軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 可能性の塊 2

「本当に、本当に頼むぜ?」

念押しのように、俺に頼みながら、模擬戦を開始するので離れていくデントさん。

こっちの軽装に対して、向こうは戦場で使うような本気の装備。

「本当によろしいのですか?今なら私たちも武器を変えられますが」

「いくら自分たちがDランクとはいえ、2人同時など」

おまけにステラとアステルは2人組で挑むということに対して後ろめたさを感じている。

デントさんというベテランの先輩冒険者にもコンビなら勝てるという自負。

そして自信から来る言葉なのだろうが、問題ないと俺は木剣を持っていない右手で手を振る。

「大丈夫大丈夫、それと、俺はスキル使わないし走らないから。あとは、そうだね利き手の右手も使わない」

「「……」」

その自信から来る親切心を、俺は笑顔で断り、さらにハンデを加える。

2人ともそれで機嫌を損ねるようなことはしないが、それでも雰囲気が若干険しくなるのがわかった。

「あと、勝利条件だけど、俺は二人を戦闘不能に持ち込むか、君たちが降参するかで勝ち。そっちの勝利条件は……」

そこで止めることなく、俺はさらに相手を敢えて煽るような条件を付ける。

顎に右手を当てて、考え込むような仕草を数秒。

「うん、一撃。どういう形でもいいよ、攻撃を当てたらそっちの勝ちでいい」

さらに、俺は一撃ももらってはいけないという縛りを課す。

舐めプにもほどがあると思うかもしれないが、逆だ。

「本当によろしいのですね?」

やる気を出させるために、ここまで縛らないと主人公の本気が見れないからこそ、ここまで制限するのだ。

案の定、ステラの瞳には並のやる気を越えて、反骨心が宿った。

アステルの瞳にも闘争心が宿った。

「ああ。そうだもう1つ」

そこにさらに本気を出すための燃料を投下しようか。

「もし、俺に勝てたら、俺にできる常識的な範囲でお願いを一つかなえてあげよう」

「「っ!」」

「あ、信用してない?じゃぁ、知恵の女神ケフェリ様の名に誓おう。俺が敗北したら、君たち二人から1つだけ願いを受け取りそれが可能なら叶えるよ」

この街の権力者の中で、俺がトップだ。

そんな俺からただ模擬戦をして、勝てれば褒美が貰える。

それがどれだけ主人公たちのやる気を引き出すかわからなかったけど、俺が女神の名を出したことで二人は互いに顔を見合わせ、頷き合う程度にはやる気が引き出せたようだ。

さてさて、自主的にやったとはいえ、走ること禁止、利き手の使用禁止、スキル禁止、装備も万全じゃない。

これで、勝ちを拾わないといけないのか。

「負けたら私たちに何か求めることは?」

「ないね」

「……わかりました。それでお願いします」

取り決めはここで終了、あとは戦うだけ。

ちらりと視線をデントさんに向ける。

「はぁ、それじゃぁ、互いに構えろ」

本当にやるのかと、最後まで視線で確認し俺を含めて全員がやる気を出していることを察して大きくため息を吐いてから手を振り上げ。

俺が脱力した無構えで、ステラとアステルの2人が武器を抜いて構えたことで準備は整う。

「始め!」

さぁ、蹂躙を始めよう。

走ることを禁止した俺は、当然跳びかかるなんて頓智の利いた方法を実践することはない。

約束通り、普通に歩き始める。

競歩のような早歩きでもない、普通の徒歩ペース。

だらりと腕を垂らし、無防備に歩いていく。

「いつも通りに行くぞ」

「わかったわ!」

様子見の2人は、本当に俺が歩いてくるのを見て、迎撃するよりも攻めた方が良いと判断したようだ。

スッと、身長が高く体格がいいアステルの陰にステラが入り込み、姿を隠すと。

「ハァアアアア!!!」

雄叫びを上げながらアステルは駆け出してきた。

大振りな両手剣を上段から振り下ろす。

攻撃力重視であり、尚且つ、俺の持っている木剣では受ければ砕け散り、反撃しようにも間合いの外。

さらには、反撃しようとしたら背後に控えているステラがその隙を突くようにしている。

攻撃に対して迷いがないのは、ステラのサポートを全面的に信用しているからか。

うん、いい連携だ。

だけど。

「ちょっと、甘いかなぁ」

「!?」

受ければ砕かれ、踏み込めば迎撃され、一見すれば躱すしか無いかのように見えるし、走れない俺はその暴風のような剣技から逃げようがないかもしれない。

だけど、まっすぐな攻撃、仲間を信用した捨て身の剣は。

「もう少し、自分でフェイントを入れましょう」

そっと、木剣を振り下ろしてきた両手剣の側面に沿わせ、ちょっと力を入れて逸らしてやればアステルの体勢は崩れ、踏み込んだ俺はアステルを軸に、ステラと対角線上に出る。

「えいやっと」

そうなれば、ステラのサポートはワンテンポ遅れ、地面に向けて振り下ろしそうな重い両手剣を、鍛え上げた足腰を使って強引に切り返そうとするアステルの次の攻撃までの隙に一撃入れることもできる。

狙うは、両手剣の長い柄の下の方を握る左手の親指。

軽く、本当に軽く打ち付けるだけで、両手剣の軸はぶれる。

「あらよっと」

それだけで、下から上に切り上げる刃の勢いは死に、それでも無理矢理当てようとする刃をくぐるよう屈めば躱せる。

指という神経が張り巡らされた急所は当然だけど、籠手で守っている。

だけど、衝撃というのはそう簡単に防げるものではない。

「ハァ!」

その攻防で生じた僅かな時間に、最短距離で回り込み、攻撃してきたステラ。

アステルの崩れた体勢の隙間を縫うように、繰り出されるショートソードの正確な刺突。

そして突きを放つ体勢から、アステルが体勢を修正する時間を稼ぐためにステラが前に出て前後を入れ替えた。

「おお」

その綺麗な動き、そして迷いのない判断。

アステルはひとまず、生身の技術とパッシブスキルだけで挑んできた。

しかし、ステラは迷わずスキルを使っている。

ショートソードに付与されているのはマジックエッジ。

その先端はレイピアのように細長く伸ばされ、研ぎ澄まされ、鋭利な魔法の刃となり、本来なら届かない間合いから俺を攻撃してくる。

屈んで回避という姿勢の悪さを迷わず狙う判断。

良きかなと称賛しつつ、瞬時に安全圏を割り出した俺は、体幹を駆使した変則的な動きで体をさらに傾け、さらに足を広げて地を這うような低い姿勢でさらに下に潜り込む。

そして突っ込んできた彼女の下に潜り込み、持ち上げるように背後に投げ飛ばす。

「……大丈夫か?」

「平気、受け身は取ったから」

この攻防で分かったのは、信頼度。

互いの攻撃を言葉にせず、アイコンタクトすらせずともしっかりと理解し合って行動できている。

ガチプレイヤーでも中々できない領域の技術。

投げ飛ばされ、転がるステラをカバーするように俺に追撃するよりも守ることをアステルは選び、仕切り直しを考えられる視野の広さ。

「ふむふむ」

スキル頼りじゃない、基礎ができたしっかりとした戦い方だ。

「じゃぁ、次はスキルをもう少し引き出してみるか」

なら、次に見たいのはスキルを使った複合的な戦い方だ。

おそらく、アステルは体力寄りのステータスで両手剣を軸にした近接戦闘職、それもタンクとアタッカーを兼任したタフネスタイプ。

ステラは、補助魔法を付与した魔法剣により、ショートレンジからミドルレンジまで攻撃の幅を持たせる、機動力を併せ持った魔法剣士タイプか。

さらにスキルを引き出せば、それもわかるからここから先は答え合わせだ。

俺はゆっくりと歩き出し、起き上がり、構え直す二人。

「フッ!」

今度はステラの方から攻めて来た。

アステルの方も威圧するように、囮と見せながら追随しているところから連撃からの攻撃か。

剣にはマジックエッジ、さらに。

「行って!」

「うん、ファイアボルトか。接近戦で使うならいい判断だ」

射程と火力が、他の魔法よりも低めに設定されているが、近接戦なら速射能力に優れたファイアボルトは普通に有能だ。

スキルリキャストタイムが短く、魔力消費も低い。さらに連射もできるし、魔力のステータスを上げれば火力もある程度出る。

俺も昔、近接魔導士として作ったキャラで使ってた。

おまけに発動範囲は、割と自由が利く。

掌、指先、そして。

「手から放出するのが本命と見せかけて、足先からも出せるか。相当練習してるな」

一見すれば、バックラーを装備している手から放出するのが本命のように見えるが、それは囮で、わざと声を出して発動を知らせたのも素人臭さをだして不意を打とうとした。

足先から直上に上がるファイアボルトをスウェーバックで躱して、動きが遅れた俺をサイドステップで横に飛びながらショートソードをマジックエッジで延長した横凪ぎで攻撃しつつ、今度はアステルが突っ込んできた。

ステラの攻撃をわずかに木剣を削られつつも受け流し、アステルへの対応は、踏み込んできた足を上から踏みつけ、木剣の柄で顎を殴ることで防ぐ。

「ほうほう、ヘビースタンスと鋼体か。いいね」

殴った感触は人のそれではない。

明らかに硬質な物体を殴りつけた手応え、そして、吹き飛ばされず、その場に踏みとどまっているのは重量が増しているから。

「でも、こういう攻撃には弱い」

ステラはサイドステップからの戻りが早い、しかし、ほんの数瞬の隙ができた。

ダンスをするかのように、アステルの体を軸にくるりとターンをして、アステルと背中合わせになり、そのタイミングで、アステルの後ろ脚の膝裏を蹴る。

重量が重いと、こういう軸足が本当に重要なんだよ。

「そうして横に一撃」

「っ!?」

バランスが崩れると、重量系のスキルは隙を晒してしまう。

吹き飛ばないことは確かにメリットだけど、倒れると復帰に時間がかかるんだ。

殴られ、ダメージはないが形的に追撃をしようとしたステラの方向に倒れ込むような形になったアステル。

「からの」

それを避けるしかないステラの動きに合わせて、こっちもカウンターの払い打ち。

「パリィ」

アステルを助けるために俺の一撃を弾き飛ばし、ステラが体勢を崩したところに回し蹴り。

「そして」

「しまっ!?」

バックラーを差し込む時間を与えてステラを吹き飛ばしたので、これで2人の連携が崩れた。

ステラが戻ってくるまで、三秒ってところかな。

転がり、そして体勢を戻す、さらに走り寄って助けに入るまでにそれくらいの時間はかかる。

「……」

その間、どうにか体を起こそうとするアステルは俺と一対一を耐えなければならない。

そんな意志を見せるアステルは攻撃ではなく、防御を選び、その構えで耐えようとしたが。

「こうやって」

「!」

「こう!」

そんなときに使うのは目線のフェイント。

どう来るかわからない攻撃をされている最中に、急にわかる行動が混じると人間って言うのは判断に悩む。

今は左手を再び打ち抜こうとした視線を敢えて送り、もう一度攻撃されると思ったアステルはそれに反応したが、それが囮。

下がった刃の側面を思いっきり横に叩き飛ばし、あらわになった肩にめがけて木剣を柔らかく振り抜き。

「っ!」

革鎧越しに、肩にダメージを通す。

『通し』と呼ばれる波動で身体深部にダメージを送る、打撃系に使われる技法で、スキルにもあるけどこうやって技能だけで再現もできる。

両手剣は確かに強力だけど、片手が使えなくなると一気に鈍足になる。

狙うは左側だけ、半身が使えなくなるだけで、戦力は一気に激減する。

鋼体のスキルで防御力が上がっていると言っても、無敵というわけではない。

肩、肘、膝、足首。

両手剣の間合いでは立ち回れない距離を維持し、ほどほどの速度で通しを四回叩き込み。

「アステル!」

そのタイミングで、ステラの救助が来た。

「大丈夫?」

「……」

左側を重点的に攻められ、バランスが悪いアステルは安否確認を芳しくない表情でしか返せていない。

「そう、じゃぁ、最後にあれ、やってダメなら諦めましょう」

「わかった」

だが、諦めていない。

主人公らしく最後の切り札に勝負をかけるみたいだ。

なにをするか、楽しみだ。