軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 黄金モチのダンジョン

モチダンジョンに眠る、黄金の話をしてからすでに一か月が過ぎていた。

着実にスキルを成長させ続けて、あれから二人は文句を言うことなく、ダンジョン周回を続けた。

時々休暇も兼ねて、街で買い食いしたり、貯めたお金で買い物をしたりとなんだかんだこの世界を楽しんでいる。

けどそんな日、もうすでに何十、何百と数えきれないくらいにダンジョンを周回し、馬小屋にネル用アミナ用俺用以外にネルの部屋に人をダメにするクッションが設置され、そこからさらに過ぎた日にそれは起きた。

「これで終わり!!」

「ネルお疲れ、スキルの影響が誤差レベルだとしてもだいぶ効率が良くなったよな」

「これだけ倒していればそうなるわよ」

相手の動きを完全に見切っているネルの一撃で最後のカガミモチが倒され、RTAなら自己ベストを更新したのではと思うくらいに会心の出来。

この後は流れ作業の宝箱確認になるのだが。

「二人ともあれ見て!」

すでに黄金の宝箱程度じゃ驚かなくなっているアミナが、よそ見をしている俺たちを呼ぶ。

「あれは!?」

あまりにも久しぶり過ぎて、思わず俺も驚く。

白金の宝箱に、虹のオーラ。

間違いない。

「虹の宝箱!!」

「えっ、これが?」

「初めて出た」

超低確率で出るこのダンジョンで最高レートのアイテムが出る宝箱。

神々しいとも言っても過言ではないほど、すさまじい雰囲気を醸し出すその宝箱の周りに俺たちは駆け足で集まる。

そして心臓がさっきからうるさい。

走って脈が激しくなったとかじゃない。

脳が一気に興奮状態まで振り切れて、それに引っ張られて心臓が高鳴っている。

うん、俗的に言えば脳汁がやばいというやつだな。

「……これって、開けて大丈夫なのよね?」

「ああ」

「神罰とか落ちない?」

「落ちた記憶はない」

どんなアイテムが出るかワクワクしている俺とは打って変わって、ネルとアミナは落ち着いている。

いや、あまりにも神秘的過ぎて、ネルとアミナは開けて良いのかと戸惑ってしまっている。

金の宝箱のときなんて、二人は全力でじゃんけんして俺には開けさせないじゃないか。

いや、リアルラックが死にすぎて俺が開けちゃだめだと認識しているんだから仕方ないんだけど。

そんな二人が、俺に宝箱を開けろと視線で訴えかけてくる。

「ネル開けないのか?」

「きょ、今日はなんか調子が悪い気がするから、遠慮するわ!」

「ぼ、僕も今回はいいかな?」

俺個人ではリアルラックがこの中で一番高いネルに開けてほしいんだけど、なんか神秘的な物に怯えて二人とも開けたがらない。

これで無理やり開けさせても仕方ない。

「はずれが出ても文句言うなよ」

「わかったわ」

「うん、大丈夫」

念のため、外れが出てもいいかと確認してからそっと虹の宝箱に手を伸ばす。

左右から固唾を飲んで見守られて宝箱の開放。

懐かしいな。

ゲームのイベント期間中は仲間と一緒に限定アイテムを血眼になって探していたな。

虹が出た時の雄叫び、そして違うアイテムが出た時の違うんだよ!!という素直に喜べない悲しみ。

あれ、少しだけ宝箱を開けたくなくなってきたぞ?

ネルとアミナがそんなことを言うとは思わないけど、期待を背負って開けるというより、開ける時の責任を背負って開ける。

「……開けるぞ」

「ええ」

「いいよ」

二人の雰囲気に当てられて、そして過去のちょっとしたトラウマを思い出してなんだか俺も緊張してしまう。

頭の中でカガミモチの虹箱から出るアイテムのリストを思い浮かべ。

「南無三!」

一回深呼吸をおいてから、鍵のかかっていない宝箱を開け放った。

「ど、どう?」

「雷とか落ちてこない?」

「何ともないと言えば、それまでだが……」

それで何か変わったことが起きたわけじゃない。

ネルたちが心配するモンスターが呼びだされたとか。

罠が発動したとか、そういう類のことは起きていない。

ネルとアミナも神罰がなければ大丈夫かとホッとしながら恐る恐る中身を覗き込んでくる。

開け放ったことによって先に見えた俺は、宝箱の中身が問題だと少し顔をしかめている。

「中身は……鍵?それも、とってもピカピカだね。まるで金でできているみたい」

「……まさか!?」

アミナは暢気に俺が宝箱の中から取り出した鍵を見て綺麗だと喜ぶが、俺の顔を見てそして鍵を見てと繰り返し見ていたネルはその正体に気づいたようだ。

「そのまさかだ。どうやら大当たりを引いたみたいだ」

俺も見るのは久しぶりだが、カガミモチの虹箱の中から出てくるアイテム一覧で鍵は二種類しかない。

一つは普通のモチの鍵。

いわば外れ枠。

しかし、この黄金の鍵は間違いない。

「黄金モチダンジョンの鍵だ」

「「っ!?」」

左右で息をのむ音が聞こえるけど、今はそれどころじゃない。

俺のリアルラックどうなっているんだよ。

普段は全く機能しないのに、なんでだ?

もしかしてこの幸運を生かさないといけないほど何か未来で嫌なことが起きるとか?

勘弁してくれよ、あれからネルにいろいろとこの世界での権力者の闇を聞いてしまって、ジンクさんに確認をして力をつけていないうちに目立つのはだめだと自覚したばかりなのに。

「どうするの?」

「どうって、使うしかない」

ネルの質問は当然の物だ。

もともと求めていた物ではある。

これを機に使うこと自体に躊躇いはない。

売るという選択肢は絶対にない。

「使っていいのかな。なんかもったいないよ」

「持ち歩く方が怖いぞ」

アミナは貴重品をあっさりと使うことに難色を示したが、これを使うことによって得られる恩恵は計り知れない。

ダンジョン内のモンスターを討伐するだけで下手なダンジョンよりも経験値を得ることができる。

ドロップアイテム次第ではさらに強化できてしまうのだ。

「ねぇリベルタ」

「なんだ?」

あまりの一品に、ダンジョンから出るという発想が出ない。

ダンジョンの中、とりわけボス部屋は中から扉を閉めてしまうと外から干渉される心配がない。

今ここはどこよりも安全な場所なんだ。

この鍵の行く末を決めるまで外に出ない。

三人共通の認識でここにとどまっている。

「私たちが使っている鍵みたいにずっと使えるようにすることってできないの?」

「あ」

そしてネルは気づいてしまった。

俺がダンジョンの鍵を永続的にできる方法を見せたから。

「結論から言えば、理屈的にはできる」

「理屈的って?」

しかし、俺はそれが非現実的な話だというのも知っている。

「昔、至高の領域までたどり着いた錬金術師がその当時に考え得る最高の設備を用意して、この黄金の鍵を百本集めて合成に挑んだ」

FBO界隈では有名だ。

弱者の証を使うことによって一定の消耗品を永続的に使えるようにすることができるのならレアな消耗品を無限機構にしてしまえばいいと。

だれもが考えて、だれもが成しえなかった現実。

時間とお金をかけて、当時では右に出る者はいないと言われた錬金術師ビルドのプレイヤーが自身の手で最高の傑作だと言える陣地と設備を用意し、だれの目から見ても万全だと言わしめる強化アイテムと人員を用意しての挑戦。

百本という途方もない数を揃えて、失敗することも覚悟しての挑戦。

「け、結果は?」

伝説の存在ともいえるような話にネルはゴクッと喉を鳴らし先を促してくる。

「失敗だ。いや、惨敗ともいえるほどの大敗だ」

そんな万全の用意をしても、すべての黄金の鍵は砕け散り、残ったのは最弱のアイテムである弱者の証だけ。

挑戦したプレイヤーはここまで失敗するなんておかしい、合成不可のアイテムじゃないのかと運営に挑戦映像を送付して問い合わせた。

その結果、返ってきた答えは。

「黄金の鍵と弱者の証の合成成功率は……一億分の一。それも至高の錬金術師が万全の備えをしてその結果だ」

スキル構成、装備、ステータス、設備、アイテム、人員、すべての要素を加味して運営はしっかりと計算して答えを返してきた。

その答えは瞬く間にプレイヤーの間に広がり、黄金の鍵の永久機関への道のりはゼロではないが、ゼロに等しい挑戦だと認識された。

「この街にそれ以上の腕の錬金術師がいたとしても、挑戦するよりも使った方がマシだってことだな」

この街にいるNPC錬金術師の腕はプレイヤーのはるか下。

国お抱えの宮廷錬金術師でも、ガチ錬金術師ビルドの足元にも及ばない。

「そうね、なら私は使った方がいいと思うわ」

元から使う気ではあったが、俺の話を聞いて覚悟が決まったネルは厄介なアイテムは早々に処分した方がいいという結論に至った。

「いいのかなぁ」

「じゃぁ、ほかに何か方法があるの?捨てるとか言ったら怒るわよ」

「そこまで言わないけど」

商人として、そして努力の結晶として手に入れたものを捨てるなんてできないとネルは半眼になってもったいないと訴えかけるアミナを睨む。

「もう、わかったよ。僕だって興味がないわけじゃないし」

数秒間の睨みつけによって、アミナが白旗を上げた。

金色の鍵という珍品を持ち続けたいという願望があっただけのアミナだが、天秤は使う方向に傾いたようだ。

「それじゃ、さっそく使いましょ。善は急げっていうし」

「それだったらここで使うか」

アミナの覚悟が決まり、それならばとネルは外に出るための魔法陣に向かうけど待ったをかける。

「え、ここダンジョンの中だよ?使えるの?」

「使えるぞ、というかここほど安全に黄金の鍵を使える場所はないからな」

ダンジョンの中でダンジョンを生成する。

何かおかしなことを言っているかもしれないが、普通にできるのだ。

過去にとある 阿呆(プレイヤー) が大量のダンジョンの鍵を用意して出るのに三日かかるようなダンジョンチェーンを作り上げたことがあった。

「そうね、ボスの部屋なら外から見られる心配もないし。誰かが入ってくる心配もないわ」

「それなら安心して使えるってことだね」

「よし、ならさっそく使うぞ」

その理屈が通用するはず。

恐る恐る黄金の鍵を前に差し出すと、いつもの感覚で刺さるような手応え、そして回せばカチャリと開く音。

「うわ!?」

「まぶしい!?」

そして開いた空間の光に思わず手で光を遮ってしまう。

モチのダンジョンのような洞窟であるのだが、その空間そのものすべてが黄金一色で染め上げられている。

「これ、全部金?」

「そうだな、ダンジョンだから破壊不可能の持ち出し不可だけど」

「うわぁ、すごい」

目が慣れてきて、ゆっくりと遮っていた手をどかす。

天然にできた金の洞窟。

仮にこの空間全ての金を掘り起こして持って帰れればどれだけの富になるだろうか。

そんな思いからか、ネルは上へ下へ右へ左へと顔をさっきからあっちこっちに動かしている。

「あ、本当にモチも金色なんだ」

そんな空間を入り口から見ているとアミナが動く物体を発見。

「あれ?でもなんか数が多いような」

「このダンジョンは普通のモチダンジョンと違って、リポップはしない。代わりに初期配置のモチの数も多いし、部屋数も増えているんだ」

「へぇー」

金色の球体が柔らかそうな動きで跳ね回っている。

ゲームで見慣れていた光景だと思っていたけど、久しぶりに見ると何とも奇妙な光景だと思ってしまう。

「これならいっぱいスキルレベルが上がりそうだね!!」

「そうね、数が均等になるようにしっかりと考えないといけないわね」

しかし、経験値的にもドロップアイテム的にもお宝の山だというのは間違いない。

個人的にはネルのリアルラックを期待して、三周かそこらできればいいなと物欲センサーに真っ向から喧嘩を売っている。

「さて、そろそろ入るか」

今日の残り時間もそこまで多く残っているわけじゃない。

ダンジョンの中にいる黄金モチすべてを倒すのであるなら、急いだほうがいいくらいだ。

「ええ!気合入れていくわよ!」

「うん!頑張ろう!」

それぞれの武器を片手にまずは最初の部屋に入り込む。

「まずはそれぞれ一匹ずつだ!!」

「私は右のにするわ!」

「じゃぁ、僕はこっちの子にしようかな」

金色になってもモチはモチ。

ノンアクティブモンスターだから、俺たちが来てものんびりと跳ね回って徘徊している。

広場は少し広がっていて、金色の空間に馴染んでいるから探すのが少し面倒だけど、動いている物体がモチだからそれぞれ倒す相手を選ぶ。

「せーので行くわよ!」

「うん!」

「え、あ、うん」

何かの儀式か?

まぁ、初めてのモンスターを一緒に倒したいという気持ちもあるんだろうな。

「せーの!」

ネルの掛け声に合わせて、槍を引きそして黄金モチに突き立てる。

手応えはほぼモチと変わらない。

どこぞのメタル系モンスターのように硬いわけでもない。

なので黄金モチは通常のモチと一緒の感覚であっさりと一撃で倒され。

「ドロップは……無しか」

金色の地面には何も残ってなかった。

残念と心の中で思いつつ、出ないのが普通だと自分に言い聞かせる。

「やったぁ!!出た!!」

「ネルすごい!!」

え、マジで?

だけど、金色の餅を片手に跳んで喜ぶネルの姿を見ると少しだけ心がつらくなるのであった。