軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

31 破戒僧

殺意はない。

だが、本気で顔を狙う俺の鎌槍の突き技は、逸らされても引き戻す際の鎌刃による刈り技に連続するという一連の流れを想定している俺の槍の動き。

俺の武器の形状を見ていればこの動きを予測できるプレイヤーは多い。

しかし、初見プレイヤーで一撃目の突きを躱し、なおかつ槍が引き戻されるまでの間に攻撃が一回通せると思っている輩にとって第二の刃。

マジックエッジによって長くなり鋭くなった鎌刃による二撃目の刈り技は予見しにくい攻撃のはず。

「……」

しかし、ちらりと一瞬だけクローディアが見たのは後ろではなく俺の足の方。

それも視線の角度的に、太ももではなく腰の動き。

俺の上半身を視界に収めつつ、見える最大角度で下半身の動きから予測できる情報を獲得していた。

左足を引き、そのまま鎌刃で首を掻っ切るつもりの俺の引き技の動きに、追撃せず、最小限の動きでダッキングして後方から迫る刃を前に通して躱し、コンパクトに折りたたまれた右腕から拳が俺の腹部にめがけて放たれた。

「っ!」

鎌を振りぬいた姿勢、槍という長物、引き戻す時間はないが。

俺も対人戦は散々やってきている。

格闘タイプの上位プレイヤーとの対戦もやってきた。

そして、クローディアの拳の威力も速さも知っている。

槍の柄を拳と体の間に挟みこむ時間はあれど、そのまま受けきることはできない。

「む」

であれば、その威力を利用して吹き飛べばいい。

吹き飛ぶ直前、クローディアから違和感を覚えるような声が漏れた。

即座に追撃をするには子供の小柄な体、そして自身の拳の威力が重なり合い、思った以上に距離が離れてしまう。

「クラス6、レベルは200以上ってところか」

おまけに俺は水平に吹き飛ばされているが、復帰姿勢を取る方法は体にしみ込ませているので、槍が地面に引っ掛からないように気を付けクルクル横回転で受け身をとって着地を決める。

手から伝わった威力、吹き飛ばされた距離、そして自分のステータスを加味して判断し、彼女がまだ原作で出会う時のステータスに達していないことにまずは安堵。

「手は、まだ大丈夫」

衝撃の芯をずらせたのが一番大きい。

それでも衝撃がすさまじい。

プレイヤーが破戒僧と呼ぶのも納得の威力。

「私の攻撃を使って距離を離しますか。熟練の戦士でもこの一撃をそのようにしのぐのは難しいはず。武器で防いだとしても破壊することができる力を込めました。ですがあなたの武器は壊れず、私は槍の間合いを取られてしまった・・・・・あなたは小人族の戦士でしたか?」

「いいえ、普通の人族ですよ」

さて、破戒僧と言う言葉をそのまま使えば、戒律違反の僧ということになるがクローディアの場合の所以はそのスキル構成が原因だ。

格闘系の中でも、部位破壊、武具破壊と防御力を下げたり、武具の耐久値を削って壊したり、モンスターの固い外皮を壊したりするスキルを多々取得し、さらには内部浸透系の格闘スキルまで取得している。

要は、外からも内からも破壊してご覧に入れようという懐には絶対に入れてはいけない系の戦乙女というわけだ。

「そうですか」

「!?」

おまけに闘気系のスキルも持っているから、威力が増すだけではなく。

「クッ!?」

気弾を放って槍よりも長い間合いでも攻撃ができたりする。

構えからの前兆無しのジャブのような動きから放たれるこぶし大の魔力の塊。

弾速は速く、そしてさらに連射も利く。

さらに言えば今の俺では一撃でももらえば間違いなくゲームオーバーな威力。

間合いを離しすぎても、詰めすぎてもダメ。

距離を取っても休まるときがない。

受けに回れば、そのまま気弾で削りきられる。

今度は俺の方から槍の間合いに入りに行かないとダメ。

「……」

しかも、ただ我武者羅に間合いを詰めるだけではいい的になる。

右手に鎌槍を握り、左手を使って途中の気弾を前に伏せるように躱す。

地面に左手をつけて体が地面に接地するのを防ぎ、疑似的な三足姿勢になる。

右足を即座に蹴り上げ、地面すれすれの位置で駆け抜ける。

「まるで獣ですね!」

上を取られるというのはあまり良くないことだが、低い姿勢の敵を迎撃するにはコツがいる。

クローディアの構えから俺の今の姿勢を狙うと気弾は胸元付近から地面に向けて放つような角度になる。

すなわち、わずかであるが前の方に空間が生み出される。

姿勢を変えた直後に空く空間に体を滑り込ませ、そして加速時間を確保。

しかし、すぐに予測撃ちを始めて空いていた空間が気弾によって閉鎖されるが、それも想定済み。

体の速さで言えば、全力で動いてもクローディアには見えてしまう。

体力の多さで言えば、子供でレベルも低い俺の方が先に尽きてしまう。

すなわち、体のスペックで勝負しても俺に勝ち目はない。

俺に勝機があるとすれば、俺がクローディアのスキル構成をある程度把握して、向こうは俺を把握していないことと、俺の強さを見ておそらくクラス3か4前後の強さだと思いこむという情報的アドバンテージ。

さらに、子供の見た目に反して体の動かし方を熟知しているというプレイヤースキルアドバンテージ。

この二つが希望だ。

踏み込み始めて、数秒。

横に避けたり、前に移動したりと思いきや、一瞬止まったりして挙動を読ませないように動き回っている様は人族ではなく、獣人族の動き。

これは実際に、ゲーム時代にいた獣人族のNPCの動きをプレイヤーが再現できないかという発想の元考案された対人戦の動きだ。

現実世界で生身の人間が四足歩行で動こうものなら、体のバランス的に非常に動かしにくいし、ギネス記録に認定されている記録も百メートルを十五秒台という二足歩行の世界記録と比べると六秒以上遅い。

骨格の可動領域的に、人間は四足歩行に向かないし、筋力的にも四足歩行をするにはバランスが悪い。

しかし、それは現実の話だ。

ゲームの世界の話ではない。

物理演算システムが適用されていようとも、ゲームのステータスというファンタジー要素があれば、多少骨格の可動領域を無視して人間的にありえない獣らしい動きを再現することはできる。

そして、FBOには獣人族という俺たちには知りえない技術を再現したお手本がいる。

「はぁっ!!」

「小人族の戦士かと思えば、今度は獣人族の戦士ですか!!」

人が獣の動きを再現するのは中々大変だが、一度身に着けた動きは意外と何とかなるようで、クローディアの虚を衝いて再び槍の間合いまで入り込む。

気弾を躱し、低姿勢から放った俺の槍は蛇のように這いあがり再びクローディアの喉元を狙う。

「見事です!ですが」

俺の攻撃力とクローディアの防御スキルを加味した耐久力では木刀で岩を砕くようなことができなければ彼女にダメージを通すことができない。

ゆえに、人体急所と呼ばれる場所を狙いクリティカルヒットを叩きださないといけないのだ。

奇しくも、這竜と戦った時と同じような場所を狙う羽目になった。

人体急所で防御力が低い場所は限られ、そして攻撃速度はクローディアよりも下。

狙う的が小さければ、それを避けるのは容易と言わんばかりに槍の刃を掌底ではじき、槍は大きく横に逸れる。

そしてその大きく逸れた槍を引き戻し、防御することは間に合わない。

間髪容れず反対の手で打撃を加えてくるのが見えた。

「!?」

だが、これを待っていた!!

片腕で突いた槍は遥か彼方に飛んでいき、俺は無手となる。

絶好の隙。

牽制も何もない。

綺麗に飛んでくるフィニッシュブロー。

そんな手に合わせて、全神経を集中。

端から槍が弾かれることなんて百も承知。

そもそも、ステータスが劣っている段階で攻撃速度が相手よりも遅い槍が当たるなんて思ってもいない。

ゲームをやっていた時、対人戦では必修科目と言っていいほどの技があった。

それがスキル外スキル。

スキルに関係しない技。

剣術や打撃術、槍術に魔術。

様々な戦闘スキルがある中、スキルの形態的に存在しない技というのが存在する。

その一つの有名な物が現実世界の古武術。

世界各国で、人を壊すために編み出されたという現代社会まで生き残ってきた武術。

そこに必要なのはたゆみなき鍛錬のみ。

スキルではないから攻撃力アップも、精度補正も何もない。

だけど、スキルではなくても技は放てる。

スキルスロットを使わなくても素のステータスがある。

完全にタイミングを掴んで袖を掴み、相手の打撃のタイミングに合わせて懐に入り込み、そのまま背負って投げる。

柔道で言う、一本背負い。

だけど、ゲームの対人戦用に改造された一本背負いは背中から落とすのではなく。

「はぁ!!!」

頭から落とすという反則技。

ダメージを与える、そのことに特化した技だ。

子供の体で気合を入れて投げる。

そんな虚をつかれ、投げられるクローディアの声が漏れる。

この世界の常識では、メインスキルになるスキルを中心に他のスキル構成をする。

よほど変なスキル構成をしない限りそこから逸れることはない。

そっちの方が強くなれるから、そしてスキルスロットには限りがあるから。

そして強くなるスキルを使うことが常道とされる。

それゆえに、技もそのスキルに準じたものが中心となる。

だからこそ、俺のレベルを予測し、スキルスロットの枠の数を考えた段階で槍の発展途上と予測する。

そんなクローディアの意識に投げ技などない。

格闘術を備えているかという疑心の欠片もない相手に、こういう虚を衝けるスキル外スキルは刺さる。

「驚きました、リベルタ」

「っ!?」

そんなゲームの常識を彼女は打ち破ってみせた。

スキル外スキルにはスキル外スキルと言わんばかりに、クローディアがやって見せたのは投げ飛ばす勢いを殺すために空いた手を地面に突き刺すという荒業。

地面を砕くことができる彼女の拳は、見事に地面に刺さり、そこから投げの勢いをその片腕で吸収。

そこを軸にして、片手で逆立ちをしてみせた。

不味い。

それに反射的に反応できたのは、対人戦を積み重ねた経験が危機感を知らせたからだ。

裾を離すまでコンマ数秒、飛び退くまでにさらにコンマ数秒。

合計すれば一秒にも満たないこの時間があれば、俺を蹴り飛ばすことなど彼女にとって容易だ。

「ぐっ!?」

歯を食いしばり、両手を差し込み、吹き飛ばされるのを覚悟して防御の姿勢を取ったが、ボキっと嫌な音が俺の左腕から響いた。

「小人の戦士のような戦い方、獣人族の戦士のような戦い方、槍を扱うかと思えばこのような投げ技」

このスキル万能の社会だとこういうからめ手はよく効くと思っていたが、その効果は伝説に語られる彼女を驚かす程度の効果しかなかったようだ。

「飛び退き衝撃を逃す判断も見事です。次は何を見せてくれるのか楽しみにしていたのですが、非常に残念です。武器を失い、その片手では私には勝てないでしょう」

ゆっくりと姿勢を正し、両足を地面につけると、突き刺していた片腕を抜いた。

その眼光から闘気が薄まり、そして残念がるような視線が出てきた。

「あなたと戦うのが数年遅ければもっと戦えたでしょうね」

鎌槍は、俺の右手距離十メートル。

左腕は折れて、握力が低下、ジンジンして痛みが走っているが興奮状態だからか痛みは鈍い。

勝ち筋がほぼ潰えた。

左手がまだ無事なら、まだ他の手段があったけど、片手で勝てる方法はあと一つしかない。

綱渡りに、綱渡りを重ねたような確率であるが。

「……失礼しました。戦士に言葉は不要でしたね」

まだ、勝てる。

動かない左手を前に出し右手を隠すような構えをとるとクローディアも鎮めていた闘気を再び燃やし始めた。

その闘気はこの戦いの中で一番と言っていいほどの状態になる。

彼女が持てるすべてのバフを自身にかけているのがわかる。

準備が終わるまで、わずか数秒。

「参ります」

そして、その合図をもって彼女の一歩が始まる。

今の彼女のレベルなら、未完成のあのコンボ。

クローディアに勝つために、絶対に越えないといけないというコンボ。

雷歩というまっすぐにしか行けないが、高速で進むことができる歩法スキルで踏み込んできた。

瞬きしていないのに、一瞬で目の前に現れる。

そして震脚。

これは踏み込みをしているように見えるが、この時にすでにもう一つのスキルが発生している。

影踏み。

影を踏むことで相手の移動を封じるという技。

足が固定され、そこから動くことができなくなった。

そのタイミングで前に出していた左手を動かす。

イメージするのは滑車。

背中に何かが這うような感覚を感じつつ歯を食いしばり、これから来るであろう痛みに耐える。

ここから来るのは二者択一。

拳か、足か。

その二択が外れれば負けが確定。

踏み込み、足の固定までの動きは輪郭までしか見えてない。

だからぶれている残像みたいな動きを頼りに、直感で動くしかない。

左手を手刀にして、マジックエッジを添えた。

そして拳が来るであろうところに、左手を添える。

指先よりも先、マジックエッジを弾くであろう感覚を感じた瞬間、俺は隠していた右手を突き出したのであった。