軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

23 一長一短

さて、今さらだがステータスについて考えようか。

ずんぐりとした脂肪で弛んだ体。

歩く姿もノシノシとだらしない歩き方をする巨体。

トロールがダンジョンの侵入者である俺たちにめがけてゆっくりと歩いてくる。

「範囲魔法は使わず、距離を維持しながらショックボルトで仕留めましょうか」

「わかりましたわ」

距離はまだあるが、エスメラルダ嬢はあえてゆっくりと歩いて近づいていく。

魔法使いが前に出るのは本来であれば悪手。

「俺たちは周囲を警戒。近寄ってくる個体がいたら遅滞戦術で足止め。エスメラルダさんが一度に複数を相手取らないように注意を払ってくれ」

だけど、トロールが相手だったら、その選択肢も有りだ。

今のエスメラルダ嬢は由緒正しき魔女とはかけ離れた格好だ。

全ての防具を沼竜の素材で固めているから当然と言えば当然なんだが、彼女の体型に合わせて誂えたガンジさん作の細身のスケイルアーマーにマントを羽織り、沼竜の爪と地水火風の精霊石を組み合わせて作った魔法スキルの威力をあげる髪飾りをつけた彼女は、魔女というよりは女性騎士のように見える。

左腰に短い予備の魔法杖を剣のように装備し、軽量で魔力の伝達効率に優れたミスリルの本体に地水火風に加えて光と雷の精霊石を組み込んだ長い魔法杖を両手で持っているから、魔法騎士と言えばいいだろうか。

トロールに堂々と杖を向ける様がさらにその印象を強める。

「ショックボルト!!」

そして杖の先端から迸る紫色の雷の矢。

弓矢のような長い矢ではなく、クロスボウとかに使用されるような短い矢の形状を模した魔法の雷は一瞬でトロールの体に迫り、動きの鈍いトロールの体にあたると瞬間的にその全身に紫色の眩い放電が走る。

『ぎゃ!?』

痛みを感じたトロールの動きが止まる。

「ショックボルト!!」

雷属性は痺れ効果を付与できる攻撃が多い。

しかしその痺れ効果は敵の魔力数値が高いと発生しにくくなる。

要は魔力が高いと魔力抵抗値も高くなるということだ。

魔力抵抗値が高ければ当然ながら攻撃魔法のような魔力を使うスキルに対して防御力を得るわけだからダメージは少なくなる。

だが、逆に体力寄りのステータスである場合はどうなるか。

「近づけないわね」

「すごいよ!エスメラルダさんが魔法を打つだけであんなに大きいモンスターが倒せちゃうなんて!」

答えは単純、無茶苦茶効く。

威力が増加するとかそういうことはないけど、体力寄りのステータスだとどうしても魔法系統の攻撃スキルから受けるダメージが増えてしまう。

これはシンプルに魔力数値の低いステータスであるがゆえに魔法攻撃に対する抵抗値が低いから、スキル攻撃で発生するダメージの減衰が少ないために相対的にダメージが増えているということだ。

トロールは何度も前進を試みるが痺れた体が動かず、エスメラルダ嬢は一歩もそこから動くことなく連射でショックボルトを当て続け。

「ふぅ、倒せましたわ」

トロールを撃破して見せた。

魔力寄りのステータスの強みは魔法スキルを何度も使えるという点だ。

ネルみたいに体力寄りのステータスにすると、スキルは考えて使わないとすぐにガス欠を起こす。

だが、エスメラルダ嬢のように魔力寄りにステータスを振っていると、多少の無駄撃ちは許容できるくらいに魔法スキルを多用することができる。

「残り距離の安全マージンは取れてるけど、ダメージから逆算すると一回に相手取れる数は三体までですね」

「そうですわね。ショックボルトで動きを止められると言っても連射できる速度には限度もありますし」

しかし、その反面身体能力という面では体力寄りのステータスに劣る。

「動きの速い狼系とかだと、牽制しながら引き撃ちをしないといけませんし、広範囲魔法を使うなら発動時間を確保しないといけませんよね」

「立ち回りを覚える必要があるということですか」

「ソロでの立ち回りは、いざという時に必要ですからねぇ」

体力寄りのステータスにも、魔力寄りのステータスにも一長一短がある。

「私もネルのように素早く動ければいいのですが」

「ある程度は動けますけど、ネル並みに動くとなるとステータス的に無理です」

体力寄りのステータスのメリットはなによりも身体能力が格段に上がること。

走るのが速くなったり、力が強くなったりと運動能力が強化される。

シンプルに近接戦闘という分野にわかりやすく貢献できるステータスだ。

だったら体力全振りが最強なのではと思われるかもしれないが、そうは問屋が卸さない。

体力全振りは確かに身体能力という面で言えば最強になれるかもしれない。

だが、その反面スキルはパッシブスキル以外は一切使えなくなる。

アクティブスキルを使うには魔力が必要不可欠。

首狩りや心臓打ちといった物理ダメージのスキルであっても、その効力を発揮するためには魔力が必要になる。

「イングリットみたいに、半々にするという案もなくはないですけど、そうするとスキル発動の管理が難しくなりますし、魔法使いの最大メリットである魔力ダメージも減るんですよねぇ」

そして、大技のスキルが使えなくなる。

物理的にダメージが上がっても、脳筋ステータスで上げられる火力には限界がある。

装備とステータスで限界まで上げてたどり着ける能力で叩きだせる攻撃力は、結果的に言えば魔法スキルに及ばない。

さらに言えば、物理防御力が上がる半面、結果的に特殊攻撃への耐性が低くなってしまうのも致命的だ。

物理特化の極地は、物理特化の防御力と物理攻撃力を極限まで突き詰めたスタイルにしかならない。

装備で多少補えるが、物理攻撃に強く特殊攻撃をしてくる敵などいくらでもいる。

「結論だけで言えば、どんなスタイルでも使いようってことですね。自分の理想と現実をすり合わせて、そのスタイルの強みと弱みを理解して長所を生かし短所を潰すことを念頭に置いて行動すればどんなスタイルでも自然と最強になれるんですよ」

では、魔力寄りのスタイルの方が強いかと言えば、今度はこっち側の欠点が浮き彫りになる。

魔力寄りのステータスは体力寄りのステータスの反対のことができる。

体力寄りのステータスの極致が通常攻撃が鬼のように強くなることとしたら、魔力寄りのステータスの極致はスキル攻撃が鬼のように強くなる。

スキルによる攻撃手段は、理不尽と言えるような効果が色々とある。

俺の心臓打ちとかがわかりやすいだろう。

このスキルがあればいかに強靭な肉体を持っていようが、ステータスで強化された胸筋やその上に重ねてつけている鎧などの防御力をぶち破って心臓に直接攻撃ができる。

即死の可能性も秘めた攻撃。

それが魔力によって生み出されるスキルという名の理不尽。

魔力を上げれば、相応の攻撃力を出すこともできるし、なんなら一撃で広範囲の敵を殲滅するような自然災害のような攻撃もできる。

「私の場合は、身体能力の低さと向き合い。魔力の高さをどうやって活かせば理想的に動けるかを研鑽するということですか」

「そういうことです。今回は物理特化のモンスターですから簡単に倒すことができていますけど、これが魔力防御がある程度ある敵だと一気に倒しにくくなりますので」

だがその反面、スキルを使う当人の身体能力はそこまで高くはならない。

少なくともクラスもレベルもカンストした状態であるのなら、ネルとエスメラルダ嬢の身体能力は雲泥の差と言ってもいいくらいの差はつく。

「あと、魔力寄りのステータスで注意すべきことは高速で移動できる系統の敵です。どうあがいても距離を維持しないといけない魔力型にとって、多少のダメージを覚悟してツッコんでくる敵は厄介極まりないので」

「そうですわね。今回の敵の動きは遅くて何度も攻撃することができますけど・・・・・ねぇリベルタ一つ気になったのですが」

「なんです?」

FBOプレイヤーの間で定期的に行われる論争がある。

もし仮にプレイヤーの戦闘技術が同格と仮定して、筋力寄りのステータスのプレイヤーと魔力寄りのステータスのプレイヤーが戦うとどっちが勝つかということ。

これは新スキルが発表されたり、新しい性能の武器が作られたりするたび発生する風物詩みたいな論争だ。

「体力寄りのステータスだというのに、あのトロールの動きは遅いですわよね?人でしたら満遍なく強化され、力も早さも硬さも増すというのになぜモンスターは種族差があるのですか?」

「いくつか説がありますね。有名なのはゴーレム系のモンスターと狼系のモンスターだと体重も体格も違うのにどっちも同じ能力だと不自然だということで、体格がよく硬いゴーレムは鈍足に、素早くそして小柄な狼系のモンスターは俊足にという形でその種族の肉体特性がステータスに反映される説」

どのような論争が繰り広げられるかといえば、ガチになるとスキル構成はどうなるのか、装備はどのような装備がとかフィールドはどんな場所を想定しているかといろいろな細かい条件を付け足すようになり、それによってどっちに有利か不利かが決まってしまう。

その都度その不利な部分を修正して公平な条件にしようとすると、結局どっちが勝ってもおかしくないという結論に至る。

体力寄りのステータスには体力寄りの強さが、魔力寄りのステータスには魔力寄りの強さが。

そして均等のステータスを使っている人にもその個性となる強さが存在する。

トップ層のプレイヤーのステータスを見ていると、おおよそ体力か魔力のいずれかに尖ったステータスを持ったプレイヤーが均等な割合でいる。

逆にバランス型のステータスをしている層はそこまで多くはなかった。

俺の知っている最高の脳筋は、自称宮本武蔵の生まれ変わりというステータス割合九対一という脳筋ステータスでアバターもゴリマッチョの侍風の二刀流使いで、プレイヤーネームはミヤモトだった。

逆に、魔力寄りのプレイヤーの中で一番の魔法使いはステータス比率0.5対9.5という阿呆みたいな魔力極振りのステータスで戦闘モード以外の装備は働いたら負けという文字を書いたTシャツを愛用していたネエトというプレイヤーだった。

ここまで振り切っても強いキャラに仕上げられるくらいに、ステータスのバランスとキャラ育成の関係は奥深い。

俺は自分の使い勝手のいいステータスを使っているからそこまでとがらせていなかったが、ミヤモトとネエト、この二人の対戦動画はどっちのステータス特化が強いかの論争が馬鹿らしくなるくらいにすごかった。

「なるほど、それならトロールは体重が重いので動きが遅くなるということですか。他にも説があるのですの?」

「仮説ですけど、モンスターだけはさらにステータスが細分化されているという説です」

「細分化ですの?」

「はい。体力の中にもっと細かく、例えば力や素早さ、さらに頑丈さなんて分かれたステータスがあって、体力と表示されているステータスの値は、そのステータスの平均値を示しているという説です」

「……力が強い分どこか別のステータスが低くなり、素早さが低い分頑丈さが高いという風になっているということですの?」

「確かに装備やエンチャントの項目の中に力をあげる代わりに防御力が下がるなんて物もあるので、もしかしてと思うようなところもあるんですよ。巨人族や獣人族の人はほかの種族と比べて同じステータスなのに力が強いなんて検証結果もありますし」

何が最強か、それを決めるのはあくまで中身。

もちろん育成環境は一緒だけど、その過程でどれだけステータス外の要素を身に着けられるかが重要になる。

ゲーム時代に似たような話があったなとエスメラルダ嬢の話に答えると、再び聞こえる地鳴りのような足音。

「どこのどなたの研究かは後で聞くとして、今はダンジョンを攻略することに集中しましょう」

「そうですね。それがいいです」

今言えるのは、このダンジョンがエスメラルダ嬢にとって美味しい狩り場であるという事実だけだ。