軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

12 撤退

「ネルの言う通りですわ。この度の反省を生かし今後の糧とする。リベルタならできると信じておりますので、私からは一言だけ」

ネルの言葉に乗るように、髪を肩の後ろに流す仕草を見せつつ、気にするなとエスメラルダ嬢が言ってくる。

「もっと頼ってくださいまし。あなたは自分一人で何でもしようとしすぎですわ。私にできることなら、私は全力でお手伝いさせていただきますわ」

「僕も僕も!」

何もかも一人でやるな、か。

耳に痛い話だ。

「ああ、これからはしっかりと相談するよ」

「では、最初の相談としてこの後の行動をお決めになったらどうでしょうか。この場で嵐が過ぎ去るのを待つか、それとも馬車を放棄して撤退するか」

「え、お馬さんたち置いて行くの?」

だが、今後は気を付けた方がいい点なのは間違いない。

イングリットの提案はそれをするいい機会だ。

「撤退するとなれば転移のペンデュラムを使うことになるからな。一度パーティーメンバーだけで王都に撤退して、それから馬たちを迎えにここに戻るとしても最低一時間、そこからまた王都に帰るのに一時間かかるな。その点を考慮してまず、俺の意見を言う前に知りうる限りの情報を言っておく。レイニーデビルは一定の食事を終えれば上空に去って行く。そもそもの話が奴にとって地表に近づくのは食事のためだ。こっちから刺激しない限りは時間経過で立ち去ってくれる」

であるなら判断材料となる情報はメンバー全員にオープンにしておいた方がいい。

「だけど、その居座っている最中は生物と見ればすべてを捕食する悪食だ。腹を満たすまでは所かまわず食べ続ける。ダンジョンの中にいれば入ってくる心配はないとは思うが、他のモンスターが逃げ込んできてそれを追って触手が絶対に入ってこないとは言えない」

レイニーデビルの触手はどうやってか生命を感知する能力がある。

その能力で小さな隙間に隠れているモンスターや、土の中に潜んでいるスポットトンネラーも見つけて捕食する。

「さっきの倒す話にもどるけど、レイニーデビルの触手の針は獲物に麻痺の状態異常をもたらすから、本来であれば対策も含めて、タンクのサポートとアタッカーのサポートでヒーラーを最低でも一パーティーずつつけて回復しながら戦闘をするのがベストだ。そのことを考えると俺たちの現状なら前衛は状態異常にかからないゴーレムをタンクとして配置して、後方から遠距離攻撃で触手を排除し続けて満腹になるまで耐久するのはやろうと思えばできる」

レイニーデビルのヘイトは触手を攻撃しても溜まりにくくなっている。

零ではないが、広範囲に触手を破壊するような攻撃さえしなければ生命感知されて俺たちが美味しい獲物だったとしても、周囲に狩りやすい栄養源がそこら中にいるのなら俺たちが集中して狙われることはないはず。

「ですが危険を冒してまでこの場に残ることに対してのメリットは少ないように思えるのですが」

「レイニーデビルを倒せない現状、ここに残るメリットは雨上がりのミミックアーマーを狙えるかもということしかないです。ここまで来たら撤退するしかないと思います」

リスクはあるが、ここに居座ることもできる。

しかし、そのメリットは虹演出が出るかもしれないミミックアーマーを見つけられるかもしれないという点しかない。

次回はしっかりと安全を確保して、それをやればいいのでそのメリットもお察しだ。

「私もここにいちゃだめだと思うわ」

最初に賛成したのはネルだ。

直感混じりかもしれないが、説明を聞いて現状がまずいことを理解している。

「下手に迎撃してヘイトを集めて、危険な目に遭うのもダメですわ。私も撤退に賛成ですわ。リベルタ、本当に倒せないのですのよね?」

それに続くようにエスメラルダ嬢も撤退に賛成した。

「レイニーデビル戦で一番重要な空中戦ができる撃墜要員がいないので無理ですね」

「撃墜要員ですか?弓兵や魔法使いですか?」

「その職種じゃ撃ち落せませんよ。確実に撃ち落すために必要なのは重装備に重量兵器を持ち合わせた飛行できるタンク部隊です。まぁ、現状用意できないんで理想ですがね」

持久戦をしてもメリットはほぼなく、デメリットが勝る。

「レイニーデビル戦で必須になる戦力は、アタッカーよりも撃墜要員なんですよ。上空から自由落下でレイニーデビルに飛び乗って、体重増量系のスキルで落下による大ダメージを狙いつつ、重量かさましで一気に地面に叩きつけます」

勝ち筋がないという現状こそが、撤退の最大の理由になる。

もし勝てる道筋があるのならレイニーデビルという存在はかなり有用な素材を落とすモンスターに化ける。

その耐性の豊富さから、ドロップする素材でマント系の装備を作れば強力な状態異常耐性と属性攻撃耐性が付与され、終盤まで使えるような利便性に富んだ防具を作り出せる。

しかしそのためには、地面に叩き落とす係が必要になる。

必要なのは攻撃力ではなく、防御力と重量を増すことができるタンクのようなスキルに、飛行系のスキルが付与されたアクセサリーだ。

構成はそのままタンクビルドキャラが使えるような編成で問題ない。

「飛行スキルを持たせ、上空から人間落石の重力加速での撃墜、これができれば勝ち筋は生まれます」

「ちょっと待ってください。あの雨雲ほどの大きさのモンスターが落ちるというのですか?」

「クローディアさん、タンク系のスキルビルドを舐めたらだめですよ。奴らの平均装備重量は武具込々で軽くても三十キロ。総金属製のタワーシールドとかの大盾を装備すれば下手したら百キロを超えるような装備で体中を覆っているんです。そこにヘビースタンスとかの体重をあげるスキルを使えばどうなるかわかりますか?」

ヒットアンドアウェイのスピードタイプのビルドのクローディアではイマイチイメージがつかめないかもしれないが、タンクに求められるのは敵の攻撃を受け止め敵の注目を一身に集めることだ。

攻撃を受け止める、これは力があればいいというわけではない。

いかに筋力に優れた戦士であっても体重が少なければ、体を吹き飛ばせる攻撃を受ければ、その場で踏みとどまることは難しい。

そもそもの話、自身よりも巨躯を持つモンスター相手に突進攻撃を受けようものなら、力があっても体重が足りなければ吹き飛ばされてしまう。

それを防ぐために体重増量系統のスキルが存在するのだ。

「重くなるというのは知っていますが具体的にどれほど重くなるかと聞かれると、知りませんね」

「最低でも十倍、もろもろやれば二千倍は硬いです」

「二千倍、ですか?」

もちろん、装備とか武具にも付与することができるので意図的に重量を重くすることはできる。

しかもオンオフができるようにすることだってできる。

百キロの二千倍。

すなわち二十万キロでトンで言うなら二百トンだ。

「それをパーティー単位でやれれば六人で千二百トン。それがある程度の高度から自由落下で落ちてきたら、巨大なレイニーデビルであっても地面に落ちますよ」

FBOの格言というか、迷言にこんな言葉がある。

タンク職の最高火力は自由落下による、 隕石攻撃(メテオアタック) だと。

うん、この言葉あながち嘘じゃないんだ。

命中精度とか、攻撃効率とか度外視して純粋な火力で判断すると本当にこの攻撃が一番の火力になるんだよ。

しかも、硬くなっているタンクたちってどれだけ高高度から落下してもダメージ受けないんだよ。

何度も何度もそれ以上の攻撃を受けているから、自由落下程度じゃ着地を失敗してもノーダメージ。

だからこそできる攻撃なんだけど。

「幸いにして、相手は体は大きくてしかも柔らかさもあって移動速度も遅いんで外すことはそうそうないです。それに地面に叩き落とせば、レイニーデビルの攻撃手段である触手攻撃も傘に隠れてほとんどできなくなります」

この攻撃手段が本当に効果的なんだよ。

「あとはタンクで浮かせないように押さえつければフルボッコタイムってわけですよ」

「その話を聞けば簡単に倒せそうに聞こえますが、聞けば聞くほど捕らぬ狸の皮算用ということですか」

「ない物ねだりをしても現状どうにもできません。メテオアタックに耐えられるタンクの育成と、雲の上まで飛行できるアクセサリーに、自由落下に耐えられる防具を用意できません」

その代価としてこの要員だけは要求数値が高い。

クラス7と言ったが、自由落下に耐えられるようになるのはクラス8の後半からだ。

クラス7だと着地を失敗すれば重傷を負う。

その点を考慮したら、ここだけでも安全マージンをもっと確保してもいいはずだ。

「そう簡単には倒せる相手ではありませんか」

「うちに重量を操るスキル持ちはいませんからね」

「重力系の魔法はどうでしょう?あれは相手の体にかかる重力を操作する魔法ですので」

「レイニーデビル本体にかけるのは魔法耐性と浮遊魔法でどうにかされちゃいますね。別案としてゴーレムとかを空輸して上から落下させれば効果はあると思いますけど、高耐久のゴーレムに重力魔法を使える精霊、そして指示を出す精霊使いを用意するのは非現実的ですね」

ダンジョンの外では悪魔の通称に恥じない惨劇が繰り広げられ、モンスターたちの断末魔が聞こえる。

ダンジョンという安全地帯がない奴らは、レイニーデビルの触手によって包囲されては次々に捕獲され空へ回収されていく。

懸命に触手に噛みついたりして反撃をしているが、その隙に他の触手に捕獲され空中に連れ去られる。

戦いにすらなっていない。

これが俺たちに置き換わっても時間の差しか生まれない。

「・・・・・なるほど、では私もリベルタの撤退を推します」

その光景を見ながらクローディアは俺の撤退案を推してくれた。

勝ち筋がないと説明して明確に理解してくれた。

「お馬さんはどうするの?このままだとモンスターが入り込んできてお馬さんが危ないよ」

その段階でパーティー全員が撤退することに賛同する形となる。

俺たちだけなら即座に撤退できる。

しかしダンジョンに避難させていた馬もとなると少し手順が必要になる。

「ダンジョンのボス部屋に入れれば問題ないが・・・・・空間座標が不確かなダンジョン内には転移設定ができない。脱出すること自体は入り口付近だから大丈夫だけど、帰ってくるとなるとマダルダに設定した場所になる。今はそこら中にモンスターがはびこっているから帰ってくるのは数日置いてからになる」

「大丈夫なの?」

非情と思われるかもしれないが、現状そうするしかない。

このままダンジョンの一番奥に避難して難を逃れるという手段もあるが、そうなると外部の情報を一切得られなくなるというデメリットもある。

いつレイニーデビルが立ち去るかわからない現状、それは避けてこの場から早々に撤退するのがいい。

「食料もたくさん置いて、水も用意しておけば大丈夫さ」

レイニーデビルがどれくらいで満腹になるかはわからない。

最悪ゲームよりも長い時間居座り続けることになるかもしれない。

俺の言っていることは気休めでしかない。

そもそもボス部屋は扉を閉めても転移陣で脱出する方法でそこから出られる。

馬が自分の意志でボス部屋から転移陣で外に出てしまったらもはやどうしようもないのだ。

『お馬さんなら大丈夫!!』

『わたしたちが連れていくよ!』

『アミナ、悲しまないで。遠くにはいけないけどあの怖いのから見つからないところにはいけるよ』

そんな困り顔の俺たちを助けてくれたのはアミナと契約した精霊たちだった。

「そうか精霊回廊!」

転移のペンデュラムでの脱出しか考えていなかったが、精霊たちが使う精霊回廊であれば安全に外に出ることができる。

ただ、欠点として人間は精霊回廊には入ることはできるが、入ってきた入り口以外で外に出ようとするとどこに出るかわからないのだ。

しかし、精霊たちの導きがあれば。

「お願い!僕たちを外に連れてって!」

小精霊の精霊回廊であっても馬車に乗って脱出できる。