軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

6 スキルにはこういう使い方がある

精霊の救助は成功。

あとは、安全な場所に連れていくということだが、問題は精霊の安全な場所がどこかということだ。

「それじゃぁ!一気に下るぞ!!」

『うん!』

こういう敵に追われながらステージクリアを目指す時に、ゲーマー心理でありがちなのは、上に行けばクリアだと思うことかもしれないが、残念ながらこのステージでは頂上に登るのではなく、普通に安全なふもとまで下山するのが正解だ。

洞窟を飛び出し、一気に跳躍し急降下で下山を始めている背後には、こっちも飛び跳ね追いかけてくるアイスイェティの集団。

そんな追いかけっこなどせず、精霊なら精霊回廊を使ってさっさと脱出すればいいのにという話になるが、こういう時はだいたい使えなくなっているから、時短のためにあえて聞かず、さっさと下山を始める。

この山岳ステージは中々に広大。普通に下山するとなると、アイスイェティたちの追跡から逃げ切るのは、この積雪量も鑑みれば土台無理な話。

空歩を使ってもリキャスト時間を待てば背後のアイスイェティに追いつかれてしまい、戦闘は避けられない。

「ははは!持ってて良かったマジックエッジ!!」

『すごいすごい!!』

そう、普通なら避けきれない。

しかし、ゲーム廃人の俺たちFBOプレイヤーが当たり前の方法で果たして攻略するだろうか。

いや、しない。

足の裏に展開したマジックエッジは、つま先と踵から飛び出るように伸びて、少し大きなスケート靴のような形状に変化。

圧雪されていない雪だとそのまま刃が食い込んで、滑ることもままならないだろうけど、そこはイメージの問題。そのまま刃を横に寝かせてくっつけてしまえば、あら不思議、ショートスキーの完成だ。

『『『『ウホ!?』』』』

空歩を使い切り、そのまま雪の中にダイブするかと思って待ち構えていたアイスイェティたちの驚愕の声を背に聞いて、そのままスキー下山といこうか。

「リアルのスキーなんて、何年ぶりだ?」

『スキーって?』

「今みたいに、板を足に着けて滑る遊びだ!」

『スキーって楽しいね!』

「おう!楽しいぞ!後ろに怖いゴリラたちがいなかったら、もっと面白いがな!」

ゲームの中では何度もやっているから大丈夫だとは思っていたが、リアルだと本当に子供のころにやったきりだから、少し不安だった。

大人になってからやったのはスノーボードだからな。

こっちができるか不安だったが、体というのは思いのほか覚えているようで、スムーズに滑走していく。

「まぁ、これはこれでスリリングで楽しいだろ!?」

『ちょっと怖いけど楽しい!』

火の精霊を抱えながらのダウンヒル。

余計なトリック技を決めずに、ただただ速度を出すために加速し、障害物である木々を避けつつ、ショートカットできるところはジャンプでショートカット。

精霊というのは新鮮なことが大好きだ。

スキーという初体験は、彼の好奇心に火を灯し、楽しさが恐怖を上回る。

「そうかそうか!」

スキーによる移動速度は走るアイスイェティを上回り、どんどん引き離していくが、残念ながらこのエリアはアイスイェティの縄張り。

『前!?』

「別動隊か!さすがに音速は超えられないよな!!」

ドラミングの音で伝達され、俺たちの前にも待ち構えるアイスイェティの群れ。この先は通さないと腕を大きく上げて、牙をむき出しにして威嚇する姿に、精霊は楽しさを引っ込めてぎゅっと俺に抱き着く。

「そんな窮地も、何とかするのがぁ!!!!」

そんな彼の背中を優しく叩き、大丈夫だと言い。

「リベルタさんさ!!」

ここで初めて、トリック技を見せる。

待ち構えるのではなく、突撃してくるアイスイェティの一体が腕を伸ばし捕まえに来るが、雪のくぼみを使ってジャンプをして縦回転。

するりと腕の下を過ぎ去り、見事に回避成功。

『ガウ!』

一体躱したとて、まだまだ敵はいる。

今度は二体、背後に四体、さらに続々と出現するが。

「クルクルクルってね!!」

ターンやジャンプを駆使し、次から次へとアイスイェティたちの包囲網を掻い潜り。

「あらよっと!!」

『抜けちゃった!』

「ああ、抜けたさ!!」

ほんの数秒で、アイスイェティの壁を抜き去り奴らを置き去りにする。

その後も一回、二回と奴らは先回りして、幾度となく立ちふさがってきたが、その都度回避して見せる。

『お猿さん、いないね』

そうして山を下山していくと、ふとした時にピタリと襲撃が無くなった。

「ああ、そろそろ大技が来るってことだ」

『大技?』

「そうそう、俺たちを捕まえられないって怒った猿たちがやらかす大技さ」

中腹に差し掛かり、このペースでいけばそう遠くないうちに下山できるなと思うが、その前にもう一波乱起こるのがわかっていた。

その兆候である、モンスターの消失。

「・・・・・来たか」

『何の音?』

そして直後に響く、ドスンドスンという地鳴りのような音。

そして何かが崩れる大きな音。

「雪崩だ」

『後ろから雪がいっぱい来る!?』

この雪山フィールドでモンスターが発生させる雪崩は、この山の中では逃げ場がないと言われるほどの広範囲だ。

一度発動されたら最後、下山しきって離れるまでその雪崩は押し寄せてくる。

そして。

『お猿さん!』

「相変わらず器用な猿どもだ」

その雪崩の上にはアイスイェティたちの姿がある。

ビッグウェーブに乗るサーファーかとツッコミたい気持ちになる光景が背後から迫る。

ゴゴゴゴゴゴという轟音を響かせる雪崩の上に、大きな木に乗り、バランスを取って滑ってくるアイスイェティ。

雪崩の速度はどんどん上がり、俺たちに迫る。

『追いつかれる!?』

「問題なし!」

その雪崩が、俺たちの背後に迫ってきた瞬間、俺は空歩で跳躍して同じように雪崩の上で滑走を始める。

『ウホ!?』

そんなの有りかよとアイスイェティからツッコまれたが、相手の攻撃を利用するのがFBO流。

こんなこと日常茶飯事だよと、笑って見せると『ムキー!?』と怒りに染まったアイスイェティたちが大きな雪玉を次から次へと投げてくる。

「当たらなければ問題なし!」

『すごいすごい!!』

豪速球で投げ込んできていても、所詮は直線的に飛んでくる雪弾に過ぎない。

当たってこけてしまえば雪崩に飲み込まれるという大惨事になるけど、そんなへまを俺がするわけがない。

「御返しだ!」

『ウボ!?』

『当たった!!』

むしろ滑走しながら雪を拾い、そして雪玉を作ってやり豪速球でお返ししてバランスを崩させて、雪崩の中に放り込む。

「二つ目!」

『後ろから来るよ!』

「おうさ!」

滑っては雪玉を作り、投げる。

それを繰り返しながら次々にアイスイェティを雪崩に飲み込ませていたが。

『ウォオオオオオオ!!!』

『大きい!』

「あれがボスだな」

その中でひときわ大きい個体が、雪崩に乗ってやってきた。

大木を器用に足で掴んで、スノーボード感覚で滑走してくる巨大なアイスイェティこと、ビッグフットファーザー。

葉巻が似合いそうな苦味走ったいかつい顔に、盛り上がった上腕二頭筋、筋骨隆々で胸板が厚く、白い毛並みがまるでギャングの白いスーツのように見えてしまうことから、俺たちはマフィアゴリラの愛称で呼んでいるモンスター。

その巨体から繰り出される攻撃は、ただの雪玉というには質量が大きすぎる。

救いなのは、アイスイェティもマフィアゴリラもフィジカル系のスキルしか持っていないこと。

これで魔法系統のスキルを持っていたら、面倒極まりない。

そして、取り巻きでさらにアイスイェティが増えて、雪玉による絨毯爆撃が始まり、さすがに受けきれないということで逃げの一手に移るが、数の差というのは覆すことはできない。

「ハハハハハ!当たらなければどうということはない!!」

しかし、ここで不安を見せれば精霊が怖がることを知っているので愉快に笑う。

実際、相手の攻撃パターンから着弾予測はできるから、予測撃ちされても回避しきれる自信はある。

それに。

『ウホホホホ!?』

お前たちはこの先にある物に気づいていない。

山岳ということで、もちろん渓谷みたいな断崖絶壁のようなエリアは存在する。

それも対岸までの距離が中々あるタイプの渓谷だ。

俺が闇雲に逃げ回っていると思われては心外だ。

猛吹雪の中であっても、方向感覚には自信があるんだよ。

滑っている先にある物くらいは把握し、その先に罠を張る。

それがゲーマーという存在だ。

アイスイェティの一体が、この先が崖になっていることに気づいて警告を飛ばしているが、雪崩は急には止まらない。

「さぁ、飛ぶぞ!!」

『・・・・・うん!』

雪崩が滝のように落ちていく渓谷に向けて、減速するどころかさらに加速する。

背後には減速して止まろうとして雪崩に飲み込まれ、それを見て何もできずワタワタと手を振り回すアイスイェティもいる。

そんな中、ボスであるビッグフットファーザーは加速しないとダメだと飛ぶ姿勢を見せる。

それを見て俺はあえて、減速し、ビッグフットファーザーの背後に回る。

奴は前の渓谷に集中しているから、こっちにヘイトは向かない。

そしてビッグフットファーザーが飛び上がった直後に、俺たちも渓谷から飛び出し。

『ウホ!?』

即座に空歩を発動。

そしてビッグフットファーザーを踏み台にして、バランスを崩させ、対岸よりもだいぶ遠い位置から落下させて雪崩に飲み込ませる。

その光景を見て、俺は空歩でピッタリ十歩で対岸に着地する。

そこは雪崩の被害も、モンスターもいない安全地帯。

「どうだ?怖くなかったか?」

『大丈夫!』

「そうか、そうか。もうすぐ迎えがいる場所までつくからな」

その場はゴールではなく、されど目的地まで残り僅か。

『あ!』

そうして進んでいくと、猛吹雪の中で燃える焔が目に入る。

その焔を見て、懐に抱く精霊が反応する。

そして、その焔もこちらに気づいたようなモーションを見せる。

これも罠で、敵に追われ続け、視界の先に見える焔を攻撃してしまうと。

『お母さん!』

『ああ、私のかわいい子。探しましたよ!』

この巨大な雌獅子の姿に変化した上位精霊との戦闘に突入してしまう。

精霊は人の姿とは別の姿を持っている。

そしてその姿は、たまにモンスターと見間違ってしまうほど恐ろしい場合があるのだ。

今回の彼女の変化した獅子は、息子を探しまわり気が立っている状況で、モンスターと見間違っても仕方ないほど殺気を振りまいていた。

母親だと気づき、飛び出す精霊を止めずそのまま送り出すと、女獅子は瞬く間に1人の女性へと変化し、俺が保護した精霊を抱きしめた。

『お母さん!あの人が助けてくれたの!』

『おお、人の子よ。この山の中でこの子を助けてくれたことを感謝します』

「いえいえ、成り行きですよ」

『それでも、助けてくれたことは事実。ここは獰猛なモンスターの多い地域です。何かお礼を差し上げないと』

それがどれだけこの精霊のことを大事にしているのかという証拠になるが、それならこんな危険な場所に来るなという心のツッコミと、試練だからそういう設定なのねという内心を黙らせ。

『これを。一度限りですが私が力を込めた魔法が使えます。何かの役に立つでしょう』

「ありがとうございます」

素直にお礼を受け取る。

手渡されたのは、炎の魔法が封印されているオーブ。

消耗品だが、一度だけクラス5相当の魔法が使えるのは大いに便利だ。

『お兄ちゃん、ありがとう!』

「いいよ、次からは迷子になるなよ」

『うん!』

『それでは、さようなら』

そうして救出クエストは終了、精霊回廊に入って消え去る親子を見送ると、その場に次の階層への転移魔法陣が展開される。

流石に今回のクエストはリピートすることはできないので、そのまま素直に転移魔法陣に入り。

「砂漠かよ!?」

次のエリアに怒鳴るのであった。