軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話〜クロードside

「三人のことは信頼して伝えておく。ベアトリスは私との婚約解消を望んでいる可能性が高い」

「「「えっ!?」」」

一様に驚きの声を上げたが、それは当然だろう。

ベアトリスと婚約して十年が経った。

その間、私は国内で問題となっている事柄を彼女にさり気なく問い掛けてきた。

「ねえ、ベアトリス。魔獣が出現する地域には魔獣避けの結界が張られているのは知っているだろう?もし、その結界が効果を成さなくなったら君ならどうする?」

「そうですわね……私でしたら出現する魔獣に対して効果的な属性魔法が発動する魔法陣を仕掛けますわ。その魔法陣が発動する領域に魔獣が侵入したら討伐出来ますので……知能が高い個体は近付かなくなりますし、こちらもいちいち討伐するという無駄……ごほん、余計な労力を使わずに済むと思いますもの」

「なるほどね……。 罠(トラップ) を仕掛けるということか……確かにそれは効率的だね」

ベアトリスの答えに、にっこりと微笑み返す。

たまに本音が溢れることがあり、私としては気にせずそのまま言ってくれていいのに……と思ったりもする。

まあ、環境が許さないことが多い為、仕方がないのかもしれないが。

婚約したときから、こうして現在問題となっている事柄の対処方法をベアトリスから聞き出し、貴族院会議で報告して少しずつ彼女の実績を積み上げて来た。

その結果、問題が解消された貴族たちは彼女に感謝する。

その際に「直接礼をしたい」と申し出る者が現れることを想定し、先に対策を講じておくのも忘れていない。

「ベアトリスは困っている者を放っておけないのです。直接礼を伝えられてしまうと彼女の負担になりますので、心の中に留めて、彼女が困ったときにでも力になってあげて下さい」

そう言えば大概の者は感動し、更に彼女の好感度が増す為、あえて声をかける者はいなかった。

……まあ、たまに遠くから一礼する者がおり、そうされる理由が分からないベアトリスはが不思議そうに首を傾げながら戸惑っている姿を見ることはあるが。

王太子妃教育も持ち前の優秀さで順調に進み、残っているのは王族のみに知らされる極秘事項くらいで、現段階で学ばなければならないことはもうすぐ修了すると聞いている。

ベアトリスは当初、婚約を解消したい理由を誤魔化して「王太子妃など自分には荷が重い」と言っていた。

嘘ではないのだろうが、それが本当の理由でもないことは明白だった。

『彼女の懸念点は何なのだろう?』とずっと考えているが、未だにその理由は分からない。

それどころか、未だに私から婚約解消を告げられると思っているらしい。

「クロード様。もし本当にお好きな方が出来ましたら遠慮なく仰って下さいませ。私はクロード様の味方ですので!」

「そんなことは万が一にもあり得ないよ。僕の婚約者はベアトリスだけだよ」

胸元で両手の拳を握りながら力強く言い放つ彼女の言葉を、笑顔を崩さずに聞いていた。

けれど心の中に生まれた不快感と焦燥感が、まるで凪いだ湖に真っ黒なインクを一滴落としたように波紋となって広がっていく。

ベアトリスは出会った頃から可愛らしく整った容姿をしていたが、ここ十年の間にゆっくりと花開くようにとても美しく成長した。

青みがかった艷やかな黒い髪、ピンク味が強いライラック色の瞳に雪のように白い肌、ほんのり色付くふっくらとした唇。

細くて長い手脚に(脚は乗馬服のズボン姿を見ただけで、決して素肌を見たわけではない)、コルセットを締めずともキュッと締まったウエスト……。

ダンスの練習の際にたまに触れる彼女の柔らかさに、劣情が煽られる。

まだ 社交界デビュー(デビュタント) はしておらず、彼女の本当の美しさを見たことがある者はいないが、それでも茶会などでたまに頬を染めて見惚れている者はいる。

そういう者が近付かないよう、なるべく傍から離れないようにして牽制する。

本来、未来の王太子妃が好意的に見られることは喜ぶべきことなのだろうが、私の気分はあまり良くない。

この十年、ベアトリスから恋愛的な好意を感じたことは一度もない。

それでも私はもう、彼女以外を妃として迎えることなど絶対にあり得ない。

何度そう伝えても、何故か他の令嬢に心変わりをすると確信しているような発言を繰り返している。

……ベアトリスの前でだけ自称を『僕』に戻し、素の自分を出して分かりやすく『特別』だと伝えているのに、そのことに全く気付いていない。

「あの……殿下。アッシュローズ公爵令嬢は何故、殿下との婚約を解消したいと考えているのでしょうか?」

「はっきりとした理由は私にも分からないんだ。ただ、何故か私が他の令嬢に心変わりをすると思っている節がある」

「他の令嬢に?ですが殿下は不必要に他の令嬢と関わることはありませんよね?むしろ分かりやすく距離を取っているように見えますが……どこかの令嬢から牽制されているのでしょうか?」

フィリップとセドリックは顎に手を当てながら怪訝そうに考え込んでいるが、オスカーは腕を組み「うーん」と唸っているだけだ。

彼はどうも直感で動くタイプらしく、あまり深く考えることがないように見える。

それはそれで王太子の側近としてどうかと思う部分もあるが……まあ、人柄と剣術の腕は確かなので今は様子見をしている。

「私もそれを疑って『影』に調べさせたが、くだらない難癖を付ける令嬢がいたくらいで、特に私と関係があるように匂わせる発言をする者はいなかった」

『影』とは王家の裏を担う者たちだ。

王家に絶対的な忠誠を誓っており、命じられれば諜報、護衛、暗殺など、密かに何でもこなす。

「うーん、一番可能性があるのは殿下が嫌われてるって……」

考えなしに思ったことをそのまま口にしたオスカーに向けてにっこりと微笑むと、私の背後から漏れ出す黒い気配に気付いた瞬間、彼は体を硬直させて黙った。

「嫌われてはいない。けれど何か引っかかっていて、ある一定の距離から踏み込まないようにしているのは間違いない」

『嫌われていない』という部分を強調しつつ私の見解を述べると、フィリップが気まずい空気を変えるように『ごほん』と咳払いをした。

「……とにかくオスカーの意見は置いておいて。現状何か懸念を持っているということ以外は分かりませんね……それが理由で殿下はアッシュローズ公爵令嬢の実績を積み上げ、外堀を埋めているのですね?」

「そうだ。多くの貴族たちの問題をベアトリスが解決することで、彼女への支持率が上がる」

微笑みながら言ったのに、何故か三人共呆れたように顔を歪ませている。

……まあ、どう思われても考えを変えるつもりはない。

「とにかく、三人には私の目の届かないところでベアトリスに何かあれば報告し、出来る限り彼女を守って欲しい」

そう頼むと彼らは「承知致しました」と一礼した。