作品タイトル不明
12 デッドヒート
本日は晴天なり、本日は晴天なり、と。
天候が崩れるというフラグは立たず、城壁の上で晴天の空を見上げることができて一安心だ。
「ジュデス、ランナーランナーは捕捉しているな?」
「ああ、シャリアがしっかりと見張ってくれているよ。時間になったら発煙弾を上げて位置を知らせてくれる。ここら辺には盗賊や冒険者はいない」
「商人とかもいないよな?」
「ああ偽装商人含めて全部確認した。この一帯には俺たちしかいないよ」
「OK、ゲンジロウ。警備体制を維持して、後方に下げる人員は目標地点に配置したか?」
「はい、御屋形様。警備当直を除き、戦闘態勢にて配置済みでございます」
あらかじめ周知してあるから、行動もスムーズだ。
「エスメラルダ、市民の避難は完了してる?」
「ええ、もちろん。ジンクさんを中心に軍事区画に全員避難済みですわ」
見た目は小さくとも相手取るのはクラス9のワールドモンスター。
居住地の近くで戦うのなら安全な場所に避難するのも必要だ。
一階の軍事施設は扉も頑丈に作ってあるし、緊急時の避難シェルターとして食料も豊富に備蓄してある。
アジダハーカ相手だと毒で汚染されてアウトだけど、ランナーランナーが相手なら物理攻撃しかないから突破される心配はない。
「アミナ、ライブの準備はできてる?」
「もちろん!!イングリットさんと一緒に準備したからばっちり!」
「はい、スフィアゴーレムにより飛ぶ準備はできております」
今回は注目による惹きつけはできないが、それでも仲間を全域でサポートできる歌唱スキルは十分に役に立つ。
むしろこれからやることを考えれば、少しでも勝ち確率を上げるためにアミナの歌は必須なのだ。
「よし、あとは」
こちらの陣地の準備はできて、余計なトラブルが飛び込む要素も排除したら、ゆっくりとストレッチをして体をほぐしているクローディアに視線を向ける。
恰好は全身タイツにジャケットを羽織ったような薄い灰色のライダースーツ。
ヘルメットは側に置き、クローディアは足を180度で開脚し、ゆっくりと体を倒している。
「ふぅ、お待たせしました」
「いや、準備は良い?」
「ええ、いつでも走れます」
そしてゆっくりとほぐした体が温まり、問題ないと判断したクローディアはゆっくりと立ち上がる。
「そうか。ネル、ゲンジロウたちと一緒に最終ポイントに移動してくれ。イングリットはアミナのサポートを」
「わかったわ!ゲンジロウさん行こう!」
「わかり申した。では、御屋形様。ご武運を」
ここからは一時の別行動。
まずはトンネル付近に移動するネルとゲンジロウたちを見送る。
「アミナはイングリットとスフィアゴーレムのステージに向かってくれ。アミナは歌うことに集中、常にクローディアに歌を届けることを念頭に歌ってくれ。イングリットはアミナのサポートだ。発煙弾が選曲の指示になるから、上がり次第、次に歌う曲をアミナに伝えて随時変更させてくれ」
「わかった!」
「かしこまりました」
次にアミナとイングリットの2人を見送る。
今回は走り回る相手ということで、役割が増えた。
その分、人を色々な場所に配置しないといけないから、もろに人員不足の煽りを受けている。
まぁ、それでも戦力的には十分にランナーランナーを倒す手立ては用意できている。
この開拓村の軍備なら、これから人が増えれば、ランナーランナーどころか、定期的にレイニーデビルを狩ることもできるようになるだろうな。
「エスメラルダはジュデスと一緒に行動して、ランナーランナーの進路の調整だ。アイスウォールを使ってランナーランナーが変な方向に向かわないように適宜調整してくれ。場合によってはクローディアのサポートもすることになる。ここからのスタートになるから先回りするような場所で待ち構えていてくれ」
「その大任、恙なくこなして見せますわ!!」
「努力はするよ。それじゃ、シャリアと合流するよ」
「ああ」
そんな夢を抱きつつ、エスメラルダとジュデスを見送れば、ここに残るのはクローディアと俺、そして発光信号機を手に持ったエンターテイナーのメンバー四人。
ゆっくりと待つこと数分、事前に報告あった方向から、白い発煙弾が上がった。
「それじゃぁ、始めようか。エンターテイナーは服を脱がないように!!随時俺から指示を出すから、すぐに各部隊の方向に発光信号で伝達してくれ」
「「「「!?っ、おう!」」」」
持て余していた時間故に服に手をかけかけた男衆を苦笑で止めつつ、ジュデスたちが合流しただろうタイミングで俺は発煙弾が打ち上げられたのを確認。
そしてこのエリア一帯に響き始めるアミナの歌声。
味方と認識したメンバーにバフをかける歌唱スキル。
チョイスは追い風の歌。
今必要な移動スキルを上昇させる歌唱スキルだ。
「さてと、クローディア準備は良い?」
「ええ、いつでも」
そして場が用意された段階で俺は城壁に用意していたゴーレムに、エンターテイナーたちを引き連れて乗り込む。
高所作業車のようなゴンドラを持ったそのゴーレムは移動用の見張り台のような役割を持っている。
俺はそのゴンドラに乗り、城壁よりもさらに高い視野を確保する。
このゴーレムの名はカタパルトゴーレム。
と言っても射出機能を使うよりもクローディアの身体能力を使った方が間違いなく加速できるので、正確にはトラックゴーレムと言い換えた方がいいかもしれない。
今回のランナーランナー戦用で特注したワンオフ機だ。
「射出角度三十度、方角東南東から、東に五度修正」
「おうよ!!」
見張り台の下に滑走路のような、あるいは陸上選手が走るようなトラックらしきモノがあり、その長さは三十メートル。そこからスタートダッシュして城壁の淵を飛び越え、空歩で加速を続けてそのまま地面に向けて飛ぶようにして、平坦地を走るよりも一気に距離を稼げるようにした構造だ。
城壁に固定することによって、クローディアの蹴りぬく力にも対応できるようにしている。
そんなトラックには、クローディアが最大の初速を発揮できるように特注で不壊属性を付与したクラウチングスタート用のスターティングブロックを設置した。
そこに立ったクローディアは足回りを確認しスタートの準備をする。
思わず「オンユアマーク、セット」と言いたくなるが、ゆっくりと深呼吸し構えたクローディアは、すでに極限まで集中し始めている。
俺はその集中を妨げないように双眼鏡で発煙弾の方向を見る。
「リベルタさん!射角調整完了ですぜ!!」
「よーし!」
その視界には、金色に輝く姿態で森を徘徊するランナーランナーの姿を捕らえた。
「クローディア!いつでもいいぞ!!」
「衝撃に備えてください」
エンターテイナーたちによって角度調整されたゴーレムのカタパルト。
その先にランナーランナーがいるのを理解したクローディアは、ふーと息を吐き出し脱力した。
俺を含め全員、クローディアの警告に従い近くの手すりに摑まる。
弱者の証によって不壊と化したゴーレムや城壁であっても。
「天拳」
ユニークスキルを使ったクローディアの身体能力を前にしては、衝撃を逃すことなどできはしない。
呟かれた言葉とともに発せられる圧、そしてコンマ数秒以下の遅れで生じる衝撃。
轟音を響かせ、トラックを一気に駆け抜け走ったクローディアが、弾丸のごとき勢いでランナーランナーに急接近する。
「くぅ!相変わらずすごい衝撃だなぁ!!」
理解し、身構えていても、音速の壁を一気に突き破ったクローディアの発する衝撃波にゴーレムは揺れ、ゴンドラから振り落とされそうになった。
「全員無事か!?」
「「「「うっす!!」」」」
鍛えているエンターテイナーたちも衝撃で振り落とされることなく、すぐに持ち場に戻った。
「装備で抑えてこれかよ」
今のクローディアの状態は、自然法則に従い落ちる夕日を前に、日が暮れてしまうと処刑されてしまう身代わりになってくれた友人を助けるために走る某主人公だ。
その主人公が登場する物語のとある文章の一節「少しずつ沈んでゆく太陽の十倍も速く走った」というものがある。
これはすなわち地平線に沈む太陽よりも十倍速く走っているとも解釈できる一節だ。
細かい計算は省くが、俺はこれを物理的に解釈し解説した動画を前世で見た時、思わず笑ってしまった。
走らねばならぬ主人公だというのに、あまりの速さに衝撃波で周囲に物理的被害を撒き散らすから「もう走るな!」と、物語をある意味で否定するようなツッコミが入る内容。
笑いたくもなる。
しかし、この話はこの世界だと笑い話ではなく現実問題となる。
実際にレベルアップで人間離れした強靭な肉体を得られるこの世界では、そういうことが起きえるのだ。
それをわかっていたからこそ、〝衝撃波〟対策は必須だと思ったのだ。
超加速で音速の壁を突き破ったクローディアの移動で、周囲には衝撃波が発生し、下手をすれば木々をなぎ倒しながら走ることになる。
それを発生させず、むしろその衝撃波と空気との摩擦熱で生じるエネルギーを回生して蓄積し加速力に変換するスキル「エネルギー変換」を利用し、超高速を維持して走れる装備が、今のクローディアの身につけた装備だ。
「クローディアに気づいたな」
超高速で移動するクローディアを、クラス8の身体能力を駆使して双眼鏡でとらえ続け、黄金に輝くランナーランナーに接近するのを見る。
ランナーランナーの警戒領域に入り、全速力で走るクローディアを認識した瞬間に、相手も走り出した。
その初速はゲンジロウやジュデス、そしてシャリアといった俺が育てた実力者たちを歯牙にもかけないほどだが、クローディアの初速には及ばない。
じわりじわりと、差を縮め、並走するまでにかかる所要時間は五秒前後。
「うわ、クローディアは大丈夫だけど、ランナーランナーの走った時の衝撃波で環境破壊が」
その間にも地上をとてつもない速度で走る存在が1人と1体。
木々は吹き飛び、走った後の地面はえぐれ、環境破壊を拡大させる光景に苦笑する。
高速で移動し並走する光景は、下手なレースを見るよりも迫力がある。
俺の予想通り、ランナーランナーは「競争」の対象であるクローディアへは攻撃をしない。
クローディアも攻撃する意思よりも、ランナーランナーを追い抜くことを意識しているからこそ、この競争が成立している。
「お、クローディアが前に・・・・・は、まだ出ないか」
天拳というユニークスキルを使っても、トップスピードに達したランナーランナーを追い抜くことは中々難しい。
クローディアが走っている場所は整地された場所ではなく、自然環境が作り上げた悪路だ。
それを身体能力を駆使して、全力疾走しているのだ。
全神経を集中しないと、下手をしたら。
「あ、木と衝突した」
ぶつかると思う時に、下手に回避するよりも木をなぎ倒して直線で走った方が早いと判断したのか。正面の障害物を拳で排除して減速を避けるクローディア。
そのおかげでわずかにクローディアが一歩前に出た。
「もう少し、もう少し」
だが、その段階ではまだ競争の主導権を握れているわけではない。
現実問題、天拳の制限時間30分以内にあのトンネルまで誘導しなければならない。
余裕があるようで、実は少ないと俺は考えている。
だからこそクローディアには「余裕はほぼないものと考えてくれ」と伝えてある。
もう間もなく、スキルを使用してから1分が経過する。
その後は抜かれないように進路を調整して、トンネルの方向に向き直る。
理想はこの開拓村をぐるりと周回して、トンネルの場所に到着するコースになる。
「くそ、しぶといな」
悪路と障害物の多さに、予定の進路が取れていないクローディアが若干苦戦している。
無理矢理一歩前に出て作ったリードも、それ以上増えない。
できればアミナの歌が届かない範囲には出ないで欲しいのだが。
「進路調整要請だ!相手はエスメラルダ!氷の壁を使って進路修正を!」
そんなことを今のクローディアに頼むのは酷だ。
それならこっちで何とかするしかない。
幸いあそこなら。
「頼むぞエスメラルダ」
先回りしているエスメラルダがいるはず。
明かりの魔道具を付けたり消したりして合図を送り、そのほんの数秒後。
アイスウォールを器用に使って、緩やかなカーブをエスメラルダが作り上げたのが遠くから見えた。
進路が徐々に修正され、突如として現れた氷の壁に、ランナーランナーは一瞬警戒した。
その一瞬の隙で十分。
一瞬の警戒で、わずかにランナーランナーが減速したのだ。
その減速タイミングで器用に氷の斜面をカーブしたクローディアが、今度こそランナーランナーを抑えて先頭に立ったのであった。
その瞬間、ランナーランナーの雰囲気が変わったのを、俺は遠目からでも肌で感じ取ることができた。