軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

1043 九仞の功を一簣に虧く

農場の俺です。

ここ最近、妊娠ブームでてんやわんや、どったんばったん大騒ぎな毎日が続いているが、ついにその日々にも決着が見えつつあった。

プラティらのお腹も大分膨らんできてな。

臨月も近いと見た。

こちらも準備万端整っている。

農場に関しては既にジュニア、ノリトでの経験があるためノウハウは積もっている。

医師ガラ・ルファを筆頭にしてエルフたちが助産婦の経験を積んで、プラティのお産をサポートしてくれるはずだ。

他、同じく妊娠した奥方はそれぞれのホームで出産に望むこととなる。

アスタレスさんやグラシャラさんやアリアスさんは魔国で。

ヴァ―リーナさんにブラックキャットさんは人間国で。

それぞれ地位のある人たちだから万全の体制を用意してくれているはずだ。

ゾス・サイラとカープさんは故郷の人魚国で出産されるのかと思いきや、農場で生むんだそうな。

父親が農場の重鎮であるのだから農場で生むのが筋、というらしい。

その他ブラッディマリーさんも、ドラゴンのお産は世界初……ということでウチを頼ってきた。

そりゃどうしていいかわからんのも無理はないし、その気になれば先生に時間を操作してもらったり、ガイア神なり担当者の神を読んで対処することもできるだろうし。

そんな感じで着々と準備を進めていたのだが、準備万端は俺たちだけではなかったようで……。

* * *

『はーい、点呼をとりまーす。各班ごとに整列してくださーい』

なんか始まっとる。

キビキビと現場監督みたいなことを言っているのは神。

しかも異界よりの来訪神、菅原道真公だ。

さらにその前には、何やら二頭身めいた小人がたくさん並んでいた。

生物か……、あれ?

しかもやたら数が多い。『たくさん』と入ったがアレでは『たくさん』という表現も追いつかないぐらい多い。

五百人ぐらいはいるんじゃないか?

そんな一個大隊クラスの人数を、異世界天満宮の境内に集めてどうするつもりなんだ?

『この子らは、産土神だ。私の世界から呼び寄せた』

うぶすながみ?

字面からして、なんかお産に関わる神だったりします?

『その通りだ。こちらの世界の出産システムがあまりに杜撰なのでな。この事態へ緊急に増援を呼ぶことと相成った。我が世界の産土神一個大隊だ』

本当に大隊だった。

この二頭身の、座敷童というか雪ん子みたいな風体の子どもらが神様か……。

産土神は、建てられた産屋に各一神ずつおり、お産を見守り安産を促す神とされている。

人にとっては非常に重要な神だ。

そんな神様たちがこれだけの数、応援に来てくれたという。

それはきっとプラティたちのお産に備えてであろう。

この世界では例のクリスマス騒ぎで農場の他にも新子を授かったカップルはそれこそ数え切れないほどいるであろう。

人口が爆発増加しそう。

それに備えて神様サイドもこうして態勢を整えてくれている。

なんと有難いことか。

信仰のし甲斐がある。

……でもこうして対処を進めているのがこの世界の神じゃないってどういうことなの?

『有難いですぅうううううううッ! これで残業しなくてすみますぅううううううッッ!!』

傍らで何か感涙している女性がいた。

誰あれ女神?

道真公が答えるに……。

『この世界の出産を司る神エレテュイア殿だ。こっちでは出産にまつわる神の裁量は全部彼女一人が負ってるそうでなあ』

全人類の出産を?

なんという酷いワンオフ。

少しは職場改善されなかったんですか?

『上の意向が働いていたようでな。しかし諸悪の根源に当たる上役の神をクロノス殿がシメてたから状況は改善するんじゃないか?』

さすがクロノス神。

適切な方向へ舵を切るのが迅速だ。

『娘に絶対服従を強要していたんだから、自分の父親にも絶対服従すべきですわ!! 因果応報素晴らしいー!』

出産を司るという女神さんが、少々ヤケ気味に喝采していた。

よっぽど酷使されていたのか、アレは三十連勤明けのテンションだった。

『うむ、今日は来たるべき本番に先立って産土神たちに、各自の管轄を割り当て、この世界の細かい流儀を研修してやり方のすり合わせを行うのだ。そのため現場担当者のエレテュイア殿にもお越しくださった』

ホントの仕事みたいだ。

まあ神様たちにとっては、これこそが実際仕事なんだろうけれど。

『我々神の働きがそのまま人の子の生活にかかっておる。ここは一致団結し、繁忙期を乗り切ろうではないか!!』

『みちざねさまー、みちざねさまー』

『ん? なんだ?』

産土神の一神が手を挙げ、発言を求める。

少々高めの可愛い声だ。

『こっちの世界で、出産ラッシュが起きそうだーって聞いてきんだけどもー? それってどれくらい先だべかー?』

『だべかー』って喋るんだ。

道真公答えるに……。

『うむ、来月を予定しておる。こちらの世界でちょっとしたきっかけがあってな。同時多発的に出産が巻き起こる予定なのだ』

『クリスマスだろー、知っとるべー』

『聖夜だつーて、どこもかしこも盛りよってよー』

耳が痛い。

まったくその通りだからだ。もはやクリスマスがそういう日だと異世界にまで伝わることが、様々な方面に申し訳ない。

『だったらよーみちざねさまー。ちょっと困ったことになっぺー』

『困ったこと? なんじゃ?』

『クリスマスに子さ作ったらよー。大体生まれんのは十月だべー』

そうだな。

いつも妊娠の期間が十月十日などと言われるが、それに当てはめるなら十二月二十五日に種をまくとして、実を結ぶなら十月が順当になるのかな?

もちろんそれらは目安にすぎず、早産もあれば予定日より遅れることもあろう。

しかしそれらを差し引いても産土神たちは、何故出生月に拘っているんだ?

十月に何か不都合があるのだろうか?

『ああぁあああああーーッッ!? そうか! 十月か!?』

道真公まで『しまった』といった風に絶叫する。

『なんという月に重なってしまったのだ!? これでは計画を抜本的に見直さなければ……!?』

抜本的に見直し!?

そこまで深刻なんですか!? 十月に何があるというんですか!?

『十月は……神無月なのだ!』

かんなづき!?

なんか聞き覚えあるなそれ! 特に信心深くない俺でも知ってる、広くに渡って知られる雑学。

『神がない月』と書かれる神無月。

その月には日本中の神々がどっか一ヶ所に集まって会議するとか、酒盛りするとか?

何やるか詳しく知らないけどとにかく集まるんだ。

そしてその神無月とは……十月の古い呼び名!!

『オラたちも神無月には出雲さ行かねーといけねーべ』

『サンライズ出雲の切符予約してあるだよー』

『とてもじゃないけど異世界の手伝いまで気が回らねえべよー』

産土神が次々と不安を表明する。

そんな神無月って……絶対どっかに集まらないといけないんですか?

やむなき事情で欠席とかできないわけ?

そもそも神無月に産土神まで動員されるんなら、日本でも十月の出産はどうなるんですか!?

『我々の世界では当然、担当業務のある産土神は免除を受けるが……、さすがに異世界への手伝い組にはな……!?』

そうだよね。

そもそも産土神さんたちは、こっちの世界の神様じゃなくてあくまで菅原道真公が手配してくれた助っ人。

自分たちの世界で事足りてる上での余剰分がこうして来てくれたんだからあまり無茶なお願いはできない。

でもそうしたら出産ラッシュが始まる肝心な時期に、外部の援助を受けられずに、やっぱり負担のすべてがエレテュイア女神へと!!

『いやぁあああああああッッ!? やっぱり残業! 休日出勤! 三七〇連勤んんんんんんんんんんッッ!?』

『困ったのう、この菅原道真も八百万の神々に属するからには当月出雲へ出向かねばならん。一番大変な時期にこっちにいてやれないことになるのう』

何という間の悪さ。

せっかく準備万端整えたというのに、この土壇場でトラブル発生だ!!