軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

19 作る面白さ

軍人風の出で立ちの闇の精霊が、ライブの最前席を提供する申し出に食いついてくれたのは幸いであり、そしてそんな彼は、間違いなく俺の知っている精霊であった。

精霊界にも一応店という物が存在する。

だけど、人間の街の店のように商売熱心であったり、定期開業しているわけではない。

その営業の仕方に一定の法則があるわけでも、一定の条件があるわけでもなく。

本当に気まぐれで開かれる店だ。

この闇の精霊の錬金術店もそんな一店舗。

精霊が作る錬金製品だけあって、かなり高性能なアイテムが手に入るのだが、それはストーリーを進めて闇の精霊を再度精霊錬金術師に戻してからの話だ。

『どうなのだ?』

ゲームではこの闇の精霊のルートは二択、仲間にするか店主にするか。

一から育成することが精霊術師にとってマストである観点から、よほどのことがない限り闇の上位精霊を仲間にすることはない。なのでこの闇の精霊は店主ルートをたどることが多い。

「はい。そのようにお伝えすることをお願いしました」

『うーむ、あの小精霊の話は真であったか』

「過去のライブにも来られたことが?」

『二度目のライブに参加させてもらった。アレは良い催しだった。なんというか、心の底から元気が出るという気持ちになる』

「楽しんでいただけて幸いです」

『いや、こちらこそ感謝する。長い年月を生きると我々闇の精霊は定期的に無気力になることがあるのだ。その期間を突破できたのは貴殿と、アミナちゃんのおかげだ』

前にアミナの許に押し掛けた光の上位精霊と違い、少しミーハーなところは有れど節度は守って接してくれる。

ゲーム時代はこんな感じではなく、もっとぶっきらぼうで不器用なイメージだったのだが、アミナのライブに触れていい感じに柔らかくなったのか。

闇の精霊特有の無気力期間を克服できたことが本当にいい方向に作用したのか。

この闇の精霊もサイリュームを全力で振って騒いでいたと思うとジワリと面白さがこみあげてくる。

『前のライブの時は後ろの方だったのでな。まさか最前列で見れる話が来るとは思っていなかった』

「こちらとしても益のある話ですので」

『某の使っていた錬金台を欲していると言っていたな。あんなものでいいのか?最近では手入れを怠っているから、使うにも少し手入れが必要だぞ?』

「人間の自分からしたら破格の価値があるんですよ」

『そのようなものか』

店主ルートに入った闇の上位精霊は、錬金術師としてはガチ育成したプレイヤーには敵わないが、NPCの中では五本指に入るほどの錬金術の使い手。

あの変人エンジニア集団よりもスキルもレベルも上だ。

当人は大したものではないと言っていたが、見る人が見ればお宝なのは間違いない。

『精霊王から、貴殿らがしばらく精霊界に滞在することは聞いている。あのような物でアミナちゃんの役にたつのなら持って行ってくれて構わん』

「本当によろしいので?また錬金術を始めるときに困るのでは?」

『その時はもう一度最初から始める。なに、長い年月を生きていると初心の頃の気持ちを思い出すのも良い物だ』

それをあっさりと手放してくれるのは、アミナのライブを見たからなのか。

しかも、対価としてあまり釣り合っていないのは気にしていない様子。

「……もしよろしければ、報酬を上乗せしますのであなたの錬金術のスキルをお借りできませんか?」

こんな精霊とのやり取りに、俺個人としてもっと対等に接したいと思ってしまった。

『某の?』

「はい。あなたの錬金術師としての技術で、俺と一緒に楽器を作りませんか?」

『それは』

「はい、アミナの歌うライブで俺たちが演奏する楽器です」

もちろん、彼の錬金術師としての腕を見込んで頼んでいるということもある。

もう一つの理由は、スキル無しの俺が作るよりもスキルに熟達している闇の精霊である彼が作ればよりいい物が出来上がるということだ。

『某が、アミナちゃんのライブの楽器を?』

そしてこの上位精霊は心底それを喜ぶ性質だというのをこの数分の会話で実感した。

「報酬は、その楽器が完成した際の最初の演奏の観客というのはいかがですか?」

そんな彼への報酬は、たった一人の観客への個人ライブ。

ブルリと闇の精霊の体が震えた。

武者震いとは違う、興奮した際に発する体の震え。

『カハハ、それは何とも滾る!』

そして俺の提示した報酬は彼のやる気のスイッチを思いっきり押し込んだようだ。

心底楽しみだという歓喜の表情であるはずなのに、どこか挑戦的だ。

『いつから始める?』

「今からでも」

『重畳!道具をこっちに持ってくる!しばし待て!』

その熱を冷ましてはいけない。

そう思った俺は思い立ったが吉日ということで、さっそく楽器の作成に取り掛かることにした。

精霊回廊へ飛び込む闇の上位精霊の背を見送って、俺は苦笑しながら振り返ると呆れたような眼で俺を見る女性陣と目が合う。

「ということで、さっそく楽器作りに入りますね」

「手伝いはいるかしら?」

「まずは設計図を引くことから始まると思う。そのあとは手伝ってもらうかもしれないが、今日は大丈夫」

急な予定の差し込みに対して、仕方ないと割り切ってくれる彼女たちは心が広い。

本当だったら錬金台だけ手に入れる予定だったが、実際に話してみて闇の精霊を気に入った俺は、協力してほしいと思ってしまった。

ネルの手伝いの申し入れはひとまず断る。

「では、ひとまず私たちは今晩の夕食の用意をしますか」

「はい。精霊王様から食材は運ばれておりますので、それを使えばよろしいかと。あと、これから長期で滞在するのでしたら部屋の方に家具など足りない物がないか確認するのも必要です」

そして今日はダンジョンに行く予定もないので、この家で生活するために行動を始めた。

「それでは手分けして行いましょう。イングリットさんとアミナは夕食の準備を、私とネル、そしてエスメラルダさんで家の確認をしましょうか」

「はーい!皆行こう!」

『『『はーい!』』』

「失礼いたします」

イングリットと、アミナが台所に向かい、その二人に続いて小精霊たちもついていく。

「そう言えば、リベルタ。一つ確認しておきたいことがありますわ」

「なんでしょう?」

そのまま家を把握するために残りの三人も移動し始めると思っていたが、エスメラルダ嬢がいく前に一つ確認をと立ち止まった。

「精霊界と私たちの世界を行き来しようとは思わないのですの?ミーちゃんたちの精霊回廊を通れば精霊界と行き来できると思いますの。ですが、あなたは精霊界に留まることにこだわっているように見えましたわ」

それは、わざわざ精霊界に留まる必要があるかどうかという質問だ。

非難するわけでも、嫌だというわけでもなく、エスメラルダ嬢はただただ疑問だから口にしたという感じで俺に聞く。

「こだわる理由はいくつかありますよ。相対時間比率を毎回精霊王に変えてもらうようにお願いするのも申し訳ありませんし、精霊界の状況を把握しておきたいって言う理由もあります」

精霊界というのはゲーム時代でもかなり特殊なエリアにカウントされる。

相対時間比率が偏っていると人間界で一日過ごすだけで精霊界で数年過ぎているなんてざらだ。

このことを忘れてうっかり外泊してクエスト期限を超過するなんてこともあった。

今回の精霊界滞在はライブとダンジョンでのレベリングに関して期限とかは設けていないが、それでも途中で離脱したマダルダの状況を長く放置するのはまずい。

だがそれを避けるために毎度精霊王に会って時間比率の変更を頼むのは、何か対価を要求されてもおかしくはないので避けたい。

次に精霊界でのクエストなどもこれを期に把握しておきたい。

精霊界に来るのはもっと先の話だと思っていたから正直気にしていなかったが、こうして来れたのなら今の俺たちのレベルだからこそ役に立つクエストが次々に思い浮かぶ。

「まぁ、なにより」

「なにより?」

「今このタイミングで精霊界から向こうの世界に戻ってしまったら、何かトラブルに遭って精霊界に戻ってくるのが当分先になりそうな予感がして」

そんな事情よりも、より深刻なのが、何の根拠もない嫌な予感というやつだ。

自分が引き寄せているとは思いたくはないが、それでも最近の俺のトラブル率は高すぎる。

マダルダで出会ったレイニーデビルもそうだし、それより前の狂楽の道化師の件もそうだ。

さらにジャカランの件も怪しいと思うし、正直、その諸々から離れて強くなれる機会などそうそうない。

「「「・・・・・」」」

そんな機会を逃したくないという、俺の願望を口にすると、ネル、エスメラルダ嬢、そしてクローディアはあーと納得してしまった。

「まぁ、手紙くらいは送って公爵閣下に安否をお知らせしておいた方がいいかもしれませんが」

「そうですわね。レイニーデビルの件でお父様に伝えることもありますし。そちらは私が書いておきますわ」

「お願いします。ミーちゃんたちの誰かに頼めば送ってくれると思いますので」

いやな予感という方向性で信頼度高めなのは納得しがたいことだが、事実は受け入れないといけない。

「わかりましたわ。それでは、私たちは家の確認をしてまいりますわ」

「お願いします」

手紙を送るということで連絡はできるので、この話はこれでおしまい。

立ち止まっていた三人も家の確認をしに部屋を出ていった。

『戻ったぞ』

「あ、お疲れ様です」

『少し埃は被っていたがまだまだ使えるはずだ。道具も持ってきたからさっそく始めるか?』

そして会話をしている間に闇の精霊も戻ってきた。

上位精霊だけあって、身体能力は高い。

本当だったら滑車とか使って移動させるはずの錬金台を軽々と持ち運ぶどころか、それ以外の道具も抱えて片手で持って来て見せた。

しばらく放置されていた錬金台は色々と汚れが目立つが、それでも整備すれば十分使えそうなものだ。

設備や道具類も軽く目を通す限り、中の上くらいの性能はありそうだ。

「いえ、整備は後回しにしてひとまずは楽器の設計図を引きましょう」

『わかった。某も貴殿が何を作るか楽しみで仕方なかったのだ。まずは何を作るのだ?笛か?リュートか?』

「そうですねぇ、まず手始めに」

これなら、アレが作れそうだ。

多忙型アイドルの伴奏担当の精霊たちに持たせていた楽器たち。

「魔導楽器ってご存じです?」

『知らぬな』

通称魔導楽器。

魔導と言っている通り、魔力を使った楽器なのだが、見た目と性能はまんま日本のバンドマンたちが使っている楽器そのものだ。

エレキギターに、エレキベース、キーボードにと要は電気を使う楽器を魔力で応用した代物だ。

これに関してはFBOの仲間に楽器を作っているメーカーに勤めている整備士がいて、そいつに教わった。

FBOは自由が売りで、どこまで現実世界からハイテク製品を導入してゲーム内で作れるかを実験した結果生み出された代物だ。

これがまぁ、歌系統のビルドに刺さる刺さる。

「こういう形で、細かい設計は」

『ほう』

「それで、回路の方がこうなって」

『おお!』

アンプを必要とせず、拡声のスキルスクロールを付与すれば普通に大きな音も出せるという優れもの。

後はドラムセットとか、笛の代わりだとフルートとかサックスとか作った方がいいかね。

ひとまず、闇の精霊が用意してくれた紙に設計図を書き上げていくと、闇の精霊はドンドンのめり込んでいく。

『であるなら、こっちの回路とこっちは作用するのであるな!』

「わかります?」

『うむ!こういう回路を前に作ったことがある。だが、楽器に応用するという発想には至らなかった!』

それは新しいおもちゃを与えられた子供のよう。

心底楽しいと言わんばかりに設計図を描きながら、良い物を作ろうとその日は語り合うのであった。