軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

20 可能性の塊 3

切り札。

それは多くのプレイヤーたちが持っている、文字通り逆境を跳ね返すために切る最後の手札。

それを封殺することや、その切り札を切るための手順を引きずり出すのもまたプレイヤースキルと言える。

「その勝ちを諦めない心意気、いいね」

実戦で勝ちに行くなら、それを受け止めるのではなく封殺する方向で動くのがいいのだけど、今それをやったらつまらない。

何をするのかを敢えて見守るのも一興かと判断して、俺は木剣を肩に担いで相手の動きを待つ。

それを驕りと取られればそれまでだが、負けないように集中力は俺にできる限界まで上げる。

一見すれば余裕綽々と構えているように見えるが、俺にとって全身を脱力して集中した、これが最大の迎撃態勢。

そんな俺の集中の中。

ステラが一瞬、消えた。

その動き、見覚えがある。

「ハァッ!!!」

そして直後に真横から響く、ステラの気合。

「雷歩か!それに」

振り向きざまに、迎撃をしようとしたが俺の目が捉えたのは2人に分身したステラだった。

影分身、実体こそないが、自分と寸分たがわぬ虚像の分身を作り出し自由に動かすことができる。

ミラージュフェノメノンのような攻撃性能はないが、その代わり、効果範囲は広い。

出せる数もスキルレベルを上げれば魔力と引き換えに、増やすことができる。

雷歩で姿をくらました途端に攻撃することで、咄嗟に見分けないといけないという判断を押し付けてくる。

前衛殺しの技。

だが。

「こっちだね!!」

俺はその分身を迎撃せず、背後に回り込んでいるステラに向けて木剣を振り、再び削られつつもショートソードをはじき返す。

影分身の欠点は、質量が無いこと。

視覚的、魔力的には擬態できても、足音や足と地面の擦れる現象は再現できない。

跳びかかっていたのはそれを偽装するため。

服が風圧でなびくという現象も再現しているから随分と使いこなしているのがわかる。

だが、それでも、こっちは何回もその影分身と戦ってきた経験があるのだ。

対応策の一つや二つ持っている。

「フン!」

そのタイミングでアステルが動く。

大上段から振り下ろされた両手剣は、迷いなく地面に叩きつけられ、本来であればその刃の切っ先をダメにする行為。

だが、その刃の先から地割れが起きて、さらに岩の刃が噴き出るならどうだ。

「地烈斬か!足元を殺しに来たな!」

それに当たることはないが、俺の周りの足元が、砕かれ足の踏ん張りがしにくくなった。

「となると、当然持ってるよな!」

「そこまでお見通しなのね!」

「経験の差だ!」

地面を砕いて損をするのは、2人も同じ。なら、その不利を覆すスキルを持っていると判断することもまた必然。

雷歩を持っているなら、当然空歩も持っていると踏んだ俺の予想は大当たり。

アステルの作った、岩の棘を足場にして、空中を走るステラは俺の頭上を取り、地面に頭を向けての接近戦を仕掛けて来た。

「いいねいいね!!君が空を制そうとして、もう一人が地上を制そうとするってことか!」

「っ!本当にどこまで見えてるの!」

「平面的連携ができるなら、立体的連携もできるって予想しただけだ!スキル構成的に君は、機動力を優先したかく乱型だ。決定力を持ったスキルが手に入ればもっと完成度が高まる。あえて言おう!」

空中に意識を向けている間に、背後から迫る重い足音。

ズシンズシンと、重量級の何かが突き進む音と共に、自身で作った石の棘を突進で突き破ってきたアステルが、空中に逃げて障害物にならなくなったステラによって上に意識を向けさせられた俺に襲い掛かる。

「見事!御身事!ここまで綺麗なスキル構成と連携は初めて見た!」

その2人の練度の高さと、戦略性、そして確固たる成長の方向性を持っていることに俺は心の中で拍手を送り、口では称賛の言葉を贈る。

正直なところ、ここまで見せてくれるなら負けて、褒美を与えても良いかと脳裏によぎったが、そんなことをしたら全力を出している2人に失礼だと思った。

地を制そうと、震脚という踏み込みで地面を揺らしつつ自身の攻撃力を上げるスキルを発動させるアステル。

空を制そうと、アステルが作った足場に飛び乗り立体的動きを維持しつつ空歩のリキャストタイムを稼ぐステラ。

ああ、惜しい、本当に惜しい。

この構成は、FBOでも強いと考えられるスキル構成の一つだ。

俺の口元が笑みを浮かべる。

これを独自で考えたとしたら、その過程がすごく気になる。

どうやれば強くなれるか考え始めるのは、簡単だが、その途中で絶対に悩み、そして止まる。

そこからさらに悩んで、どうにかこうにか答えを出しても、それが正解かどうかは試してみないとわからない。

試行錯誤を繰り返して、正解と言えるような結果を導き出すしか方法はない。

「だからこそ、少し前の俺が放った言葉が惜しい!全力を出せないことを!出してしまったら負けてしまうからな!!」

そんな二人の努力を前にして、胸が高鳴る。

全身全霊で勝とうとした努力の結果を俺に見せてくれる二人に、全身全霊を持って応えられない自分が口惜しい。

「これでも押し切れないのね!」

「っ。まだ!」

縦横無尽に動き回り、影分身でかく乱し、魔法で攻撃し、さらにショートソードを振るうステラ。

対になるように、その場にどっしりと構え、大樹のごとく俺の正面に立ち、両手剣を振り回し、地面を揺らし、相手の足場を徹底的に崩そうとするアステル。

この二人の連携を、俺は真正面から打ち崩す。

「ああ!連携は良い、練度も良い、発想も良い!これを受ければほとんどの敵は屠られる」

全力を出しているのは、二人の額に流れる汗から察することができる。

二人からすれば、この陣形を出すことは必ず勝つための策のはず。

しかし、その連携でも俺を打ち崩すには至らない。

半身で躱し、タイミングを徹底的に管理し、相手の動きを俺の動きに連動させる。

俺が一見ゆっくり動くから、目で追えるし、ある程度の動きの予想が出来てしまうから、気づかぬうちに二人は俺の動きに合わせてしまって動きの幅が狭まってしまっている。

動きとは、将棋だ。

自分がいかに自由に動き、相手をいかにして誘導し行動を制限するか。

歩幅を調整したり、まれにゆっくりと動いてみたり、時に止まらぬタイミングで止まってみたり、相手の虚を突くことでこちらに来る手番の際に相手を大きく揺さぶり、相手の動きを予想して、体の位置を常にいやらしいところに運ぶ。

そうすれば自然と俺の動きに、相手は自分の意思で合わせるようになる。

そうなれば。

「っ!」

攻勢に回っているはずなのに、ダメージがじわじわと蓄積する。

木剣と侮ることなかれ、革鎧を着込み、防御性能を上げるスキルを使い、踏み込みを制限させることで俺の攻撃力を下げていようが、木剣でもコツコツとダメージを与えることはできる。

俺が全力で木剣を振るうとあっさりと折れてしまうから、正直素手の方が強かったりもする。

でも素手だと、あっさりと背後を取って投げ技からの顎に攻撃して脳を揺らして動きを封じるっていう戦法が使える。

なので、この木剣もハンデなのだ。

その木剣で、空中のステラを迎撃しつつ、再び左半身にダメージを蓄積させて、どんどんアステルの動きを鈍らせていく。

躱した顔の横をファイアボルトが通り過ぎていく。髪を焦がさないように気を付けつつ、地面に着弾したのを横目に、俺がアステルを先に仕留めようとしていると二人に意識させ。

「ここっ!」

ステラが、焦って攻撃手順を変える瞬間が俺の狙い。

「ほい、隙あり」

「!」

攻撃が段々と鈍くなっているアステルには、この反撃を防ぐことは叶わない。

影分身の陽動から、魔法の斉射、そして死角からの攻撃。

ステラができうる限りの手段を講じて、流れを変えようとした瞬間を狙って、こっそりとブーツを脱いだ右足の指でステラの鎧の端を掴む。

足袋を履いているから、親指と人差し指の間が実は開いていてこの俺のステータスなら。

「よっと」

「!」

足で投げ飛ばすなんて荒業もできてしまう。

そんなの有りかと目を見開くステラに、禁止されてはいないよねと笑みを浮かべ地面に叩きつける。

「かはっ!?」

頭からは落とさないように配慮しているけど、それでも全身を地面に打ち付けられるのは生半可な痛みではない。

意識は残っている。

だけど、復帰するまでは致命的な隙を晒す。

下段払いで、木剣の剣先をステラの顎をかすめるように振るって意識を飛ばす。

「ステラ!」

「大丈夫、手加減はしているから。それじゃ、ここで暴れるのは危ないから少し離れようか」

ステラが死んだふりをしていないか警戒しつつ、片方の動きが止まったことで一対一になったアステルの鈍くなった攻撃を掻い潜って。

「踏み込みからの、持ち上げるように背面から打つべし!!」

鉄山靠(てつざんこう) と呼ばれるタックルで、しっかりと衝撃を体内に通して肺の中の空気を吐き出させる。

クラス8のステータスは伊達ではないよ。

体格的にもスキル効果でも重量があるアステルを、簡単に吹き飛ばせるんだから。

ゴロゴロと転がって、ステラから離れていくアステル。

そして、仰向けに倒れ込んで、どうにか起き上がろうとしているが、衝撃が強すぎたのか中々立ち上がれない。

「そこまで!そこまでだ!!これ以上はダメだろ!!」

そのタイミングで、デントさんが介入してきた。

慌てて走り寄って来て、俺の前に立ちふさがる。

「勝負はついた!お前の勝ちだ!!」

審判役として、そして後輩を守ろうとする先輩として、必死に俺の前に立ちふさがった。

「俺は良いんですけど、その二人が納得できます?」

「まだだ」

「ええ、まだよ」

「お前ら負けず嫌いすぎるだろ!!それ以上やったら本気で怪我するぞ!!こいつが手加減してくれてるから大丈夫なだけなんだからな!!」

そしてそれに対して、俺は異を唱えない。

審判が止めといったのなら、それに従うのがPVPのマナーだ。

ゆっくりと木剣を下ろして、戦闘態勢を解くとデントさんは安堵のため息を吐くが、それに反して、ゆっくりと立ち上がる兄妹たちの目が諦めていない。

なので、今度はそっちを止めることになる。

「そんなふらふらな体で、こいつに勝てるわけないだろ!!最初に会った時からおかしかったが、少し見ないうちに本気でヤバくなってる奴だぞ!」

「ちょっと、デントさん、風評被害が甚だしいんですけど?」

両手剣を地面に突き立て起き上がろうとするアステル、意識をどうにか復帰させて必死に両手を地面について起き上がろうとするステラ。

「事実だろ!?とにかく、この模擬戦はここまでだ!!おい、嬢ちゃんたち!二人の治療をしてくれ!」

「ポーション出しますよ?」

「スキル訓練になるから、良いんだよ。足りなかったら寄越せ」

「あ、はい」

そんな二人にドクターストップならぬ、先輩ストップをかけ、さっき俺をじっと見てたライナとジュリに声をかけて治療を始めた。

あの二人はヒーラーなのか?

そう思ってたが、金髪の少女ライナの方がヒーラーのようで、戦闘の中で一番打ち付けられていたアステルの方に駆け寄り先に治療を始め、茶髪の少女ジュリの方がステラに駆け寄り、起き上がらせて触診を始めていた。

冒険者は、怪我の治療も訓練に変えて経験値にする。

そんな光景を見せられつつ、治療されながらもジッと俺から視線をずらさない2人の負けん気を見て。

「デントさん」

「なんだよ」

俺は迷わず、デントさんの名を呼び。

嫌な予感がしていると言わんばかりに顔をしかめる彼に向かって。

「あの二人ください」

「ダメに決まってるだろ」

おねだりをするのであった。