作品タイトル不明
14 飛んで火にいるなんとやら
競争は無事終了。
すなわち、この戦いは俺たちの勝利だ。
え?まだ戦ってすらいないのに勝ちを確信するのは慢心しすぎではないかって?
「クローディア、お疲れ様」
「リベルタ。ええ、中々いい勝負でしたよ」
ワールドモンスター相手の決戦の最中なのだから、流石にゆっくりと合流するわけではないので俺はエンターテイナーたちを引き連れてトラックを使って飛び降りて走ってきた。
そこにはトンネルを囲む形で包囲している御庭番衆とネルがいて、天拳のデメリットの解除を待つクローディアもいた。
「しかし、中々ない経験でしたね。超高速戦闘の感覚を掴むにはちょうどいい訓練でした」
「あきれたな。クラス9のワールドモンスター相手のガチの実戦だよ。普通に危険があったからね?」
汗を拭い楽しかったと宣うクローディアの肝の太さに苦笑しつつ、そっとポーションを差し出す。
「スタミナポーションだ。飲んでおいて。この後ももうひと働きしてもらうから」
「元よりそのつもりです。まだ決着はついていないのですから」
それを一気に飲み干すさまは、スポーツドリンクのCMに起用できそうなくらい様になっていた。
生身の肉体であれだけの超高速バトルをした後だというのに、なんて元気な。
「なら今は体力回復に努めて。動きを封じたと言っても、ランナーランナーにはまだダメージを一つも与えていないんだから」
「ええ。わかっています」
未だランナーランナーを倒していないのに、随分とのんびりとしている空気だが、俺は気にしない。
ひとまずクローディアが問題ないならいいと判断し、トンネルの方に歩く。
「ネル、中の様子は?」
「最初は暴れていたけど、だんだん動きが少なくなってきたわね」
そこは出入り口を固める御庭番衆が詰めており、俺はそっと中を覗き込んでいるネルに声をかけた。
耳をぴくぴくと動かし中の音を探っているのだろう。
「さすがに接着剤直撃は効いたか。完全に固まるまであとどれくらいかかりそう?」
「もうちょっとってところ、硬化剤を使う?」
中は俺の想像通りならとんでもなく悲惨なことになっているはず。
何せ天拳で強化したクローディアが、接着剤入りの容器をハニカム状に敷き詰めた地面に事前に設けてある踏みつけて良いポイントを正確に踏み抜き、閉鎖空間であるトンネルの中で後ろに接着剤をまき散らすように、クラス8の脚力で地面を蹴りぬいたのだ。
もう一度言おう、地面を後ろに向けて蹴りぬいたのだ。
そうなるとどうなるか。
そう、ドワーフたちが慎重に地面に設置した接着剤入りの容器がクローディアの蹴りによって中身ごと衝撃で空中にまき散らされる。
超強力な接着剤が暴風雨のように降り注ぎ、それを回避できる場所がないトンネルの閉鎖空間にランナーランナーがツッコめばどうなるか。
最初の十メートルは接着剤を浴びながらも突き進むことはできるだろう。
続く二十メートルも動きが鈍くなっても多少の減速で済むだろう。
しかし三十メートル付近から関節の稼働が鈍くなり致命的な減速になる。
さらに四十メートル、五十メートルと進む間にさらにクローディアの蹴りによってまき散らされた接着剤の嵐が、ついでにまき散らされた泥と混ざりランナーランナーに襲い掛かる。
完全に減速し、足を封じられたランナーランナーに回避するすべはない。
おまけにトンネルの壁を破壊しようにも、壁には弱者の証を混ぜ込んでいるから絶対に壊れない。
ランナーランナーがこの状況を打破することはできない。
せめてドラゴンのようにブレス攻撃の一つや二つ覚えていればどうにかできたのだろうが、全てを走力と回避に全振りしているスキル構成じゃ、クラス9のワールドモンスターといえどもどうやっても現状を打破できない。
「しかし、御屋形様、この接着剤の中ではさすがに拙者でも斬れませんぞ?どうするおつもりで?」
そんな中に封じ込めたは良いが、それで倒れるほどクラス9のモンスターは甘くない。
並大抵の耐久値ではないから、放置して自然死を待つなんてことをしたら何年いや、何十年という月日がかかるだろう。
「とりあえず、このまま接着剤が固まるのを待ってたら時間がかかるから硬化剤で固めちゃうか。そうしたら余分なところを切って掘り進めよう」
「わかったわ」
「承知しましたぞ!皆の衆行くぞ!」
「「「「「応!!」」」」」
なので、さっさと片付けるために、一緒に用意していた消火器みたいな見た目の物体を片手にトンネルに近づく。
「全員しっかりとマスクしたか?」
その際に用意したガスマスクみたいなものを装着する。
背後でゴソゴソと装着する音が聞こえ、俺が装着し終える頃にはネルもゲンジロウたち御庭番衆もマスクを装備し終えている。
シュゴーシュゴーとガスマスク特有の呼吸音を響かせている侍集団。
うん、B級戦隊ヒーロー映画の悪役軍団みたいなビジュアルがかなり危ないけど、気にせず頷く彼らの言葉を信じて、俺は再度トンネルの方に向き直る。
ガスマスク越しに見えるトンネルの中身は、まるで蜘蛛が長い年月をかけて作り上げた巣のようであちらこちらに接着剤でできた糸が伸びそしてクローディアの踏み抜いて蹴り上げられた土砂が入り混じっている。
これに触れたらドワーフの惨状の二の舞になってしまうので、そっと硬化剤入りの噴射器のトリガーを引く。
そうするともう片方の手に持っていたノズルから白い粉が噴霧される。
その粉が触れると瞬く間に接着剤は硬化していく。
粘性が無くなり、くっつかなくなっていくと脆くなるかと思いきや、これは元々モンスターを拘束することを想定した接着剤。
硬化すると鉄以上の強度を叩きだす。
皮手袋越しに、ノックするような感じに叩くと、コンコンと硬質な感触を感じる。
「良し、ゲンジロウ頼む」
「承知!」
そんな硬い物体を次から次へと御庭番衆が斬っていく。
硬化剤が届かなくなったエリアに踏み込んだら再び硬化剤を噴霧、そして切り裂くという行為を繰り返していくこと二十分ほど。
「音が聞こえるな」
「この先にいるのね」
そうすると俺たちの移動する音や、接着剤を除去する音とは異なる音が辺りに響き始める。
それは藻掻き、呻く、ランナーランナーの音。
このトンネルには灯りはない。
なので提灯のような魔道具を持った御庭番衆の灯りだけが光源だ。
その光源によって道先が照らされると。
「おー」
「お団子ね」
「あれではさすがに身動きが取れませんな」
見事に接着剤によって四肢が体にくっつきそのまま地面に落下したであろうランナーランナーがそこにいた。
藻掻いているのは、体をうねらせ少しでも体から手足を開放し動けるようにしたかったからだろう。
しかし、それは叶わぬようだ。
「さくっと硬化剤をかけるか」
「そうね」
「承知仕った」
まだランナーランナーの周りの接着剤は固まりきっていない。
ならば身動きが取れないうちに硬化剤を噴霧する。
当然それを攻撃と認識し回避行動をランナーランナーは取るが、あの高速で移動していた動きが今では欠片も見ることが叶わない。
分身スキルを発動しても、それはすでに拘束済みの状態で増えるだけ。
変な動作で動こうとしたがそれも接着剤が体を固定してしまっているから不発になる。
その間に硬化剤がランナーランナーが纏っている接着剤をどんどん硬質化させ、その動きが鈍くなり続ける。
「よし、完全に動きを封じたな」
「沼竜の時もそうだったけどアジダハーカの時もリベルタは相手の動きを封じることを最初に考えるわよね」
「だってそれが一番安全だろ?」
そしてついには動けなくなり身動きが取れなくなったランナーランナーをどうするかと言えば。
「良ーし、さらに拘束していくぞ」
「念には念を、ですな!」
「そういうこと、あと、このまま攻撃したら接着剤が剥げる。そうしたら自由になってしまうからな」
さらに接着剤の上から拘束していく。
ジャラリと取り出す鋼の鎖、しっかりと弱者の証を付与しているから壊れる心配はない。
南京錠も一緒に作ってあるから攻撃できる隙間を残してせっせと鎖でがんじがらめにしていく。
『なにするの?え?なにそれ!?』とキョロキョロ目を動かすランナーランナーの視線はガン無視。
「御屋形様!荷車をお持ちしました!!」
「よーし!ランナーランナーを乗せて外に出るぞ!」
「はっ!」
ここだと全力で戦うことができないから、一旦外にランナーランナーを運び出す。
『どこに運ぶ!?』とキーキー鳴くランナーランナーを無視して、トンネルの外に出ると。
「ふぅ、ステータスも元に戻りましたね」
外でシャドウボクシングをしていたクローディアが出迎えてくれた。
やる気満々なのは素晴らしい。
「御屋形様、鎖はどちらに?」
「八方向にピンと伸ばす形で杭で固定して。その上に固定化の魔法がかかった魔道具を忘れないようにね」
「承知!」
まぁここから先は戦いではなく、一方的な蹂躙だからな。
木槌で鉄製の杭を地面に打ち付ける御庭番衆たち、その杭にはランナーランナーを拘束する鎖と繋がった鎖を繋げてさらに杭の上にかぶせるのは固定の魔道具。
これで地面から抜ける心配はないから安全に倒せる。
「準備はできたな?」
「万事抜かりなしに」
「それじゃぁ、殺りますか?」
そして万全な状態を用意して俺たちが各々の武器に手をかける。
「まったく、ここに来るとしてもせめて金色じゃなかったら見逃したというのに。ここに来たのが運の尽きだったな」
そしてギラリと眼光を鋭くして、ランナーランナーを見たらびくりと体を震わせた。
必死にその場から逃走を図ろうとするも、接着剤で体が固定され、さらに鎖でがんじがらめにされている。
ゆっくりと武器を構えた集団が囲み、油断なく構える様は動けない相手に対して大人げないと言われるかもしれない。
だが、あえて言おう、これがモンスターを狩るための最善の行動だと。
モンスターの動きを封じて、全力攻撃を常に一方的に加えられる状態にする。
これぞ理想形の攻撃陣形ではないだろうか?
もし仮に、正義面して、『こんなの卑怯だ!正々堂々と戦え!』と宣う輩がいたら俺は胸を張って問い返してやろう。
わざわざ敵が反撃できるような隙を用意してダメージを負うというリスクを背負ってまで、正々堂々戦うことを維持する理由があるかどうかと。
これが決闘とかそういう物であるのなら俺もそこら辺は配慮する。
しかし、これはモンスターとの戦闘だ。
倒すことを主題とした行動だ。
その戦いに正義は必要最低限でいいというのが俺の持論だ。
数の暴力?大いに結構。
罠の多用?推奨も推奨、大推奨だ。
相手の力を削る?基礎中の基礎だ。
じわじわと包囲網を狭める俺たちに向かって、ランナーランナーが『卑怯者!!』と叫びそうな目で見ているが、俺は無言で発煙弾を空にうちあげあげてアミナに移動速度上昇の追い風の歌から、喝采の歌へ変えてもらう。
なんとなくさっきまでのスピーディな曲調から一転、処刑ソングのような攻撃的な曲調に変わる。
「招福招来!」
そしてネルのスキルが発動したが最後、俺たちは一斉に攻撃を開始する。
やることは各々最強の攻撃スキルを絶え間なく与え続けるというDPSとヘイト管理をガン無視した攻撃一辺倒の脳筋戦法。
俺の心臓打ちや首狩りを放ったり、ネルの金剛戦斧を放ったりと。
「さっきまでは逃げさせてもらいましたが、ここからは一方的に攻撃させてもらいます!!」
そして逃げ回った鬱憤を晴らすかのようなクローディアの連打の嵐。
隙をついて、ゲンジロウたち御庭番衆も斬撃を浴びせどんどんランナーランナーのHPを削っていく。
何もできない。
何もさせない。
これぞ安全重視の効率厨の戦いよ。
リキャストタイムが過ぎたら攻撃、他の人の攻撃と重ならないように連携し間断なく攻撃し続けることこそ最良。
『■■■■■■■■!?』
そして最期の断末魔を上げてランナーランナーは黒い灰となった。
「出たわ!!」
「うん、さすがネル」
「お見事ですぞ」
「苦労の甲斐があったということですね」
そしてランナーランナーは二つの虹色の宝箱へとなるのであった。