軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

29 男の娘

シャリア。

この名前でとっさに思いつくのはFBOでの人気投票だ。

人気投票?と思われるかもしれないが、一応FBOにも世間の声が気になるという感情はあるようで、運営主催の人気投票というのが当時行われた。

部門は様々で、男女別とか、戦闘系や生産職系などいろいろなキャラがいてそれぞれに人気の差が出ていることを配慮して色々なキャラが輝けるように配慮された。

総合部門という全キャラの中でナンバーワンになるという部門もあったが、総合部門は好みが分散しやすいキャラ愛というよりは、攻略パートナーとしての有用度を強調する側面が強く、使い勝手がいい、攻略に必須、シンプルに強いとかの環境面が考慮されて、面白みに欠けた。

では、シャリアはどこの部門で活躍したかという話になる。

強さに関して言えば、準ティア1というスペックだ。

環境に合えば、ティア1。

そうじゃないのならティア2という具合のスペック。

これだけを見れば、優秀であるが決定打には欠けるキャラということになる。

そんなシャリアが印象に残るのはキャラ愛、ようはファン層が少し独特だからだ。

シャリアの容姿は可愛らしい、その一言につきる。

小悪魔系ヒロインとでも言えばいいのだろうか。

小悪魔と言っても、少し人をからかう言動があるだけで、根はやさしく仲間思い。

困ったことがあれば積極的に助けに来るという、カルマ値を計測すれば善よりの性質を持ったキャラだ。

陽気で、その場の雰囲気を明るくしてくれる、そんなシャリアに心惹かれるプレイヤーは多くいた。

中にはガチ恋するプレイヤーもいる。

これは初心者であったり、攻略サイトを見ない人ほど陥る傾向があった。

だが、攻略を進め、シャリアストーリーを進めていると一つ衝撃の事実が判明する。

シャリアは、彼女、ではなく彼なのだ。

並みいる女性キャラクターを押しのけて、女性部門のランキングで五本指に入るほどの人気キャラ。

一度だけ、男性キャラランキングでも三位に入り込み、当時の人気投票で男女部門のトップ5入りを果たすという偉業を成したのは後にも先にもシャリアだけ。

ジャカランや狂楽の道化師のように、たとえヴィラン枠でも人気が無いキャラもいれば、俺の推すイリス嬢みたいに攻略パートナーでなくとも人気がかなり高いキャラもいる。

シャリアという名前のキャラクターは、男の娘という特徴的な属性で人気をかっさらっていく、突き刺さる系の人気キャラなのだ。

「ええと、そのシャリアさんは息子さんですか?」

「ああ、今年で十六歳になる息子だ」

顔は中性的を通り越して女性的。

綺麗というよりは小悪魔系の可愛さ。

声のトーンは高く。

肌が白く、さらに言えば身長もそこまで高くはない。

「ど、どんな人なんですか?俺、この王都にはそれなりに知り合いがいるのでもしかしたら探せるかもしれません」

「何から何まで、助かるよ」

ちらりと奥さんの顔を見れば、なるほどあの容姿は母親譲りだったのかと思うくらいに似ている。

それに反して、父親とはあまり似ていない。

違和感を覚えたのは父親の方、母親の方ではない。

その観点から、シャリア違いだと思うこともできるが、シャリアという人物には普段明るく過ごしているという様子に反して割と暗いストーリーが潜んでいる。

「息子は少し可愛らしい容姿でね」

「はい」

「一見すれば男の子ではなく女の子と間違われるほどなんだ」

「ほー?」

彼、シャリアが女性の格好をする理由がある。

彼とて最初は普通に男っぽい格好をして、女の子っぽいと言われることを嫌っていた。

男であるために、剣術を学び、体を鍛え、そして髪型も男らしいものを選んでいたことが過去ストーリーで語られている。

「だけど、そこを息子は嫌がっていてね。そこがまた可愛らしいんだ。妻の声が出なくなったときは本当に心配して、私の代わりに薬を探しに行くと言ってくれるほど心根も優しくて」

「はぁ」

不幸という罠はどこにでも潜んでいる。

シャリアの家族が、とある暴漢に襲われ見るも無残な姿で発見されたのだ。

シャリアは偶然、隣の集落まで買い出しに行っていて難を逃れたがそれが良いこととは言えなかった。

天涯孤独。

それを受け止めることは簡単にはできない。

「だから、連絡が途絶えてしまって心配なんだ。幸い昔取った杵柄というわけではないが、冒険者のライセンスを復活させて渡航することはできた」

「息子さんも冒険者なのですか?渡航ができるって言うことはかなり上位のランカーですよね?」

「ああ、と言っても今年Aランクになりたてで渡航許可も取ったばかりだから他の大陸での旅の経験がないんだ。まぁ、北と比べればどこで野営しても生きてはいけるだろうが」

「優秀なんですね」

彼は、それをトリガーに復讐に走る。

それが彼が女装に走るきっかけ。

とある暴漢というのは、ジャカランのことだ。

女性を襲うことに躊躇いの無い奴はシャリアの母親に目をつけて襲い掛かり、家族を人質にして無抵抗の父親を殺し、そのあと乱暴狼藉を働き逃亡という最悪の行動をした。

犯人が誰かは、すぐにわかった。

証拠を隠すという知性を持ち合わせず、誰かに襲われても撃退すればいいと短絡的に考え、理性よりも欲求を優先し行動するような奴だ。情報など腐るほど集まる。

相手の行動原理を、探せば探すほどに知っていく。

そして相手の趣味嗜好もその情報ですぐにわかった。

女性を好むのであれば、自分の容姿を使いそれを餌におびき寄せる。

美貌を磨いた。

会話を磨いた。

女性の姿で戦える術を磨いた。

全ては復讐のためと、ゲーム時代のシャリアの好感度を上げた際に語ってくれる過去の話。

だけど、復讐にすべてを捧げることはできなかった。

元来の優しさを忘れることはできなかった。

迷子の子供がいれば、優しい笑顔で手を差し伸べ親を探す。

モンスターに困る村の住人がいれば、磨いたその戦闘技術で助ける。

全ての原点はこの家族からなのだろう。

それがわかる。

「ああ、自慢の息子だ」

「連絡が取れないのは心配ですね」

優し気に、息子を誇る父親。

しゃべれなくなったけど、それに力強く頷くことで同意する奥さん。

『うーん、最初は必要だからやってたけど、今じゃ完全に趣味だね!!可愛いは正義っていうじゃない?すなわち、可愛い私は正義ってことだよ!!』

ジャカランを倒すことで発生し、このあとどうするのかという会話の時に発生するちょっとしたネタ。

復讐から始めた女装趣味であるが、気づけば沼に嵌り、可愛い自分を極めてしまうという不思議な人物。

ジャカラン関連イベントかと、一瞬憂鬱な気持ちが湧きそうになったが、裏を返せばゲームのメインストーリーが始まる前のここで手伝えばシャリアの黒い歴史が変わる可能性があるのだ。

「人探しなら、いい伝手を持っていますので紹介しましょうか?」

「良いのかい?」

「ええ、ここで遇ったのも何かの縁です」

シャリアというキャラは俺にとっても思い入れのあるキャラだ。

イリス嬢の姉であるエスメラルダ嬢が俺たちの仲間になっている段階で、最早原作など遥か彼方に行ってしまっているだろう。

だったら、ここで人助けをして自分の偽善が役に立つと思えた方が建設的だ。

この家族と触れ合うことでジャカランと何らかの縁ができるかもしれない。

そうなったらそうなったで撃退するしかないか。

色々とゴタゴタするかもしれないが、今回は公爵閣下に貸し付けているモノを少し返してもらうことで対処すれば俺の労働力は何とかなるはず。

「ありがとうリベルタ君。妻のことだけではなく、息子のことまで、本当に感謝してもしきれないよ」

「さっきも言いましたけど、お礼は奥さんの声が出るようになってからでいいですよ。息子さんの件も」

しかし、本当になんで俺はこの人に違和感を覚えたんだ?

話をしてみて知っているネームドキャラの親だというのはわかったが、だからと言って父親とシャリアが似ているかと言われれば似ていない。

母親を見てもしかしてあのキャラと親子?と思うのなら俺の違和感もわかるのだが、違和感を覚えたのは父親であるヒュリダさんだ。

「ん?」

「どうしたんだい?」

違和感の疑問は解決せず、されど困っているのなら放っておけない。

痛しかゆしとは違うが、なんというかチグハグな気持ちになりつつどうせならこのまま公爵閣下の元に連れていくかと思っているときにそれを見つけた。

「その、ずいぶんと可愛らしいペンダントをしているなぁって」

「ああ、これかい?私は愛の女神パッフル様の信徒でね。これは信仰の証だよ」

「愛の女神・・・・・」

「家族を愛する私にとって一番信仰できる女神様なんだよ」

男性がつけるにしてはずいぶんと可愛らしいハート形のペンダント。

一瞬女性物かとも思ったが、あれはロザリオみたいな物なのか。

「妻も敬虔な信徒でね。それも女神さまから神託を貰えるほどでね」

「神託ですか?」

そこから少し雰囲気が変わった。

触れてはいけないというよりは、オタクに語らせるためのスイッチを押し込んだような感覚。

「ああ、そうだよ」

話したそうにうずうずしているヒュリダさんの顔は子供っぽく、そしてそれを断ったらシュンとして落ち込みそうな雰囲気。

聞かないという言葉を口にすることはできず、代わりに出てきたのは神託というワード。

たしか、この世界じゃ神託を受けた英雄というのがいるはず。

東西北にそれぞれの英雄がいたはずなんだけど・・・・・あれ?もしかしてこの人が北の英雄!?

「も、もしかして北の英雄様だったりします?」

なんでこんなところにいるんだと思いつつ、さっきの違和感はこれか!?

もしかして神に選ばれた人物同士だと、何か感じ取れる波長みたいなものがあるのか!?

「いやいや、私は違うよ。まぁ、似たような存在であるのは確かかもしれないね」

「似たような存在?」

「ああ、私は妻伝だけど、北の英雄殿みたいに愛の女神パッフル様から邪神を討伐するように神託を受け、特別な力も賜っている。安住の地を探しているのは、妻と子が安心して暮らせる場所を見つけて、私は女神さまのお気持ちにお応えして邪神に挑みたいと思っているからなんだよ」

「へー」

予想とはちょっと違ったが、神様関連なのは間違っていなかった!?

しかし、待ってくれ。

俺はてっきり東西南北でそれぞれ英雄が一人ずついることを想定していたんだけど、ヒュリダさんの存在から察するにもしかしてこの世界に存在する神様につき英雄が一人いる計算なのか!?

英雄というのは柄じゃないんだがと照れ笑いするヒュリダさんだったが、真摯に女神さまからの神託に応えようとしている生真面目さが見えている。

そんな人も神から特別な力を貰っているということは、何か意図があるのでは?

俺を転生させた神様は知恵の女神ケフェリ様っぽいけど、なんで複数の神々が英雄を生み出している?

もしかして、俺の知る邪神よりも超絶強化されていて普通に倒せない的な存在になっちゃってたりするのか!?

「女神さまに選ばれている人なら、気合を入れて手伝わないといけませんね」

「いや、本当にそこまで大げさにしなくていいんだよ。私は家族が幸せに暮らせるようになればいいと思っているだけだからね」

ひとまず、この一家をこのまま街に放逐するのだけはダメだというのがわかった。

この家族は絶対に公爵閣下の保護下に入れよう。

場合によっては俺が育てることも視野に入れねば。

そんなことを考えつつ、仕事がまた増えるなぁと思うのであった。