軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 悪ガキの恩返し

残る作業は、邪神教会の面々がエンターテイナーたちに雑にドナドナされていくのを横目に、彼らの荷物の中にあった天幕を設営することだ。

そこに、フライハイトに連れていく可能性のある面々を呼び出した。

面談は俺とクローディアが担当。アミナとネルには、親元に返す予定の子供たちを次女さんと一緒に見てもらっている。

「ということで、初めまして」

「初めまして」

「えっと、よろしくお願いいたします」

「「「「「・・・・・」」」」」

天幕は中々広い物で、大人数で入ってもそれなりにスペースがある。

その分、設営場所に制限がかかるが、今回ばかりはちょうどいい。

挨拶をしたものの、返事をしたのはペトラだけだ。

子供たちは俺たちを信用すまいと、ジト目を向けている。

中にはペトラの陰に隠れている子供もいる。

信用していない。

それが明確にわかる視線を俺に、いや、俺たちに向けている。

まぁ、その気持ちはわかる。

なにせ得体の知れない大人に誘拐されて、何処とも知れない場所へ連れていかれようとしていたのだからな。

ここで俺たちを無条件に信用するようなら、逆に心配になるレベルだ。

唯一ペトラだけが、頭を下げて挨拶をするのは予想通りだった。

ギャンブル会場では異常なほど目を血走らせ、叫び、興奮して暴走する彼女だが、流石にこの状況では大人しくなるらしい。

「まずは自己紹介からだ。俺はリベルタ。今回、偶然にも君たちの誘拐事件を知って助けた人間だ。それでこっちが」

「神殿にて司祭の地位を頂戴している、クローディアです。彼のパーティーメンバーを務めています」

保護者役に収まっているペトラの背後から、子供たちが俺たちを値踏みするような眼を向けてくる。

さっき次女さんに懐いていた子供は純粋な感じがしたが、こちらは擦れているといった表情だ。

子供同士で顔を見合わせ、名乗るべきか否か、そのメリットとデメリットを天秤にかけている。そんな目だ。

「ペトラ・ローンです。それで、この子たちは……すみません。ここで出会ったばかりなので、詳しくは分かりません」

「ああ、構わない。呼び出したのは他でもない。今後のことで話したいと思ってな」

「今後ですか?」

「ああ。選択肢を絞るような言い方になるが、ここにいるメンバーは全員、邪神教会に目を付けられた人間だ。それを踏まえて、今後どうしたいかを聞きたい」

彼らの警戒心を解こうとはせず、そのまま話を進める。

実際、その警戒心は貴重なスキルだ。

無警戒で行動を起こすことは一見すれば純粋で素直だが、自主性が無いとも言える。

警戒し、自分で考え、行動することができる。

それは利点だと俺は考える。

「どうしたいか、ですか? てっきり、このままあなたに連れていかれるのだと思っていました」

「誘拐されてきた子供たちの中で、親元に帰れる子は返す。その際、神殿から然るべき報告を入れるから、邪神教会もおいそれと手は出せない。そもそも子供一人を追うメリットとデメリットが釣り合わないからな」

考えるということは重要だ。

それをこの若さで身に着けていることに敬意を表し、俺は質問に正面から答える。

「そういう理由で、保護者がいる者は安全だと言える。いざとなったら神殿の一員になれるよう手はずも整えている。代わりに、生活には色々と制限がかかるがな」

「どのような生活になるか大まかに説明しますと、神殿の規律に則った規則正しい生活、栄養バランスの取れた食事、そして日々の暮らしのすべてを神に捧げることになります。あなた方が享受してきた自由は失われると考えてください」

子供だと思って適当に誤魔化したりはしない。

はっきりと、これから迫る現実的な選択肢の内容を教える。

「ちなみにこれは、望むならこの場にいるお前たちにも適用される。制限は多いが、真っ当な生活が待っている選択肢だ」

「その点に関しましては、私が責任を持って対処することを約束します」

嘘偽りはこの手の子供にはすぐに見抜かれる。

不遇な環境で過ごしてきた子供は存外に勘が鋭い。その分、一度でも騙せば信頼は一気に失墜する。

それはもう、ナイアガラの滝の瀑布のように一気に流れ落ち、地面を穿つほどだ。

逆に上昇する時は、ナメクジが進むスピードかと思うほどに遅い。

「あんたが、本当に司祭様だって証拠がない」

案の定、子供の一人がクローディアを指さして疑念をぶつけてきた。

「俺たちをさらった奴も、見た目はいい奴だった」

騙された経験を糧にする、真っ当な感性だ。

俺は心の中で感心しつつ、この疑いを晴らす義務を負った。

ここで誤魔化すこともできるが、そうなれば不信感を拭うことは二度とできなくなる。

となると証明が必要だが。

「うーん、クローディアを知らないか」

「私もまだまだですね」

クローディアは若くして神殿で大司教まで上り詰めた傑物として世に知られている。

知名度という点ではこれ以上ない人物なのだが。

その顔を知らないとなると、証明は難しくなる。

「あのぉ、私はその方がクローディア様だって知っていますけどぉ……」

そんな有名人を知る余裕もないほど過酷な生活を送ってきたのか、と思っていたら、ペトラがおずおずと手を挙げて証言してくれた。

「この人、有名なのか?」

「姉ちゃん、こいつらにお金で脅されてない?」

「スラムのじっちゃんも、金が回らなくなって嘘ついてた時があったぞ」

「本当ですよぉ!?」

そのやり取りの途端、子供たちの雰囲気が少しだけ柔らかくなった気がした。

具体的に言うなら、鋭い警戒心の中に親しみが混じった。

俺たちに向ける視線と、ペトラに向ける視線の温度差。

その変化に気づいたのは俺だけではない。ちらりとクローディアを確認すれば、彼女もまた頷いて肯定を返してきた。

「・・・・・姉ちゃんが本当だって言うなら、あんたたちは神殿の関係者ってことにしとく」

「信じてくれて何よりだよ」

ペトラのリアクションが真に迫っていたから信じたというより、この道中でペトラが子供たちの心を掴む何かをしたと考えるのが妥当だろう。

「じゃあ、それを踏まえて他の選択肢だ。二つ目は、俺たちとここで別れて自分たちだけで生きていくこと。個人的には、この選択は取ってほしくないがな」

「私たちは無理矢理あなたたちを連れ去る気はありません。あくまで、私たちができる支援を提案しているだけですので、貴方たちの自由意思を尊重します。ですがリベルタと同様、これが一番危険な道であることは前もってお伝えしておきます」

何があったのか今確認する術はない。

探りを入れた段階で、子供たちの警戒心はまた跳ね上がるだろう。

今は「ペトラを信頼している」という情報だけで満足しておくべきだ。

「ようは、俺たちを見捨てるってことか?」

「ある程度の金銭と食料は渡す。だが、それ以降は俺たちは一切手を貸さない。冒険者になるなり、商人に雇われるなりしてくれ。当然、自衛も自力だ」

あえて、突き放すような厳しい言い方をする。

推奨しているわけではなく、今の距離感において最も妥当な、嘘のない提案だからだ。

俺たちを完全には信用できない。

助けてもらった恩はあるが、素直に頼っていいか疑っている。

その心情で、無条件に手を差し伸べられることを素直に受け入れられるかという話だ。

「あのぉ、さすがにそれは子供たちだけじゃ厳しいのでは?」

「厳しいと思うが、それを望む子供がいるのも事実だ」

「そんなこと・・・・・」

案の定、ペトラが残酷すぎると抗議してきたが、俺はそれを厳しく跳ねのけ、子供たちに視線を向ける。

ペトラもそれに倣って子供たちを見ると、そっと顔を逸らす子が何人かいた。

信じることは一瞬で壊れるが、裏切られ続けた者が再び誰かを信じるのは、それほどまでに難しい。

「何も、この場に放り出すわけじゃない。最低限、治安の良さそうな街までは連れていく。その際、全員が数カ月は食いつなげるだけの金銭は渡す。それで助けた責任は果たしたと、俺たちは区切りをつける。それだけの話だ」

「・・・・・他に、ないのですか?」

神殿での不自由な保護か、金だけ渡されての放逐か。

あまりに無慈悲な二択に、ペトラが懇願するような表情で聞いてくる。

「三つ目。俺の保護下に入ることだ。俺はとある街の長をやっていてな。そこは今、かなりの人手不足なんだ。だから、街の労働力になってくれるなら、衣食住と教育を保証し、職も斡旋する。私生活に関しては、犯罪にならない限り自由にやっていい」

「……俺たちに、奴隷になれって言うのかよ」

用意していた本命の選択肢を提示する。

説明不足だったか、一番反抗的な視線が飛んできた。

馬車馬のように働かされ、雀の涙ほどの報酬で使い潰される未来を想像したのだろう。

「違う違う、そんなことはしない。俺の街に来るなら、まずは学生として読み書きと計算を学んでもらう。そこから適性を見て職人の下で研修を積み、一定の成果を出せるようになったら独立も許可する。それが俺の提示できる条件だ」

「ウソ、ですよね……?」

「司祭の地位を以て、神々の名に誓い、リベルタの言葉が真実であることを私が保証します」

あまりに好条件な内容に、ペトラが思わず耳を疑う。だが、この世界で何より重い「神々への宣誓」をクローディアが口にしたことで、それが嘘ではないと証明された。

「いい話だけだと疑われるだろうから、一応デメリットも説明しておく」

それでも拭えない不安は、「話が旨すぎる」ことにあるはずだ。

これほど先のことまで考えられる子供たちの将来が少し不安だが、包み隠さず話す。

「俺たちはこの国から独立した、大陸の領土を持っている。だから、その領土の法律に従ってもらう。学生になる際には、情報漏洩を防ぐために神を仲介とした契約も結んでもらう。だから、完全に自由かと言われればそうじゃない。法治国家として、今までみたいに好き勝手な自分ルールで生活することはできない。それだけは覚悟してくれ」

知識と経験、そして生活を保障するのは大盤振る舞いに見えるが、その分だけ街のシステムに組み込まれることになる。

「労働力になってくれ」というのは、ある意味で「他所の街へは簡単に行かせない」という制限でもあるのだ。

「以上三つが、俺たちが提案できる未来だ。先に言っておくが、これ以外の選択肢を選ぶならご自由に。ただし、その自由を行使した後に俺たちが助ける保証はない。それだけは肝に銘じておいてくれ」

すぐに判断はできないだろうと、釘を刺して考える時間を与えようとした、その時。

「……あんたの街に行くって言えば、姉ちゃんの借金もなくなるのか?」

一人の目つきの悪い子供が、射抜くような視線で俺に問いかけた。