軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 急がば回れ

「良いと思いますよ」

「え?いいんですか?」

最初に相談するならやっぱり、うちのパーティーの保護者枠であるクローディアにする。

イングリットだと、全肯定の回答が返ってきそうだし、エスメラルダ嬢の場合は悩みつつも良いと言いそうな気がする。

ネルとアミナは、まぁ、二人の答えもなんとなく想像がつく。

パーティー全体の行動指針を揺るがすような行動だから、ここは冷静に判断してくれそうなクローディアに相談を持って行った。

クラス6に入り、もうすでにレベルリセットした時よりも格段にステータスが上がった彼女の早朝鍛錬は、彼女からしたら軽く流す程度。

基本の型の練習で体を温めて、次に相手の存在をイメージしての仮想戦闘。

やるからには真剣に、が彼女のモットー故に、汗をかいて喉も乾いているだろうと気を遣い、手拭いと水筒持参で相談にいった。

そして昨夜考えた可能性を話して、個人的には検証したいがパーティー指針としてはどうかと投げかけたらこの即答が返ってきた。

水で喉を潤し、汗を拭う彼女の姿は若々しく、まさにアスリートの健康美を体現していると言えるが、そこには艶やかな物は一切感じさせない凛とした美しさがあった。

純粋に綺麗と言えばいいのだろうか。崇高さすら漂うその美しさに少し気圧されてしまうが、そんな状態の彼女から問題ないと返答された俺は、一瞬返事が遅れてしまう。それはあまりにもあっけなく答えが出たことによる反応遅れだったのか。

「強くなることが時短できるかもしれない。その可能性はあるにはあるが、検証してみなくてはなんとも言えない。ですが、リベルタは先日のアイテムを見て自分なりに確信ができたのですよね?」

「まぁ、はい」

「でしたら、やってみた方がいいでしょう」

俺の逡巡の理由を的確に指摘し、やるべきかやらないべきかの相談内容を彼女は迷うことなくやるべきと断じた。

あくまで俺のつまらない妄想で、検証しても結果はなにも無いかもしれないという俺の不安に、その可能性はまるでないと言わんばかりのクローディアの即答。

「時間がだいぶかかりますよ?」

「すでにあなたはその遅れを取り返す方法も考えているのでしょう?あなたが、その程度のスケジュール管理を怠って私に相談しに来るとは思えません。あなたが考える懸念点はその検証のための労働力、すなわち私たちの戦闘回数が増えるという点のみに於いて危険があるということ。違いますか?」

そして仮に何もなかったとしても問題ないと言わんばかりに、クローディアは微笑んだ。

「違わないですね」

「最初に私に相談しに来たのは、他の皆があなたの言うことなら否定せず、そのまま受け入れてしまうと思っていたから、といったところでしょうか?」

「正解です」

なにからなにまでお見通しと言うことに俺は万歳して降参の意志を示した。

「すぐに行うのですか?」

「検証するために高位竜のダンジョンへ挑むには、最低でもクラス6のレベリングはやっておきたいです。決行はその後です」

「なるほど、承知しました。でしたら先ほどと同じ内容を皆さんに説明しておくべきですね。きっと反対しませんよ」

「はい、ありがとうございます」

「はい、どういたしまして」

「お礼に一戦、どうです?」

「・・・・・では、一本。やりますか」

否定するときはきっぱりと彼女は否定する。

俺が夢物語を語り、暴走しようとしたら淡々と否定し止めてくれる。

そんな確信があるからこそ、その言葉を素直に受け止めることができる。

それは俺の道筋を正してくれる恩師であるかのように、俺の迷いと間違いを浮き彫りにし、最後は自分で選べと背中を押してくれる。優しくも厳しいその導きに俺は感謝し、どうせならと木製の鍛錬用の槍を取り出して模擬戦をどうかと問いかければ、待ってましたと言わんばかりに彼女はさっきの優しい笑みとは打って変わって、獰猛な獣のような笑みを浮かべた。

この家の庭では近所迷惑になる。

しかし、ここにクローディアが住み着いてからちょくちょく鍛錬という名の模擬戦を挑む戦闘大好きな精霊たちによって作られた鍛錬場が徒歩三分圏内に存在する。

そっちに移動してみれば、防音、防衝撃、防光、防臭などなど、様々な近所迷惑を防げるように結界が張られている広場に出る。

『あ、姐さん!!おはようございます!!』

「姐さんは止めてください」

そこには朝から模擬戦闘を繰り返す精霊たちがいて、クローディアを見ると頭を下げて、挨拶をする。

姐さんと呼ぶその精霊に苦笑しつつ、親しまれていることは間違いないから軽く訂正した。

そして俺が一緒にいて、俺が片手に鍛錬用の槍を持っていることを目ざとく見つけ。

『おおい!会長と姐さんが模擬戦やるぞ!!』

大声で戦っている精霊たちに声をかけた。

その一声で、戦っている精霊も休憩していた精霊もざわめきだし、即座に場所を譲り始める。

「いや、そんな急がなくても」

『何を言いますか会長!!会長と姐さんの闘いを見れるなんて、俺たちにとっては最高のエンターテインメントなんっすよ!!それをお待たせするなんて、言語道断!遠慮せずやっちゃってくださいよ』

苦笑交じりに、わざわざ中断してまで場所を譲らなくてもいいのにと、順番待ちをすることを伝えるが、このムキムキマッチョな半裸の精霊は笑顔でサムズアップし歯を輝かせながら場所の用意ができたと言ってくる。

「じゃぁ、まぁ、ご厚意に甘えようかな」

「そうですね」

ここまでやってもらって遠慮するわけにもいかず、クローディアと顔を見合わせて苦笑して、鍛錬場の中央に向かう。

レベルが追い付いてから、クローディアとは何度かこうやって模擬戦をしている。

毎度やるときは真剣勝負。

実戦さながらの闘いで、その闘いを精霊たちに見せてからこういう対応になった。

「いつも通りスキル禁止の制限時間一杯でいいですかね?」

闘う時は決着の方法を決めてからにしている。

これは鍛錬、なのでスキル使用は禁止で素のプレイヤースキルだけの戦いを重視している。

そして相手のHPを削りきる決着ではなく、時間制限による決着にする。

それ以外で言えば。

「時間は・・・・・ネルさんかアミナさんが呼びに来るまででよろしいですか?」

「そうですね。あとはまぁ、互いに命を守りつつ」

殺しはしないが、本気でやるということだけ。

それを念頭に置いて構え合う。

「ええ、全力で」

「やりましょうか!!」

俺もクローディアも、こと戦うということに対しては忌避感どころか、好感を抱いている同士だ。

色々な作品で口では戦うのが面倒、嫌いだ、危ないと言う主人公は多い。

その言っている事自体は間違っていないし、戦いに忌避感を抱き、必要でもないのに身を削って競い合うことなどコスパが悪いと思うのも無理はないと理解はしている。

ただ、俺の場合は自分の身に着けた技術をどれだけ磨けているか確認するのが大好きなので闘うことは大好物だ!!

クローディアと闘うのは最初に出会ってから何度目になるか。

いつもモンスター相手にお互いの背中を預けて一緒に戦い、そしてこうやって機会あれば模擬戦をやっていると、お互いに癖は掴み、どうやって相手のペースを切り崩すかという読み合いが大切な戦いになる。

先手は当然俺、というか槍使いの俺が先手を取らないとあっという間に間合いを殺されろくに反撃できなくなる。

なので自然な流れで、槍で牽制しつつ間合いを取りながら相手を削る俺と、間合いを殺し自分の距離に詰めるクローディアという構図になる。

が、今日は少し工夫を凝らしてみよう。

『え!?』

周囲の精霊の誰かが驚きの声をあげる。

それもそのはず、いつもであれば牽制で攻撃を始めたら俺はそのまま槍の間合いを維持するのが常道だ。その行動を何度も見てきた精霊たちが驚いたのは、俺が一突きして、その攻撃を躱しそのまま踏み込もうとしたクローディアにめがけて槍ではなく蹴り技で反撃し始めたからだ。

格闘戦。

一応、というかFBOプレイヤーならどのプレイスタイルでも緊急時には格闘戦を強いられる。

剣士だろうが、魔法使いだろうが、錬金術師だろうが、音楽家だろうが、料理人だろうが、一流というよりは、沼にはまっているFBOプレイヤーなら格闘戦を疎かにすることはない。

蹴り技と槍のコラボレーションというのは意外とある。

その虚を突いたはずの攻撃に驚いたのは、精霊たちだけだ。クローディアはニッと笑顔を浮かべただけで、動揺せず冷静に蹴りを捌き、突進を取りやめてジワリジワリと距離を詰める方向にシフトする。

俺に蹴り技のベースはない。

空手、テコンドー、キックボクシング、ムエタイ、カポエイラにサバット。

何でもかんでも混ぜて実用性を追求したキメラ格闘技が俺の戦い方だ。

空手で真面目に戦えば俺は空手を極めた人に負ける。

キックボクシングのルールで戦えば俺はその道の人に負ける。

しかし、何でもありという条件なら、俺の技は勝ちを掴みに行く。

鞭のようにしなる蹴りが、いきなり軌道を変化させ、骨格の可動領域の限界を見極めるように、弧線から点の攻撃へと変化する。

蹴りの間合いは当然だが、クローディアの間合いでもある。

奇襲攻撃で先手を取れているが、そのあとは打撃戦になる。

からめ手だけでだけで勝てる相手ではない。

であればからめ手だけではなく、正面からの突破も混ぜるだけ。

最初に闘った時とは違って、レベル差がなくステータスも同等。

であれば、ここで鍵になるのはプレイヤースキルと体格差ということになる。

『うおおおおおお!!すげぇ!!会長!!蹴り技だけで姐さんと互角に渡り合ってる!!』

『バッカ、姐さんを見ろよ!!技で牽制して会長の槍を封じてんだよ!!』

『どっちもすげぇ!!こんな技見たことねぇよ!!』

『早起きしてよかった!!』

体格差という点で言えばクローディアに軍配が上がる。

技術に関して言えば、正道のクローディアと邪道の俺と言った感じで互角。

となれば闘いが進めば俺の方が押し込まれるかと思いきや、こと戦闘経験、もっと言うのなら対人戦という点においては、同格あるいはそれ以上の強さのヤバい敵と命懸けで戦ってきた経験は俺の方が上だ。

クローディアは強い。そして真面目だ。

鍛錬を積み、そして強さを貪欲に求めていく姿勢、そしてその闘いを真摯に楽しんでいく性格は間違いなく強くなる資質を備えている。

だが、悲しむべきかな。

その強さ故に、彼女にはもはや同格の存在と出会える機会が失われている。

『お、おお!!』

『会長が押し始めた!!』

『頑張れ姐さん!!』

『決めろ会長!!』

蹴りで最初のリズムを崩した時間はわずか。だがそこから押し込めず槍の間合いに戻り別のリズムに変わったタイミングで、今度はクローディアが押し込まれ始める。

格闘戦を主体にしている存在にとって、間合いを離されるのは致命的。

以前のスキルみたいに遠距離で使える技を持っていればいいかもしれないが、いずれにせよ今回はスキル無しのプレイヤースキルオンリーの模擬戦。

伯仲した闘い故にお互いかすり傷を負いつつも、俺の方が攻撃回数が増え徐々に攻撃が当たり始める。

精霊たちの歓声が高まるなか、俺も決める気で蹴りから槍主体に切り替え、突き、払い、引き技と使い続けるがクローディアが攻撃から防御主体に移りつつ、獰猛に反撃の機会をうかがう目線で攻撃を捌かれてしまえば中々決めることができない。

どうなる、どう決着すると精霊たちが見守る最中、偶然か、はたまた意図的か。

俺が踏み込んだ場所のつま先の先に感じるわずかな感触。

俺はそれを感じ取ると同時に、蹴りぬいた。

「!?」

目を見開きそして首を横に倒し顔に迫る小石を躱したクローディアの姿勢がわずかに崩れた。だが、この間合いは槍ではない。

蹴りぬいた姿勢から、槍を支えに空中に飛び上がり、軸足で蹴りを繋ぎクローディアの体をさらに倒し切ろうと回し蹴りを放ち、それをクローディアが防ぐも姿勢が悪く、倒れ込む。

そして倒れたクローディアに追撃しようと、俺の槍の間合いに入ろうとした瞬間。

「リベルタ君!!ご飯だよ!!」

空を飛んできたアミナの声によって、ピタッと俺の槍は止まるのであった。

「くぅ、勝ち切れなかった」

「ほぼ負けていましたが、時間制限いっぱいまで粘ったとも取れますね」

結果は引き分け。

悔しがる俺に苦笑するクローディア。

そして激しく体を動かしたゆえにぐぅっとなるお腹の音。

精霊たちの残念そうな声が響くが、模擬戦はここで終了。

呼びに来たのがアミナなのでそれ以上は騒ぐことはなかったのであった。