軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第9話 闇ヒーラーをめぐる女の戦い

「むぅ……」

朝を迎えた治療院。

受付カウンターにちょこんと座るリリが、眉根を寄せてうなった。ブロンドの髪がふわふわと隙間風に揺れている。

「難しい顔をしてどうしたんだ、リリ」

「ゾフィアさんと、リンガさんと、レーヴェさん、よく来るなぁって」

言われてみればそうかもしれない。

貧民街の顔役でもある三人の女首領達は、確かにここしばらく治療院にちょくちょく顔を出していた。

月の曜日はゾフィア。

水の曜日はリンガ。

金の曜日はレーヴェ。

対立している間柄のため、互いが顔を合わせないよう、暗黙の了解で来院曜日はずれている。

「というか、怪我もしてないのに、あいつら何しに来てるんだろうな」

派手な身なりで目立つから、正直困るのだが。

「ゼノスは、なんでみんなが来てるかわからないの?」

「よっぽど暇なんだろうな」

「違うよぅ。えらい人達なんだから、絶対忙しいはずだよ」

「じゃあ、ますますわからんぞ」

……まさか嫌がらせか?

「そうじゃなくて、多分……」

リリは口をもごもごさせている。

「『恋』だな。くくく……」

「お前はいつからいたんだ!?」

いつの間にか、カーミラが治療室のベッドに腰を下ろしている。白い足を組み、紅い唇の端を引き上げた。

「あの女どもは、貴様に惚れているのだろうよ。ゼノス」

「はあ? 馬鹿言うな。そんなことあるわけないだろ。俺なんてライセンスもないただの闇ヒーラーだぞ」

「くくく……わらわの目はごまかせん。天井からこっそり覗いておったが、あれは恋する乙女の目じゃ。伊達に三百年生きておらんわ」

いや、お前は死んでるだろ。

というか、なにこっそり覗いてるんだよ。

「リリ……ちょっと心配」

「なんでリリが心配するんだ?」

「だ、だって、みんな美人だし……」

「顔はいいかもしれんが、もれなく中身には難があるぞ」

ベッドに座るカーミラが、笑いをかみ殺した。

「……くくく、この分では、三大亜人がゼノスを取り合って本格的な戦争を起こす日も遠くはあるまい」

「そんなわけあるか。あほらしい」

カーミラはふわりと浮き上がった。

「リリ。貴様もせいぜい頑張って、わらわを楽しませるがよい」

「で、でもリリは子供だし、みんなみたいな色気もないし……」

「くくく、恋する乙女は美しい」

「あ、ありがとう、カーミラさん」

ひーひっひ、と笑いを残して、カーミラは二階へ消えていった。

何しに来たんだ、あいつは。

それにしても、三大亜人が自分を取り合って戦争?

馬鹿馬鹿しすぎて、笑う気にもなれない。

+++

「先生。あいつらと戦争しようと思ってるのさ」

「……は?」

月の曜日。

朝一番で姿を現したリザードマンのゾフィアはそう言った。

「リンガもレーヴェも前から気に食わない相手だったしねぇ。そろそろ亜人の盟主が誰なのか教えてやろうと思ってね。そこそこ手強い相手だけど、耐久性ならリザードマンが一番さ」

「いや、あのな……」

ゼノスが言葉を継ぐ前に、「それで先生」とゾフィアは上目遣いを向けてきた。

「できれば、リザードマン側についてくれないかい? 戦いの間、先生が治癒してくれればあたしらは無敵だよ」

「悪いが、それはできない。一勢力に肩入れすると今後の営業にも影響するしな」

「そうかい……残念だけど、それも道理だね。じゃあ、せめてワーウルフとオークの側にはつかないでおくれよ」

ゾフィアは贈り物の果物を大量に置いて、去っていった。

「……」

「……なんで無言で俺を見るんだ、リリ」

「ゼノスを取り合って戦争が起きる」

「いや、たまたまだろ。って、おい、カーミラ。天井からほくそえんで見てるんじゃない」

「くくく……」

カーミラの顔がゆっくりと天井板に消えていく。

さすがに少し驚いたが、おそらくゾフィアが勝手に言ってることだろう。全面戦争なんてそう起こるもんじゃない。

とりあえず忘れることにして、ゼノスは治療を続けることにした。

+++

「ゼノス殿。あいつらと決着をつけることにした」

「……え?」

水の曜日。

朝一番に姿を現したワーウルフのリンガがそう口にした。

「ゾフィアもレーヴェも最近調子に乗っているから、リンガがお灸を据える必要がある。手強い相手だけど、敏捷性ならワーウルフに分がある」

「いや、ちょっと待て……」

ゼノスが言葉を続ける前に、「それでゼノス殿」とリンガは鼻をくんくんさせて顔を近づけてきた。

「ワーウルフ側について欲しい。ゼノス殿の治癒魔法があれば、我らの勝ちは間違いない」

「悪いが、それはできない。一勢力に肩入れすると今後の営業にも影響するしな」

「そうか……残念だけど、仕方がない。せめてリザードマンとオークの味方はしないで欲しい」

リンガは贈り物の生魚を大量に置いて、去っていった。

「……」

「……いや、だから、偶然に決まっているだろ、リリ。それに、天井から首が突き出ていると怖いから、カーミラはそろそろ覗きをやめろ」

まったく、ゾフィアも、リンガも何を考えているんだ。

おそらくたまたま頭に血がのぼっているのだろう。

時間をおけばさすがに落ち着くはずだ。

+++

「ゼノス。あいつらを滅ぼすことに……」

「待て待てぇ!」

金の曜日。

朝一番に姿を現したオーク族のレーヴェに、ゼノスは食い気味に言った。

「ゾフィアもリンガも手強い相手だが、打撃力では我らが最も秀でている。それで、ゼノ……」

「つかないっ。俺はどこにもつかんぞ」

「さすが、ゼノスだ。まるで我が何を言おうとしているか、知っていたかのようだ」

「知ってるんだよ。この似た者同士がぁぁ!」

実は気が合うんじゃないか、この三人。

戦争は次の日の曜日の正午。

貧民街外れにある闘技場跡に決まった。

レーヴェはそう告げて、贈り物の獣肉を置いて去っていった。

あっけに取られていると、後ろのカーミラが腕を組んで、ぼそりと呟いた。

「くくく、三大勢力の全面戦争とはな。貴様がモテたせいで、たくさん死ぬぞぉ……」

「めちゃめちゃ嫌な言い方するな?」

「むぅぅぅぅ」

「そして、リリはどうして膨れ面をしているんだ?」

なぜ……どうしてこうなった?

今、一人の闇ヒーラーを巡る三つ巴の女の闘いが始まろうとしていた――