軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

夕食後の女子会

美味しい夕食をいただいた後は、ルカルディ様とフィリオ様、私とアリア様とベルリナ様で別れた。

男性陣は仕事の話があるとのことで、女性陣はサロンへと移動した。その途中ライナにひとつお願い事をして私はサロンへと向かった。

「やっとお話できますわ!」

ソファに座るなりアリア様は身を乗り出して来た。

「もう、はしたないでしょう。落ち着きなさい、アリア」

そんな様子をベルリナ様は窘める。

「だってお母様、夕食の時は大人しくしてなさいと言われたから私ずっと我慢していたのよ?」

夕食の時こちらをチラチラと伺いながらも、出迎えた時の勢いがなかった理由を知った。

「オルデア様!先程お名前呼びをお許しいただきましたが、もうひとつお願いがありますの!」

夕食の時に、家族なのだからと名前で呼び合うこととなった。

「はい、アリア様。お願いとはなんでしょう?」

「私、にいさま、あ、ルカルディ様をにいさまと家では呼んでいますの」

それは出迎えの時にも夕食の時にも呼んでいたので気付いていた。本当に兄のような存在なのだろう。もちろん公の場では使い分けているのだし問題ない。

「ですので、その、お、オルデア様のこともねえさまと呼んでもよろしいでしょうか?」

一瞬リリーのお姉さまと呼ぶ声が聞こえた気がしたが、すぐにそれを振り払う。

「もちろん光栄ですわ。アリア様にねえさまと呼んでいただけるなんて嬉しいわ」

「ありがとうございます!で、ではオルデアねえさまと、呼ばせていただきますわ」

キラキラと目が輝く様子が分かるアリア様は本当に可愛い。遥か昔のまだまだ小さいリリーがお姉様と言えなくて『ねーたま』と呼んでいた頃を思い出してしまった。あの時はリリーの目もキラキラしていた。いつから私を見る目が変わったのだろうか、そんな少し暗い事を考えていたところに、すぅとハーブの香りがした。

目の前に用意されたハーブティー。カモミールの柔らかく爽やかな香りが暗い考えをふっと消してくれた。

「あら、ハーブティー?珍しいわね」

ベルリナ様がお茶を持ってきたソマリアに向かって言うと、ソマリアはチラリとこちらを見たので「私から説明するわ」と言ってソマリアを下がらせた。

「私がお願いしてハーブティーにしてもらったのです。ベルリナ様はいつも食後は紅茶を?」

先程ライナに頼んだのは紅茶じゃなくハーブティーを用意してもらうことだった。ライナから聞いてソマリアはカモミールティーを持ってきてくれたのだった。

「ええ、私紅茶が好きですの。たまに珈琲もいただくけどやっぱり紅茶が1番。でもハーブティーも好きですわ。オルデア様はハーブティーがお好きなの?」

「ハーブティーもお好きなら良かった。私もハーブティーは好きですが、ベルリナ様と一緒で紅茶が1番好きですわ。今回ハーブティーを用意してもらったのは、もしかしたらベルリナ様には食後はハーブティーの方が良いかと思いましたの」

私の話にベルリナ様は不思議そうに首を傾げた。

「実はローゼンフィル領の領民にもベルリナ様と似たような症状を持つ女性がおりましたの。常に体が疲れたように感じることはありませんか?」

「まぁ!ええ、そうなんです。昔はそんなことなかったので年のせいかしらなんて思ってあまり周りには言ってなかったのですが、体が重いというか気怠いというか、何もしていないのに疲れてる感じがしますの」

「ローゼンフィル領では薬草も多く取り扱っているのですが、それもあってちょっと変わった薬師も集まっていますの。その1人が言うには血が足りていないとそのような症状が出るらしいのです」

「血が足りない?」

初めて聞く言葉にピンとこないのか、不思議そうにベルリナ様は私の言葉を繰り返した。

「はい、ただあまり知られていない病気というか、うちの領の薬師の経験によるものの判断でしたので、お医者様からも言われたことはないかと思います」

「ええ、すぐ治るとはいえ何度が診てもらったことはあります。いつも健康に特に問題はないので疲れが出るとなるのだろうと言われて、最近はもう診てもらうのもなんだか申し訳なくて」

「私は医者ではありませんし、その薬師のように判断もできません。ですが薬が必要ということでもなく、この病気は食事の改善で随分良くなると聞いたので、もしよろしければ試してみませんか?私の見立て違いで良くならない可能性もありますけれど……」

「食事の改善だけで良くなるのですか?」

ベルリナ様の横からアリア様が目を丸くして思わずと言った様子で口を挟んだ。

「はい。お食事中感じたのですが、ベルリナ様はあまりお肉はお好きではないのではありませんか?」

「ええ、お母様は牛肉があまり好きではありませんわ。さっぱりした鳥なら少しは召し上がりますけれど」

好き嫌い等恥ずかしいといった感じで頬を赤らめたベルリナ様に代わりアリア様が答えた。

「血を作るのに赤身のお肉は良いらしいのです。でも苦手ならば無理に食べる必要はありませんわ。くるみやほうれん草等他のもので補えば良いのです」

「くるみ?」

「木の実なのですが、ご存知ありませんか?」

ベルリナ様とアリア様は一度顔を見合わせた後二人とも首を横に振った。

「確かにローゼンフィル領でも一部の地域でしか食べておりませんでしたわ。あまりたくさん採れないからこの辺でしか食べないとも聞きましたわね」

割と寒い地域で採れていたので、もしかしたら辺境の地でも知られていないだけであるかもしれない。確認が必要そうだと頭の片隅に置き、話を続けた。

「くるみは置いておいて、その他にも改善できることはあります。食後の紅茶もその一つなのです。紅茶や珈琲の中に入っている成分が良くなくて、特に食後はやめた方が良いそうです。こちらも無理に好きなものを我慢するのではなく、お茶の時間等に紅茶は楽しまれて、食後はハーブティーに置き換えた方がよろしいかと」

「それぐらいならできそうですわ」

「食事に関してはローゼンフィル領の薬師に手紙を出してもう少し詳しく教えていただきますわ」

「ありがとうございます。オルデア様は博識でいらっしゃるのね」

「いいえ、こういうちょっとした知識は領民に教えてもらったことばかりです。父が突然亡くなりローゼンフィル領を支えるのに私1人は本当に何もできなくて。家令や領民達の助けがあってなんとかやっていたのです。分からない事ばかりで質問だらけの頼りない私に領民達は呆れもせず丁寧に教えてくれました。おかげで領民達とも仲良くなって彼らの生活の知恵を少しばかり知っているだけなのです」

「やっぱりオルデアねえさまは素晴らしいわ!領民達にも慕われていて、博識で、あんな素晴らしい香水まで作られて!」

アリア様にキラキラした瞳で見つめられて、私は照れてしまう。

「そんな素晴らしい人間ではありませんわ。そういえば、アリア様とベルリナ様に香水をお持ちしましたの。受け取っていただけますか?」

私は後ろに控えていたライナに目を向ける。有能なライナは私が目を向けた時にはすでに2つの紙袋をこちらに差し出していた。

「こちらシャルフラワーの香水と、ハンドクリーム、それからもうすぐ販売開始されるリップクリームですの」

「まぁ!新商品まで!?まだ販売開始前ですの!?」

アリア様は大興奮で両手を頬にあてて喜んでいる。ベルリナ様も、私の分まで?とそわそわ紙袋の中を覗いていた。

「オルデアねえさまありがとうございます!以前いただいた香水も大切に大切に使っていたのですがもう無くなってしまって、実は……お話したいことはそのことだったのです」

アリア様は私が到着してからずっとソワソワと何か言いたい事がある様子だった。それがシャルフラワーの香水のことだったのだろう。

辺境の地では手に入れるには出入りの商人が持ってくるぐらいだが、シャルフラワーの香水は有り難いことに王都で人気なのでなかなか辺境の地やその周辺領地にも届くことはない。

「アリアったら最先端の香りを1人だけ纏えてそれはもう有頂天で、お茶会でも他の令嬢達に羨ましがられて。でもあんまり羨ましがられるから皆にひと拭きしてあげたんですの。それで家に帰ってきて香水がかなり減ったと半泣きでしたわ」

ベルリナ様が思い出してくすくす笑いながら言うのでアリア様は顔を真っ赤にしていた。

「アリア様はお優しいのですね。今回お持ちして良かったですわ。ルカルディ様からの手紙で香水をお気に召してると伺っていたのでお持ちしたのですけれど、喜んでいただけて安心しました」

社交辞令ではなく本当に気に入ってもらえてたことが分かり嬉しかった。

「オルデアねえさま、辺境ではシャルフラワーの香水など手に入りませんの。あの、無理にとは言いませんし、可能ならで構いませんの。その、シャルフラワーの香水をプレゼントしたいお友達がいますの……私が手に入れる方法はございませんか?」

ぎゅっと両手を握って不安げにこちらを見つめるアリア様が可愛らし過ぎて思わず抱きしめたくなる。

「もちろんアリア様がお望みでしたらご用意致しますわ。元々定期的に辺境伯に送ってもらう予定ですの。私も愛用しておりますし、品質チェックも兼ねてますので送ってもらう手筈は整っております。その本数を増やすだけですから、必要な本数を伝えていただければ少し時間はかかりますがいつでもご用意できますわ」

「でも……こんな我儘よろしいのですか?」

「シャルフラワーの香水はローゼンフィルの事業ではなく私個人の事業なんですのよ。ですから誰に遠慮することもないのです」

「いえ、オルデアねえさまのご迷惑にはなりません?」

「?いいえ?迷惑なんてことありませんわ?」

シャルフラワーの香水をこんなにも気に入ってくれて嬉しいばかりだが、アリア様は不安そうなお顔でこちらを伺っている。

「娘はオルデア様が大好きなのです。ルカルディ様を通して相談に乗ってくれたり、憧れの女性なのですよ。そんなオルデア様に来て早々わがままなな娘と思われたくないのですわ」

私が不思議そうな顔をしていたから、ベルリナ様が補足してくれた。アリア様はこくりと頷いて俯いてしまった。

「まぁ、そんなに慕っていただけて嬉しいですわ。アリア様、本当に迷惑ではないし、わがままなんて思っておりませんわ。私シャルフラワーの香りが大好きで、香水にするためにとても頑張りましたの。それを気に入ってもらえて本当に嬉しいんですのよ?」

私の言葉にホッとしたように顔を上げたアリア様はありがとうございます、とはにかむように笑った。

「シャルフラワーの優しい香りが私もとても好きですわ。オルデアねえさま個人の事業だなんてますます憧れてしまいます」

「私は領民に恵まれただけですのよ。初めはシャルフラワーを香水にできたらいいなと言った私の何気ない一言だったのです。それを聞いた領民の女性が、作りましょうって。彼女は強い香水の香りで頭が痛くなる体質で、ぜひともふわりと香るシャルフラワーの香水を作りましょうって」

あの時の彼女の勢いを思い出して、私は知らず頬が緩んでいた。

「私は領地経営を勉強し始めでとてもそんな余裕はないと言ったのですけど、家令がしっかりしていたから領地の経営がすぐに傾くようなことはないし、その家令がこれからのためにもやってみた方がいいと薦めてくれたのです」

フレッドが熱心に薦めてくれたのだ。

「それでもローゼンフィルの事業として失敗するわけにはいかないからと、私の個人資産でやってみることにしましたの。おかげで私は多くのことを学べましたわ。領地経営の勉強のためにもなって、大変でもあの時やってみた方がいいと薦めてくれた意味も分かりましたし、とても感謝してますの」

すごいですわ……とアリア様もベルリナ様までにもキラキラした瞳で見つめられてしまって私は少し困りつつも嬉しくもあった。

あの時は本当に大変だった。ためになったが1日中やる事に追われて大変だったのだ。しかし私が大変な思いをしてることを母も妹も元婚約者もまったく理解はしてくれなかった。

こんな風にすごいと言われる事に慣れていないが、そう言ってくれることであの時の自分が報われる思いだった。