軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

剣士カインと託されし命の鎖 - 3

冷たい雨が、夜の闇をより一層濃くしていた。

マルコは防壁の上に立ち、重い槍を杖代わりにして、なんとか体を支えていた。

ずぶ濡れの革鎧が、氷のように冷たい。

本来なら三交代の夜番だが、度重なる補強工事で人手が足りず、マルコの班は昨晩から一睡もしていなかった。

(隊長は、少し焦りすぎている)

マルコは、雨の向こうの暗闇を見つめながらぼんやりと考えた。

隊長であるカイン。

数年前、雪山で魔物に追われていたマルコたちを、オークと共に命懸けで守り抜いてくれた恩人だ。

マルコにとって、カインは誰よりも強くて、信頼できる兄のような存在だった。

だからこそ、最近のカインの強張った横顔を見るのが辛かった。

マルコたちを守ろうとするあまり、カイン自身が少しずつ削り取られていくのが分かった。

(俺たちがもっと強ければ、隊長を……)

ふと、視界がぐらりと揺れた。

足の感覚が消え、頭に重い鉛が入ったように首が垂れ下がる。

限界だった。

メキィッ!

凄まじい木材の破砕音が、雨音を切り裂いた。

マルコが弾かれたように顔を上げる。

「て、敵襲! 防壁が――っ」

足元の防壁が、下から爆発したように吹き飛んだ。

(今のは、マルコの声か?!)

詰め所にいたカインは、図面を弾き飛ばして立ち上がった。

音の方向は西。

昨日、雨の中で土嚢を積ませた防壁だ。

外へ飛び出すと、冷たい雨が顔を打った。

西の防壁が、無残に崩落している。

過剰な土嚢の重みと雨水が地盤を砕き、自重で壁を破壊したのだ。

(くそ! 俺のせいだ!)

崩落した泥の山から、巨大な影が這い上がってきた。

四本の太い腕を持つ、上位の魔獣。

「迎え撃て! 中に入れるな!」

カインは剣を抜き、泥を蹴って走った。

「おい! 立ち止まるな! 防御態勢を取れ!」

だが、周囲の団員たちの反応が遅い。

無理な徹夜作業で体力を奪われ、足が動いていないのだ。

崩落のすぐそばで、マルコが泥に足を取られて転倒していた。

魔獣が、丸太のような腕を振り上げる。

「マルコ! 避けろ!」

カインは叫んだ。

が、マルコは動けない。

カイン自身も、疲労と寒さで足がひどく縺れた。

万全を期したはずの警戒が、すべての動きを致命的に鈍らせていた。

魔獣の腕が振り下ろされる直前。

白銀の閃光が、雨を切り裂いてカインの横を通り抜けた。

ガァンッ!

重い金属音が響く。

リアムだった。

マルコとカインを背後で庇うように立ち、剣の腹で魔獣の凶腕を受け止めている。

だが、二人を庇うための不完全な体勢。

魔獣の規格外の質量がリアムの剣を押し込み、剛腕の爪がリアムの左肩から胸にかけてを深く抉った。

鮮血が、雨に混じって飛び散る。

リアムは表情を変えなかった。

血を流したまま剣を滑らせ、魔獣の腕を斬り飛ばす。

返す刀で巨体を駆け上がり、太い首を深々と薙ぎ払った。

言葉なき絶叫を上げ、巨大な魔獣が泥の中に沈む。

その直後、リアムが片膝を突いた。

「リアム!」

カインは泥を這うようにして駆け寄った。

リアムの体を支える。

傷口からは、雨で薄められないほどの血が流れ出ていた。

リアムは荒い息を吐きながら、血に染まった手でカインの腕を掴んだ。

「……私のことはいい、皆を」

声は、ひどく掠れていた。

「穴を、塞いで下さい……被害が広がる前に、早く……」

そう言い残し、リアムは静かに目を閉じた。