軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

15 精霊王

「ここが、精霊界?」

「すっごい。空が虹色だぁ」

門を潜り抜けた先、そこはFBOで俺の知る精霊界だった。

全体的に自然豊かというしかない世界。

人工物と言えそうなのは、今馬車が走っている石畳の道路と、遠くに見える双子の時計塔。

左の塔の時計を見ると普段通りの時間感覚で動いているが、隣の右の塔の時計の針は遅々として進まない。

精霊王は俺たちの願い通り、時間を調整してくれたみたいだな。

ネルとアミナの驚きの声を両隣に聞きながら、石畳の道路を馬車で進む。

「精霊さん、いないね」

開けた場所に通る一本の道路。周辺には森があり緑の丘がありと、自然の光景ばかり見えるだけでみんな待っているという言葉とは裏腹にどこにも精霊の姿は見えない。

だけど、これは仕方ない。

「もうすぐ結界の境目につくから、そこを抜ければみんな待ってるさ」

「結界?」

精霊界は今俺たちが入ってきた外縁部と、精霊たちが棲む内縁部に分かれている。

精霊界と謂えど、偶然に奇跡を重ね千年に一度、下手すれば数百年に一度くらいの割合では人間が迷い込むことがある。

無闇矢鱈に人間に接触してはならないのが、精霊だ。

となれば人が精霊の棲む領域に入り込まないように、精霊王自ら結界を張り境界線を作るのも当然だろう。

結界と聞けば、見えない壁のようなものを想像したかもしれない。

バリアと言えばわかりやすいかもしれないが、それをアミナは探してキョロキョロとあたりを見回すが。

「そんなものないよ?」

「見えないように工夫されているからな」

そんな物はどこにもない。

見えているのはまっすぐな一本道だけ。

左右には森と丘しかない。

「もうすでに俺たちはその結界の中だよ」

「え!?」

ずっと変わらない光景、ループ空間と言えばいいだろうか。

ここに入ったら最後、道を進み続けても永遠にまっすぐの道を進むだけ。

時計塔を目指して、そこに何かがあるだろうと思って進もうにもいくら進んでも時計塔に近づくことはできない。

そんな空間に閉じこめられている。

どこ?どこ?とより一層周囲を見回す速度が速くなるアミナに苦笑しつつ、先導する精霊たちを見ると。

「ミーちゃん!そっちは道じゃないよ!」

『こっちが正解!』

徐々に道から逸れて、道路から丘の方に進み始める。

『今度はこっち!!』

そして丘の方に進み少しだけ登り始めたころに、今度は来た道を戻るような道を示す。

馬車を言われるがままに操作し、精霊たちについて行く。

左右に座るネルとアミナは一体何がしたいのだろうと、精霊たちの案内の仕方に首をかしげるが、俺からすれば見慣れた道案内だ。

道路を横断し、今度は森の方に進む。

そしてそのまま森の中に入るかと思いきや。

『次はこっち!!』

森には入らず、森に沿うような形で今度は来た方向に戻り始める。

そっちは来た道だと言おうか言わないか迷っている少女二人に俺は苦笑しつつ、そのまま見ていてと言えばひとまずは頷いてくれる。

森に沿うように進んでいくと。

「あ、道がある」

「さっきはなかったよね?」

森の中に入り込めるようになっている道が現れた。

精霊界に入ってから辺りを見回し続けていた二人に見えなかった道。

「あれ?入らないの?」

「あの道はカモフラージュだ。あそこに入ったら元の一本道に逆戻りだ」

そこに入るかと思いきや、精霊たちはその道を通り過ぎ、そのまままっすぐに進む。

道なき道を進むのが、ここでは正解なのだ。

ふらりふらりと、さまようかのような道筋。

進む方向が何かの法則に従って移動しているのかと思えば、全くランダムの方向でしか移動していないと思うような不思議な道案内が続くと。

「あ」

「村だ!!」

一気に森を抜けたように視界が開けた。

そこは小さな集落。

されど、そこにいる精霊たちは。

「「「「「「アミナチャアアアアアアアン」」」」」」」

「どうやらアミナのファンのようだな」

「あははは、嬉しいけどちょっと恥ずかしいなぁ」

その集落には決して収まりきらないような数の精霊たちが揃っている。

団扇にTシャツ、そしてサイリュームとライブ仕様の格好をした精霊たちを見てちょっと苦笑気味の笑みを浮かべたアミナがその集団に手を振ると。

「「「「「「「「「フォーーーーーーーーーーー!!!!」」」」」」」」」

何やら奇声をあげてしまった。

どこか見覚えのある精霊がいるような気がしたが、今は全力で他人の振りをしたい気分だ。

軍馬であり、勇敢であるはずの馬もちょっと顔をこっちに向けてあそこに行くの?と不安そうな顔をした。

大丈夫、ちょっと興奮しているだけでいい奴らだからとなだめれば、しぶしぶと言った感じで足を進めてくれる。

そのまま集団の前まで進み馬車を止めると、精霊たちの期待の眼差しがアミナを刺す。

「とりあえず、一曲歌っておく?」

「そうした方がいいか?楽器あったっけ?」

「さすがにないわよ」

ライブをする予定などなかったから、楽器はない。

このままだとアカペラでアミナが歌うしかなくなるが。

『待て』

空間に響き渡る威厳のある声。

それでライブの空気が一変し、精霊たちがモーゼが割った海のごとく左右に開いた。

「アミナ、ネル、降りよう」

その先にいる、大柄な精霊の姿を見て、俺は即座に馬車を降りる。

ネルとアミナ、そして馬車の中にいたクローディアとエスメラルダ嬢にイングリットも降りて全員で跪いた。

精霊王、ディヴァン。

ギリシャ神話に出てくる神々のような格好をした、筋骨隆々の男の姿をした精霊。

黄金の髪をオールバックでまとめた、見た目は四十代位の強面。

背後に上位精霊たちを引き連れての登場。

この世界の絶対の統治者が現れ、ここからどういう展開になるかと緊張で心臓が高鳴る。

『皆の者!アミナ殿のライブを開くのは我が丹精込めて作った会場でこそ招く側の礼儀だ!!!』

『『『『『『おおおおおおお!!!!』』』』』』

のだが、その宣言と歓声を聞いた瞬間、あれ?俺の知っている精霊王と違うぞ?とキャラ崩壊をいきなり体感してしまった。

俺の知っている精霊王はもっと威厳に満ち溢れカッコいい存在だったはず。

少なくともアイドルのライブに熱を上げる存在ではない。

『顔をあげてくれ客人よ。民が迷惑をかけた。この世界を統べる者として謝罪する』

しかし、この口ぶりは俺の知っている精霊王の口調だ。

そしてゆっくりと顔をあげれば、強面ながらも優しく微笑む精霊王がそこにいた。

周囲はライブだ!ライブだ!とお祭り騒ぎ状態であるが。

精霊王は俺たちが顔をあげたことに満足気に頷き、そのまま立つようにも言った。

その指示に従って立ち上がると、その瞬間世界の景色が変わる。

「わっ!?」

「これは、転移魔法ですか?ですが、無詠唱の転移魔法など聞いたことがありませんわ」

いきなり足下が土から石畳になり驚くアミナと、景色が一変したことにより転移魔法を発動されたことに気づき驚くエスメラルダ嬢。

「我はこの世界を統べる者だ。自分の世界ならどこにでも行けることなど当然のことだろう?」

連れてこられた先は宮殿の中庭。

FBOでも見覚えのある空間を見回していると、椅子とテーブルを運ぶ精霊たちの姿が見えた。

その後ろには果物の入った籠をもって運ぶ精霊の姿も見える。

「何はともあれ、まずは話をすることから始めねばな」

準備不足、そういえばそれまでだが、文化も風習も違うのだ。

いきなり現れた俺たちを懸命にもてなそうとしてくれている精霊たちの気遣いに感謝し用意された椅子に座る。

「……代表は君か?」

「はい、そうです」

「ああ、一目見てわかった。君の魂は独特だ。だからこそ、様々な奇縁を引き寄せるのだろうが。ふむ、なるほどなるほど」

そして俺たちを一通り見た後に、精霊王の視線は俺の上に止まりニッと笑顔を見せるとじっくりと俺の顔を、いや言葉から察するに魂を見始めたのか。

俺が転生者であることを話したことはない。

それに気づいているのか?

「知恵の女神さまもずいぶんと稀有な存在を選んだものだ。まぁ、ケフェリ様らしいと言えばそれまでだが」

そして見つめること数秒後、俺の評価が終わったのか観察を止めた。

「やはり、リベルタは神に選ばれていたのですね」

「なんだ?無自覚であったか?」

その言葉に真っ先に反応したのはクローディアだ。

元から神の愛し子として俺のことを見ていたが、それは確証も証拠もあったモノではない。

今回の精霊王ディヴァンの言葉は、それを裏付ける証人が現れたようなものだ。

「神様にはお会いしたことはありませんので」

「ふむ、それはまた勤勉なあの方にしては珍しい対応だ。それは君も苦労したであろう?」

「まぁ、それなりに」

路地裏スタートで始まった今回の人生。

それで転生者であるという自覚はあったが、さすがに神託の英雄だと言われても納得はできなかった。

神に選ばれしなんて言われても、そんなものは知りませんと言うのが俺の素直な心境だ。

俺を呼んだ神様が勤勉かどうかはさておき、これで俺が神様による転生者だというのが確定した。

「何か訳ありと言うことか」

「そこら辺は俺よりも、神様にお聞きください。こっちはただ必死に生きているだけなので」

「他の英雄とは違うのだな」

「ご存じなんですか?他の英雄を」

「知っているとも。どこの大陸であろうとも精霊はいる。他の英雄の奴らはずいぶんと派手に動いているようだからな。いくらでも話は入ってくる」

そしてなぜ神が俺を転生させたかという理由に関しては、俺も皆目見当がついていない。

「その英雄たちは何のために行動しているのですか?」

「それぞればらばらだ。西の英雄の少女は正義を掲げ国内統一を目指している。北の英雄である少年は自身の強さを磨くために戦いに明け暮れている。東の少年は財を築き生活を豊かにしようとしている」

そこに俺を加えて、さらにヒュリダさんの邪神討伐の話を加味しても俺を何故転生させたかはわからないということか。

「いまやっていることはバラバラだが、全員が最後の目的として共通のモノを掲げている」

「それは一体」

「邪神討伐だ。すべての英雄が共通して掲げている目標だ。知恵の女神に選ばれし英雄の君は知らぬ目標というわけだな」

知恵の女神の使徒だというのに知らぬとは何とも皮肉なものか。

どういう意図で俺にこの情報を与えなかったのか。

俺が邪神を倒してはまずい理由でもあるのか?

「精霊王、あなたはほかの英雄が邪神を倒すことを目標に掲げている理由を知っておられるのですか?」

「知っている。だが、それを君に教えてはいけないことになっている。そしてこれは君だけではなく他の英雄たちも一緒だ」

答えを知っているであろう精霊王は答える気はないと即座に首を横に振り、これ以上の質問を拒んだ。

なら、これ以上俺が問いかけても教えてはくれないだろう。

何か意図があって、俺を転生させ、そして邪神討伐に関して情報を制限した。

この情報を得られただけでも儲けものだと思っておこう。

「わかりました。これ以上は伺いません」

「それが最善だ。我としても、この後の楽しみに水を差されてはたまらんからな」

そしてサービスタイムは終わりだと言わんばかりに言葉を切った。ここからが本題という言うわけか。

「アミナのライブをやってほしい、ということですか?」

「その通りだ。我が民たちの間で噂になっておってな、皆が皆楽しいと言っているその催しを王である我だけが経験していないのはどうも納得できんでな」

その本題の予想はついているので、そのまま切りだせば精霊王は満足気に一つ頷き。

「報酬は弾もう。ぜひとも一つ我に見せてはくれないか」