軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

『踊り子ミラと一番星のステップ』 - 2

王都を追われるように出てから、ミラはただ歩いていた。あてもなく、ただ西へ。

道端に咲く花の色も、空を流れる雲の形も、彼女の瞳には映らない。道中で出会う人々の笑顔も、活気ある町の喧騒も、まるで分厚いガラスを一枚隔てた向こう側の出来事のようだった。彼女の世界はあの日、兄が死んだあの瞬間に、色と音を全て失ってしまったからだ。

かつて彼女は大陸中にその名を知られた旅芸人一座の華だった。

兄のリオが歌い、ミラが踊る。二人が舞台に立てば、どんな寂れた酒場も、一夜限りの夢の舞台へと変わった。兄の歌声は彼女の翼だった。彼の声があれば、ミラはどこまでも高く、どこまでも自由に舞い上がることができたのだ。

だが、その翼は三年前の、雨の夜の馬車の事故で、無残にもぎ取られた。

以来、彼女は音楽から逃げ続けている。

賑やかな町を避け、吟遊詩人の歌声が聞こえれば、耳を塞いで路地裏に駆け込む。酒場で日銭を稼ぐために皿を洗い、宿屋の床を磨く。かつて軽やかに宙を舞ったつま先は、今やひび割れ、固くなっていた。

腕に抱えたリュートが、ずしりと重い。兄の形見。だが今の彼女にとっては、もはや、あの輝かしい過去を突きつけてくる呪いの道具でしかなかった。

そんな彼女がある小さな村にたどり着いたのは、偶然だった。

収穫を祝うささやかな祭りの準備で、村は陽気な活気に満ちていた。ミラは、胸がざわつくのを感じ、すぐにでもこの村を立ち去ろうとした。音楽の匂いが、ここにも満ちている。

だが、彼女が踵を返そうとしたその時、空がにわかに暗くなり、大粒の雨が地面を叩き始めた。激しい夕立が、彼女の足を、この村に縫い付けた。

雨宿りのために駆け込んだのは、村はずれにある、古びた納屋の軒下だった。干し草の匂いと、土埃の匂い。賑やかな広場とは隔絶された静寂が、彼女をわずかに安堵させる。

そこで、彼女は一つの音色を耳にした。

それは、粗末な木笛の音だった。

音程は外れ、息遣いも拙い。だが、その旋律には、聞き覚えがあった。いや、忘れることなど、できるはずもなかった。

それは兄が、彼女のためだけに作ってくれた、世界でたった一つの、彼女の踊りのための歌だったからだ。

―――違う。その音じゃない。そこはもっと、空へ駆け上がるように、軽やかに……。

ミラは無意識のうちに口を開いていた。

声にはならなかった。だがその唇は、確かに、正しい旋律を、記憶のままに静かに口ずさんでいた。

音のする方へ、まるで夢遊病者のように、ミラは歩いた。

納屋の隅で、一人の少年が、干し草の山に座り、必死に笛を吹いていた。歳は十歳ほど。額に汗を浮かべ、何度も同じ箇所でつまずいている。

ミラの存在に気づいた少年は、ぴたりと笛の音を止め、驚いた顔で彼女を見つめた。

「……今、歌ってた?」

ミラの心臓が、大きく跳ねた。はっとして、自分の口元を押さえる。

「ご、ごめんなさい。邪魔をするつもりは……」

「ううん!」

少年――テオは、目を輝かせて彼女に駆け寄ってきた。

「すごい! 今の音だ! 俺、この歌が大好きなんだ! 何年か前に村に来た旅芸人の人が歌ってて、それからずっと練習してるんだけど、どうしても上手くならなくて……」

少年の、あまりにも真っ直ぐな憧れの瞳。

それはかつて、舞台の上の自分たちに向けられていた、あの眼差しと同じだった。ミラの胸の奥が、ちりりと痛む。

「ねえ、お姉さん! 今の歌、知ってるんでしょ!?」

ミラは答えることができなかった。ただ、腕の中のリュートを、石のように固く抱きしめる。

「俺、祭りでこの歌を上手に吹いて、好きな子を踊りに誘いたいんだ!」

少年は、少しだけ顔を赤らめて言った。

「お願い! 俺にこの歌を教えてくれないかな!?」

その言葉は、ミラが三年間、心の奥底に固く固く封じ込めていた扉を、少しだけこじ開けた。

彼女の虚ろな瞳に、ほんの一瞬だけ、かつての光が宿った気がした。