軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

30 EX 次代の神 6

「「「「……」」」」

「うぅぅうう。なんで、なんでこの世界の愛はこうまで儚く無情なのです。ですが読むのを止められません」

神々が集う雲の上の庭園。

そこで珍しくこれまでここの住人であった四柱の神々が、新参の一柱の女神に集中して監視していた。

一冊の書籍を前に、涙を流し、そして愛について向き合っている。

愛の女神パッフル。

過去の歴史において多くの国を愛によって沈めてきた、愛の根幹となる女神。

善悪で言えば善でも悪でもあるという、ある意味で中立の立場に立つ女神。

愛は本質的に善であるが、愛の方向性によって悪にもなるという哲学的な立ち位置を持つ。

「どう思うである?今回の愛の女神の英雄の選定について」

そんな彼女が読んでいるのは、黄色いタコが教師になるという少年漫画の一冊。

前半に色々と愛のマイナス面を描いた作品を叩き込みすぎて、愛の女神として暗黒面に反転しそうだった故に、今は生徒を思うタコ教師の愛情深くそしてコメディ要素あふれる物語の展開で、彼女を浄化している最中だ。

最終巻だけあって盛り上がりも十分、その作品を読んだことのある決闘の女神メーテルはうんうんと感動しているパッフルに共感している。

「彼女らしいかと言えば、らしくない選定だね。僕はてっきりあの桃色の髪の少女が彼女の英雄だと思ってたんだけど。ほら全方位に愛をばらまいて周りをゴッチャゴッチャにしそうな感じなのが、それっぽかったじゃない?だから、南のところの英雄の側に現れた男は正直意外な人選だったよ」

「……学習はしたということか」

そんな光景を脇目に商売の神ゴルドス、戦闘の神アカム、知恵の女神ケフェリの三柱は盤上に目をやる。

その盤上には知恵の女神の使徒であるリベルタと、愛の女神の使徒であるヒュリダが談笑しつつどこかに向かう光景が映っている。

「学習はした?南の、どういうことだ?」

「言葉通りの意味だ。今までのやつが選んだ人材は北のいう通り愛を外に向けるやつばかり。全方位に愛情をばらまけるほど濃密な愛をもつ人間は確かに世界に影響を与えるにはちょうどいい人材だ。だが、今回はその愛情の方向を内側に向ける人材を選んだ」

ケフェリからすれば、計算外もいいところの光景。

自身の使徒の行動次第では、愛の女神の使徒に対して大きなアドバンテージを与えることになる。

ため息と頭痛を堪えるようにゴルドスの質問に答えつつ、神託を使うかどうかを悩む。

「家族愛も立派な愛情ってことか。パッフルも考えたねぇ」

しかしその手にはしっかりと漫画の新刊が握られている。

漫画を読まないとこのストレスに耐えれないと言わんばかりに、会話をしつつ読書もするケフェリにアカムは同情するような眼を向ける。

「で?今の気持ちは?」

「最悪だ」

本来であればライバル同士、敵の不幸は蜜の味と喜ぶところであるが、アカムも今回ばかりはケフェリに同情している。

「だよねぇ、外に開放しないって言うことは内包型の愛情ってことでしょ?愛を吐き出せる相手が限定的な人って、吐き出し口が無くなった時の対処が面倒だよね」

「……妻、息子、娘。この三人がいなくなった時のことを考えるとゾッとする」

これまでは愛情を全方位にばらまいて災厄を引き起こしてきたパッフルの使徒であるが、では愛の力を内包してしまえば問題は解決か!!とはならない。

愛の女神というだけあって、英雄の選定基準は愛情の深さ。

そのあとに戦闘能力や人格と謂った面が選考基準となる。

すなわち、今はニコニコと笑顔を絶やさず社交的な態度を取っているヒュリダであるが、リベルタが見つけた時のように妻や子供に手を出されたときは豹変する。

あれはあくまで氷山の一角。

海面の下には海上よりも大きな氷の塊があるように、巨大な愛を内包している。

「過去にもそういう人物はいたのである。一人の女性を愛し、家庭を築き、幸せを謳歌している最中、妻を亡くし、子を無くし、孤独となった愛ある者の末路は大きく分けて二つ」

商売の神というのは何も損得勘定だけで成り立っているわけではない。

彼の神の縁の中には、幸せな家庭を築くために金が要るという、金と愛情の密接な関係があるのだ。

「一つは、後追いだよね。だいたいの人がこうなるよ。愛しい人、人生を賭けて共にいたいと思える人を失ったんだ。悲しいけど、そうなってしまうのも仕方ない。僕的にはこういう展開はあまり好きじゃないけど」

戦闘の神アカムと愛。

これもまた関係ないように思われるが、戦いの中にも愛情はある。

時にライバル関係、時に敵国にいるがゆえの許されざる愛。

戦いの神ゆえに生まれる愛情もある。

「もう一つは、そうなった原因への復讐だな。思考がまともなら被害を与えた者への報復だけで済むが、思考がまともでなければ最悪世界に牙をむく」

そして愛を知る知恵の女神もまた、知っているがゆえに愛情の厄介さをしみじみと吐き出す。

いい結果に終わる愛もあれば、悪い結果に終わる愛もある。

神ゆえに、その愛の結末を多く見てきている。

幸せに天寿を全うできるケースも多いが、その逆に不幸に見舞われるケースも多い。

「今回のケースは正直想定していなかったよ。いや本当に北から移動してくれてよかったよ!!僕のところはお世辞にも治安が良くないからね!!いつ爆発するかひやひやしたよ!!爆発したら間違いなく僕の英雄とぶつかるからね」

その不幸になる展開で大惨事になるパターンを回避できて大喜びするアカム。

「航路的に西か東の予想であったが、吾輩の英雄のいる大陸ではなくて西の方に舵を切ってくれたのは助かった」

同時に、爆弾が来なくてホッとしているゴルドスもいた。

「私は一瞬背筋が凍りましたけどね。エリクサーを買えないという状況くらいでは爆発しないか」

読書を止めて会話に参加してきたメーテルは、少し遠い目をした。

「もう、皆さん私の英雄をなんだと思っているんですか?」

「爆弾だね」

「あるいは、毒の入った壺か」

「もしくは嵐と言ったところですか」

「はた迷惑な存在だ」

「皆様ひどいです!!私はただ愛情の深い方を選んでいるだけなのに!?」

その会話を聞き、少し正常な心を取り戻したパッフルが会話に参加すると、痛烈な言葉が飛んできた。

「その選定基準が問題だと言っているのだ」

「ですけど、我々神は各々の性質に合わせた英雄しか選べませんよね?となれば私の選定は自然とこうなるのが決まっていまして」

「ならお前の性質が問題だな」

「ひどいですわ!?ケフェリ先輩、私に冷たすぎません?いきなりあんな書物を読ませたところといい」

苛立ち度マックスというわけではないが、ケフェリの冷たい対応にパッフルは嘆くがそこに取り合う神はいない。

「現在進行形で被害を被っているのだ。私は慈悲の神ではない。迷惑にはクレームをもって対応するまでだ」

漫画を開き、読書に集中しようとする。

「自業自得だね」

「うむ、吾輩も今回はケフェリに同意する」

「否定できないです」

「うう、私は愛に素直なだけなのに」

「難儀な性質を持って生まれたことを嘆け」

シクシクと声に出しながら泣く後輩のことは、今は良い。

ケフェリとしては、今後主神の座を巡る争いを一時的とはいえ別の神の使徒と共闘することになったことをどうするかと考える。

切り札である神託を使うかどうか、検討するのには十分な内容だ。

問題は、誰に神託を降ろすかということ。

知恵の女神の使徒は一定数いる。

しかし、その関係者がリベルタの周囲にいるかと言えば、いない。

「まぁ、愛の女神についてはひとまず南のに任せるとして、なんで西のは普通に漫画を読めてるの?」

「契約したからですわ。先日話した南の条件に私が提案した条件を一つ付け加えて納得していただきました」

神々が直接下界に干渉できないようになっているから、使徒を作りそれぞれの信仰の派閥を作るのだが、知恵の女神の派閥はそこまで大きくはない。

学問などの知識を磨く組織には一定数の影響を持っているが、そういう輩は表舞台に出たがらない。

勉学は己を磨くものという性質ゆえに拡大能力が乏しいからだ。

自身の性質ゆえに、それは否定しない。

だが、不便を感じるのはまた別の話。

さらに、ここにきて別の問題も生じている。

それはメーテルとケフェリの間で交わした契約に関係している。

そんな悩みを抱えるケフェリの隣で、パッフルの隣で自然にメーテルも漫画を読んでいることにアカムはツッコミを入れる。

漫画という新しい世界観に感動しているのはアカムも通った道のり、そしてこの道のりを経験した後に漫画を没収されたという経験を経ている故に彼女だけが漫画を読めている事実に不満を感じているのだ

「条件を追加した?どういう内容さ」

「単純な話です。南が要求していた条件は、南の英雄が関わっている神託の十年間の禁止、また漫画の読書許可を放棄する代わりに関係する神託をする際に限りその内容を報告するという義務の付与。この二点です」

現状、ケフェリの使徒は周囲に英雄だと認知され始めているが、他三大陸と比べれば知名度という点ではかなり低い。

むしろジャカランという暴れまわり、喧伝しまくっている男がいる所為で余計に知名度が下がっていると言ってもいい。

ゆえに他の英雄たちはリベルタの存在に気づかず、警戒もしていない。

それに対して危機感を抱いて、いままではアカム、メーテル、ゴルドスはその条件を飲むことを拒んでいた。

だが、ここでメーテルは一つの条件を出しているものの、リベルタの情報を十年間提供しないことを飲んだ。

それはある意味で情報戦で制限をかけるようなもの。

場合によっては手遅れになる可能性がある上に、さらに情報の漏洩というデメリットを飲んだということになる。

それを覆せるほどの条件とは何か。

アカムとゴルドスが気になる条件を聞くと。

「ですので、私は次回のケフェリの神託の内容を私だけに教えてくれることを条件にこの条件を飲みましたわ」

「なんだと?」

「そんなことで?」

情報には情報ということで、秘匿性を封じる内容で手を打ち漫画を読めるようにしたメーテルの発想にアカムとゴルドスは目を見開く。

欲求に素直なのは良いが、あまりにも軽率ではないかと思うような内容。

しかし、すでに一回神託を使っているメーテルにとって迂闊に神託を乱用できない状況。

その情報は知られていない上に、現状ケフェリの英雄の位置は割れている。

行動原理から今後の動きを推測すれば、警戒は必要ではあるが即座に危険になる確率は低い。

愛の女神の使徒が側にいることは嬉しい誤算になったと言っていい。

事実、その対応をするために必要な神託のカードを切るか切らないかの判断にこの条件が足かせになっている。

優雅に少年漫画を読み漁っているメーテルに対して面倒だと思いつつ、今はその時ではないと踏んでケフェリは今回の神託は見送ることにした。

教えるにしても、神託を下すための適任者がいない。

「ああ、ちなみにこの条件は私にしか使えないようにお願いもしていますので」

「ぬ、それは」

「マネする気はないけど、こうも目の前で漫画を読まれるのは腹が立つな」

ケフェリにとって、この展開は少し計算外の動きであることがわかる。

「……」

ちらりと読んでいる漫画の一ページを見れば、とある巻数では決め顔で計算通りと邪悪な笑みを浮かべていた少年の顔が、今では絶望に染まって描かれていた。

物語でも波乱が起きる。

なら神であっても計算外が起こるというのは摂理かもしれないとケフェリは思うのであった。