軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リュシュ到着

「オルデア様ぁああああ!!」

リュシュが到着したと知らせを受けて、サロンに足を踏み入れるや否や懐かしい声がサロンに響きわたった。

「リュシュ、久しぶりね。元気にしてた?」

鮮やかな赤い髪を無造作にくくり、大きい眼鏡の下には髪の色と同じ赤色の瞳がランランと輝いていた。

「オルデア様!なんだかより一層お美しくなられましたね!」

私の挨拶にも質問にも一切答えないが、それがいつものリュシュなので私は気にしない。

「褒めてもなにも出ないわよ?美味しいお茶は出すけどね」

ナタリーは私とリュシュにサッとお茶を出して下がった。

「いやいや、ほんとに!そりゃ元々お美しかったですけど、磨きがかかってます!やっぱり結婚を控えているからですかね?」

先程の言葉はお世辞ではなく言ったようで、リュシュは私を観察するように眺める。

「リュシュ、そんなにジロジロ見て失礼ですよ」

後ろに控えたライナがたまらず声をかけた。

「ライナさん!お久しぶりです!」

「お久しぶりです、リュシュ。そしてオルデアお嬢様がより一層美しくなったのは事実です。ですが結婚を控えているからだけではありませんよ」

「ライナさん、理由分かるんですか?」

「もちろん。それは……辺境伯様から愛されてるからです」

たっぷり溜めてから言うライナに、リュシュはなるほどなるほどと頷いている。

「ちょっとライナ、変なこと言わないで」

「事実を言ったまでです」

そう言うライナは私の胸元のネックレスを見やる。

「いや、その……」

愛されてない、なんて言えない。実際大切にされている自覚はある。しかしそれを素直に言うのも恥ずかしく、顔が熱を持っていくのが自分でも分かった。

その様子を見て、リュシュは目を細めてなるほどなるほどともう一度頷いた。

「んもう!それよりリュシュ、早く石鹸を見せてちょうだい」

話題を逸らしたくて、リュシュにお茶を飲む暇も与えず商品を出させた。

リュシュはニマニマした顔で、淡いピンク色の紙に包まれた石鹸を鞄の中から取り出した。

「うん、いい色ね。理想通りのピンクだわ」

「良かったぁおめがねに叶うかちょっと不安だったんです。パッケージの可愛さもオルデア様のこだわりですからね!」

紙を開けるとふわりとシャルフラワーの香りがする。

スッとライナがフィンガーボウルを用意してくれたので、石鹸をつけて泡立てる。

「泡立ち良くなったわね」

「そうでしょう、そうでしょう。香りを閉じ込め、泡立ちも良く、この2つの両立が難しくて難しくて。ようやくいい配合ができました!」

ライナから手渡されたタオルで手を拭い、手の甲を鼻に近づけると微かにシャルフラワーの香りがする。

「うん、香りも強すぎない、でも微かにあるこの感じ、私がお願いした通りよ。さすがリュシュだわ」

「えへへ、難しかったですけど、オルデア様の理想に近づけるために頑張りました!」

「一緒に頑張れなくてごめんなさいね」

ローゼンフィル領にいた頃はしょっちゅう顔を出してはリュシュや商会長であるフィーリア、その他の研究員達とあれやこれやと試していた。辺境伯に来てからも手紙のやり取りはしていたが、リュシュ達に負担をかけてしまった。

「なんのなんの。この石鹸を使った手がこんなにスベスベなのはオルデア様のおかげです!保湿成分をどのぐらい入れるか、こちらで研究までしてくれたのでオルデア様の手紙にあった配合のひとつで作れました!」

思いつくと試さないでいられない性格のせいで、私は部屋の片隅に小さな研究所を作ってしまっていた。

「ちょっと金額が上がってしまったけどね」

「庶民も頑張れば届く程度の値段です。お貴族様ならなんてことない金額です。問題ないですよ」

「保湿成分を多くしたのは、ここのメイド達が石鹸で手が荒れると教えてくれたからなのよ。だからね、彼女達のような人に使って欲しいの。どうしたらいいか考えてるんだけどあまりいい案が浮かばないの」

そんな話をしていたらルカルディ様がサロンに顔を出してくれた。

「仕事の話中だったのでは?お邪魔ではないかい?」

リュシュと挨拶を交わしてすぐサロンから出ようとするルカルディ様をお茶に誘ったら、そんな答えが返ってきた。

「聞かれて困るようなことはありませんわ。それより意見を聞かせていただければ嬉しいです」

そう伝えれば、ルカルディ様は私の隣に腰を下ろした。

「辺境伯様、こちら新商品の石鹸なのですが、使用後の香りの意見が欲しいので、オルデア様の手を嗅いでみてください」

「えっ」

「ええと、私も試して使ってみたら良いのでは?」

「使用後少し時間が経ってるので丁度良いかと。他の方にオルデア様の手を嗅いでもらうわけにもいきませんし、ぜひよろしくお願いします」

さぁさぁとリュシュは有無を言わせぬ勢いだ。

「えっと、それじゃあ、オルデア嬢、いいかな?」

「えっ、は、はい」

ルカルディ様が差し出す手にそっと手を乗せると、私の手にルカルディ様の顔が近づいていく。まるで手に口付けをされているようでドキドキする。

「優しくシャルフラワーの香りがしてとても良いと思うな」

ルカルディ様は顔を上げてそう言うが、まだ手は握られたままで、私がいつ手を引こうか悩んでいると、リュシュがとんでもないことを言う。

「この石鹸は保湿成分が入っていて、使った後すべすべなんですよ」

「へぇ……オルデア嬢触っても?」

「ふぇっ、あ、は、はい」

ルカルディ様は両手て包むように、優しく私の手の甲を撫でる。

「うーん、オルデア嬢の手はいつもすべすべだから、残念ながら違いが分からないな」

「あ、そりゃそうですよね」

貴族令嬢なので手が荒れるようなことはしないし当たり前だ。いつまでも離してくれないルカルディ様に「あの、そろそろ」と囁やけば「残念」と言って指先に軽くキスされてから私の手はようやく解放された。

その様子に「きゃー」等と言いながらリュシュは顔を覆っている。とはいえ指はばっちり開いてて、目はばっちりこちらを見ている。

「もうっ2人して揶揄わないでください」

赤い顔を誤魔化すように私はそっぽを向いた。

お茶を飲んで一息ついてから、私達は先程悩んでいたことをルカルディ様にも話した。

「メイドに使って欲しい、か。それなら大量に買ってくれた人に少し安く売ることはできないだろうか?」

「なるほど、お貴族が大量に買ってメイド達にも行き届くようにするってことですね」

リュシュはすぐルカルディ様の考えを察した。結婚より勉強や研究がしたいと言って家を出て今は平民たが、元々は男爵家の令嬢なので貴族のことにも理解がある。

「そう。どうせなら沢山買って家中の石鹸をこの石鹸にしようと思ってもらうんだ」

「メイド達に喜ばれれば、結果その家の夫人の評価もあがりますものね」

「お貴族様にとっては高くもない石鹸でご自分の評価が上がるとなれば安いものですもんね」

「まぁそう上手くいくかは分からないけどね」

「やってみる価値はあります!帰ったら商会の会計士に相談してみます!」

「ええよろしくね、私からも手紙を書くわ」

「手紙といえば、一応これお持ちしたんですが……」

そう言ってリュシュは手紙の束を取り出した。

「これは?」

「リリエンヌ様からの手紙です。読んで欲しくて持ってきたわけではないんです。内容は香水やハンドクリーム等をいつまでに何本用意しなさい、といった内容です。ご用意するには時間がかかりますと返事をすれば、怒り狂っておりましたね。私を優先して当たり前でしょう!と」

リリーのその姿が容易に想像できた。

「ごめんなさい、妹が迷惑をかけて」

「いえいえ、オルデア様からそうなるかもと聞いていましたし、もちろん指示通り優先してません。それにあの人納品してもお金払ってくれないんですよ。会計士が迷惑料を足してローゼンフィル侯爵家宛に請求してました」

この類の話はすぐに社交界に出回る。

ローゼンフィル侯爵夫人は商会に金を払わず、ローゼンフィル侯爵家は商会から請求を受けたと。あんなに豊かな領地があるのにお金がないのかと馬鹿にされることだろう。

「それはローゼンフィル侯爵も困るだろうな」

「ええ、これで懲りるといいのですが」

これで懲りるような妹かは分からないが、ロベルト様がリリーを叱ってくれることを祈ろう。私は家を出る前にリリーにもロベルト様にも商会のことは説明した。それを無視したのはリリーだ。

ローゼンフィル侯爵家が馬鹿にされようと、私のせいではない。そう思えるようになった自分がなんだか嬉しかった。