軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30 挑戦

「戦う、それは私とですか?」

「はい!」

どういう運命か、それもこの土壇場でのめぐり逢い。

これに乗らねばダメだと直感で感じたからこそ、スッと雰囲気が変わり眼光が鋭くなった彼女からの視線を正面から受け止め、俺はためらいもなく頷いた。

「リベルタ、正直に言います。私は手加減ができません。それは私の人生を懸けて戦いという事象に真摯に向き合ってきた結果です。常に相手には全力で向き合い戦ってきた。敵はもちろん、教えを乞うた後輩だろうとも、大人だろうとも子供だろうとも敵味方区別なく、全力で戦うことが礼儀だと自認してきました」

俺の知っている彼女も、そうだった。

闘いという事象を神聖な物だと思っている。

闘いに狂っているわけではない。

「決闘の駒という安全策も認めません。やるなら生身同士の戦いだけです。神に仕える身だからこそ、神にも私の戦いに手を入れさせません」

闘いという行為を極めるために、彼女自身が課した戒めのようなものだ。

闘う時は遊ばず、常に全力で。

「ですので、悪いことは言いません。私に挑むということは怪我をし下手をすれば命の危険もあります。先ほどの言葉は撤回しなさい」

一切の加減もなく相手を自身の拳で打ちのめしてきたからこそ、自身の力を把握している。

「そ、そうだよ、リベルタ。いきなり何を言い出すんだい。クローディア様に挑むなんて」

テレサさんが慌てて俺を止めようとする。

相手は伝説、会えた記念で挑戦でもしようとしていると思ったのだろう。

普通の子供ならその眼光に怯み、そして怖気づいて引き下がっただろう。

いや、大人だってこの雰囲気を感じて彼女の言葉を受け入れ諦めた。

今なら冗談で済む。

そんなニュアンスを含んだ言葉を遮るように、俺は頭を下げた。

「撤回はしません。お願いします。俺と戦ってください」

「……覚悟はあるようですね。わかりました。ここからは私はあなたを子供とは思いません。戦士の挑戦を拒んだとあれば、私の矜持に反します」

俺の覚悟。今の状況から脱却するためにはここで挑まないといけないという打算も混じっているが、純粋にこの世界での今の俺の実力がどの程度なのか確認する必要があるんだ。

レベルだけなら比べることができる。

だけど、技術はどうなのか、戦闘方法が通用するのか、実戦で戦って確認しないといけないことは多々ある。

そのためにはネームドでも最強格であるこの人に挑む必要がある。

この先、もし、推奨レベルを大きく上回る敵に出会ったときこの経験は絶対に糧となる。

「一時間後です。西の神殿の広場に来なさい。そこで待ちます」

そう言い残して、彼女は買い物もせず立ち去っていった。

「西の神殿」

「ちょ、ちょっとリベルタ大丈夫なの?相手はあのクローディア様よ」

「勝ち筋はある」

「勝つつもりなの!?」

「じゃないとあの人は受けてくれなかったよ」

思考が日常から戦闘モードに切り替わった。

この場所では戦えない。

そして俺の準備が整っていないのを理由に、仕切り直してくれたのだろう。

日が暮れるまではまだ時間がある。

「ごめん、ネル。俺は急いで装備を取りに帰る。荷下ろしの方をお願いしてもいいか?」

「私も行くわよ!!お母さん、荷下ろしお願い!」

「え、本当に戦うのかい?」

「挑んで逃げ出したとなったら、あの人から軽蔑されてしまいますよ」

だけど、できることなら早めに行動をしたい俺は申し訳ないがネルに荷下ろしを頼んで急いで家に引き返した。

俺の知るクローディアの性格はゲーム時代の知識でしかない。

だけど、間違いなく挑戦して逃げ出したら彼女の中での俺の評価は地に埋没するレベルで下がる。

そしてそれは一生浮上してくることはない。

「そういうことで、俺はいきます」

「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!後で料金取りに来るからお母さんよろしく!!」

「え!?」

急いで準備をせねばと、駆け出した俺の背後をネルが走って追いかけてくる。

「ねぇ!クローディア様に保護してもらうんじゃなかったの!?なんで戦うなんて」

「んー、必要だからとしか言えないんだよなぁ」

走りながら、保護してもらおうとしている相手に戦いを挑んだ俺への疑問をぶつけられる。

当然の疑問だけど、俺の知っているクローディアだと普通に保護者をお願いしてもまず間違いなく断られる。

「まず第一に、俺たちの事情、それこそ俺の秘密を全部ぶちまけて説得を試みてもあの人は俺たちを保護しようとは思わないよ。どうあがいたって、保護してもらうっていうのは俺たちがあの人の足かせになるっていうことだ。それに、俺たちの苦難もあの人からすれば乗り越えるべき試練だと考えて手を差し伸べるようなことはしない」

「そうね、クローディア様なら」

「むしろ、危険なことをすることに対して自分の体験談込みで覚悟を確認して、覚悟があるなら自力でどうにかしろって言って、覚悟がないなら止めろと言う人だ」

帰り道を全力疾走。

道行く人が何事かと振り返るが、そんなことはお構いなしに走る。

「彼女が唯一協力してくれる枠はただ一つ、切磋琢磨で研鑽しあえるライバルだけ。戦い成長することで高め合える仲になるためには俺の実力を認めさせるしかないんだ」

クローディアというキャラはFBOでもかなり特殊だ。

ランダムエンカウントな上に、出会っても好感度を上げる方法が戦闘でのみ。

一緒に共闘するのではなく、戦いあうことで好感度が上がる。

しかも次に会ったときは前よりも強くなっていて、連続で三回負けたら二度とエンカウントしない。

ならレベリングして迎え撃てばいいじゃないかという話になるが、彼女とのエンカウントする条件にはレベル制限がある。

彼女よりレベルが下であれば問題ないが、クラスが一つでも上になるとイベントがストップして会えなくなる。

そして彼女のレベルは会うたびに、そのクラスの九割に設定されている。

最終形態は、クラス8のレベル360。

全ネームドの中でも最上位クラスに位置するNPCだった。

最終的な仲間になるフラグは、彼女がレベルアップできなくなるという限界の壁にぶつかった時だ。

クラス8の上に上がるにはクラス9のモンスターを倒さないといけないが、モンスターのスペックはクラス6以降になると跳ね上がるように強くなっていく。

ゲームでの設定上では、クラス6以降はまるでモンスターもEXBPを取っているかのようにステータスが高くなり、そして条件を達成してスキルスロットを確保しているかのようにスキルが多くなる。

全部ではないがクラス6のモンスターで二割分のEXBPは取得しているようなステータスになっている。

ボスモンスターであればさらにその1.5倍のステータスは持っている。

EXBPの取得条件とスキルスロットの獲得条件が判明していないときは、プレイヤーが限界までレベリングして最高峰の装備をかき集めても、パーティーで挑んで勝てないということがあったのだ。

その中で、クローディアは独自の研鑽でEXBPを一部獲得し自身を成長させ続けた。

「理由はわかったけど、大丈夫なの?クローディア様の眼、本気だったわ。子供だからと言って手加減しなさそうだったわよ」

「ああ、あれは本気だ。間違いなく容赦しないだろうな」

彼女は、やり直しの利かない状態でレベリングを続けて、足りないステータスはプレイヤースキルで補い続けたようなキャラメイクをしている。

ステータスとスキルは不完全、だが、プレイヤースキルが鬼ほど強いというタイプ。

付け入る隙はある。

だけど、決して余裕があるわけじゃない。

「・・・・・」

「なぁに、命の心配はいらないだろう。その代わり骨折くらいは覚悟しないといけないだろうけど」

「大丈夫じゃないわよ」

俺も戦ったことが何度もあるし、他のプレイヤーたちも彼女と戦ったことがある。

しかし、初見で勝てたプレイヤーは誰もいない。

参考動画や攻略サイトで事前に予習をしても、実際に戦うとその知識は役には立つが決定打にはならない。

負けイベントかと言われるほどの、存在なのだ。

そんなイベントに挑むのが、装備もスキルもステータスも足りないという状況にいる今の自分だ。

救いは、何度も戦った経験があり、相手のスキルを把握していることだけ。

まともに挑んで勝てるかと聞かれれば難しいとしか言いようがないのは当たり前だろ。

ネルの心配の言葉には苦笑を返すしかない。

「おかえりなさいませ、慌てておられるようですが何かありました?」

「ちょっと戦うことになったから、装備を取ったらすぐに出かけてくるよ」

「え、どういうことでしょうか?」

家に飛び込み、どたばたと倉庫の中に駆けこむとそれに気づいたイングリットが様子を見に来た。

皮鎧を着て、鎌槍を持つ。

それくらいしかすることはないが、会話している時間が惜しい。

「ごめん、今は説明している時間がないから、あとで説明するよ!」

「り、リベルタ様お待ちを!?」

「え、ネル何かあったの?」

「ごめんアミナ!私もリベルタと一緒に出掛けてくるから!!」

「ええー、夕食までには帰ってきてよー!」

ドッタンバッタンとあわただしい帰宅と再出発で、エプロン姿のアミナは手を振り送り出してくれるが、俺の不穏な言葉を聞いたイングリットは手を伸ばして俺を引き留めようとしていた。

だが、それよりも先に外に出た俺は頭の中の地図を頼りに西の神殿の広場を目指す。

今度は武器を背負った子供とそれを追いかける狐の少女という珍妙なコンビが疾走している姿が見られ、周りの人たちは困惑するが、それくらいなら日常かとすぐに忘れ去られる。

「……早いですね」

「できるだけ、急いできました!」

そして、目的地には先ほどと姿恰好が変わらない状態で佇むクローディアがいた。

汗を拭い、そして呼吸を落ちつけながら歩み寄ると、彼女は俺に気づいてゆっくりと振り返った。

「大人としてはここには来てほしくはありませんでした。ですが、戦士としてあなたの挑戦は歓迎しましょう」

この広場は神殿が管理していて、王都内での神殿騎士が訓練に使っている広場だ。

公園のようにたむろする場所ではなく、剣を振るう戦士たちがいつも踏みしめているがために地面は硬く踏み固められている。

「ネル、あなたは離れていなさい」

「わかりました」

そこはすでに戦場。

一緒にきたネルは、クローディアの覇気に気おされしぶしぶといった感じで距離を置く。

広さはそこそこあるが、逃げ回るには狭い。

「しっかりとした武器を持ってきたのですね。結構です」

俺の背中の槍を見て、それが戦うに足る武器だと判断して頷く。

対してクローディアは素手だ。

だが、それは俺を舐めているのではなく彼女のスキル構成的に素手であることが重要になるからだ。

「最後通告は・・・・・要らないようですね」

それを知っている身として、油断なく、俺はゆっくりと背負った槍の柄を握り構えた。

それがクローディアとの戦いを避けるための最後の機会への拒否。

「怪我をしたときのために神殿に治療要員を待機させております。遠慮せず、かかってきてください」

そしてクローディアがこの場を指定したのは万が一を回避するため。

神殿には回復するための職員が詰めている。

クローディアが用意している人は広場の脇でこっちを見ている。

相手が子供の俺であることに驚き、そして本当に戦うのかという視線を投げかけていた。

その視線を俺たちは気にしない。

俺が槍を構えたのに合わせて、向こうもゆっくりと足を開き戦うための構えを取る。

そして、クローディアの目が一気に闘気に染まった。

「っ!?」

来ると思うよりも先に、体が動いていた。

「常在戦場、その心構えができているようですね」

戦いの合図などない。

いや、俺に構える時間をくれて、自身がゆっくりと構える姿を見せていた。

その段階で戦いは始まっている。

一息で間合いを詰める。

格闘タイプのスキルビルドなら当然の選択。

拳の間合いに入られたら槍使いの俺は一方的に負ける未来しかなかった。

だから、この一手だけはミスるわけにはいかなかった。

「ふっ!!」

クローディアが踏み込むと同時に、クローディアが来るであろう位置にめがけて一突き。

その真槍の一突きをあろうことか、クローディアは素手で捌いた。

だが彼女の持つスキル、鉄拳、そして金剛身などの体を武器と化すスキルのせいで刀身を生身で捌いたのにもかかわらず、槍の切っ先に感じた感触は金属によって弾かれたような感覚だった。

このままなら即座に踏み込まれ一撃を叩き込まれる。

這竜よりも強力で、なおかつモーションが最小限という無駄のない最速の一撃。

最初にこれが来るのはわかっていた。

槍と素手の間合いの維持、これこそが俺がこの戦いで互角に戦うための絶対に死守すべき条件だ。

初手をしのぎ、そして防がれることがわかっている状態の俺はすでに鎌槍の鎌の部分にマジックエッジを用意し、引き技によってクローディアの首を狩るように引くのであった。

戦いは、始まった。