

「あれほど長く夢見ていた農場が、こんな変哲もないなんて……」

ガッカリ観光地みたいなオチですみません。

例えるならば楽しみに観光しに来た名所旧跡が、改装工事中だったみないな感じか。

まあまあ、どうせですし雪合戦でもしていきませんか?

聖者の農場でやる雪合戦。なかなか貴重ですよ。

「雪合戦なら大抵どこでもできるわよ!!」

そうだなあ、この異世界大抵どこでも雪は積もるもんなあ。

前の世界と違って温暖化現象もないし。

しかし『どこでもできる雪合戦』と言われるのは心外だな?

我が農場は雪合戦一つとっても他とはなかなか違う趣がありますぞ。

まずオークたちが、雪玉は雪玉でもスイカぐらいの直径がある雪玉を投げつける。

その様は雪合戦というよりドッチボール。

実際投げつけられた側のオークはしっかりと雪玉をキャッチしてそれをそのまま投げ返してくるし。

「ぐわーッ!? キャッチ失敗して雪玉が崩れた!」

「雪玉が崩れたら失格だぞ! 外野へゴーだな!!」

なんか独自なルールが開発されていた。

さらにはゴブリン軍団の雪合戦はまた独特で、これは通常サイズの雪玉だが弾数が凄い。

約数百発。

しかもそれらが本物の弾丸もかくやという速度で飛び交っているので目で追うことも不可能。

傍から見ると、本当に機関銃の撃ち合いにしかならなかった。

「私の知ってる雪合戦と違う……!?」

まあそうなりますよね。

その一方で雪合戦とはまた違う方法で雪と戯れている輩どももおる。

レタスレートだ。

彼女は雪玉を転がし続けて雪だるまを作っていた。

「はー、このぐらいの大きさでいいかしら?」

といってレタスレートが転がしていた雪玉の大きさは、軽く直径十メートルはあった。

見上げるほどの大きさだ。

一体これで何トンほどの重量になるのか。

「レタスレート、頭の方も仕上がりましたよ」

「オーケイ、ホルコスちゃん! のっけて頂戴!!」

そう言って飛んできたのは天使ホルコスフォン。

レタスレートが作った雪玉にも負けない巨大雪玉を抱えていた。

しかもコイツは天使らしく、持ち前の飛行能力で巨大雪玉を抱えたまま飛んでいるのだから凄まじい。

そして最終的には、レタスレートの巨大雪玉の頂点に、自分の巨大雪玉をパイルダーオンして見事超巨大雪だるまが完成してしまった。

なんだか思い出す。

かつても同じようにレタスレートとホルコスフォンが協力して雪だるまを作り上げたことがあった。

しかしあの当時はまだまだ常識的だったレタスレートの作り出した雪玉も常識的なスケールだった。

それをホルコスフォンの巨大雪玉がプチッと潰して結局雪だるまは完成しなかった。

しかし今は、天使たるホルコスフォンにも負けない怪力で見事均等な雪だるまを作成することに成功していた。

人の成長を感じさせられた。

「さあ、あとは雪だるまに顔を作れば完成よ! もちろん豆を埋め込んでいくわよ!」

巨大さの割りに顔のパーツが極めて小さい雪だるまが仕上がりそうだった。

そしてレタスレートは。その様を呆然と眺める俺やモモコさんに気づいた様子。

「あらー、モモコちゃんじゃない。ついに農場に到達したのね、おめでとー」

「おめでとうじゃないわよ! そもそもアンタが農場に案内してくれるって約束だったでしょう!? それを全然守らずに!」

「え? そんな約束したっけ?」

「アンタねー」

おいおいレタスレートよ。

さすがに交わした約束を忘れてすっぽかすのはヤバいぞ。

豆との戯れで王族時代の傲慢さは洗い流されたと思ったが、ここに来て再浮上したのか?

「あー、そうそう、その約束ってアナタが私に勝てたらって話だったでしょう? でもあれ以来結局一回も私に勝ててないじゃない。そりゃ時間かけすぎて忘れちゃうわよー」

「むぐぐぐぐぐぐぐぐぐッ!?」

あー、なるほど。

そんな調子で話がうやむやになっていったってわけなのか。

でもなんで勝負?

王女様に勝てない勇者ってどうなんだよ?

フツー勇者は、魔王に囚われたお姫様を助けるものじゃないのか?

「このお姫様が規格外すぎるのよ! 何なのよ、勇者より強いお姫様って! だったらお姫様が魔王倒せばいいじゃない!!」

今のレタスレートならそれができそうで怖い。

そんなレタスレートの傍らでもう一人の人物が、モモコさんに向かって薄暗い視線を向けていた。

「あら、どうしたのホルコスちゃん?」

天使ホルコスフォンだった。

彼女の、モモコさんへと向ける視線にはどうにも敵意が感じられる。

「……モモコさん、アナタに決闘を申し込みます」

「なんで!?」

「アナタは私の宿敵です」

何故かホルコスフォンがモモコさんへ向ける感情は本物の敵意だった。

それこそなんでだ?

モモコさんはホルコスフォンの恨みを買うようなことでもしたのか?

天使と勇者って、むしろ手を取り合いそうな関係性だというのに。

「あー、あれじゃない?」

そこでまず察したのはホルコスフォン最大の理解者レタスレートだった。

「このモモコちゃん、こないだのオークボ城でホルコスちゃんの気に障るようなことしたからじゃない?」

気に障るようなこと?

俺には思い浮かぶ節がないが、オークボ城の日のモモコさんは大概なことしていたから何が彼女の癇に障ったかは推して知るべし。

色々ありすぎて、むしろわからん。

「アナタがしたことは納豆への大いなる侮辱です」

問われるまでもなくホルコスフォン本人が答え合わせしてくれた。

「納豆のネバネバを消し去るなんて。納豆そのものを否定する行為です。納豆の守護者としてわたくしは、アナタを徹底的に排除しなくてはなりません」

ホルコスフォンが怒ったのはモモコさんが、大根おろしの消化酵素で納豆のネバネバを消し去ったことにあるらしい。

していたなあ、そんなこと。

魔王さんとの戦いで。

まさかそんなことで天使からケンカを売られるとは。

モモコさんも意外過ぎて戸惑いのご様子。

「あああ、あれはですね、ピンチを切り抜けるための少年漫画的機転と言いますか……!」

「そうよホルコスちゃん! それにネバネバがなくなっても納豆の美味しさがなくなるわけじゃないでしょう!」

世の中には納豆のネバネバが苦手で食べられないという人もいる。

そういう人にとっては大根おろしの酵素効果でネバネバがなくなった納豆の方が美味しく食べられるんではなかろうか?

さらに言えば大根おろしこそアッサリ味の代表選手。

大根のネバネバとは対極の風味に、よりおいしく納豆をちゃべられるんではなかろうか?

世の中上手くいっているものだなあ。

「味の多様性を認めるべきよ! ねえホルコスちゃん、むしろ納豆の新しい扉を開いてくれたとモモコちゃんに感謝しましょう!」

「そう言われると……そうですね」

ホルコスフォンは発射寸前のマナカノンを下して納得してくれた。

もう少しで勇者vs天使の番外戦が勃発するところだった。

それを収めてくれたレタスレート、調停のスキルすら上がったか……。

「それにしても……ここが聖者の農場。私が長年追い求め続けた……」

モモコさんが感慨深げに農場を眺める。

雪景色だけれど。

「でも、当たり前だけれどここを探し当てたってすることはないのよね。元々は王様の命令で、聖者を味方につけるためだったけど、人間国も滅びちゃったし」

何より命令を下した王様の娘が先に農場に辿りついているしな。

「魔王と戦って、聖者の農場にも辿りついて……。私が勇者としてやるべきことはすべてやり通したと言っていいけど虚しさも残るわね。私の勇者人生って、一体何だったのかしら」

目的が達成できたからと言って自己満足以外得るものがないもんな。

そして満足を得て燃え尽き症候群に入ってしまったモモコさん。

彼女に奮起してもらうためにももう一イベント起こしますか。

「じゃあ勇者として、一つお勤めをしてみませんか?」

「え? お勤め? 一体何?」

ちょうどタイムリーなことに、ここ農場であるイベントが起こるのですよ。

人類の命運を左右する、本当に重大なイベントが……。