軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

18 運動会

「衣装と道具は後に回すとして、とりあえず催しの候補をいくつか考えてあるから聞いてもらっていいか?」

さて、ネルとアミナに見本を見せないといけないというのは意識すると意外と緊張するな。

「いくつかあるんだ」

「僕の知らない歌をいっぱい知っているから、おかしくはないよね」

俺が催しを考えるにあたって、まず着眼したところは座席のチケットだ。

今は早いもの順、みたいな感じで席を埋めているけど、やっぱり最前列のステージの真正面。

所謂S席と言われる場所はとても人気がある。

そこを毎回力のある精霊が占有したら他の精霊たちから不満が出てしまう。

なのである程度公平な状況でフラットな感じにして競い合えるようなものを作れないかと考えた。

最初は俺がターゲットになって逃〇中みたいなことをしようかなぁと思ったが、自分よりも格上の精霊相手に全力で逃げ続けるのは土台無理だし、何より参加者が多すぎる。

「大勢の精霊が参加できて競い合えるということで、考えついたのは運動会だな」

「うんどうかい?」

「なにそれ?」

「クローディア様ご存じですか?」

「いいえ、聞いたことはありませんね。イングリットさんは?」

「いいえ、私も寡聞にして知りません」

であるならいっそのこと集団戦ができるようにして、ある程度人数を絞れるようにすれば良いと考えてみた。

「どういう催しなの?」

「体を動かすゲーム大会みたいなものだな。チームで競い合って走ったり、ロープを引っ張り合ったり、籠に玉を投げ入れたり」

道具もそこまで凝った物はいらないだろう。

ステータスの差も、クラス別で振り分けて階級を分けることで競技の公平性を保てばいい。

「楽しいのでしょうか?」

「当事者は意外と盛り上がるよ。スキルを禁止にして、ルールを決めて調整すれば行けるはず」

イマイチイメージがわかないイングリットは盛り上がるかどうかわからない催しに首をかしげる。

俺は精霊に必要なのは未知だと思う。

そして集団で一緒にできるような簡単な競技の方が、わかりやすくて周囲の盛り上がりも誘うことができる。

今までの精霊たちとの触れ合いでわかってきたことだが、基本的に精霊たちは体を動かすことが好きだ。

なら割と運動会は受けるのではと思う。

チーム対抗という団体戦に持ち込みやすいから大勢の精霊たちが参加できるし、何より体を動かして競い合うというのは盛り上げやすい要素だ。

「あと、賞品をライブの最前列の席のチケットにすればやる気がでるな」

「……血の海になりませんか?」

「目が血走った精霊たちが現れないことを祈りますわ」

「ルール違反の監視と、違反の際の罰則、そして仲間割れをしないように工夫が必要になるかと」

しかし、そこにライブのS席のチケットを賞品にしようかと言ったら、クローディア、エスメラルダ嬢、イングリットの順番で未来が見えたという顔で不安点を指摘された。

「もう少し賞品を下げるべきか・・・・・」

ライブの熱狂具合から察するに、ある程度のルールは守ってくれそうだがルール内の争いになると歯止めが効かなくなる可能性がある。

その点を考慮するとS席のチケットは賞品的に価値がありすぎるか。

だけど、代わりの賞品を用意するのもまた難しい。

俺が作るにしても賞品の数が用意できない。

精霊の職人とつながりがあれば、そこを利用して賞品を作ってもらうのだが・・・・・

そこまでのコネクションがまだこの精霊界にはない。

「わざわざ賞品を用意する必要はないんじゃない?最初の頃はお菓子で集めたけど、今だとリベルタが何かをするって言うだけで集まるわよ」

「そこまで有名になったとは思わないが」

「僕はなったと思うよ。ねぇ、フーちゃん」

『なぁに?アミナ』

だからこそ、アミナのライブのチケットで精霊を集めてそのまま勢いで運動会を開こうかと思ったが、その必要はないとネルは言う。

そしてアミナもそれに賛同して、まだ送還していなかった風の小精霊の子を呼んだ。

「リベルタって精霊さんの中で有名だよね?」

『リベルタ?』

質問内容はなんと直球なことか。

そんなことを聞いて大丈夫かと思ったが、聞いてしまったからにはもう聞くしかない。

首を傾げ、純粋な目で俺の方を見た後。

『みんな、楽しいことを教えてくれる人って言ってる。次は何をしてくれるんだろうって楽しみにしてる』

俺はイベント運営のスタッフみたいな立ち位置の印象を持たれていることが判明した。

『光の上様が怒ってたけど、周りの上様が光の上様が悪いって言ってて、リベルタがもう何もしてくれなくなったらどうするんだって言ってた』

上様って、たぶん上位精霊たちのことだよな。

光の上位精霊が俺とのやり取りを、生意気だとでも周りに言ったのだろうか。

それはさすがに理不尽だろと苦笑しつつ、思ったよりも俺は有名なんだなと自覚した。

アミナの方が印象に残って、裏方なんてそこまで目立つとは思っていなかった。

「ほらね!」

「ふむ、じゃぁ、運動会の景品は別の物を考えてみる」

だけど、アミナが笑顔で教えてくれているように、俺の名前は精霊たちの間で広まっているということが分かった。

運動会の景品と言えば、一等賞を取った時に贈られるようなものだろうか。

オリンピックのメダルのようなものを用意できればいいか?

いや、それだと数が必要になる。

せめて、機械のように量産できれば。

「うーん、錬金台があれば」

『れんきんだい?』

工程を短縮するために必要な錬金台があれば、簡単なアイテムを大量生産することもできる。

手作業だとさすがに数は用意できない。

『アミナ、れんきんだいって?』

「お薬とかを作る机のことだよ」

『ぐつぐつ?』

『ぴかって光る?』

『たまに、ぼわって爆発する?』

「うーん、最後の爆発はわからないけど、フーちゃんとピーちゃんが言っているのは起きるね」

『ある!』

『最近使ってないけど、昔、使ってた!!』

『飽きたっていって、もう使ってない!』

そんな折に、ちびっこ精霊たちが使っていない錬金台があると言った。

「なんだと?」

精霊が放棄した錬金台。

このワードでもしやと思うものに俺は心当たりがある。

「そ、それはまさか、光ったり、アイテムが変形したり、爆発するのが面白いから向こうの世界から持ってきたという物か?」

もし仮に、俺の心当たりと同じものだとしたら相当のお宝が転がっていることになる。

見ての通り、小精霊たちの精神は比較的幼い。

道具を使う知識も少なく、道具に正確な価値を見出せない。

上位の精霊になればなるほど、人間が作り出した道具の価値を知り、そして使おうとしたり自力で技術を発展させようと行動するのだ。

その過程で興味を失い、放置するという結果もある。

『そう!』

『爆発が飽きたって』

『考えるのが面倒だって!!』

精霊界へ早々に行けるとは思っていなかったから、その辺の考察は完全に放置していたし、FBOの原作のストーリーが始まるよりも前にこの精霊界に来てしまったから、それがないとも思っていた。

精霊は、この精霊界の時間軸がコロコロと変わるゆえに時間の概念があやふやだ。

十年前をちょっと前だと言ったり、一昔前と言えば数百年前を指す。

だから、原作ストーリーでもいつ放棄したかわからないものが、どのタイミングで出現するかわからなかったのだ。

とある精霊が、一時の興味で錬金術を極めようと数百年ほど使い込んだ錬金台が存在する。

数百年。

そう、数百年だ。

使い込めば使い込むほど性能アップをしないといけないあの錬金台を、その精霊は飽きたと言って放棄したのだ。

プレイヤーメイドの錬金台には及ばないが、NPC産からするととんでもない破格の性能を持った錬金台だ。

性能で言えばクラス6以上7未満と言った感じだが、少なくとも俺たちが住んでいる王都レンデルでは誰も持っていないハイスペック錬金台。

「そ、それを譲ってもらうことってできないか?」

そんな希少品は、金を積んでも手に入れることはできない。

『できる?』

『わからない』

小精霊たちに聞いてみるも、そこら辺の事情は分かっていないようで、やはり直接その精霊に会って交渉しないといけないか。

『でも、どかんってなるのに飽きたのってアミナのライブがあるからって言ってた』

『言ってた!言ってた!!』

と思っていたのだが、思ったよりもすごい切り口でその交渉に当たれそうだ。

そしてもしかしたら、ストーリーではまだまだ錬金台を放棄するのは先になる予定だったのが、アミナのライブに嵌ったから趣味が変わって放棄が早まったということか?

「もし仮に、仮にだ」

それならそこにつけ込めるのではと思った俺は、恐る恐る小精霊たちに質問をしてみた。

「会場の最前列の真正面でライブを観戦できる席のチケットをあげるからその錬金台を貰えないか聞いたらできるかな?」

『できる?』

『わからない』

『じゃぁ!聞いてくる!!』

普通に考えれば、売れば屋敷どころか城ですら建つのではと思うような貴重品がたった一度のライブのチケットと交換できるわけがない。

俺の質問ももしかしてと思った程度の淡い希望と言った感じだ。

だけど、純粋なフーちゃんが飛び出して家の外に出ていってしまった。

もしかしてご近所なのか?と思ったが、家を出ようとした際に精霊回廊を開いて移動し始めたことを考えると近所ではないのはわかった。

「大丈夫なの?」

「たぶん」

「ちなみにどちらの精霊なのですか?錬金術を使える精霊となると上位の精霊なのはわかりますが」

錬金台の持ち主の精霊を呼びに行ってしまったフーちゃんの背中を見て、アミナが不安そうに確認してくるが、俺の知っているあの精霊であるのなら不安はないはず。

これから新しい精霊が来るということで、エスメラルダ嬢は前情報を聞いてきた。

「闇の上位精霊です」

「闇ですの!?」

「はい、闇です」

地水火風の上位精霊ではなく、そのさらに上の精霊、闇の上位精霊。

闇と言えば暗いイメージを持つかもしれないが、あの上位精霊は割と面白く、愛嬌のある奴だというのはわかっている。

「闇の上位精霊は、邪神の眷属でもなんでもないから安心してください。普通にいいやつですよ」

「やはり、リベルタは知っているのですね」

「知っています。だから、その精霊が使っていた錬金台を欲しがったわけなんですけど」

人畜無害とは言わないが、それでもいきなり襲い掛かってくるような輩でもないし、前の光の精霊のように傲慢な奴というわけでもない。

精霊のことも知っているのだなと、クローディアは呆れた目でこっちを見てくるが、それはもう俺の個性として受け止めてくれ。

『帰ってきた!』

『闇のおじさんの気配もする!』

『ただいまぁ!』

そんな会話をしている間にフーちゃんが精霊回廊で戻ってきた。

『闇のおじさん連れてきたよ!!』

小さな体が精霊回廊から飛び出して、そしてそれについてくる形でフーちゃんが用意した精霊回廊から黒い存在が現れる。

『貴殿がリベルタか』

それは黒い軍人のような姿をした精霊。

軍刀や銃などを装備しているわけではないが、服装が他の精霊とは違い、軍服をイメージした装いになっている。

「はい、俺がリベルタです。初めまして。」

『某は闇の上位精霊である』

そしてきびきびとした動きも軍人っぽい。

ピシッと敬礼して挨拶してくる姿は様になり、長年の動きが染みついているのがわかる。

『早速だが、本題に入ろう』

「はい」

その姿、その声質、その眼力。

全てが軍人であることを是としているような雰囲気を醸し出している闇の上位精霊の言葉を待つと。

『アミナちゃんのライブの最前席を用意してもらえるというのは真か?』

その風貌から考えつかないような喜びを含んだ質問が飛んで来るのであった。