軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30 EX 次代の神 16

この空中庭園は騒がしかったり、静かだったりとその時々によって雰囲気が変わる。

では、今日はどんな雰囲気かと言えば。

「皆、少し相談があるんだけど」

北の英雄の神、戦闘の神アカムが真剣なまなざしで呼びかけて来た。

「どうしたのであるか?そんな真剣な顔で」

その呼びかけに最初に応えたのが恰幅のいい男神、商売の神ゴルドス。

手に持つ漫画の表紙は姉ヒロインが主題となる作品で、それをテーブルにそっと置き、体を向ける。

「あなたが相談ですか、何か地上で起きましたか?」

そして次に応じたのは、ラーメンの具材と同じ名である忍びの登場する漫画を読んでいた調停の女神メーテルだ。

彼女の目線は漫画からちらりと地上を観察する盤上へと向けられるが、アジダハーカのような怪物が出現している様子はない。

「地上は平和ですねぇ。南の大陸に彼女たちが落とされたときはどうしようかと思いましたが、思ったよりも平和で良かったですぅ」

かといってトラブルの種がないわけではない。

神にとってはつい先日、この世界ではそれなりの月日が経ったが、あの日、天界で罪を犯した二柱の女神が地上に落とされた。

普通に考えてもトラブルの元。

そんな存在が自分の使徒がいる土地に近づいたのなら、のんびりとした雰囲気の愛の女神パッフルであっても警戒はする。

場合によっては遠まわしな伝え方になるが神託もやむなしと思っていたが、蓋を開ければ二人は思ったよりも平和に過ごしていた。

拾われた場所が良かったのか、或いは二柱を拾って面倒を見るあの二人の兄妹が良かったのか、ひとまずパッフルが安堵する程度には平和だった。

「・・・・・」

ただこの庭園にいる一柱の心中を放っておけばの話だが。

「相談は、彼女のことですか?」

「ここ数日、南の声を聞いた覚えがないのである」

「漫画を貸してくださるのはいいんですけどぉ。目が怖いんですぅ」

この庭園にいる神々の中で、落とされた二柱のせいで一番割を食っているのは誰かと言えば、知恵の女神であるケフェリだ。

今回の神々の試練で、一番使徒が活躍しているのもまた彼女の使徒であるが、それは言わぬが花。

不幸の神に愛されているのではというくらいに、使徒がトラブルというトラブルに尽く巻き込まれ、そのストレスからかケフェリは普段読まないようなトラブルと同じ音を出すラブコメ漫画を最近読んでいる。

「そう。機嫌が悪い理由はわかるけどさ、いい加減どうにかしないと同じ空間にいる僕たちが参っちゃう。だからここは一つ、南の機嫌が直るようなことをしようってわけ」

「彼女の機嫌ひとつでこの娯楽がなくなる可能性もあるのである。良かろう、吾輩は協力するのである」

「理由が些か不純ですが、仕方ありません」

「私も協力しますぅ」

当人ならぬ当神の目の前でそんな話をしていれば、いかに単独行動を主軸にしているケフェリとて漫画から目を離し顔を話し合っている神々に向ける。

「余計な世話だ。放っておいてくれ」

「いや、だったらその険呑な雰囲気をどうにかしてよ。邪神の勢力からちょっかいかけまくられて不機嫌になる気持ちはわかるけどさぁ」

「これが私のいつもだ」

「あながち間違っていないのであるが、いつもより険呑なのである」

ケフェリからすれば、少しでも書物に没頭して気分転換をしたいと思っている最中での会話だ、二割増しで眉間に皺が寄る。

女神だからこそ、その美貌は衰えることが無く、どれだけ力を眉間に込めても皺になる心配はないが、美人が不機嫌な表情を取ると迫力が出るのもまた事実。

余計なことを口走ったゴルドスが肩をすくめて誤魔化すのもまたお約束の流れだ。

「第一、私の不運はお前たちにとっての幸運であろう。喜びこそすれ、同情する余裕がお前たちにあるのか?」

そして、その流れに乗り仕方ないと会話に参加するのもお約束だ。

ついでに皮肉がてら、リベルタが他の使徒とは違いかなり優勢に動いているという事実を指摘する。

不運というデバフを受けていなかったら、今頃中央大陸に殴り込みをかけて邪神討伐に乗り出しているのではと思うくらいにリベルタの活躍は凄まじい。

「それを含めての相談って感じだよ」

その差を埋めるのは生半可な努力じゃかなわない。

神にできることは神託のみ。

なので、テコ入れという形でできるのは先日の天使が持ってきたクエストくらいか。

「その言い方だと、何か妙案があるようだな」

「妙案というか、僕の系譜の神たちが面白そうな物を持ってきてね。まだまだ試作品だけど、稼働実験は終わってるよ」

「あなたの系譜・・・・・どちらですか?戦いですか?それともスキルの方ですか?」

それくらいしないと好き勝手に世界をいじれてしまうくらいに神々は力を持っている。

制限というのは公平性だけではなく、加減をしないと世界が滅ぶというくさびでもあるのだ。

「スキルの方だよ。ほら、僕ってこの世界のスキルの管理をしているけど同時に研究もしているんだ」

「拳で殴った方が早いって言いそうな、北のが言うと違和感を感じるのである」

「ハハハハ!実際そっちのパターンもあるね」

しかし、それは古から決まっているルールであり、最新の物ではない。

失敗という名の経験を糧に、いかにして世界を正常に運営できるかに着目したルールだ。

安全に次の主神を決めましょうと言うわけではなく、これならこの世界は滅びないよね?という最低限のルールである。

そのルールに反する行いは基本的にはできないが、人が決めたルールを人が変えられるように、神が決めたルールを神が変えられないわけがない。

「話が逸れている。このまま無駄話をしているのなら私は読書に戻るぞ」

「おっと、なら本題に入るよ。身内から提出されたのはこれさ」

と言ってもこの場にいる面々が相談して決められるわけでもない。

しかし、曲がりなりにも主神候補。

その意見には他の神々も耳を傾け、考えて賛同を得られれば行動に起こせる程度には影響力がある。

ようは、合理的かつ必要な理由があり、それが世界のためあるいは神々のためになる物であれば採用される提案を上げることができる。

「これは」

「なんであるか?」

「皮膚ですか?」

「生々しいですねぇ」

「人の皮に見えるな。北の、いつからそっち方面の神に変わった?」

「どこかの誰かかからはぎとってきたような言い方は止めてくれない?死神のやつらとはたまに飲みに行くけどさ」

そんなルール変更を匂わせて、出して来た代物は薄っぺらい皮。

テーブルに広げられたのは額縁のようなケースに入った、ケフェリが言ったように、人の皮、皮膚に見えるような代物だ。

大きさは30センチ四方といった感じで、人によっては誰かから剥がしてきたのではと思われるくらいにグロいと言えるような代物。

人を研究する解剖好きの神々から拝借してきたのではという、懐疑的な目線を受けてアカムは首を振って否定しつつ、その品を指さす。

「これは人間の持つスキルスロットの限界を解決できないかっていう実験の成果だよ。仮名だけど、外付けスキルスロットって呼んでる」

「なんと!?噂には聞いていたが完成したのか!?」

そしてアカムの説明を聞いて、その場にいた神々はどよめいた。

「スキルスロットは、人の魂に備え付けた力。人という存在の枠を変えない限り変えることのない不変の力です」

「加えて言えば、弱らすことも強くすることも人としての何かを損なういわば魂の枠組みだ。下手に変えることができる物じゃない」

神々の中にも研究者はいる。

その中にスキルスロットを研究する存在もいる。

その存在が研究し続けた結果、古の神が作り出したものに影響を及ぼさずに、変えることができる方法を用意したということになる。

メーテルもそうだが、知恵の女神であるケフェリとしては、知らなかった新たに生み出されたものが目の前にあるという事実に好奇心を掻き立てられる。

「それをどうやって解決した?」

「これが研究資料だけど、読む?」

「・・・・・何が望みだ?」

ケフェリの好奇心を感じ取ったアカムが素早く、綺麗に束ねられた研究資料を差し出し、反射的にケフェリはそれを受け取りそうになったが、タダより高い物はこの世に存在しない。

ニッコリと笑うアカムの表情を見て、何かあると察する。

「いやぁ、これを僕の使徒に使わせるのに賛同してくれないかなぁって思ってるだけだよ?ここにいる皆の賛同があれば『今回』限りの試験的な運用ができる程度には実験が進んでいてさ。結果によっては地上に正式配備って感じの技術なんだよ」

欲しいのは賛同。

それもこの場にいる神々の全会一致。

頭の固い上役どもの、考えを解し、通すにはそれくらいのことは必要だ。

「それだけではないだろう、私に最初に見せようという魂胆を話せ」

「その資料を読んで、その実物を知って、世界への影響の予想を論文にしてまとめて欲しい。南の、君の見識ならあの上役たちも納得できる文章ができるだろ?」

その一番の適役が、空想や感情といった情報ではなく、客観的かつ論理的に分析し、現実的なデータを膨大な知識な中に持つケフェリがしっかりとした根拠で資料としてまとめ上げる。

それが狙いだとわかったケフェリは、アカムにジト目を向けつつ、その資料を手に取った。

「私ができるのは事実を書き上げるだけだ」

「それでいいよ。むしろそれじゃないとあいつらを納得させることはできないよ」

「ふん」

「あ、皆も見てね。みんなが納得できないとあいつら納得しないから」

世界を変えるにはしっかりと手順が必要だ。

無理矢理変えても不和が生まれるだけ。

ニコニコと手回しをしているだけマシかと、ケフェリが資料を受け取り、久しぶりに新技術の研究資料を目を通す。

それは人間では理解できない言語で記述された資料。

その一文字で、数万の意味を包含し、その配列で意味を伝える。

たった一枚のA4用紙程度の資料の内容であっても、人の言語に置き換えたら一つの図書館でも足りないほどの情報が集約されている。

魂の原理、世界の理、それを全て言語化するにはそれだけの文字が必要なのだ。

それをまるで、旅行雑誌を見るかのように一枚、また一枚と流し読みするかのようにケフェリは読み進めていく。

他の神々も書類を読んでいるが、その速度はケフェリと比べるまでもない。

次点で読むのが早いゴルドスでさえまだ資料の一ページ目だ。

読解能力と、分析能力。

その能力でケフェリは神々の中でもトップクラス。

空間、そして知恵という基盤があるからこそ、普通の神では一カ月かかっても読み切れないような情報の塊をどんどん読み進めていく。

「ほう」

時に感心し、メモ用紙に同じ言語で記録を残し、さらに気になった部分に付箋を施す。

そのような言語を読めるような存在が漫画をじっくりと読んでいると考えると中々稀有な光景に見えるかもしれない。

その資料を渡したアカム自身は、すでに内容を読んで記憶しているために、巨人を駆逐する物語を手にして読み始めている。

それを気にする、神々ではない。

ただただ、静かに資料を読む時間が経過し、ケフェリがその資料を読み終えたのは三時間後の話だ。

一回読み終えるのだけなら、もっと早かったが熟読し内容を精査し、何度も読み返し誤解がないことを確認したケフェリは、漫画とは違う知的好奇心を満たせた研究資料を丁寧に机に置き、読み終えたことを察したアカムと目が合う。

「中々興味深かった。良いだろう、論文を書こう」

そして先ほどまでの不機嫌が晴れて、ケフェリは楽し気に口元に笑みを浮かべるのであった。