軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1061 小さな聖魔

引き続き魔王子のゴティアだ

ボクにとって今日を含めた一日一日が、魔王となるために必要となる糧。

微塵も無駄にすることはできない。

今日のオークボ城もまた、いずれボクが魔王となった時何らかの役に立つ貴重な体験となることだろう。

すべてはボクが魔王となった時のために!!

「それではオークボ城キッズの部を開幕いたします。お父様お母様、可愛いお子さんの活躍をお見守りください」

開始のアナウンスが流れる。

ボクもまた出場者の一人だ。

「うおおおおおおッ! ゴティア! 頑張るのだぞ!」

「魔王子たるもの一位以外はないと心得よ! ゴティア! お前の才覚を見せつける時ぞ!」

観客席で声援を送るのは……父上と母上!

どうか見ていてください! このゴティアは必ずや一位を取り、魔王家の威厳を示してみせます!!

特に今回、先にあった大人の部で見せてくれた父上の雄姿を衝撃をもって見た。

午前には出場者として全力疾走し、午後はサポート役として指導力を発揮してくれた。

特に午後の部で、あの勇者と渡り合った父上の姿をボクは興奮なしに思い出すことはできない。

正直なところボクが物心ついた時には父上は、戦争に出ることもなく内政に全力を注いていた。

御前会議で大臣たちと堂々渡り合ったり、多くの国民の前で演説を振るう父上をもちろん立派だと思ったが、平和な時代に働く父上は穏やかで大らか。

多くの臣下たちから伝え聞く、戦場の魔王と言われるような荒々しい父上の姿など想像もできなかった。

お腹もでっぷりと出ているし……。

しかし今日、あの勇者と対戦するに当たり、父上は変身した。

全身が筋骨隆々に引き締まり、オーガも逃げ出すような熱く鋭い眼光を宿した。

ボクが見学した魔王軍のどんな戦士よりも強そうだった。

あれが人魔戦争の頃、敵からは恐れられ味方からは畏怖された魔王ゼダンの真の姿なのかと思った。

あれこそが戦場で鍛え、無敵の象徴となりえた魔王の姿。

ボクも将来はあのような姿にならなければならないんだ。

ボクもあれだけの覇気や闘気を身に宿すには、ギリギリの勝負を経験しないことには始まらない。

修羅場をくぐって初めて経験が人格を鍛え上げるんだ。

今日のオークボ城は、その絶好の機会。

ジュニアくんと言う強力なライバルもいることだしな。

ボクはジュニアくんと競い合って、魔王の跡取りとして大きく成長してみせる!

さあオークボ城キッズの部の開幕だ!

ボクは我こそ先へと第一関門へ向かって駆け上がった!

大人たちの部を観戦していたからよく知っている。

最初の関門は堀に渡された平均台渡り。

しっかりとした歩調とバランス感覚が明暗を分ける競技だ。

ボクもそれは先の観戦でわかっていたので、けっして焦りはしない。

片足がなんとか乗る程度の細さに踏み出して、なんとか平均台を渡り切ろうとしたところ……。

「全然細くない!?」

キッズの部に特別設定された平均台は、もはや平均台とも呼べないシロモノ。

横幅は充分に広がっていて、大人が反対方向から来てすれ違うことすら容易にできるほどスペースが広がっていた。

しかも両端にはご丁寧に、落下防止の手摺までついているじゃないか!?

こんなんでどうやって落ちるというんだ!?

子ども用にしても難易度下げすぎじゃないですか!?

これじゃいくら何でも、ボクにとっても戦乱の魔王になれるようなギリギリの修羅場は体験できない!!

「いやだって……万が一にもお子様に怪我があったら大変だし……」

そのエリア担当のゴブリンが苦笑交じりに言った。

「まあ、ここ最近聖者様やオークボリーダーのとこにも新しい子宝が恵まれて、子どもの安全を守ろうという機運が盛り上がってるんですよね一際。だから今年は例年になく安全対策ガチガチ固めているというか……」

な、なるほど。

ボクのところでも、父上の妃である母上とグラシャラ妃がそれぞれ出産されたから、その気持ちはわかる。

しかしこれはどう見ても過保護すぎだろう!?

これじゃあ却って子どもの成長の妨げになるんじゃ!? と子ども本人が言ってみる。

よーし、渡るぞー。

タッタッタッタッタッタッタッタ……

簡単に渡れてしまった。

達成感ゼロ。

ボクのライバルと認めたジュニアくんはどうしているだろう?

やはりこんな簡単すぎるアトラクションに拍子抜けかな? と思いきや……。

ジュニアくんは、もはや平均台とも言い難いつり橋の真ん中で突っ立っている。

進みもせず何をしているんだろう? と訝る

ジュニアくんは片足を上げて、それなのに身じろぎもしない。

風も吹くだろうに、安全対策バッチリ過ぎるとはいえ底深い堀に渡された橋の上で足場も不安定だろうに、まるで鋼鉄のようにピクリとも動かない。

なんというバランス感覚か……!

あれだけのバランス感覚を持ってすれば、梁のように細い平均台の上でも、地面と何ら変わらないぐらいによく動けただろう。

でも今立ってるのは充分広い橋の上だけどな。

「ジュニア氏……! なんと美しい姿勢だ……!?」

「あれこそ立木のポーズというヤツでござる……!!」

他の子どもらも、ジュニアくんのあまりの姿勢の正しさに憧憬の視線を送っている?

これは細い道をできるだけ早くわたるのを競う競技のはずなのに、ただ立ってるだけで視線を独り占めなんてなんだ?

「あ……ッ?」

しかも、そんな美しい体勢で直立するジュニアくんにさらなる奇跡が起きた。

鳥が……。

小鳥が、直立するジュニアくんの肩の上に留まったのだ!?

「鳥すらも、ジュニア殿のことを本物の樹木と思い違いしている!?」

「体制だけでなく心まで穏やかでなければ、このような現象は起きますまい! さすがジュニア殿! 完全に静かで平らかな心でなければこのような奇跡は起こせぬ!!」

何故か大絶賛だった。

しかもジュニアくんの起こす奇跡は、それだけにとどまらない!

「ああ、一羽だけに限らず他の鳥たちも続々と……!!」

「ジュニア殿の肩や手や頭に留まっていくでござる……!?」

「ああッ、小鳥だけではなく文鳥やオウム、それに大鷲も……!?」

「やや、あれはフェニックス! 不死鳥すらもジュニア殿に慣れ親しむのか!?」

もはや訳がわからん感じになっていた。

もう鳥たちのアパートみたいになったジュニアくん。

あんなに大量の鳥たちが留まって重くないのか? と心配したが、競技中に考えることでもない。

そうだ、今はいち早く先へ進む方が重要だ。

ボクは第二関門へ到達した。

第二関門は、坂の上から大きな岩が転がり落ちてくるステージだ。

大岩は一つだけではなく複数転がり落ちてくるので、目の前だけでなくその次にも注意を割かなければならない。

全体を俯瞰して状況把握する認識力と、分析した状況に合わせて瞬時に行動できる身体能力が問われる。

もちろん魔王子であるボクは、その両方を備えているつもりだ。

たとえいくつもの大岩が転がったところで完璧に回避して……。

……え?

「あれはなんだぁーッ!?」

転がってきたのは大岩じゃなかった。

大きな……リンゴ!?

果物のリンゴだ!

しかしスケールだけは大岩と見劣りもしないほど。あんな大きなリンゴが地上に存在するのか!?

「ああ、いえ……あれはリンゴを象ったクッションですよ。中に綿が詰まっていてぶつかっても怪我しないようにしてあります」

このエリア担当のゴブリンさんの解説!

またアレか!?

子ども用コースの安全対策ってことか!?

「フルーツの形の方が可愛げもあって子どもたちからの人気も出るだろうと……。ほら、リンゴだけじゃなくてオレンジやぶどう、メロン型のクッションもあるんですよ。色とりどりでしょう?」

うおぉおおおおッ!?

色とりどりの巨大フルーツクッションが坂から転がり落ちてくる光景!

異様!!

子ども向けを意識するあまりとんでもないことになっていませんか!?

くそ、異様さに気が散って上手く回避できない。

これじゃあ、思うように進めず足止めに……!?

そうこうしているうちにジュニアくんが来た!?

彼もこのフルーツ群れに戸惑うんじゃないのか!?

「……」

ジュニアくんは避けなかった。

それなのにフルーツクッションの方から跳ねて軌道が変わり、ジュニアくんを避けていった!?

「おお、これこそジュニア殿の空なる心から、己の存在をも消し去り、すべての事象が通り過ぎて行っているのでござる!」

「さすがジュニア氏! 護身の極みであるぞ!」

また解説の子どもらが言っているがボクももうよくわからん!

ジュニアくんは、ボクに理解できない能力の持ち主なのか!?