軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

21 体だけのノーダメージクリア

対狂楽の道化師の戦闘で低レベルクリアの絶対条件が存在する。

それはダメージを受けてはいけないということだ。

相手は状態異常を常に強いてくるデバフアタッカー。

「はぁああああああああ」

低レベルで格上の相手から状態異常攻撃を浴びれば、間違いなく致命傷となり、ここに転がっているのはこいつではなく俺だった。

「もう嫌だ。なんでこんなに縛りプレイばかり俺に回ってくるんだ?」

気丈に振る舞っていたが、別に俺はデスゲームの生還者とかではない。

ガチ勢に混じって、真剣にゲームに取り組んでいたただのゲーマーだ。

常人であれば、こんな危険なことは他人に任せて知らないふりをするのが普通だ。

力があるからと言って、自分の命を投げ出すようなことはしない。

「もう嫌だ。次の災厄が来る前に絶対に安全マージンを確保する。それが絶対条件だ」

この世界に来て、生命の危機が常に隣り合わせになり、それでも力を得るために極力安全に進んでいた序盤が懐かしい。

何が悲しくて、這竜を低レベル撃破して、スタンピードを迎撃して、双子の風竜を低レベル撃破して、イナゴ将軍に一パーティーで挑んで、終いには狂楽の道化師なんてゲームでも最悪の敵キャラを一対一で撃破しないといけないんだ。

「おかしいなぁ、おかしいよな?俺子供、そして中身はちょっと人よりもゲームをやり込んでいるだけの普通の男なんだぞ?」

ブツブツと自分に言い聞かせているが、これは一種の精神安定法なのだ。

ついさっきまで一歩間違えれば死ぬ恐れのある綱渡りのような闘いをしてきた。

それもモンスターではなく人と。

這竜や風竜と言ったモンスターとは違い、言葉を話し、そして感情をぶつけてくる相手。

ゲーム時代に何度も対人戦はして、人の姿のアバターを何度も倒してきた。

しかし、現実では人を殺した経験などない。

狂楽の道化師に対して好意など欠片もない。

あるのは嫌悪感だけだ。

公爵閣下とエスメラルダ嬢を助けたいという気持ちは本心だった。

だけど、がむしゃらにやった結果人を一人殺した。

感情と理性、決意と行動の結果に、精神が追い付いていない。

やったことに後悔をしているのか、と一瞬思ったがそれはないと頭の中で理解できている。

だけど、ズルズルと体からは力が抜け。

「……」

そこで座り込んでしまった。

緊張感が切れたのか?

そうかもしれない。

風竜を倒した時よりも疲れた。

「?」

そんな折にとてつもない破壊音が聞こえた。

それも一発二発じゃない。

ガンガンと何度も何度も打ち付け、そして最後は何かを破砕するような音。

「リベルタ!!」

その音の後にしばらくするとガチャガチャと兵士たちの駆け寄ってくる足音と一緒に、俺の名を呼ぶ声が聞こえた。

「血が!」

「大丈夫、これ、返り血ですから」

駆け寄ってきてくれたのはエスメラルダ嬢だった。

俺が座り込み、そして身動きを取っていなかったことに慌てて手を掴み

綺麗なドレスが血濡れになることなどお構いなしに、俺の体を触り傷を確認する。

さっきまでうっすらと寒かったはずなのに、少しずつ体温が戻っているような気がするのは、気恥ずかしいからか、それともやらかしたことに対して少しでも癒しを求めている防衛本能か。

「さっきの音は?」

「クローディア様とネルが協力して、結界を壊しました。お父様は今治療を受けていますが、私はあなたが心配でここに来ました」

急に騒がしくなる現場に、さっきまでの憂鬱に近い戸惑いが少しだけマシになった。

ああ、こうやって心配してくれる人がいるっていいな。

「そうですか、途中に兵士の人がいたはずです。あの人たちは」

「……二人は治療済みです。血を流しすぎて危なかったですが安静にしていれば回復します。ですが・・・・・」

兵士たちが周囲を警戒しつつ、エスメラルダ嬢は俺の体に傷がないことを確認して安堵したが、俺が道中で見つけた兵士たちの状況を聞いたら悲し気な表情をした。

「そう、ですか」

助かった人もいれば、助からなかった人もいる。

言いよどんだ、それだけで察することはできる。

「彼らの忠義には報いねばなりません。命を預かる者として、最大限のことは致しますわ」

そして死というワードは今の俺にはきつい。

さっきまで感じていた温もりが一気に冷めていくのがわかる。

ああ、これが人を殺した後の感情なのか。

罪悪感の先にある何か、それは俺を責めるのではなく常にそれでよかったのかと問いかけ続けてくる何か。

これでよかったと思っても、本当にそう思うのかと問いかけてくる何か。

これがもし、一生続くというのなら狂ってしまってもおかしくはない。

「当然、あなたもですわ」

「え?」

そんなマイナス思考に縛られそうな瞬間。

そっと抱きしめられた。

「あなたには本当に感謝しております。お父様と私の命を助け、兵士の命も救ってくださった」

その行動に理解が及ぶのに数秒の時間がかかった。

「そして、申し訳ありません。あなたには本当につらいことをさせてしまいました」

そして謝罪の言葉を聞いてより一層理解できなくなった。

「弱かったからと言い訳はしません。弱かった私たちがあなたの手を血で染めさせたのです。弱かった私たちが、あなたをこの場に送り出したのです」

それは違うと言いたかったが、人を殺したという事実で弱っている俺は言えなかった。

がむしゃらに助けたかったという気持ちが先行して、勝手に体が動いたと言えばそれまでだ。

「あなたには何も罪はありません。罪があるのは私たちです。あなたはただ、優しさで私たちを助けてくださったのです」

だけど、言い訳が欲しかったのだ。

本当であれば、ここで違うこれは俺が勝手にやったことだと宣言するところだ。

どう言い訳しようとも、そのとき俺はそうしなければいけないと思って行動を起こした。

その結果、狂楽の道化師を殺すことも理解し、そしてその結末を想像できていた。

だから、この言葉は否定しないといけない。

いけないのだ。

「助けてくれてありがとう。リベルタ」

だけど、この感謝の言葉は否定してはいけないと思ってしまった。

人を殺すことは悪だ。

それはこの世界でも一緒だ。

だが、日本とは違い。

悪を倒すことは善とされる。

無差別に人を殺すのは、この世界でも悪とされる。

だが、人を殺し生活を脅かす者を殺すことは称賛される。

ああ、なんていうか。

転生前と常識がずれている歯車の部分が一つ嚙み合った気がする。

わかっていた。

知っていた。

そうだと理解していた。

だけど、実感はしていなかった。

モンスターを殺すことと、人を殺すこと。

前者は転生後すぐにモンスターを倒し、そして意思疎通が基本できないことでこんな感情は抱かなかった。

後者は、いずれしなければならないと漠然と考え、そしてそれが来ることを理解し、それでもどこか後回しにしていた。

ここは日本ではない。

ここは異世界だ。

日本の常識をこの場に持ち込むことはできない。

してはいけないとは言わないが、ここではそれは理想論か非常識と捉えられるし、ならなぜ武器を取ると反駁される。

皮肉なもんだ。

感謝の言葉で認識と実感が合致するなんて。

「どういたしまして」

微妙な気持ちを抱えながら、それでもその気持ちを飲みこめる程度には心が落ち着いた。

ゆっくりと返事をすると、エスメラルダ嬢が俺を少しだけ離し。

「よかった。少し元気になりましたわね」

そう言ってくれた。

彼女にここまで心配されるって言うことは相当ひどい顔をしていたのだろうな。

「そんなにひどい顔をしてました?」

「ええ、それはもう。あなたを見つけた時は顔が真っ青でしたわ。毒でも受けて身動きが取れなくなっているのかと焦りましたわ」

ある意味で精神に毒は喰らってましたね。

殺人童貞喪失とここで冗談の一つでも飛ばせればいいのだが、周囲にいる兵士さんなら納得するかもしれないが、貴族のお嬢様相手にそんなブラックジョークを飛ばすことはできないか。

「リベルタ!!」

「リベルタ君!!無事!?」

「リベルタ様!」

エスメラルダ嬢がここにいるということは、ネルたちもここにたどり着けるということで大声で俺の名前を呼んでこっちに駆け寄ってくる。

「あのぉ、この姿を見られるのはちょっと」

「それもそうですわね」

さすがにお嬢様に抱きしめられている状態で、三人を出迎えるわけにもいかないので離してもらえるように頼む。

少し残念そうにしているのは気の所為にして、立ち上がろうとしたが。

「おっと?」

「もう。疲れ切っているではありませんか」

倒れそうになった。

命を賭けた戦いというのはこうも体力を削るのか。

実感しないとわからない物だな。

結局、エスメラルダ嬢から離れることはできず、支えられるように立つ俺の姿を見せることになり。

「リベルタ!?血が、血が」

「あわわわわわ!?どどどどどどうしよう!?」

「とにかく止血を!?」

浴びに浴びまくった返り血に、支えられて歩く俺の姿。

慌てる三人の姿を見て、つい笑ってしまった。

「大丈夫、大丈夫、これ全部返り血。なんかもう、今日は疲れたよ」

体もそうだが、今日は精神的に疲れた一日だ。

今ベッドに寝転がったら、このままの姿で朝まで熟睡コース間違いなし。

「とりあえず、早くこの血を洗い流したい」

歩くのも億劫だが、さすがにこの血をいつまでも体にこびりつかせていたいとは思わない。

睡眠欲求もあるが、それを上回る入浴欲と言えばいいのだろうか。

狂楽の道化師の血をいつまでもこびりつかせていると呪われそうな気もするので、風呂を要求する。

「では僭越ながら私がお背中をお流しします」

「いや、さすがに風呂は一人で」

「ダメ!!今のリベルタはフラフラだから私も手伝うわ!」

「僕も!!」

沸かしてくれればあとは勝手に入るつもりだったが、俺の疲れ具合を察して手伝ってくれると親切心を出してくれる。

その自覚がある。たしかに今の俺なら湯舟に浸るだけで眠る自信がある。

下手すれば、せっかく狂楽の道化師に勝ったのにそのまま湯船で溺れるなんて間抜けな結末を迎えるかもしれない。

彼女たちはあくまで親切心で、言ってくれているのだ。

そこを解釈すると受けてもいいような気がした。

「それでしたら、私が洗って差し上げますわ!」

「いや、ダメですよね?」

しかし、そこでまさかの伏兵が参戦してきた。

貴族のお嬢様に体を洗われる?

絶対にダメな奴だろ。

「ダメですの?」

「お嬢様、私共はいまこの場の片づけで忙しいです。なので私たちはなにも見ていません!!」

「だそうですわ」

「護衛しっかりしろ!!それ職務怠慢だからな!?」

普通なら止めるだろう護衛たちも、サムズアップして私見ていませんと宣言するのはどうにかしてでも公爵家に俺を引き込むためのハニートラップだろ!?

「ご安心を、しっかりと今回の犯罪者の遺体は回収し検分するという職務は全うします!!」

「違わないけど、そこじゃない!!俺男!彼女は女性!!未婚の貴族の女性が男と混浴なんてダメだろ!?」

さっきまでシリアスだったはずなのに、たった一言で一気にコメディみたいなやり取りになってしまった。

初めての人殺しに落ち込んでいたはずなのに、気づけば元気にツッコミをしている。

普通こういうときって、俺に関わるな!?とか癇癪をおこして仲間たちと不和を招く展開が多いよね!?

「大丈夫です!!私たちは見てません!!」

「ダメだこいつら!?」

落ち込んでいる暇もない。

もしかしたらわざとこんな風に対応して、励ましてくれているかもと思いつつ、この後は気合と根性を出して眠気と戦い誰の手も借りずに風呂に入ろうと思うのであった。