軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

27 父は強し

「んー!!ダンジョンは楽しいがやっぱり疲れると言えば疲れるな」

「その動き、お父さんみたい」

「ネルもやってみ?気持ちいいぞ?」

「そうなの?」

「おう、こうやってグーっと」

「あ、本当に気持ちいい」

ダンジョンから脱出して緊張感が解けた俺は、思いっきり背筋を伸ばして体をほぐす。

おっさんみたいだと言いたいのか、それともアクセサリー作りの座り仕事で体が凝っているジンクさんが、体をほぐすための動きを娘のネルがよく見ているからか。

指摘されて、それならと誘ってみるとネルも背筋を伸ばした。

背伸びって意外と気持ちいいと感じるのはどこかしらが疲れているからだ。

体を動かすとどこかしらは疲れる。

子供だから色々と無茶をしてしまう。

「そう言えば、少し腹減ったな」

そんな感じで運動後のストレッチも兼ねて体をほぐしていると少し空腹感を感じる。

腹の虫が鳴くほどではないが、それでも空腹を訴えてくる程度の感覚はある。

このままいくと夕食までは持たない感じがする。

「私も。でも夕ご飯まで時間があるわね」

「間違いなく持たないな」

全力でダンジョンに挑んでいる間に、携帯食料は摘まんだけど子供の体の吸収能力と消化能力はすごい。

あっという間に消化してまだまだ欲しいと訴えてくる。

「……だったら帰りに甘い物でも食べに行く?」

そんな欲求に抗う理性は持ち合わせているが、そっとおなかを抑えちらっと見てくるネルに対してその理性を使うことなく。

「いいね」

笑顔でサムズアップして買い食いを決定する。

レベリングはネルのおかげで半分は終わった。

もし仮にこのペースが明日も続くのなら明日にはレベリングは終わる。

予定の半分が今日一日で終わったのはだいぶ早い前倒しだ。

できた時間は有意義に使っても問題ないくらいの余裕ができた。

仕事が終わったと言っていいかはわからんが、ご褒美タイムとなれば足取りは軽くなる。

闘技場から出て、そしてその帰り道で屋台でも寄って甘い物でも食べようというネルの誘いは俺たちの足を段々と速くする。

「何を食べる?」

「んー、この前屋台で見つけたんだけど」

王都の屋台通りでは、数は少ないがいくつか甘いものを出している屋台もある。

砂糖は高級品ではあるが庶民も一応手出しができる値段で存在する。

甘い物には一定の需要はある。

それは男女ともに共通で、たまの贅沢品と謂うことで多少高価であっても買う客はいるのだ。

「ワッフルが食べたいわ」

「お、いいね」

子供のお小遣いでは少し手を出しづらいが、こっちは一応稼いでいる身。

マジックバッグに入れた素材を売るだけで、お菓子なら一年分は買うことはできる。

それ以外にも自由にできるお金をマジックバッグの中に入れてある。

金銭的に躊躇う理由はないので、帰りにアミナたちの分も買うことを決めて屋台通りを目指す。

槍を背負った少年と、ハルバードという大きな得物を背負った狐娘。

このコンビを見て、絡んでくるやつはいない。

武器はある意味で抑止力になる。

振るえば犯罪になることも多いが、先に喧嘩を売られ防衛した場合においては正当防衛を認められる。

この世界には過剰防衛はない。

先に武器を抜いたものが悪いのだ。

なので安心してお菓子を買って持ち帰ることができるのだ。

さて、俺がなぜこんな話をしているかと言えば。

「ああん!?先にぶつかってきたのはそこのガキじゃねぇか!?そのガキの持ってる菓子の所為で俺の装備が汚れたんだよ!」

「それは申し訳ありません。ですが、その装備もきちんとお拭きして綺麗になったではありませんか」

俺たちが向かっている屋台への道中で、いかにもチンピラ風の冒険者の男に背が高い温和そうな男が絡まれている光景を見たからだ。

「・・・・・リベルタ、衛兵を呼んだ方が良い?」

「大丈夫だと思う。周りの人がもう呼んでいるし、たぶんだけどあの人強い」

一見して戦い慣れているのがわかる冒険者の腰には剣があり、すぐに抜けるような気迫を醸し出している。

少しでも激昂すれば武器を抜くのがこの世界では当たり前。

それを知っている王都の住人は、怒りを見せる人物には敏感になる。

野次馬根性で遠巻きには見ているが、何人かは危機感を抱いて衛兵を呼びに行っているのが見えた。

そんな男に対するのは、大きな男と細身の女性、そして小さな女の子の三人家族だ。

父親らしき人物が冒険者の前に立ち奥さんと子供を庇っている。

こういう時は一般庶民なら怯えつつも必死に対応しようとするのだろうが、お父さんは睨みつける冒険者の迫力にも気負わず、娘さんがしただろう非を謝罪している。

雰囲気的に負けていない。

「状況はなんとなくわかるから、ここで俺たちが手出しをすることはできないな」

「……そうね」

男の足元には買ったであろうお菓子が落ちている。

そして泣いている小さな女の子と、その母親であろう女性が子供を抱きしめている。

話の流れ的に変な絡まれ方をしたという雰囲気ではなく、お菓子に浮かれた子供がよそ見をしていて冒険者にぶつかったという事情のようだ。

「ああ?俺の装備が汚れたのが問題なんだよ!!布で拭いたからってその事実は消えねぇんだよ!!わびとして一万ゼニ寄越せよ」

「申し訳ありません。旅をしている身でして、そこまで手持ちがありませんので」

不運なのは性格的に質の悪い冒険者にあたったこと。

汚れたことを怒るのは理解できるが、それで因縁をつけて法外な金銭を要求するのはやりすぎだ。

明らかに言いがかりの男の言葉に、できるだけ穏便に済ませようとしている男性。

この流れだと怒鳴っている男は止まらない。

「そうか、金がないか」

そんな折に、ニヤリと冒険者の男が笑って子供を庇う女性を見た。

下卑た笑い。

瞬間的にどういう意味が含まれているかわかった。

「だったら、その女を一晩貸せ」

案の定予想通りの言葉が男から出て、周囲の目も冷めた物になった。

「申し訳ありません。彼女は私の大事な愛すべき妻。そのようなことはできません」

「ガキの責任は親の責任だろ。こっちはそれで許してやるって言ってるんだよ!!金が払えねぇっていうなら女を寄越せよ!!」

言いがかりにも限度はある。

金銭までなら、冗談で済む。

だが、それ以上のことをあいつはしようとした。

「なによあいつ!許せないわ!」

「ぶっ飛ばすのは止めないけど、少しだけ待って」

「どういうこと?」

ハルバードの柄を握り飛び出しそうになったネルを止める。

一瞬だけど、ネルの闘気に反応して父親がこっちを見たような気がする。

手出し無用と言われたような気がした。

そして、さっきまで申し訳なさそうにしていた父親の雰囲気が変わった。

これは盛大に地雷を踏み抜いたな。

それを男は気づいていない。

なぜ止めるとネルが俺を見たが、俺は視線を逸らさず雰囲気が変わった男を見続けていた。

「あの冒険者、自分が有利だと思い込んで気づいてないけど相手側の方の雰囲気が変わった。たぶん、もう一歩踏み込んだら危ない」

周囲はいよいよ危なくなってきた雰囲気に衛兵はまだかとざわめき始めている。

「俺は優しいからな、もう一度だけ言ってやるよ。金が払えねぇなら、女を置いてどっか行け」

「申し訳ありません」

「そうか、そうか、優しい俺の言葉を無視するか。後悔するなよ!!」

そして決定的に交渉は決裂し、冒険者の男の堪忍袋の緒が切れて娘の父親に思いっきり殴り掛かった。

短気は損気。

それを絵に書いたような行動。

やっちまったと俺は、苦笑するしかなった。

それなりに場数は踏んでいるようだけど、相手の方が格上だと気づけなかったのだ。

怒り任せのその拳は迷わず温和そうな男の頬を捉え、そのまま打ち抜き殴り飛ばそうとしたのだろう。

だが。

「!?」

「・・・・・満足ですか?」

その振りぬいたはずの拳は、打ち抜くことができず。

仁王立ちする温厚だった男の頬に受け止められていた。

さっきまで申し訳なさそうな顔だったのが一転、無表情な能面のような顔になり。

ゆっくりと拳を振り上げた。

「一発スキルで防御できたからって調子に乗るんじゃねぇよ!!」

防御できたのはスキルによる効果だと断じた冒険者の男は、もう一撃男に向かって殴り掛かった。

その拳はゆっくりと振りあがる父親の拳が、振りあがりきるよりも先に再び父親の頬を捉えた。

正真正銘全力の一撃だった。

それなりの打撃音も響いた。

油断があったと言い訳を消し去るための男の渾身の一撃。

「ひっ!?」

だけど、その言い訳は通じなかった。

間違いなく油断も慢心もない。

冒険者の男の一撃。

だけど、その渾身の一撃も無表情の男に微動だにせず受け止められてしまえば、困惑して悲鳴も上げる。

「最初の一発は、娘があなたに非礼をしたことのお詫びで受け止めました」

攻撃が通用しない。

それはある意味で恐怖だ。

スキルなのかステータスなのかはわからないが、どちらにしろ自分の攻撃が効かないという事実を前にして冒険者の男の戦意が縮んでいくのがわかる。

「じゃ、じゃぁ。これでおあいこってことで」

まるでこれから刑を執行される罪人のように怯え始める。

「二発目を打ち込まなかったらそれでも良かったのです」

なりふり構わず逃げることもできた。

だが、冒険者という仕事柄逃げ出すという行為はプライドが許さず。

ここまで喧嘩腰な態度をし続けて都合が悪くなったら逃げるという行為を、大勢の人に目撃される可能性がある。

そうなれば今後の仕事を受けれなくなるかもしれないという天秤がきっとあの男の脳の中で揺れている。

「ですが、あなたは私の愛すべき妻を寄越せと言った。私の愛すべき娘を怖がらせた。そして何より、私たちに非が無き暴力を振るった。夫として、父親として、一家の大黒柱としてこの三つの罪を私は許さない」

淡々と罪状を読み上げ、執行のために振り上げた拳を振り下ろした。

「ゆえにあなたに裁きを下す」

目には目を歯には歯を。

拳には拳をと、撃ち抜こうとした姿勢のまま固まっていた男の頬に振りぬかれた拳。

「ぶへぇ!?」

鍛え抜かれた綺麗な拳だと、俺は思った。

クローディアとは違うスタイルだが、それでも先に手を出した冒険者とは比較にならない洗練された一撃。

打ち抜かれた冒険者は、そのまま体を吹き飛ばされ野次馬の中に飛び込みそうになったが、素早く野次馬たちが避けてそのまま地面を転がっていった。

「すごいわね」

「綺麗に吹っ飛んだなぁ」

悪は滅びるとはこのことだ。

先に二発殴られていることを見る限り、あの人が悪いなんてことにはならないだろう。

しかし、あの男誰だ?

あんなに強そうな人ならネームドになっていてもおかしくない気がする。

まぁ、俺の知識はゲームの時間軸での知識だ。過去の人物と変化があったら全くわからないのだ。

そもそも家族連れで行動するNPCなんて〝いない〟

兄弟や姉妹、あるいは親子とペアユニットはいくつかいるが、夫婦に子供という組み合わせのNPCはFBOのストーリーにはいなかったはず。

もしかしたら実装しようとして実装できなかったユニットなのかもしれないが・・・・・

「あの人強そうね。冒険者の人かしら?」

「それだったら冒険者同士でギルドに仲裁を頼むだろ?たぶん違う」

どっちにしろFBOの舞台全体から見れば俺の知らない人物の方が多いのだ。

ここで気にしても仕方ないのかもしれない。

「そうね、気にしても仕方ないわね。あーあ、おなか空いたわ。今日はちょっと奮発してワッフル二つ買っちゃお」

「夕食は食べれるようにな」

「大丈夫よ!イングリットさんのご飯は美味しいから別腹よ!!」

だけどあの男、妙に気になるんだよなぁ。