軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 泡沫のダンジョン

新しい楽器の練習ばかりしていては、精霊界に来た理由が薄れてしまう。

ここで強くなって俺たちのパーティーの完成形の基礎を造らないと、次に強くなるための機会が訪れるかどうかわからない。

「ここが、泡沫のダンジョン?なんだか不思議な場所ね」

精霊王と約束した新しい催しの第一段として企画した運動会の道具も、楽器のついでに闇の精霊と一緒に錬金術で作った。ひとまずライブと運動会の準備ができたので、俺たちは本来の目的地である泡沫のダンジョンに来ていた。

ダンジョンの入り口と言えば、何もない空間に現れるゲートであるが、精霊王の創ったここ泡沫のダンジョンは少し変わっている。

ふわりふわりと空中に浮かぶ色とりどりの泡。

そしてその下に広がる色とりどりの花畑。

泡は全てその花から生み出されている。

「このダンジョンはかなり特殊でな。挑戦者の望み通りのダンジョンを作れる場所なんだ」

この泡がダンジョンの素材というわけだ。

「そんな簡単に作れるのでしたら、もっとダンジョンがあふれてそうですが」

しかしそのダンジョンの素材がそこら中にまき散らされているというのにダンジョンの姿が見えない。

「ダンジョンが出来るには手順がありますからね。レシピ通り作らないと欲しいダンジョンは生まれてこないし」

「ダンジョンってレシピがあるんだ」

それもそのはず、そのままではダンジョンにならない。また適当に作っても一応ダンジョンは出来上がるがそのダンジョンが何のダンジョンになるかは入ってみないとわからない。

アミナがダンジョンにレシピがあることに驚いているが、ここが特殊なだけで他にダンジョンを作る方法があるわけではない。

「あるぞ。と言っても精霊王の力が及ぶ精霊界だからできる技だけどな」

俺の知る限り、ダンジョンを作れる場所はFBOの世界広しと言えど、ここだけだ。

そしてFBOで精霊界に来れるのは、ストーリーではクラス7以降のレベル帯になってからだから、ここを使うプレイヤーは素材集めに活用するくらいだった。

「しかし、どうやって作るのです?見た限りでは、泡が浮いているだけですが」

「じゃぁ、手始めにクローディアさんのジョブを取るためのダンジョンを作ってみますか」

精霊界を治めるのは精霊王ではあるが、この世界にも一応分神殿がある。

ご都合主義かもしれないが、精霊と神にはつながりがあって、信仰ではないが互いに認知しあえるようになっているのだ。

おそらくだが、精霊王の言っていた知恵の神ケフェリが俺を転生させた目的もそこに関係してくるんだと思う。

精霊と神の関係性は、FBOでもいろいろな考察が行われたが結局のところ真相に迫ったプレイヤーは誰もいなかった。

精霊とは自然が具現化したもの。

神はその自然を生み出したということで、親子説が一番有力だった。

親が子を見守るために分神殿を精霊界に設置したのではないかと言われている。

そこに神官は存在せず、定期的に精霊たちが掃除しているだけで、こうやって人が来た時に試練を授ける程度の役割しかない。

「それは有り難いのですが、条件は先ほどの物でいいのですね?」

「ええ、今なら変えることはできますけど。クローディアさんの望みは武闘家でいいんですよね?」

その恩恵を受けられる身としては特に指摘する必要もないので、そこに触れることなくクローディアのジョブ獲得に挑戦する。

「ええ。やはり慣れ親しんだ格闘こそ私の本分なので、ここで変えてしまえば後悔してしまいます」

「わかりました。二つ名は天割でいいですね?」

「それがあなたの知る最高峰の二つ名であるというのなら、それに挑みましょう」

クローディアが獲得するジョブは武闘家。

格闘系統のスキルに補正のかかるジョブで、四肢を武器にするクローディアが元々持っていたジョブだ。

ただ、二つ名持ちではあったが効果の薄い物だったため、今回は最高峰の二つ名獲得に挑む形となる。

「了解です」

天を割くと書き、アマサキ。

天割の武闘家。

この二つ名の獲得方法は、武器を使わず素手の格闘のみで、特定のダンジョンをソロで攻略することで確率で入手することができる。

この二つ名はアミナの至高と一緒で確率を百パーセントまでもっていく方法がある。

「ボスは飛行系ユニットのストームファルコンです。属性は風なので風魔法をメインに使ってきます」

一つはソロ討伐だ。

「ソロで、規定時間内にダンジョン内モンスターを百体討伐したのちにボスの討伐です。それを実行できれば九割九分九厘天割の二つ名を獲得して武闘家のジョブも得られます」

パーティーの力を借りずにソロでモンスターを一定数規定時間内に討伐し、そしてボスもその規定時間内に倒さないといけないというRTA要素が盛り込まれた条件だ。

ただ武闘家になるというだけであれば、武器を使わずモンスターを数体倒せば武闘家のジョブは得ることはできる。

しかし、天割の二つ名が指すように、この二つ名を得るためには飛行系ユニットが支配するダンジョンを攻略することが必須条件だ。

格闘戦を主体としているのに、飛行系ユニットと戦わないといけないのはかなり厳しい条件だと言える。

「相手は一応接近戦を挑んでくる系統の飛行系モンスターですけど、遠距離戦も仕掛けてくるので注意してください」

「安心してください。ストームファルコンもその取り巻きであるジャイロイーグルも戦ったことがありますので問題なく対処できます。リベルタからダンジョンの地図もいただきましたので」

だけど、このダンジョンに挑むのはプレイヤースキルで言えばFBOでもトップ層のNPCである破戒僧クローディアだ。

戦闘経験値だけで言えば、俺が心配するのも烏滸がましいほど場数を踏んでいる。

油断する気質でもなければ、注意を怠るような性格でもない。

「わかりました。では、さっそくダンジョンを作りますね」

攻略の仕方も教えてしまえば鬼に金棒と言うか、ゲーム経験者に攻略本を与えるようなものか。

なのでこれ以上の気遣いは不要だと思い、花畑の方に向き直りさっそく作業に取り掛かる。

「作るって、何を作ってるのよ」

「花冠」

しゃがんでさっそく何を始めるかと言えば、花冠作成だ。

「花冠って、あの花冠?」

「僕も作ったことあるよ?」

「ああ、ここに咲く花はどれも精霊王の力が染み込んだ異界花という名の花でな。この花を編み込んだ花冠がダンジョンの鍵の代わりになるんだ」

花冠に編み込んだ花の種類、花の数でダンジョンの種類をある程度選定できる。

ひとまず風属性の緑色の花をメインに花冠を作り始め、途中に鳥を示す羽のような花弁をもつ花も添えてやって黙々と花冠を作る。

「花冠の大きさによってダンジョンのクラスが決まって、花の色で属性が決まり、花弁の形でモンスターの種族が決められる。今俺が作っているのは風属性の鳥類のダンジョンって言うわけだ」

「ですが、その条件だけですと多くのダンジョンが合致すると思いますが」

しかし、これだけの条件だとイングリットの指摘する通りまだランダム要素が残る。

風属性の鳥類なんてゴロゴロいるし、クラス3で絞ってもその幅は広い。

「最後の絞る条件はそこら中に浮いている泡だね」

「泡、ですか?」

そこからさらに絞りこむために必要なのが、この空間に浮く泡だ。

俺は作り上げた花冠を片手に立ち上がって、近くの泡を見る。

うっすらと色がついている泡の色の中から緑色の泡を選び、それをそっと掴む。

「割れないのですね」

「さすがに力強く握ったら割れますけど、普通に掴む分でしたら割れませんよ」

儚げな気泡を片手で掴んでいるという不思議な光景。

ぷにぷにと癖になりそうな感触を味わいつつ、その泡をどうするのかという周囲の視線に応えるべく次の行動に移る。

「ここで重要なのはイメージです」

「イメージですか?」

「この気泡を持った状態で、ダンジョンのボスをより鮮明にイメージするとこの気泡は姿形を変えます」

本当にどうやったらこんな技術ができるんだと、ゲーム時代はそのシステムに驚いたものだ。

ゲームでこの場に案内してくれた精霊にいきなり『泡を掴みイメージしろ』とダンジョンの作り方を教わった時が懐かしい。

モンスターを知っていることが前提で、花冠はダンジョンを作るための基礎情報。

そして泡はモンスターを生み出すための情報だ。

「これは!」

「わぁ、大きな鳥だ」

俺の片手に掴んでいた泡は、元のサイズを大きく上回って形を変えていく。

それは天空を支配しようと挑む大きな隼。

鋭く細いシルエットであるが、その体躯は俺よりも大きい。

翼を大きく広げたシルエットで作り出しているからアミナの大きいという感想もよくわかる。

「こういう感じで泡のモンスターを作り出して花冠に触れさせると」

久しぶりにやったが、思いのほかスムーズに泡の形を整えられた。

まぁ、何度も何度も花冠を作ってこうやって泡でモンスターの形を象ったからな。

最早片手間でもできてしまう。

「あ、ダンジョンのゲート!」

「本当にできるんですね」

花冠が泡に触れた途端に輝き、すぅっと光になりダンジョンのゲートを形成する。

「ダンジョンの鍵に弱者の証を混ぜ込んだ物と違って一度だけの消耗ダンジョンだ。だけど花冠とさっきのイメージさえできれば何度でも作り出すことができる」

これが泡沫のダンジョン謹製ダンジョン。

欠点と言えば、毎度花冠を作らないといけないという手間と、ここでしか自生しない異界花と精霊界という精霊王の力が及ぶ空間が揃わなければ作ることができないということくらいか。

それ以外は一切他のダンジョンと大差ない。

「だからクローディアさん。危ないと思ったら撤退してください。何度でも挑戦はできるので」

「心配してくださってありがとうございます。そうですね、身の危険を感じたらすぐに帰ってきますね」

そのダンジョンに挑むクローディアは装備を点検したら、心なしか楽しみだという雰囲気を軽やかな足取りに示しつつ、迷わずダンジョンの中に入って行ってしまった。

「クローディア様って、戦うことが好きよね」

「うん、そこはなんとなくわかってた」

あの雰囲気、身の危険を感じたとしてもこれくらいの試練ならと割り切って帰ってこなさそうだなぁ。

なんだかさっそくダンジョンの中から打撃音が聞こえているような気がする。

ネルもアミナも心配はしているが、クローディア様なら不安はないとひとまずその背中を見送ったら、次は何をするのかと俺に視線で問いかけてきた。

「クローディアさんが戻ってくるまでに、次はエスメラルダさんのジョブを獲得しましょうか」

「いよいよですか!」

クローディアが戻ってくるまでは時間がかかる。

そしてジョブを獲得していないもう一人であるエスメラルダ嬢の番が来た。

「魔法使いのジョブは少し特殊で、段階があるのは前に説明した通りです」

「ええ、魔術師、魔法使い、魔導士、賢者、そして魔法使い職に冠たる魔王、この五段階に分けられますわ」

「はい。当然目指すのは魔法系ジョブの最高峰である魔王で、さらにそこから最強の二つ名、元素を手に入れます」

彼女が獲得するジョブは、予定通り魔法スキルに補正がかかる魔法使い系統。

魔王というラスボスっぽい名のジョブであるが、この世界のラスボスは邪神で、魔王なる世界を滅ぼそうとする輩は存在しない。

最高位の魔王は魔法を使うという分野のジョブで最も補正力が高い。

魔法系スキルの攻撃補正はもちろん、魔力の消耗を抑えてくれるスキルも獲得することができる。

そして狙うは元素の魔王。

全ての魔法に上位補正がかかる二つ名。

効果範囲で言えば、他の二つ名の追随を許さぬどころか全二つ名の中で最上位。

その効果範囲の広さに加えて、上昇補正数値もトップクラスという破格の二つ名。

「ええ!エーデルガルド家の名に誓って見事取って見せますわ!!」

まぁ、エスメラルダ嬢の悪役令嬢っぽい見た目で魔王のジョブを取るのはいいのかなぁとは思わなくはないが、当人が気にしないのならいいんじゃないかな。