軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

26 既知

さてさて、ボルドリンデ公爵が逃げ出したと急報を受けてから日にちが過ぎて、その間はてんやわんやの日常になるかと思いきや。

「意外と平和、ねっ!!」

「そうだな」

「僕、もっと忙しくなると思ってたよ」

「そうならないようにしているからなぁ」

そんなことはなくのんびりとしている。

先日、国王陛下から正式に全貴族に対してボルドリンデ公爵の爵位はく奪が通達され、ついに彼は没落し、北の領地も没収と相成った。

そうなると事後処理を実質的に任されるエーデルガルド公爵閣下は大忙しになるが、俺は色々と絡んでいる立場とはいえ平民なので、こうやってネルと向き合って会話をしながら、武器を打ち合わせて訓練をするという時間を取れている。

何だかんだ色々とあったが、久しぶりにオリジナルメンバーで訓練場の一角に集結している。

エスメラルダ嬢とイングリット、そしてクローディアさんもついさっきまでいたが、今はイングリットとクローディアさんはクラリスたち英雄一行を、エスメラルダ嬢は公爵家の私兵団をそれぞれ指導中。

コンは本国と連絡を取り合って、まだ交渉中のようだが手ごたえはあるようだ。

普段だったらアミナも一緒に行っているんだけど、アミナのバフが強すぎて訓練にならないとクローディアさんに言われて、どうせならとクラリスたちエルフチームと公爵家の私兵にもバッファーを導入して運用することにしたのだ。

ただまぁ、忘れがちだが歌スキルや踊りスキルはその使用する当人の技術力がもろに影響するスキルだ。

下手の横好きでは、生憎と一割もその能力を引き出せない。

なので、一度私兵もエルフもドワーフも入り乱れた歌コンテストを実施したのだが、エルフには定期的に祭りとかで歌う機会があるのか上手い人が数名いた。

ただエーデルガルド公爵家の私兵の方は酒場での宴会のノリで歌うくらいの機会しかないようで、お察しの結果というわけだ。

その点はエーデルガルド公爵に報告してあるので、どうにかするだろう。

前にアミナと閣下と俺の3人で話し合って、アミナが教えようという話の流れになったが・・・・・

「あの時のリベルタは、なんか、悪いこと、考えてる!お父さん!みたい!だったわよ!!」

「うーん、否定できないなぁ。悪だくみをする楽しみを知っている身としてそういう表情になるのは仕方ない」

ブンブンと空気を圧し切っているネルの攻撃を巧みに躱し、時に逸らしつつこまめに小さな攻撃を加えネルの攻撃を妨害。

今の俺のスタンスは攻撃2の防御8と割り振っているので、いかに体力寄りのステータスを持つネルであっても容易には仕留め切れないだろう。

まあ、周囲にいるエーデルガルド公爵家の私兵やエルフやドワーフの戦士たちが、異常な物を見るかのような目つきでこっちを見るのは気にしない気にしない。

「でも、リベルタ君はすごいよね。向こうの考えがわかるみたいに先に対策をしておくんだもん」

少し離れた場所でも、こうやって通る声で会話に参加してくるアミナから察することができるかもしれないが、彼女は超絶な感覚派なのだ。

そもそも、我流でここまで歌を上達させたのもすごい。

才能を独自の努力で磨いたら、天才技師がカットした500カラット級のダイアモンドになったくらいの出来事だ。

おかげで、アミナに指導を頼もうにも指導できるノウハウがないのだ。

アミナを見て、真似るならともかく教えを乞うことはできないということで、戦えそうな人で歌手を探すと言うプロセスが公爵閣下の仕事の中に入ったのはご愛敬。

「そう、ね!だけどリベルタだから!」

「そうだよね、結局リベルタ君だからね」

「いや、まぁ。その通りだけどね?」

おかげさまで、ネルのスキルスクロール収集にも少し休みを貰えるくらいには余裕のある平和な日常を送っていますよ?

そんな日常を送れるのは知っているからこそ、できることを実行してきたからこそだと思う。

もしも学生が事前にテストの内容を知っていたら、その内容に合わせた勉強をするだろう。

野球選手とかであれば、次に来る球の球種そしてコースがわかるのならそこにめがけて思いっきりバットをフルスイングするだろう。

そんな感じで、既知というのは非常に強い武器なのは間違いない。

使い時が限定的になりがちなのが玉に瑕なのだが、その時が来れば活躍するのでそこまで気にすることでもない。

というわけで、原作知識というチートを駆使してボルドリンデ公爵の動きをトレースしたら完全ヒットしたわけだ。

そして、勝って兜の緒を締めよという感じに、油断せず、追撃にも余念はない。

模擬戦中にあっとアミナが声を上げたことで、急には止まれないネルの攻撃を勢いがつく前に踏み込み、鍔迫り合いに持ち込んで攻撃を止める。

「リベルタ君、闇さんから追いかけている人が西の街道に隠れ住んでいる盗賊に接触して南の街道にちょっかいかけるって言ってたよ。これ、その盗賊のいる場所の地図」

「おー、ありがとうアミナ。さてさて、西経由で北に向かっているのはわかってたけど、その前に水源に毒を入れようとする辺り本当になりふり構わなくなってきてるなぁ」

アミナが現在進行形で、ボルドリンデ公爵の追跡任務を受けている闇さんからの連絡を伝えてきて、模擬戦を一時中断した。

アミナに近づき、地図を受け取ってみればアミナのすぐそばには小さな闇の精霊が彼女の陰に隠れているのが見える。

その精霊にありがとうと言って、ついでにアミナに預けていたマジックバッグからおやつで食べようと思っていたクッキーを取り出して一枚あげると、嬉しそうに食べ始める。

ボルドリンデ公爵の行動パターンはおおよそ把握している。

ただ選択肢が多すぎる上に選択ミスをするとかなりの被害を被ることになるから、慎重に行動しないといけないのが大変だ。

しかし、だからと言って無策で対処できないわけではない。

現状と照らし合わせて、ある程度相手の行動を予測してしまえば、相手の打つ手を絞り込むことはできるし、それに対処できる対応幅の広い精霊を味方につけられたのは望外の喜びと言っても過言ではない。

現に今も、ボルドリンデ公爵の身代わりだった魔道具があっちこっちにかく乱作戦を展開している。

アミナ経由で闇の精霊たちがその全てを監視してくれていて、さらにいつでも増援できる精霊たちが後始末をしてくれているからこっちは実質ダメージがゼロだ。

あとは王都内部でもエーデルガルド公爵家と王家の暗部がボルドリンデ公爵の破壊工作が他にもないか徹底的に洗っているから、身辺の危険は今のところないと思っていいだろう。

「アレダメ!皆怒ッテタ」

「精霊さんたちがすっごく怒ってたって」

「そりゃそうだ。自然環境を汚すやつは精霊たちにとっては問答無用の敵だよな。特に水の精霊の怒りはヤバそうだよな」

ボルドリンデ公爵の水源の毒汚染については闇さんも怒っているようで、あれはひどいとクレームみたいな愚痴を聞かされた。

一体どんな毒を放り込んだのやら。

おかげで、現在進行形で精霊たちの怒りをボルドリンデ元公爵は買っているわけだが、下手をしなくてもボルドリンデ公爵を仕留めると俺かアミナが音頭を取ったら精霊たちが積極的に力を貸してくれるのではないのだろうか。

開拓とか、人が生きるために必要な物であるのなら人が自然に手を加えても精霊たちも寛容な心でそれを見守るが、今回のように悪意を持って環境を汚すような行為は看過しない。

その手の話は西の大陸の方が多いんだけど、ボルドリンデ公爵は精霊たちの怒りに触れるラインを超えてしまった。

同情はしない。

「ウン!王様モ怒ッテル」

「あー、うん。どんな毒を放り込んだかマジで気になる」

同情はしないぞ。大事なことだから二度考えた。

精霊王が怒るって、どんなことをしでかしたんだよ。

いや、まぁ、冷静に考えて王都の住民に被害を出すほどの毒が少量なわけないか。

大量かつ、猛毒を水源にぶちまけたらそりゃ精霊たちも怒り心頭になるか。

「それでリベルタ、この後って何が起きるの?」

「ボルドリンデ元公爵が何を起こすかっていう意味なら、いくつか想像つくけどそれを選ぶ保証はないな」

全てが、後々で厄介なことになると予想できるようなことをしでかし続けているボルドリンデ。

であるなら、原作にはない方法でこっちに牙をむいてくるのは明白。

「ただ確実に言えるのは、奴の最後の切り札が間違いなくアジダハーカだということだ」

「大丈夫なの?アジダハーカって世界を滅ぼしてしまう災厄なんでしょ?」

一旦模擬戦が終了したことで、ネルは汗を手拭いで拭いて、さらに近くに置いてあったテーブルから水差しを手に取って2つのコップにレモン水を注いで片方を俺に渡してくれる。

「大丈夫ではないな。あいつを制御するには今の俺たち以上のステータスに、中央大陸の幻夢境に生息するクラス10のモンスターの素材を使ったテイムアイテムが必要になる」

それを一口飲み、口を潤してアジダハーカを制御する方法を語ると、ネルとアミナは顔を見合わせた。

「それって」

「文献とか資料で知って問題ないとかそんな感じで試したら自滅まっしぐら。もしくは死なば諸共という感じで自爆覚悟で復活させて全滅。それがボルドリンデに待っている結末だよ」

知っているからこそわかるが、アジダハーカを制御すると言うのは並大抵のことではない。

FBOでもそれに特化したプレイヤーが四大陸の四災厄を従えたことがあったが、同時に使うことはほぼ不可能であった。

一体一体のテイムするコストがとんでもなくて、制御するのにもとんでもないスキルが必要になる上に、倒されてしまうと復活のコストもえぐい。

強いと言えば強い。だが、強い枠の中でもネタ枠に位置するビルドなのだ。

「でも、封印できていたんでしょ?その封印の方法を使えば何とかなるんじゃないの?」

「ならないな。封印はあくまで封印。そして弱体化している状態のアジダハーカを封印していた程度の代物じゃ復活したアジダハーカを制御することなんてできない」

それを知っているからこそ、アジダハーカは制御の効かない核爆弾だと言っているのだ。

権力者というのは自分の力が支配力だと認識しているケースが多い。

それ自体は間違っていないんだけど、人間を制御する延長線上で万事物事を考えるのはいかがなものかと俺は思う。

例えば、支配している人間の中にテイマーがいてモンスターを制御できますと言ったとしよう。

その人物はクラス3のモンスターを制御できると報告したが、上からしたらクラス3のモンスターではなく、モンスターを制御できると考える。

そして必要なのは誰もがやれるようなことではなく、オンリーワン。

モンスターをテイムできるのならアジダハーカも制御できるようにしろと言うのが権力者だ。

「ボルドリンデは才能がある分、他の人もできないのはおかしいって言うタイプの思考だからなぁ」

そしてそれを言うボルドリンデ自身の能力はどれほどかと言えば、なんと原作ではクラス6の実力者なのだ。

そこまでいけるのならアジダハーカも制御できると考えるのはおかしくはないのだが、努力が全て実を結ぶとは考えない方がいい。

「・・・・・上に立ったら嫌な上司ね。それって、できないって言えないってことでしょ?」

「その通り。俺は絶対に下につきたくない貴族様だな」

その点今のエーデルガルド公爵はそこら辺出来る出来ないの部分は加味してくれる。

原作の闇落ちした公爵閣下の状態でもそこら辺は変わらない。

出来る人だけを重用し、できない人は切り捨てるっていうスタンスが加わるだけだけど。

さてさて、そろそろ北の英雄殿も来るはずだけど、どうなることやら。