軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1060 小さな勝負

ボクはゴティア。

偉大なる魔王ゼダンが長子。

ゆくゆくは父の跡を継ぎ、次世代の魔王として魔族と魔国を背負っていかなければならぬ。

未来の責任と希望で、いつも胸中は燃え盛っている!!

そんなボクは今日、オークボ城とかいう催し物に顔を出している。

初めて見るような気もするが母上によると物心つく前に何度か訪れているとか。

そう言われると何か見覚えがあるようなないような?

とはいえ風景の大半は農場で見たことがあるものだし、既視感の正体はそれかな?

あの元人間国の王女が豆を売り込んだり、ドラゴンがラーメンを売り歩いたりして……。

そんなボクではあるがただ催しを来て見て楽しむだけが今日の意義じゃない。

ボクは魔王の息子……魔王子だぞ。

そんなボクが一般人と同じ過ごし方を許されるわけがない。どこかで『違う』ということを示しておかないとな!

そのためにもボクは、実際にオークボ城に参加する!!

聞くところによればオークボ城は、大人ですら制覇困難とされる激ムズアトラクションだそうじゃないか。

そんな難関に、まだ十歳に満たない若さで挑戦し、見事クリアする。

英邁な若魔王子に相応しい有能エピソードとは思わないか?

別に自分が優れている……などと自信過剰なわけではない。

むしろ自分はまだまだ魔王となるために足りないもので満ち溢れていると自戒する毎日だ。

だからこそ、未熟なボクが今何より求めてやまないのが、実績だ。

才能豊かで未来有望。

こんなボクなら次の魔王として皆も安心してくれるはずだ。

ゆえに今日、オークボ城制覇の目標は揺るがない。

必ずや最年少クリア記録を樹立し、ボクの実績の一つに加えてみせる。

そんな闘気に燃え上がっているボクの耳元に何やらアナウンスが流れてきた。

「……会場の皆様にお伝えいたします。オークボ城午後の部がつつがなく終了し、続きましてキッズの部が開催されます。出場希望のお子様は、お父さん母さんと一緒に受付までお集まりください」

おお、これだ!!

ボクが参加希望を表明すると『じゃあ、ここに申し込んでくださいね』と事前指示を受けた。

ここから魔王ゴティア伝説inオークボ城が始まるんだな!!

それで、このキッズの部というのは通常のオークボ城と何が違うのかな?

「お前、知らねえできてんの? キッズの部は十二歳以下の子どもが出場する子ども用、安全対策に万全の注意を払った特製激甘コースだぜ」

と、隣に居合わせた子どもから言われた。

なんだってーーーーッ!?

じゃあボクは年若いだからって、全然難しさの欠片もない子ども用コースに放り込まれたというのか!?

横暴だ!

ボクは魔王子だぞ!

いくら年齢的に若すぎるからって、大した審査もせずに子ども用コースに放り込むなんて!!

そんな憤慨するボクを見て、周囲の子どもらは……。

「あー、いるよなそういう。勘違いするガキ。誰もが最初はそうなんだけどよ……」

「でも考えて見なよ。今の世の中、子どもがちょっと泣いただけで保護者クレームが凄いんだぜ? やれ謝罪しろだの責任取れだの。運営側だって慎重にならざるを得ないよなー」

「モンスターペアレントっていうんだぜー」

何だこの子どもら?

子どもの割りに冷静かつシニカルな意見を言ってくるじゃないか。

……しかしコイツらの言動には反論しがたい正論も含まれている。

何故か無性に反論したくなるんだけれど。

「それってアナタの感想ですよね?」

うるせえッッ!!!!!!!!!!

とにかく……そうだ、いかに魔王子だからって特別扱いはダメだよな。

無闇に恨みを買って、未来に禍根を残すことにもなりかねない。

郷に入っては郷に従えという諺を農場学校で習った。

その教えに従って、このコミュニティに飛び込んだからにはコミュニティのルールに従おう。

そうした度量の広さを示すのも魔王子としてプラスになるはずだ。

しかし……そうだな、出場者の安全に配慮して年齢で区分けするとは、オークボ城の運営側もなかなか配慮が行き届いているようだな。

こうした試みは一体どれくらい前から始まっているのだ?

今年が最初かな? ん?

「何言ってんだー。もう何年も前からの恒例だぜー」

「オレなんか三年前からずっと出場してるよー。五歳の時に初めて天守閣に到達した時の感動は今も忘れられないぜ」

な、なんだとー!?

こいつは今何と言った!?

ボクは今日、このオークボ城で最年少制覇記録を樹立して、魔王子としての大きな実績を残すつもりだったのに。

それよりずっと前に、今のボクよりも若い年齢で全制覇した者がいるというのか!?

「けっこうたくさんいますよ。五、六歳でオークボ城をクリアした子どもは」

「今のトレンドだよなー。今頃になってオークボ城に挑戦しようなんて流行に乗り遅れてるぜー」

ぐぬぅぉおおおおおおおおおッッ!?

それはボクに対する侮辱かぁああああああッ!

魔王子たる!

次代の魔国を背負うボクに向かって!

いいや落ち着け!!

心を乱すなボク!

未来の魔王であればこそ些細な言葉で、心を乱してはいけない!

民は皆、王にとっては慈しむべき子どもなのだと父上もいつも仰っているじゃないか!!

その言葉を今こそ噛みしめる時。

……いやぁー、ハハハハハ。

たしかにちょっと情報のキャッチがローテンポだったかなー?

これを教訓にもっとアンテナをアップデートしないとなー。

「そりゃそうだよ、若僧のボクらからフレッシュさを抜いたら何も残らないからねー」

ふんぬぅううううううううううううッッ!!

耐えろ! 弁えろボク!

未来の魔王はこんな安っぽい挑発で我を失ったりしない!!

「まあキミもオークボ城一年生として頑張るんだね。何か困ったことがあったらボクらベテラン勢に何でも聞くといい」

新規参入の敷居を上げる古参勢!!

なんでこんなに偉そうなんだ!? コイツらにしても七歳か八歳程度のガキだろうに!

「ふッ、そんなボクらだってこの業界じゃ若僧さ。上には上がいることを忘れたことは一度もないよ」

「そうだな、このオークボ城・キッズの部には長年君臨する覇王というべき御方がおられるからな」

覇王!?

そんな特別な存在が、このオークボ城に入るというのか?

魔王子であるボクを差し置いて?

「お、噂をすればやってこられたぞ。ボクたちの崇拝すべき覇王が」

「今日も益々精悍な表情をしておられる! 去年よりもさらに貫禄が増したな! 男子三日会わざれば刮目せよとはまさにこれ!!」

だからなんでコイツら幼児のくせにこんな口調なんだ?

オークボ城キッズの部の呪縛かこれが?

とにかく、まるで満を持すように遅れて入場してきた幼児は。

「みなのものー、ことしもよしなにー」

アイツはぁああああああッッ!?

知ってる! ボクはアイツを知っている!!

アイツは、ボクが現在学んでいる農場学校、その母体である農場の主……聖者!!

その聖者の息子であるジュニアじゃないか!!

「ジュニア殿! 一年ぶりにござる! 息災にござったか!」

「昨年の雪辱果たさせてございますぞ! 我らも過去の自分にあらず!」

だからなんでこんな口調なんだコイツらは?

だがジュニアのヤツも出場していたとは……!

しかも毎年顔を出す常連の様子。

彼の父親である聖者が運営に携わっているんだから当然と言えば当然か。

あのジュニアのことは……ボクも密かに注目はしていた。

彼は、ボクよりも年下だというのに侮れない子どもだ。

賢さに強さ。

魔王子であるボクから見ても侮れない水準がある。

ボクと同じく農場学校に学んでいる人魚王弟テトラ殿を、あの幼さにして毎日のようにボコボコにしている。

ボクも魔王子として、同世代でもっとも才覚輝かしい子どもでなくてはならない。

しかしながらボクより一歳ほど年下のジュニアくん。

その才覚はけっして油断してはならないものだ。

……いいだろう。

たった今この瞬間ボクは認める。

ジュニアくんキミは、この魔王子ゴティアが立派な魔王となるために切磋琢磨し合える好敵手だ!!

ボクが父上に敗けない超絶魔王となるためにはキミとの競い合いが必要不可欠!

このオークボ城キッズの部こそ、二人の戦いの場だ!

覚悟するがいいジュニアくん!