軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 マジックバッグ

オークションの結末を見届けた翌日。

「おはよう、イングリット」

「おはようございます」

昨日は迷惑冒険者アレスのすさまじい爆死を見て幾分か心がスッキリしつつ、オークションの恐ろしさを痛感して帰りは美味しいものをたくさん食べて帰ってきた。

「朝食の準備はできております」

「うん、ありがとう。一緒に食べよう」

「はい、失礼します」

ネルとアミナは家に帰っているからこの家には俺たちしかいない。

と言っても、たぶん朝食の後くらいには来るとは思うけど。

パンとスープ、そしてゆで卵にベーコンっぽい物。

庶民からは考えられないほどの豪華な朝食。

それをイングリットと二人で食べつつ。

「昨日のオークションが夢に出てきたよ。火竜の角の値段のインパクトが強すぎた」

「仕方ありません、千五百万ゼニという大金は貴族であってもそう易々と出せる額ではありませんから」

振り返るのは昨日のオークションの話になる。

竜殺しの槍という名の竹槍オークションと比べると平凡なオークションが続き、そして最後に残った火竜の角のオークションで苛烈極まる壮絶な競り合いが展開された。

「どこのどいつが競り落としたんだろうな」

「おそらく四大公爵のうちのどなたかと」

「エーデルガルド公爵閣下?」

「いえ、あの方はおそらく今回は参加しておられないかと。もし仮に参加しておりましたら竹槍の方で競っており、あの下品な雄たけびは上がっていなかったでしょう。それにリベルタ様から沼竜の素材を手に入れていますので参加する意義もないかと」

財力がない奴は参加するなと言わんばかりの値のつり上げ合い。

財力での殴り合いがそこにあった。

まずは弱小商人が淘汰され、次に力のない貴族が淘汰される。

成金の商人は体力が尽き、歴史のある貴族の中でも家が下降傾向の貴族が止まり、大商人が必死に喰らいつき、それでもなお頂には至れなかった。

「そういうものか?」

「はい」

競り合いが終わった後の会場は異常な静けさに包まれていて、ただ一人ステージに立つ司会の男が汗をぬぐっていたのが戦いの壮絶さを物語っていた。

「リベルタ様は朝食を食べた後のご予定はどのような?」

「昨日の成果を確認するために、少し買い物に行ってくる」

「言ってくだされば私が行きますが」

「大丈夫、大丈夫、ネルとアミナが来るだろうし二人の出迎えを頼むよ」

「かしこまりました」

結局火竜の角は誰の手に渡ったのか、気になりはするが所詮俺が手に入れたあぶく銭では到底手に入るような額ではなかった。

元からさして期待していないのでショックは大きくなかったが、これから俺たちが手に入れるだろう素材のことを考えるとちょっとだけ欲が出たのはここだけの話だ。

もし仮に火竜よりも上の竜、それこそクラス7の竜の素材をオークションに出したらいったいどんな反応がでるか気になる。

今のステータスと装備では到底倒すことができないから妄想にすぎない。

仮に沼竜の装備を全身に纏っても、クラス7の竜は生半可な準備では死にに行くようなものだ。

だけど、不可能というわけではない。

生半可な準備でだめなら完全なメタを張ればいいだけのこと。

クラス7までならそれも可能だ。

まぁ、そんなことをしたら完全に目をつけられるからやらないけど。

「それじゃ、一時間くらいで帰ってくるから」

「行ってらっしゃいませ」

そんなことを考えながら、出かける準備を済ませた俺は家を出て買い出しに行く。

向かう先は。

「いらっしゃい。朝早くからは珍しいね」

「おはようございます。ええ、ちょっとおもしろいものが手に入ったのでいてもたってもいられなくて」

「そうかい、それで今日は何が入り用だい?」

馴染みの錬金術の店だ。

ちょくちょく大きな買い物をするから上客と認識されて、朝早くからの来店だというのに店員の機嫌がいい。

「写し紙あります?」

「ああ、あれかい。あるよ」

写し紙。

これは地図とかに重ねるとその通りの模様が映し出されるというマジックアイテム。

消耗品で一度写してしまうとただの紙になってしまう代物だ。

「何枚必要だい?」

「とりあえず十枚お願いします」

「はいよ、一枚三十ゼニで十枚で三百ゼニだよ」

「これでお願いします」

「毎度、また来ておくれ」

一枚ずつ巻かれた状態で保管されていて閉じている紐を解くと効果を発揮してしまう。

そんな紙の束を持ってきた皮袋に入れてしまう。

買うものはこれだけだ。

用事が済んだらさっさと帰る。

来た道を戻るだけで道中トラブルに合うわけもなくスムーズに帰れたが。

「道中にトラブルがなくても、ゴールでトラブルが待っていたら意味ないよな」

家が見えた先に、見覚えのある馬車が止まっていたら途端に足取りが重くなってしまう。

家紋はないが、それでも誰が来たかわかってしまうのは問題だ。

「と言っても帰らないわけにもいかないしな」

朝から一体何の用だ?

気が重くなったのを気にしないように進み、玄関から中に入れば案の定だ。

「おはようございます、リベルタさん」

「おはようございますエスメラルダさん」

ソファーに座り、脇に執事を控えさせた公爵家の令嬢がそこにいた。

「自分に何かご用ですか?」

「そんな寂しいことをおっしゃらないでください。あなたならおおよそ、どのような用件かわかっていると思いますが?」

「まぁ、なんとなくは」

イングリットが淹れてくれたお茶をテーブルに置き、そしてスッと立ち上がったエスメラルダ嬢はそのまま頭を下げた。

「この度は我が家の者が失礼を働き申し訳ありませんでした」

「ということは、やっぱりあの竹槍は俺の物だったんですね」

「ええ、そうです。私があなたに返すように指示を出した者があなたに返したと嘘の報告を上げ着服していたのがわかりました」

「それでオークションに出品したと?ずいぶんと間抜けな話ですね。バレると思わなかったんですか?」

「思っていなかったからこその犯行でしょう。オークションに出さなければ発覚しなかったので途中までは上手く行っていたようですが」

その頭を下げた理由はやはり、先日の俺の竹槍がオークションに出品されたことだろう。

「失礼ですが、出品を取り消すことはできなかったのですか?」

「気づいたのはオークションが終わった後でした。リベルタさんの信用を失うような行為を当家がした後に述べる言葉はすべて言い訳になりますが、信用していた部下を疑い探すのに手間を取りました」

申し訳なさそうに語るエスメラルダ嬢は、無事に犯人を捕らえたと報告してきた。

「犯人はあの時這竜の討伐に随伴した従者の一人とその仲間でした。仲間内で口裏を合わせつじつまを整えていて発見が遅れましたわ」

「あー、何人か心当たりがいるんですよねぇ」

「おそらく、その心当たりの中にいますわ」

「そうですか、それでその犯人はどうなりました?」

「当家の使用人として、主である私が客人として迎え入れたリベルタさんの私物を盗み、あまつさえオークションに出して金銭を得ようとしたのです。これは当家への重大な裏切り行為になります。厳重な処分を下しましたわ。ええ、いくつか家を消している最中ですが、リベルタさんがご希望でしたら犯人たちの首を揃えてお見せすることも可能ですわ」

「・・・・・結構です」

今回ここに来た理由はまさにそれだろう。

公爵家としてのけじめ。

庶民に対する態度ではないような気がするが、俺の存在を考えるとこれくらいのことはしないとダメなんだろうな。

「これ以上聞いたらトラウマになりそうなので。今後は同じようなことは起きないんですよね?」

「ええ、少なくとも今後一切当家の者であなたを害するような行いがないことはお約束できますわ」

「それと、こんなことが起きて周りから変な風評被害とか起きてません?結構まずい事件だと思いますけど」

「お優しいのですね、リベルタさんは被害者ですのに・・・・・当家の心配をして下さり感謝しますわ。問題ないとは言い難いですが弱味というほどのことにはなっておりませんのでご安心を」

その対応をするための処罰を想像するだけで怖い。

おそらく見せしめという意味合いの罰が執行されたのは間違いない。

「ただ、別の問題がございまして」

「問題ですか?」

「あなたの竹槍です。本来でしたらこの場でお返しする予定でしたの」

「そう言えば、ないですね」

深入りしたらダメだと自分に言い聞かせて、本題の方に集中する。

確かに竹槍を返しに来たというのに彼女も、そして従者の方も困り顔をさらすだけで竹槍を持っていない。

「はい、実はオークションを終えた後に主催者に掛け合って竹槍の買い取りを申し出ました」

「……ああ、なるほど?」

「もちろん、竹槍の持ち主を言ったりはしてませんわ。ただ必要だからと言い代金もオークションの落札額の倍を出すと提案しました。ですが、少々面倒なことになりまして」

となると、竹槍を取り返せなかったということになる。

「その買い取った方が、こちらの大陸の方ではなく、そして後ろ盾になっている家が問題でして」

「もしかして?」

「ええ、ご想像の通りですわ。我が家が手を出せない家は限られておりますので」

どうやら竹槍の今の持ち主は相当竹槍にご執心のようで、公爵家相手でも一歩も引かなかったようだ。

おまけに、後ろ盾にはエーデルガルド家以外の公爵家がいる。

「加えて相手はA級冒険者でした。西の大陸の冒険者ギルドとの関係を悪化するわけにもいかず、大変心苦しいのですが交渉が難航しており、取り返すには時間がかかりそうなのです」

たぶんだけど、エスメラルダ嬢が出張ってきたと言うのが相手を意固地にさせたんだろうな。

元から竜殺しの謳い文句でオークションに出品してたんだ。

そんな代物を公爵家の令嬢が買い取ろうと交渉を持ち掛けてきた。

眉唾物だった竜殺しの話の信憑性が爆上がりだろうよ。

エスメラルダ嬢は、困り顔で俺に謝罪してきた。

「本当に申し訳ありません。代わりというわけではありませんが謝罪の気持ちとして、こちらを持ってきましたわ」

「ご当主様からも認可を受けております。どうぞお納めください」

「はぁ」

正直、竹槍でここまで大事にしなくてもいいのにと思っている。

必要ならまた作ればいいし、いや、新しい武器を作った段階でお役御免だから作る必要もない。

鑑定スキルを持ってる人がいないのなら、弱者の証の効果も判明しない。

作る必要がない物に対して謝られても困るのだが。

受け取らないと向こうもメンツが立たない。

ここはアイテムを受け取ってこれ以上の謝罪は不要だということにした方がよさそうだ。

「・・・・・これは、まさか!?」

「先日の騒動の際あなたが欲しておりましたので用意させてもらいました。さすがにあの時の物を渡すことはできませんが、性能は少し劣りますが当家にある物の中で譲ってもよろしいものを持ってきましたわ」

豪華な箱に入ってるなぁと何気なしに覗き込んでみるとそこには一つの鞄が入っていた。

ポシェットのような形、一見すれば普通の鞄。

だけど微妙に感じる魔力。

「マジックバッグですわ。お役に立ちまして?」

「立ちます立ちます!!立ちすぎて、今から感謝の舞でも踊りましょうか?」

「あなたの踊りがどのような物か気にはなりますが、それはまた別の機会にお願いしますわ」

その正体は物を運ぶという利便性という点ではゲーム時代でも右に出る物はないと言わるアイテム、マジックバッグ。

容量的には最下級の代物なのは間違いないが、それでもあるのとないのとでは今後の行動に雲泥の差が出るほどの一品。

竹槍が宝物に化けた。

その感動に、思わず踊りそうになるのをエスメラルダ嬢は、笑顔で止めてくれた。

「いや、本当にいいんですか?返せと言われてももう返しませんよ?」

「ご安心を、父からも許可をもらっております。それはもうあなたの物ですわ。それに今回の件は完全に当家の落ち度、沼竜の素材を提供してくれる協力者の信頼を損なうことの方が我が家にとって損失です」

箱の中から取り出してみれば、間違いなくマジックバッグだというのがわかり、それを抱え込むように抱きしめ、もう返さないというのをアピールしてみせる。

「そんなにですか?」

「ええ、それはもう。あなたにとっては大したことではないかもしれませんが、当家にとってはあなたが考えるよりもあなたには価値があるのです。実際に私の命を救ってくれたではないですか」

それが必要のない行動だとわかっていても、このアイテムの貴重さゆえについそんなことをやってしまう。

そんな姿勢のまま大いに価値があると聞いてもピンとこない。

「そうですか」

「ええ、そうですわ」

これ以上は聞いてはいけない。

そんな気がして、ついそこで話を切ってしまった。

「それとリベルタさん。父が近いうちに話がしたいと申しておりますわ。時間が空いた日はございまして?」

「ええーと」

しかし、そうは問屋が卸してくれなくて、聞きたくない、話したくないというのに向こうは大貴族でこっちは庶民。

行きたくないと素直に言うことはできるが、それをすると面倒だというのも理解できる。

せめてもの救いはこちらの都合に合わせてくれるということ。

「……来週末なら」

「それではその日取りで都合をつけますわ。当日は迎えの者をよこします。この後用事があるのでこれにて失礼しますわ」

「はい、次は事前に来る連絡くださいね」

「かしこまりました。では」

「玄関まで送りますよ」

そうして竹槍がマジックバッグに変わったのは良いことだが、代わりに厄介ごとが舞い降りそうな予感が止まらない。

そんな予感を感じつつも、見送るために玄関まで行く。

玄関など目と鼻の先、会話もなく玄関口につき、お付きの人が玄関を開けようとした時。

「ああ、そうですわ。言い忘れておりましたわ。マジックバッグの中身はリベルタさんの物ですのでお気になさらず」

「あ、はい、中身?」

そんなことを言って去っていってしまった。

「マジックバッグの中身・・・・・」

マジックバッグという品だけでかなり高価な代物なのだがこれ以上に何かもらってしまってよかったのか?

そう思いつつも、くれるというのだから遠慮せずそっとマジックバッグを開けて中身を確認しようと手を入れるとジャラリと硬く、そして掴み覚えのある物体が手の先から感じ取れて。

「マジか」

そっと一個だけ取り出すとそこには金色の輝きを放つコインが握られていた。

そして金貨という単語とともに、540万という値段を想像してしまったのであった。