軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

11 必要性

撤退戦と言えば聞こえがいいかもしれないが、やっていることは全速力での逃亡だ。

そして完全に俺の判断ミスだ。

「だぁ!何とか逃げ込めたぁ!!」

「リベルタ君!!大丈夫だった!?」

モンスターの波を先陣を切ってかき分け、どうにか拠点まで戻ってくることができた。

下手をしたら全滅の危機だった。欲をかきすぎた俺は今後悔に苛まれている。

「はぁ、はぁ、魔力、ギリギリでしたわ」

「どうにかなったけど、疲れたわ」

「……」

「イングリットさん、ひとまず休んでください。呼吸を整えてからにしましょう」

後先考えず、ひとまず安全圏にまで逃げてきたが、マダルダは今は大惨事になっている。

肩で息をしているエスメラルダ嬢。

汗を拭うネル。

冷静な顔だが、疲労を隠せていないイングリット。

一体のワールドモンスター、レイニーデビルによって、マダルダ周囲のモンスターがすべて街中に追いやられている地獄を走りぬいたのだ。

この程度で済んだという事実が慰めのように聞こえるが、俺の判断ミスでここまで追い詰められてしまったことが問題だ。

「状況は大丈夫とは言い難いけど、体とかに関して言えば大丈夫だ」

まるで塵取りで回収するごみを箒で集めるかのように、レイニーデビルはマダルダの街の周囲のモンスターを追い立てて街の中に送り込んできている。

その行動は俺の撤退の判断があと一歩遅れていたら、ここにいる誰かがレイニーデビルの触手に捕まり捕食されていたかもしれないという現実を突き付けてくる。

アミナの心配に笑顔で答えているが、本当に今の俺の顔は不安を浮かべてないだろうか。

「一体何が」

「運が悪いことに、ワールドモンスターと遭遇してしまってな」

ここで俺が不安な顔をしたらパーティーの面々も不安になる。

だが、大丈夫だと言い切るのもまた無責任になる。

「ワールドモンスター?」

「世界中を徘徊する厄介なモンスターだ」

そこら中でモンスター同士の乱戦が起きて、その中を突っ切ってここまで帰って来るのに全力を賭した俺たちに余力はない。

そして今もなお街の中のモンスターは増え続けている。

撤退、その言葉が脳裏によぎり、そしてその判断は間違っていないと断言できる。

アミナたちと合流できたのならここに居座り続けるのは危険極まりない。

公爵閣下には申し訳ないが、貸して貰った馬車は放棄して、即刻この場から離脱した方がいい。

このモチダンジョンの入り口の前にもモンスターが闊歩し、同種同士で徒党を組み他のモンスターとけん制し合っている。

馬車を持ち出しての撤退は、無理を通り越して実行した途端に自殺と変わらない末路が待っている。

今のところ精霊たちが乗り込んだゴーレムのおかげでダンジョン内に入ってきているモンスターはない。

本来であればダンジョンボスを倒しているダンジョン内に入り込もうとするモンスターはいないはずなのだが、レイニーデビルに追い立てられ安全圏を求めて入り込もうとするモンスターがちらほらといる。

全てゴーレムで撃退できているが、入り口付近で迎撃しているから下手をすると入り口にレイニーデビルの触手が入ってくるかもしれない。

だとしたらここでのんびりしているのもダメだ。

状況説明と休憩が終わり次第撤退をする。

「ということで、今現在ダンジョンの外は阿鼻叫喚の地獄絵図と化しているわけだ」

「うわ」

ひとまず俺たちが得られた情報と俺の知識をアミナに伝えておく。

外が思ったよりも危機的状況であることに、アミナはそんなことになっているのとドン引きの状態で顔をひきつらせた。

その顔を見て、これ以上のリスクは踏めない。

いや、判断を間違ってリスクに踏み込んでしまったというのが正しいか。

俺は、俺自身を完璧な人間だとは思っていない。

欲望もあれば、願望もある。

日本にいた時だけではなく、ゲームの時も失敗を繰り返してきた。

正確に感情を制御して、感情ではなく理性で判断し、機械のように正確無比の行動するなど理想の中だとはわかっているが、こうやって自分の判断で失敗し、仲間を危険な目に遭わせたことは思ったよりも心に来る。

もう嫌だと投げ出したくなる感情も少なからずある。

だけど、こうなったことに対する責任を投げ出すのは嫌だと踏ん張っている自分もいる。

「幸い、水も食料も確保できているしレイニーデビルが立ち去るまでここで大人しくしていればひとまずの安全は確保できるだろうな。だけど、危険がゼロではないから馬車を放棄して逃げるのが一番だ」

「倒せないの?」

「無理。断言するけど挑もうとする馬鹿がいたらそいつは間違いなく自殺志願者だ」

この危機的状況をいつもの知恵で何とかしてと言いたげに、打開策をアミナに聞かれるがこればかりはどうにもできない。

素直にバツ印を腕で作り、対処不能を示す。

俺の命だけではなく、今話しているアミナも危険にさらしたという罪悪感が、俺の心を自分自身で責め立てているのがわかる。

表面上はいつも通りに動こうとしている。

だけど心の奥では、ここで弱気になって、すまないと全力で謝り倒したい。

ゲームの中では失敗しても生き返って、失敗してしまったと笑って謝ってもう一度挑戦だと意気込める。

だけど、現実世界ではそれができない。

できるはずがない。

その現実を突き付けられて、なぜこうなったかという原因に心当たりがあるかと言われれば、焦りだとすぐに自覚できた。

「せめて事前に出現が予測できて、なおかつ特化装備を用意できればワンチャンあるかないかくらいだな。それでもアレに対抗するのなら一パーティーじゃなくてクランで挑みたい。とてもじゃないがたった六人であの体力馬鹿を削りきれる自信がない」

相手に勝てないという状況説明をしながら、こうなった原因を自覚して余計に自己嫌悪が募る。

ワールドモンスターという存在は基本的にスペックがおかしい。

FBOの攻略パターンではソロで討伐もできなくはないが、阿呆みたいな時間と金と根気が必要になる。

パーティーでも不十分だと断言する。

であればどうするか、徒党を組みそれぞれに役割を付与し、拡大した戦術で対抗できる組織を結成する必要がある。

ゲームの時でもそこは気にかけていた。

だからこそ倒すことができたし、安定して狩ることもできるようになった。

だけど百パーセント被害なしで攻略することは難しかった。

ダメージゼロとなると本当に神経を使う必要があった。

念には念を入れて、ようやくパーフェクトゲームというのは達成できる。

それ以外はどこかしらの準備不足でミスが出る。

そのミスが自分だけではなく自分以外の仲間に被害を出す。

ああ、ダメだ。

現実を認識すれば認識するほど、自分のダメさ加減が見えてきて落ち込んでいくのがわかる。

「リベルタでもだめですか」

「物理的にダメージリソースと、そのリソースを確保できる人間の数が足りないんですよ。相手の回復速度の方が高すぎて完全にお手上げです」

「もし、倒すとしたらどれほどの戦力が必要になりますか?」

クローディアに差し出された水を受け取り、雨の中でも暴れまわり汗をかいた体に水分を流し込むと染み渡っていくのがわかる。

そして水を差しだしてくれたクローディアと目が合うと、彼女が俺の判断を咎めていないのがわかってしまう。

パーティーを危険に曝した。

それはチームプレイではあってはならない禁忌。

そこを放置しては今は大丈夫であってもいずれ間違いなく致命的な失敗をしてパーティーは崩壊する。

ゲームでは感じなかったタイプのプレッシャー、それを投げ出したいと一瞬でも思ってしまった。

汚らしい感情を抑え込むために残った水を一気に飲み干す。

そして心には染み渡らないが水分が足りなくなった体には染み渡るのを感じつつ、水分を補給している最中にされたクローディアの質問に対して考える。

まるで、失敗から目を逸らすようなその行為が、胸にチクリと刺すような痛みを与えてくる。

「最低でも完全育成しているクラス7のアタッカーパーティが二つ、全員が前衛物理アタッカーですね。ここで十二人」

最低限の必要戦力をパッと思いつく自分の経験が今は恨めしい。

何度も何度も、そう、何度も経験し身に沁みつけさせたゆえに、簡単に思いつくから意識が逸れやすい。

だけど、それがあるからこそ今回のような油断に繋がったと冷静に見つめ直すこともできた。

ワールドモンスターという存在に立ち向かう際に、何度も計算し用意した戦力数だ。

ざっくり勘定であっても瞬時に数字くらいは出てくる。

そしてそこを起点にして細かい補正部分まで頭の中から出てくる。

その経験値と知識が過信に繋がったと分析することもできた。

その分析結果が出る度に、そんな知識があるならなんでこんな失敗をしたと、責め立てる何かがささやく。

自己嫌悪だ。

日本と異世界、その差を理解し納得しているくせに、まだ残っている日本での経験が選ばせた判断によって仲間を危険に曝した。

ゲームの知識というアドバンテージは無敵だとは思っていないと考えておきながら、相対的には強者であると無意識に思っていたと自覚した。

傲慢になっていたかと、自嘲気味に自分に問いかけるとわかってるじゃないかと自分で納得してしまった。

知識があるから無双できる。

それは実証出来ていたから疑いの余地はない。

だけど、咄嗟の判断ではなく、損得勘定でその知識を軸に行動するのはこの世界ではだめだと、こういう失敗で学ぶとは。

知識でそれが得だとわかっているから、それに伴う危険が有ることを知っていても、一パーセントにも満たない確率だから大丈夫だと割り切った結果がこの惨状だ。

ファンブルを思いっきり踏み抜いた。

ゲームの時でもそんなことはちょくちょくあった。

だからこそ、そんなことがプレイヤー同士で笑い話にもなったんだ。

だけど、現実ではそんなことは笑い話にもならない。

「アミナのようなアイドルタンク兼バッファーパーティーを一つ、これで十八人」

そんな罪悪感を持ちながらも、俺の口はつらつらと言葉を並べる。

大型モンスターを攻略する基本は普通にパーティーを編成するのと変わらない。

アタッカーがいて、タンクがいて、バッファーがいてヒーラーがいてとおおよそ必要な人材は他のクエストと大差ない、そんな編成理論を語る。

「・・・・・あとは」

「リベルタ」

そしてそのまま説明を続けようとした時、そっと隣から声がかかった。

「どうしたネル?」

話の途中に心配そうに俺の顔を覗き込むネルが不安を与えないように優しく俺の名を呼び。

「大丈夫?」

そして、俺の心を見透かしたように安否を尋ねてきた。

「っ」

その言葉に、普段なら大丈夫と言っているはずなのに、大丈夫と言えなかった。

なんでだと聞き返すこともできず、そしてここが謝るタイミングだと示されたと錯覚した。

「ごめん、皆を危険な目に合わせた」

脈絡もない謝罪だ。

だけどここで言わなければ一生言えないような気がして、俺は謝罪の言葉を口にしてそのまま頭を下げた。

「ネルの忠告に従って、撤退すればよかった」

頭を下げたままこの現状を作り出したことに対しての謝罪。

心の底から謝る気持ちで、しばらく頭を下げ続けたら。

「うん、リベルタがわかっているなら私はいいよ」

ネルが俺の謝罪に対して返事をした。

「ネル?」

それは謝罪を受け入れる言葉、命の危機に対してはあまりにも軽すぎる言葉だ。

なんでそんなに簡単に許せるのだと戸惑って顔をあげ。

「いや、でもみんなを危ない目に遭わせたんだぞ?」

そう簡単に許されて良い物かと戸惑っている俺に対して、ネルは真面目な顔をして。

「誰だって失敗はするわ。それに」

こんな窮地だというに、笑顔になり。

「商売には危険がつきものなの!大丈夫、生きていれば何とかなるわ!」

生きていれば儲けものだと言うネルの言葉に俺は目を丸くするのであった。

「まぁ、だからと言って反省をしないのはダメよ?」

そしてしっかりとオチをつけるところに俺は苦笑気味にだが笑うのであった。