軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 EX 蛇に睨まれた計算巧者 1

グルンドという男の話をしよう。

FBOにおいて、あらゆる罪という罪を犯すという大悪人。

考え得る罪は一通り犯していると言われる犯罪者。

それなのにもかかわらず、物語の序盤から登場しそして追われても常に逃げおおせて、遂に最後まで捕まらないという偉業をプレイヤーにみせたキャラだ。

人気に関してはお察しいただくしかないという、不人気キャラなのだが。

そんなキャラがなぜ生き残り、制作陣が生かしたかという考察は生まれる。

こんな奴が生きているなんておかしい、さっさと退場させろと苦情を入れるプレイヤーたちの意見など無視し、サービスが終了するまで捕まることも殺されることもなかった男。

「頭ぁ、あれやっぱりヤバくないっすか?」

今は一つの盗賊団をまとめ上げ、そして今日も今日とて罪を重ねる。

「ああ、やばいな」

「だったら」

「そして今更こいつから手を引く方がもっとヤバいな。ここで尻尾巻いて逃げたら、あのお方が俺たちをどうするかね?」

酒を煽りつつも酔いは回っていない目で、部下たちの仕事を見つめる男。

その目で一体何を見通しているのか。

先日発見した代物に関して、部下たちは不気味に思って近づこうとしないし、グルンド自身もやばいと思って近づかない。

偶然発見した邪神教徒の遺跡、そこを拠点にしたのが運の尽き。

そこでお宝があるかもと探索し欲をかいたのが致命的と言われればそれまでだ。

「……」

「良くて、素直に殺してくれる。普通に考えれば俺たちは仲良くあのお坊ちゃんのサンドバックの仲間入り。悪ければ……」

遺跡の奥で発見してしまった、謎の赤い球体。

ガラスのようでガラスではない、それでいて中身が透き通って見える奇妙な素材の容器はそれだけで一財産になりそうな代物。

だが、それを見つけて喜べた団員は誰もいなかった。

他人の物でも売れば金になると思えば、手に入れるために人を殺すことをいとわない欲深い集団が、そのお宝には誰一人も喜ばなかった。

「あの怪物の餌だねぇ」

むしろなんで見つけてしまったのだと隠し部屋を見つけた団員を責めだすほどだ。

これだけなら誰もが口をつぐみ、見なかったことにしようで済んだ話だが。

「君もそうなりたい口?それならほら、そこの陰にいる怖いお兄さんにそういえばいいよ」

「そ、そんなわけあるか!!頭!冗談でもそんなこと言わんでくれ!!」

「ごめんごめん、ちょっとしたジョークだよ。そうだよね、貴族様の後ろ盾で好き勝手にできているのに尻尾巻いて逃げるとかありえないよね」

その盗賊団の中に異質な雰囲気を醸し出す人間がいる。

群れるのを好まないように、一人ぽつんと壁際に座り、ナイフの手入れをする男。

一見すればそいつも周囲の盗賊団と同じような格好をして仲間のように見えるが、その男の纏う鋭利な刃物のような雰囲気に誰もが近づこうとはしていない。

グルンドと部下の会話に一瞬だけ男から視線を向けられ、部下はすくみ上り、グルンドはケラケラと陽気に笑うという温度差を見せつけて何事も起きなかったが、彼はこの盗賊団の後ろ盾になっているとある貴族が差し向けた首輪だ。

胡散臭い笑みを浮かべてグルンドは男に手を振ってみるが、監視の男はそっけなく道具の手入れに戻った。

「いやぁ、仲良くしたいんだけど一向に酒にも付き合ってくれないねぇ」

「むしろ、頭はあいつとなんで笑顔で話せるんですか。あいつ、いきなり仲間を殺したんですよ?」

「まぁ、あれに関しては僕もやばいなぁとは思ったよ?でもさ、こっち側だと喧嘩売ったら殺されても文句は言えないのは常識でしょ?殺された奴らも彼が気に食わないから喧嘩を売って、殺された。それだけでしょ?」

彼が送られてきたときは、監視が気に食わないと盗賊団の何人かが陰口をたたき、そしてずっと監視し続ける彼に嫌気がさして一部が反発して彼に喧嘩を売った。

公爵家に仕える暗部部隊の一員にならず者が敵うはずもなく、結果は四人の首が地面に転がった。

話しかけてきた部下はそれを思い出し、鳥肌が立ち、顔を青ざめている。

殺し殺されは盗賊団では日常茶飯事で、その程度のことで怖気づくほど肝っ玉が小さい男ではないのだが、それでもあの冷淡な目で因縁をつけてきた相手を躊躇なく斬殺する光景を見せられれば恐怖を植え付けられてもおかしくはない。

「そうですけど」

「まぁ、逆らうやつを殺すって言うだけでそれ以外は割と自由なんだからさ。今の状況を楽しんだ方が得だよ?お酒も飲めて、食料もくれて、やりすぎなければ奪っても許される。最高の状況じゃないか」

同じ光景を見たはずのグルンドはニコリと笑って、ゆっくりと立ち上がる。

現在拠点としているこの遺跡は、元々邪神教会が拠点としていただけあって人が住めるようになっている。

寝室はもちろん、炊事場に、井戸、厠、さらに馬小屋と人が生活できる環境は一通りそろっている。

「どちらに?」

「んーちょっと散歩かなぁ。気が向いたら賭場には顔出すよ」

「わかりやした」

そんな場所に盗賊団が住み着けば、自然とイリーガルな環境が整う。

賭場に、酒場、さらには男の欲を満たす場所。

全て奪ってきた物だが、それをその筋に追われることもなく用意できたのも公爵家という絶大な権力が後ろ盾になっているからでもある。

あのお宝のあるここは不気味で、さらに監視の目もあり、後ろ暗い仕事もさせられるが相応の報酬もある。

一定の居心地の良さがあるのだ。

そこで一団を率いる頭目になっている男は、酒瓶を片手にゆらりと歩き出す。

道中にいる部下たちに手を振って、愛想を振りまいているが誰一人とも彼を侮るようなことはしない。

むしろ尊敬と親しみを込めて頭と呼び、そして雑談を交わす。

「……」

そうやって遺跡のあちらこちらに散っている部下たちと交流している間に、そっと気配を消して一人になり、監視の男の目を掻い潜ってグルンドはドンドン遺跡の奥に進んでいく。

誰かに見られるのを避けるように進み、途中とある部屋によってからまた移動を始める。

その先に何があるかはこの遺跡に住み着いた盗賊団員であればだれでもわかっている。

見張りも誰もいない。

無防備と言えるその空間に足を踏み入れた瞬間に走る怖気。

ニヤついた表情が一瞬だけ引き締まり、そしてすぐに戻り薄目でその先にある物を見る。

「・・・・・」

容器の中からわかるほどの食欲、いや、捕食欲と言えばいいのだろうか。

ドクンドクンと脈動する音が部屋に入る前から感じられる。

「ねぇ、この頭に響く声どうにかしてくんない?毎回毎回、おなか減ったって催促されるたびに頭が痛くなるの正直しんどいんだけど」

そしてその波動が、グルンドを呼びつけたのだと当人の口から語られる。

とんとんと眉間を指でつつき、そして酒を煽る姿は怪物を目の前にしても変わらず、笑顔を浮かべて目の前の怪物に苦情を入れるまである。

『イケニエダ、イケニエヲ、ヨコセ』

「いやぁ、ぼけた老人じゃないんだからさぁ。今朝に三人、お昼に四人、そして夕暮れに追加で二人、もう食べたでしょ。餌になる人間だって無限にいるわけじゃないんだからさぁ」

『ヨコセ』

グルンドは公爵に隠していることが一つある。

それがこの怪物と対話ができるということだ。

きっかけが何かは、グルンドは一つだけ心当たりがあった。

この遺跡を見つける前に彼は手にケガを負っていた。

その傷自体は大したことはなかったが、この部屋に入り込み床の魔法陣を調べている際に滲んで染み出ていた包帯の血が魔法陣に落ちてしまった。

その結果、グルンドはこの盗賊団で唯一怪物と言葉を交わすことができるようになったと思われる。

「はいはい。まったく、一度こうなったら話を聞かないんだから」

怪物と言葉を交わせると聞けば、常人であれば忌避し拒否してしまうかもしれないが、グルンドはこれは使えると踏んだ。

相手が求めるのは空腹を満たすための生贄。

家畜や木の実などの食料ではなく、求めているのは生きた人間。

そうして、先日襲った村からこっそりと連れ去ってきた村人の入った麻袋を部屋の中に放り込む。

ごそごそと動くことからそこに入っている村人はまだ生きていることが分かる。

くぐもった声、麻袋で見えていないだろうが、それでも感じる飢えた怪物の気配に怯えて暴れているが、容器から赤黒い触手が伸びあっという間に麻袋に絡みついて容器の方に引き寄せていってしまった。

バリボリと骨を噛み砕き、肉を食いちぎる音に紛れて悲鳴がこだまするが、グルンドにそれを気にするそぶりはない。

『タリナイ』

「そいつはこっちももらう物を貰ってからになるねぇ。わかってるでしょ?これは、〝対等〟な取引だよ。僕は何もできない君に食事を持ってきた。だったら君は?」

『モッテイケ』

「毎度どうも」

これは取引、怪物と人間の取引。

暗躍するお貴族様も、好き勝手暴れるお坊ちゃんの都合も知ったことかと、怪物との密かな取引に満足したグルンドが部屋の中に手を差し出すと、容器の中から一本の触手が伸び、そしてグルンドの差し出した掌の上に触手の軟体動物の口の様な先端から赤い結晶が放出される。

怪物から与えられる物がまともな代物であるはずがない。

それなのにも関わらずグルンドは、その結晶を見つめた後にそれを大事に皮袋の中に放り込んだ。

『ツギハモットヨコセ』

「朝になったら持ってくるよ」

『・・・・・』

そして手をひらひらと振って、その場から離れる。

怪物はわずかに空腹が紛れたことによって眠りにつく。

「♪」

怪物からの声が聞こえなくなったことに上機嫌になったグルンドは、来た道を戻るわけではなく、鼻歌を歌いながら別の道に進む。

遺跡から外に出れば、監視の男がグルンドを見つける。

だけど、グルンドも小さな子供の時代から盗賊稼業に手を染めていた人物。相手が暗部であっても少しは裏をかける術を持っている。

遺跡の奥に行ったことは誰にも悟られないように、静かな空間から徐々に陽気な空間に戻っていく。

あっちこっちに寄り道をして、まるでずっと部下と一緒にいたかのように見せかけた彼は、気づけば賭場で酒を煽っている。

「頭!」

「どうだい?調子の方は?」

「へへへへ、ぼちぼちですわ!頭も一勝負どうです?」

「そうだねぇ、それじゃちょっとだけやろうか。手加減してよ?」

「頭相手に手加減したら俺たちが身ぐるみはがされちゃいますよ!!」

生贄の人間を冷酷に怪物に差し出した後だというのに、誰にも気づかれず、そして日常に溶け込んでいく。

「ええ、僕、男の体には興味ないんだけど?どうせならさぁ、こうねぇ?」

男同士の馬鹿な話に興じ、ジェスチャーでこういうのがいいと伝えると部下たちの笑い声が響き渡る。

「女って言えば、前にお貴族様からもらった女はどうしたんですか?」

「ああ、あの子?坊ちゃんにずいぶんといじめられたみたいでねぇ。そんなに長く持たなかったよ。心の方もボロボロだったし、大して楽しめなかったよ」

話していることはクズの会話。

だけど、グルンドにとってはこの濁った河の中こそ、自分の居場所。

正義なんていらない、誰かのためなんて反吐が出る。

自分の欲望に忠実で、自分のことしか考えず、そして誰よりも自分がかわいいと言えるこの集団こそが、自分の居場所。

「結構いい女だったでしょ?」

「さぁてねぇ、もう覚えてないよ。僕、昔の女とか忘れるようにしてるのよ」

そこを守るため、なんてことも言わない。

居場所がないなら、自分で作ればいい。

こうやって表の社会からはじき出された奴を集めればいい。

甘い餌を用意して、楽しい思いをさせてやればこういうやつらは都合よく集まってくれる。

男も女も関係ない。この濁った河のような場所がこいつらの住処なのだから。