作品タイトル不明
1044 ピンチヒッター
なんということでしょう。
異世界出産ラッシュを控えて大変なことが判明してしまった。
この世界いかなることにも神のご加護が必要。
妊娠出産だって。
この世界で出産を司るのは天界の女神であるエレテュイアさん。
ヘラ、アンフィトルテ、デメテルセポネ等の母神たちは生まれたらノータッチらしい。投げっぱなしだ。
予定外の出産ラッシュでエレテュイア女神が全然カバーしきれない。
このままでは多くの母子が出産に神の加護を得られない……というところで助けに入ったのが異世界神の菅原道真公。
彼は自分の世界で出産を司る産土神たちを一個大隊投入し、応援に回してくれた。
純粋にマンパワー……いやゴッドパワー? が増した態勢で、これなら無事出産ラッシュを乗り切れる!? と思ったところであった。
まさか出産ラッシュの時期と、神無月というあちらの特別なイベントが重なってしまうとは……。
なんかその月は神様が一ヶ所に集合しないといけないんですって。
それは産土神たちだって該当することで……。
神々が一堂に出雲に会し、異世界なんぞでお産の手伝いしてる場合じゃねえ。
……ってことになってしまう。
しかしそうしたら手伝ってもらうオレたち異世界側は大困り。
どうするんだよ!?
というのが前回までのあらすじ。
『うわぁあああああああん!! 一年三六五連勤んんんんんッッ!? お休みは歩いてこない、だから走って逃げんだねぇえええええええッ!!』
エレテュイアさんが精神の限界を迎えている。
来たる絶望に耐えきれずにのたうち回っている。
道真公も真剣に困り顔で……。
『ううむ、参ったのう。産土神たちを動かせないとなれば……、いやそもそも神無月が変更条件に関わるなら、我が世界の神すべてが遠征不可能ということに……!?』
本当にお困りのようだ。
『……そうだ! 神無月にも出雲に出張しなくていい神に心当たりがあったぞ! タケミナカタと言ってな! なんか色々あって十月にも暇なアイツにお願いすれば……!』
『タケミナカタ様にお産お手伝いは無理だよー!!』『落ち付くだよ道真様―!!』
産土神たちが必死になって止めていた。
どうやら道真公の人脈……もとい神脈からでは行き詰まりのようだ。
別のラインから策を講じなければいけない状況に?
ふむむむむむむむむむむむ……!?
元はと言えば俺たちの世界で引き起ったトラブル。
自分たちのことは自分たちの世界で解決すべきではなかろうか。
そうだ。この世界には他にもたくさんの神々がいるじゃないか。
天の神々に地の神々、それに海の神々と本当に様々な神がおる。
「あの……エレテュイア、さん?」
『ふぇええ、せめて残業手当は……、なんです?』
まさかサビ残?
いや、そのことは今置いておこう。今はエレテュイア女神のサビ残疑惑より優先すべきことがある。
「人手不足の問題なんですけど、たとえば他の神々に手伝ってもらうってことはできないんでしょうか? どうせ暇してる神なんてたくさんいるでしょう?」
『そりゃあもう、暇な神はとことんまで暇ですよ! 暇すぎて最終戦争を起こしたりするぐらいですよ!!』
それもまた大問題。
暇を持て余した神々は常に人間界の迷惑にしかならない。
『でもいいんですか? そんな専門外の神々にお産手伝わせて? 同じオリュンポス神族の一員である私が言うのもなんですが、神ってまず間違いなく余計なことしますよ?』
「う、うぐ……!?」
それは……!?
『そんなことないよ』とは言えない!
『本当にいいんですか?……たとえばアナタのお子さんの出産に、私の母ヘラ女神が立ち会うことになっても?』
「絶対嫌ぁああああああああああああああああああああッッ!?」
『ウチのお母様のことですから、ゼウスの浮気相手として見初められないように「絶対ブスに育つ祝福」とか与えかねませんよ。女の子が生まれたら』
なんということだ!?
この世界の他の神に手伝わせろ作戦は、純粋に当たり外れがデカすぎる!!
我が家にアタリが来てくれたらいい、という話じゃない。
アタリがあれば必ずどこかがハズレを引いた、ということになって、愛する子どもの誕生、頑張る妻の安否が、そんな運任せで決まっていいものか!?
皆が幸せになれない案は採用できない!
「はあ、せっかく考えたのに廃案か……。なかなか上手くいかないな」
『いや、聖者の考えはいいセンいってたと思うぞ。この世界の神々が想定以上にダメだったってだけで』
道真公が肩にポンと手を置いて励ましてくれる。
『そう、この世界の存在に援けを求めるとはいい案かもしれぬ。この世界にもあまねく多くの存在がひしめいておるし、その中に頼りになる者がいても何ら不思議ではない。外つ神に頼ろうというより健全であるしな』
おお、俺の案ベタ褒め。
そこまで持ち上げられると俺も浮かれちゃいますぜ。
『となると次の問題は、この世界の誰を助っ人に選ぶかだが……。……ん?』
道真公、いかにもなんかに気づきましたといった様子。
彼の視線を追ってみると、その先にいたのは……。
大地の精霊じゃないか。
四~五歳児程度の頭身の低い女の子たちが集団で、元気に遊び惚けていた。
「たっちだうんですー!」
「おんさいどきっくですー!」
「おふさいどとらっぷですー!」
最近なんかラグビーブームが来ているらしく、暇を見つけてはああして野っぱらでラグビーごっこに興じていた。
……ラグビーか、あれ?
『……あれは、この世界の大地の精が実体化したものと見受けたが。よくまああそこまでハッキリと現れたものよな』
「少々土地柄が特殊でして……」
大地の精霊たちは依然としてラグビーに熱中し、サーブ権が移ったところから猛烈なレシーブの応酬、見応えのあるラッシュが巻き起こっていた。
……本当にラグビーか、あれ?
『しかし……うむ、あの子たちはよいのではないか?』
よい?
何がです道真公?
『精霊とは、弱く低位であるものの神性は伴っておる。我らの世界なら……八百万の神というほど神に認定する基準がクソほど緩ければ、充分にあの子らも神と定められておるであろう』
自分でクソほど緩いって言っちゃったよ。
『そして産屋と同じ数だけ存在する産土神の在り方と通ずるところもある。産土神たちもまた大地と密接なかかわりを持ち、萌え出づる生命の息吹を司る存在。……見つかったかもしれんのう。今求める資質を備えた者たちが』
まさか道真公……。
問題となっていた産土神の代役に……。
大地の精霊たちを抜擢するというのか!?
『聞くがよい、そこの幼子たちよ!!』
道真公が、大地の精霊たちへ呼びかける。
ちょうどラグビーの試合が九回裏でクライマックスを迎えている時候だった。
『ぬしらに打ってつけの仕事があるぞ! それを果たし、功績を上げ、みずからの神格を高めてみぬか! 古の者曰く、向上心のない者はバカだ!』
それは格言じゃないし、古の人っつってもアナタよりずっと後世の人でしょ。
『すなわちそれは学問をしろということであり、出産を守護する資格を取ることでスキルアップ、以後の就職にも有利という……ズゴッ!?』
「オッサンだれですー!?」「きゅうにはなしかけてくる、不審者ですー!!」
相手の話を大人しく聞いている大地の精霊たちではない。
アイツらはアイツらで、目の前の問題を全部暴力で解決する程度のアグレッシブさは持ち合わせている子たちであった。
「ふいしんしゃはつーほーですー!!」
「ちかんブザーを鳴らして、じんせーを終わりにしてやるですー!!」
「あいさつしただけでタイーホされるこんな世の中ですー!!」
ほら、見知らぬ道真公に対して坂東武者並の野蛮な対応……というか武力行使。
『ええーい! やめんかこの荒夷どもがぁああああああッッ!!』
道真公、稲妻を発して大地の精霊たちを追い散らす。
この異世界に来て初めての怨霊モード。
『話しかけただけで敵対行為とはなんと野蛮な世界なのだ! よかろうだったらこちらも流儀を合わせてやる! 産土神たちよ!!』
道真公の号令に合わせて、これまた可愛い雪童めいた産土神たちが複数集結する。
『どうやらぬしらスポーツにハマっているようだが、だったらこちらもスポーツで勝負じゃ!! この産土神高校演劇部との練習試合に勝利してみるがいい!!』
『んだんだー!』『とーほぐの底力を見せてやるだー!』
なんかよくわからぬ方向へ話が進んでいる。
一体、出産ラッシュを乗り越えるために神々の守護態勢を整える話は、どの方角へ進むんだろうか?