軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

22 入札

いつまでも愕然として竹槍を見つめているわけにもいかない。

ひとまずは、竹槍の前から移動して周りを気にしつつ、ネル達とさっきの竹槍のことを話す。

「あれって、どう見ても俺の竹槍だよな」

「そうね、間違いないわ。リベルタの槍がなんで出品されているのよ」

ガンジさんが作ってくれた竹槍を自分も使っていたこともあり、あの竹槍に見覚えがあったネルが、訝し気にちらりと展示されている竹槍を見る。

「イングリット、公爵閣下から連絡はなかったよな?」

「はい、ございません」

「もしかして、竹槍を売るつもりで連絡がないとか?」

「それはありえないかと」

その竹槍は間違いなく俺が使っていた竹槍で、それが何の因果かオークションに出品されているという奇妙な話。

流れ的に見れば、エスメラルダ嬢がもともと売り払うつもりで俺から取り上げてそのまま黙殺してこのオークションに出品。

竜殺しと銘にして実際に這竜を倒した実績を持つ竹槍を出せば、それなりの金を稼ぐことができると判断して、俺には喪失したと嘘を言ったと考えれば一応筋は通る。

ある意味で間抜けな形で裏切りがバレたという展開だ。

しかし、そんな妄想に近い予想は俺的にもない。

あの公爵閣下とその娘のエスメラルダ嬢がネコババしてまで金策をするとも思えない。

そもそも、そこまで金が必要なら俺の提供する沼竜の素材に代金を払うわけがないのだ。

「だよなぁ」

ありえない考えを前提とした予想をイングリットが否定してくれたので俺もそれに頷く。

「おそらくですが、配下の者の独断でしょう」

「というと?」

「経緯を見れば、リベルタ様は目覚ましい戦果を挙げられました。それは庶民だけではなく、貴族でも難しいといえるほどの戦果です。そうなればそれをよろしく思わない輩も当然現れます」

そして、イングリットの予想はこうだ。

「すなわち嫉妬での嫌がらせだと?」

俺は公爵家に大きな貸しを作っている。

それを妬む気持ちを持つ輩はあの家にもいるというイングリットの考えは心当たりがありすぎるので否定できない。

あの目は俺を認めていない目だ。

そんな目をする人物が一人や二人じゃない段階で、お察しということか。

「嫌がらせもありますが、貴族というのは色々と見栄を張ることでお金がかかるので金策も兼ねてだと思います」

「どういうことだ?」

「庶民が出した成果は全て道具のおかげで出した成果だと考える貴族がいます。所謂、貴族の方が優秀で庶民は全員実力がないという考えです。なので、リベルタ様の成果も道具の成果だと判断したのでしょう。没収した物をオークションに出しその成果を出せないようにすることと、成果を出せるほどの物を売ることで懐を潤そうとしたのでは?」

「……ごめん、すっごく言いにくいことだけどそいつバカなの?仮に売るにしてもオークションはないだろ。ネル、アミナ、意味わかるか?」

なんだかんだ公爵閣下に目をかけられている庶民という立場の俺に嫌がらせをするために武器を没収してそれを売ることで少しでも気分を晴らそうとしたとかだったらわかる。

それが俺の予想だったが、どこぞのガキ大将も真っ青な理論がイングリットの口がから出て、思わず天井を仰ぎ見て、隣で話を聞いていた二人に意味を尋ねてしまった。

「わかりたくないわ」

「けど、そういう話をたまに聞くよね。貴族に露店にある売り物を勝手に持っていかれたとか」

「罰せられないのか?」

「市場を巡回する兵士を管轄するのも貴族だから、兵士も貴族には言えないのよ。だから基本的には泣き寝入りよ。全員がそういう貴族じゃないっていうのもわかるけど、私たちからしたら区別なんてつかないわ」

ゲームの時も、良い貴族と悪い貴族のギャップがひどかったが、ここでその現実と直面するとは思わなかった。

うん、特権階級ってホント碌な仕事しない。

「ネル様の仰る通り、すべての貴族がそういうわけではございません。ですがそういう思想の貴族もいるのも事実です」

声を潜め、周囲には聞かれないように気を配っているが、中々シビアな話をしている自覚はある。

というか、貴族であるイングリットもそこまでぶっちゃけて良いのか?

「今回はその矛先がリベルタに向いたってわけね」

「後ほど、公爵閣下には書状をしたためて報告しておきます」

「このオークションに出品した人の性格を考えると言った言わないのいたちごっこになりそうな気はするが、やらないよりはマシか。というか、今すぐダッシュで公爵家に行って・・・・・だめだ俺普通に公爵家の使用人には嫌われてるんだよなぁ。アポ取っている間にオークション始まっちまう」

せめて出品者がわかればいいんだけど、特別展示品となっている火竜の角以外の出品者はわからないようになっている。

「ちなみに今回のオークションに公爵閣下は参加していないのか?」

「生憎とそこまでは把握しておりませんが、エーデルガルド公爵閣下はあまりオークションに参加されない方です。もしかして、そのことを知っているからこそ堂々と出品したのかもしれません」

「バレたらただじゃ済まないだろ。ちなみに竹槍は落札した方が良いのかね?」

「おすすめはしません。どうやら竜殺しというネームバリューに目をつけている方が多いようです。おそらく激戦になるかと」

「城下街の武器屋に頼めば、数十ゼニで簡単に買えるはずなんだけどなぁ」

費用対効果的に竹槍を買い戻すのはどう考えても無駄だ。

そもそも、対応するのなら公爵家の人間がすべきだし、何なら出品取り消し申請くらいは出せるはず。

なんだかんだ言って、俺がこの世界に来て初めて握った武器だし思い入れもあるから、公爵閣下にはもう少し部下の手綱をしっかり握ってほしいと思ってしまう。

取り返せるのなら取り返したいが、必要というわけではない。

「リベルタ様、そろそろオークションが始まります」

「おっと、もうそんな時間か」

結局竹槍の近くで話し込んでしまって、気づけばオークションの時間になり、人もオークション会場の方に流れ始めている。

今回のオークションで買おうと思ったのは古代の武具とネルが目をつけていた絵だけ。

竹槍は様子見。

それ以外はさして興味がわきそうな物はなかった。

「それじゃ、行こうか」

最後にちらりと竹槍を見る。

「おお!これが竜殺しの槍か!!」

その時にちょうど聞き覚えのある男の声が、展示されている竹槍の前付近から聞こえた。

「ゲッ」

「ネル、女の子が出しちゃいけない声を出してる」

「うえー」

「アミナも変な声出さないの」

見ればこの前のオーク狩りで邪魔をしてきたアレスという冒険者とその一行がそこにいる。

どうやらこのオークションに参加するようだ。

後ろ姿を見ただけで二人のこの表情、イングリットに至っては汚物を見るような眼になっている。

いつもの無愛想は変えていないのに、すぐにわかるほどの嫌悪感。

「ほらほら、見つかる前に部屋に入るぞ」

「ええ、そうしましょ」

「うん、早く行こう」

ここにいたら面倒事になるのは目に見えているので、彼女たちの背を押して会場入りする。

「へぇ、こんな感じなんだ」

「部屋がたくさんある」

イングリットが用意してくれた招待状を受付に見せればあっさりと入れた。

ゲーム時代はこの招待状を手に入れるためにとんでもない苦労をしたんだよなぁ。

今回はイングリットというチートがいたからあっさりと入れたけど。

最初に見えるのはホテルの廊下みたいな通路だ。

いくつも扉があり、係に案内される先は、それぞれ個室のブースに分けられている。

記憶が確かなら、上の階に行けば行くほど豪華な部屋になっていたはず。

おそらくは力のある貴族とかがその部屋を使い、逆に俺みたいな輩は地上に近いブースに案内されるようになっているのだろう。

イングリットが係員と会話をして案内されたのは案の定一階で、それも立地があまりよろしくない部屋。

部屋に入ってすぐ正面にステージが見えるようになっていて、他のブースは見えないようになっている。

「こちらの旗を掲げることで入札の意志を示し、こちらの数字のプレートで入札額を提示します」

「へぇ、そんなシステムなのか」

ゲームでは普通にステータス画面みたいな物が出て、そこで電子決済みたいな感じで入札していたからこのアナログな感じは新鮮だ。

個室として確保されているけど、中には四人掛けのソファーがあるだけの空間。

人数的にはちょうどいいが、ステージを見るにはちょっとコツがいる部屋だ。

そこに置かれたソファー以外の道具がオークション用の道具ということか。

「はい、注意するのは一商品につき旗の上げ下げは一度だけしかできません」

「一度商品を諦めたら再入札はできないということか」

「はい、それとオークションは最初に提示された金額が最低金額となり、最低入札額が最低金額の一割分からとなり、最低金額に上乗せされます」

「千ゼニだったら千百ゼニからっていうこと?」

「はい」

「一度の最高入札額は?」

「一番高くとも五割分までとなっております。それと入札額が最低金額の十倍になるごとに、入札基準額がその金額になります。千ゼニが一万ゼニになりますと、最低入札額が千ゼニと増えますので入札の際にはご注意を」

「わかった。この数字の札を使って額を提示すればいいのか?」

手作り感バッチリの職人によってつくられた木製の品々。

「はい、ステージから見えるように掲げれば額が上がっていく仕組みなっております」

こちら世界の数字で一から五までの札。

一割上げるのなら一の札、三割上げるのなら三の札という感じか。

「すぐに計算できるのか?ステージから見たら客席から一斉に札が上がるわけだし」

「そうなりますと、まずは一割ずつ順番に上がってまいります。それで札の数が減りある程度の数になりますとそこからは、上から順に札が読み上げられ値段が吊り上がっていきます」

「なるほどね。俺はてっきり大声を張り上げて競っていくかと」

「貴族の方が主に参加される場所なので、そういった行為はありません」

「納得、ひとまずは絵の方が先だし、それで慣らして本命に移るか」

イングリットの説明でひとまずはオークションのやり方はわかった。

後は習うより慣れろと言う感覚で勝負するほかない。

電子的な方法を使えないのなら、古き良き漁港の競りのように叫ぶ準備をしていた俺としては少し肩透かしを食らったが、郷に入っては郷に従えということで、ひとまずは札を触ってやり方をシミュレーションするか。

『それでは、本日のオークションを開催します!』

部屋の中ですることなどほとんどない。

ジッと部屋の中で待機するほかないので、今後の予定とかを相談していればステージの上に司会者の男が立ち、オークションの開催を宣言した。

拡声のスキルを使っているのか、そこまで張り上げていないのにもかかわらずよく聞こえる。

『まずは、エントリーナンバー1!宝石の原石の詰め合わせ!!多種多様の宝石の原石が入ったこの商品は五千ゼニからスタートです!!』

商品がステージ上に運ばれ、そしてその隣に司会の男が立ち、商品の説明と最低金額が伝えられ、男がスタートと言ったと同時にベルの音が鳴り響く。

ハンマープライスはなく、ステージの男の手にはハンドベルが握られている。

ゲームでもあのベルが三回鳴ったらそれで決まりになる。

『五千ゼニないか!五千五百!六千!七千!八千五百!!』

思ったよりも値段のつり上げが早いな。

五千ゼニはほかの参加者からすれば、子供の小遣いだと言わんばかりの上昇速度。

『一万五千ないか!?一万五千、一万五千!!それではこの商品は一万五千ゼニで落札!!』

一個の商品にかかるのはおおよそ十分かからないくらい。

今回の商品は三倍ほどの値段になった。

「やり方はだいたい分かったな」

一回見れば、おおよその流れはわかった。

あと、値段を釣り上げるためのサクラも混じっているのもわかった。

こりゃ、買う時は慎重にやらないとな。

買わなくていいものは完全にスルー状態でも、見ている分には結構面白い。

たまに響く怒号がまぁ、いい塩梅に会場を盛り上げてくれる。

『続きましては、エントリーナンバー23!新進気鋭の画家が描いた風景画!こちらの商品の値段は百ゼニからのスタートになります』

そんな感じで眺めていると俺たちが買おうとしている絵が出てきた。

百ゼニとはずいぶんと安い。

時間をかけて丁寧に描かれた絵にしてはその価値が低く見積もられ、さらには入札者も少ない。

新進気鋭というが、無名を良いように言い換えただけだからそれも仕方ないか。

『百ゼニ、百十ゼニ!百二十!』

入札のスパンも長い、どうにかして値段を釣り上げたいというのはわかる。

『百三十!百三十ないか!?百三十ゼニいませんか!?』

ベルが一回、二回と鳴り、これ以上いないのかというタイミングで俺は札を上げた。

『百八十ゼニ!』

ベルを消費した後であれば、おいそれとサクラも参戦できない。

下手に参入すると、サクラ自身が商品を買い取ってしまうことになるからだ。

『二百でました!』

お、今回のサクラは結構なチャレンジャーだな。

もしくは、さっきまで入札していた人が粘ったか?

まぁ、どっちでもいいや。

『二百ないか!?二百ありませんか!?』

再び、三度目のベルが鳴る直前に札を上げる。

『二百十でました!!』

あえてこれ以上の値段は苦しいですよという雰囲気を出す。

そうすることでサクラは下がる。

そして対抗馬がいるならその人は、この絵を欲している人ということになる。

ゲームでも似たようなことをしているからある程度の駆け引きはできる。

そして今回はその駆け引きが功を奏して。

『二百十ないか!?二百十!いないようですので、この絵画は二百十ゼニで落札でございます!!』

サクラは引き、他にも欲しい人がいないようで無事に落札できた。

「お見事です」

「そうかな?取りあえず受け取ったら家にでも飾ろうか」

俺たちにとっての本番はまだまだこれから。そして竹槍の行方が気になる今回のオークション、ちょっと波乱の予感がするな。