作品タイトル不明
18 ボス戦とスキルスロット
本当だったらレベルがない、そもそも戦わないモブと呼ばれるキャラクターが最弱とはいえダンジョンの最奥にいるボスに挑むことは命知らずと言われても仕方ないし、負けて当然だと思われる。
ノンアクティブモンスターしかいないダンジョンに安全地帯が必要かと首をかしげるような空間から出て、来た道ではなくさらに奥に進むルートを選ぶ。
普通に歩いていると、洞窟には似つかわしくない大きな木の扉に出くわす。
「ここか」
この先にボスがいる。
安全地帯はボス戦の前に休憩するために設置される。
クラスが上がればダンジョンの面積も増えて、安全地帯の数も増えるけど、一定のラインを越えた高難易度の場合逆に安全地帯が減る。
だけど、そんな高難易度ダンジョンでも最後のボス手前にはしっかりと 休憩するため(セーフ) の安全地帯(ポイント) が設置されていた。
すなわち、ここがボス部屋であることに間違いはない。
心臓が高鳴る。
一瞬緊張しているのかと思った。
だけど。
「この感じ、嫌いじゃない」
すぐに違うとわかった。
初めてFBOに触れた時の興奮を思い出している。
どんなゲームで、どんな敵がいるのか。
ワクワクしていた気持ちを思い起こしていると言った方が近い。
大丈夫、相手は勝てない化け物じゃない。
結果を出せば勝てるモンスターだ。
「さて、挑もうじゃないか!!」
子供の力で開くか心配になったけど、扉はスムーズに開き、その扉を閉めて中に入る。
低位クラスのダンジョンだとボスからの逃亡が認められている。
具体的に言えば、クラス3の中位くらいの実力のボスまでだ。
だから扉さえ開けておけばボスから逃げることもできる。
しかし、とある条件を満たすとボスからの逃亡が認められなくなる。
それが扉を閉めるという条件。
不退転の意志を示す意味もあるけど、これをすることによってボス戦後ご褒美が少しだけ良くなるのだ。
「いたなカガミモチ!」
逃げる気がない俺からすれば、ボーナスの方を優先するのに迷いはない。
ボス部屋に入ると、中央に鎮座する鏡餅みたいなモンスターがいる。
いや、みたいな、じゃなくて、見た目も名前もまんま鏡餅。
一番下が一番大きいモチ、そして重なるにつれてどんどん小さくなるモチ。
そして天辺のオレンジ色のモチ。
白三段、オレンジ色一段の合計四体合体したモチ。
最弱のダンジョンのボス、カガミモチだ。
竹槍を構えて、一歩前に出るとカガミモチもこっちに来る。
さすがにボスモンスターはノンアクティブモンスターではない。
この世界に来て初めてのアクティブモンスター。
普通のモチたちよりも動きが速く、さらに大きいから重厚感がある。
一番下のモチが上三体分の重さを苦にせず、そのままこっちにくる。
「先手必勝!」
カガミモチの攻撃パターンは限られている。
初手は絶対この体当たりから始まるんだ!
なら、ここで狙うのは一番下の一番大きな土台のモチ!
竹槍の間合いの長さを生かして、こっちに突っ込んでくるモチの進路から僅かにずれて、一歩踏み込む。
「ふっ!」
何度も何度も繰り返した動作は、体がひ弱な子供であってもこの攻撃を繰り出すには問題ない。
狙うは、一番下!!
カガミモチは四体が一見合体して、HPが合算されているように思えるモンスターだけど、実際は違う。
四体それぞれにHPが存在して、一番下が一番HPが多い。
そして飛び込んでくる一番下のカガミモチに対して一定の威力で攻撃をすると。
「よしこけた!!」
前面に散らばるように倒れる。
「あとは数を減らすだけ!!」
一番下のモチはまだ倒せていない。
だけど、カガミモチの一番厄介なのは数だ。
「まずはお前から!!」
そして一番上のオレンジ色のモチ。
こいつはカガミモチの司令塔だ。
散らばった時は一気に後方に下がって、白モチに指示を出して攻撃をするというパターンに切り替わる。
散らばって、わずかな時間だけ行動不能になるタイミングで攻撃対象を切り替えてオレンジ色のモチに竹槍を突き立てれば。
『きゅっ!?』
竹槍がオレンジ色のモチの中央を貫いた。
悲鳴が響き、一撃で屠ることができたと手ごたえを感じる。
最大火力まで高めた竹槍ならこれができる。
黒い灰に変わっていくオレンジ色のモチからすぐに一番大きいモチに向き直る最中に残った三体を確認する。
二段目と三段目は動きが止まった。
四段目は俺に攻撃されているからそのまま攻撃に来ている。
いいね、一番の理想形だ!
今度は引く。
四段目の背後に二段目と三段目が配置されるように移動して、そのまま四段目が前に来るタイミングで突く、そしてそのあとは攻撃が当たらないかどうかは関係なく引く。
相手の数と重量的に今の体じゃ吹き飛ばすよりもこっちが引いた方がいい。
ボス部屋の大きさは、今までの広場よりも一回り大きいくらい。
四段目が攻撃されているのを見て、二段目と三段目も動き始めるけど、少しずつ引っ張って時計回りになるように誘導してやればいい。
一番重要なのは囲まれないこと、そして三匹を常に視線に収めることを意識する。
こうやってちまちまちまちまと攻撃を繰り返すと、二段目と三段目のモチもだんだんと前に出てくる。
四段目を追い越して、二段目と三段目が出てきてもやることは変わらない。
追いつかれないように、追い詰められないように、ぐるぐると相手を引っ張るように広場を後ろ歩きで引きつけながら攻撃を繰り返す。
そうすると。
「二つ!」
まず最初に一番体力のない二段目のモチが落ちる。
「三つ!」
そしてずっと攻撃を加えていた四段目のモチが落ちて。
「ラスト!!」
最後に三段目のモチが黒い灰となって消える。
そして。
『スキル、槍術を習得しました』
「やったぁ!!!」
頭の中に中性的な声でアナウンスが流れ、勝ったことと重なってもろ手を上げて喜んだ。
『クラス0でスキルを獲得したため、ステータスの限定を解除いたします』
ついで流れた声。
「よしよしよし、これもゲームと同じ!」
本来であれば、レベルを獲得しないと得られないステータス。
だけど、ゲームではクラス0、レベルがない状態でボスを倒すことで装備していた武器のパッシブスキルを絶対に獲得できるというボーナスがあった。
レベルを上げてしまうとこのボーナスはなくなる。
これが発見されたときは俺もさすがにガチギレした。
FBOはスキルが獲得できる数が制限されている。
俺たちはそれをスキルスロットと呼んでいた。
実際、レベルを獲得すると最初に空きスロットが付与され、そこからいろいろな方法を使ってスキルを組み込む。
だから最初期メンバーは誰もが真っ先にレベルを上げてスキルの獲得に勤しんだ。
そこからさらにゲームを進めることによって、得られるスキルスロットの上限がたびたび更新されていく中で今回のレベル0状態でスキルを獲得できるというのが発見された。
いやぁ、解析班の人には頭が下がる思いですわ。
FBOがサービス終了するまでに発見されたスキルスロットの数は合計で五十個。
クラス0で発見されたのは二個だ。
そしてスキルスロットが五十個発見された際に、公式でスキルスロットの総数は五十個だと通知が来た。
「ステータスオープン!」
完全発見のご褒美とでも言えばいいのだろうか、その時にプレイヤー全員にいろいろと特典が与えられたな。
懐かしき思い出に浸りつつ、念願の合言葉を唱えれば。
『リベルタ クラス0/レベル0
基礎ステータス
体力0 魔力0
BP0
スキル1/スキルスロット1
槍術クラス1/レベル1 』
「うっし!出てる!!」
さっきの音声が夢幻じゃなくて、正真正銘間違いなく力を手に入れることができた。
思わずガッツポーズを取ってしまうくらいに嬉しくて仕方ない。
そして興奮冷めぬまま、ステータス画面のスキルの部分をタップする。
『槍術 クラス1/レベル1
槍装備時に効果発動
・槍による攻撃力0.01パーセント上昇
・槍によるスキル攻撃力0.01パーセント上昇
・槍による攻撃命中補正0.01パーセント上昇』
「よし、知っている奴だな」
槍を装備しているとき限定で発動するという条件下に加えて、他人から見れば誤差だろとツッコミを貰うほどの上昇率。
だけど、将来的なことを考えるとこれでいいのだと断言できる。
「あとは……」
ステータスの項目はこれだけじゃない。
ステータス画面のタブの部分には、ステータス/装備と表示されている。
そのうちの装備のタブをタップすると
『装備
頭 布のバンダナ
胴 布の服
右手 弱者の竹の槍
左手 弱者の竹の槍
下半身 布のズボン
足 革靴
アクセサリー1 修練の腕輪
アクセサリー2 修練の腕輪
EXスロット 』
どの武具やアクセサリーが装備され有効となっているかがわかる。
俺で言えばこんな感じで、唯一の空き部分のEXスロットていうのは例外的な装備、たぶん決闘の駒もここに分類される装備だ。
「うん、ここら辺はそこまで見る物はないか」
装備している項目をタップすれば装備の詳細を知れるシステムもしっかりと機能している。
「だけど、なんでここまでゲームと同じなんだ?」
似ているところと似ていないところ、同じ部分とそうではないところ。
色々とツッコミどころはあるけど、それでもこうやってシステム的な画面を見せられると余計にこの世界は何なんだと首をかしげてしまう。
「まぁ、気にしてもどうしようもないけど」
だからと言って何かできるわけじゃない。
不審に思う要素が増えたというだけ。
俺にできることはこうやって、順調に自分を育てる過程を楽しむことだけ。
「さて、さて、最後の報酬はっと」
スキルを得て、ステータスを得てもろもろの確認を終えてようやく、ボス討伐報酬の確認だ。
ボス部屋にはすでにボスの姿はなく、代わりにあるのはこれぞ宝箱!と言わんばかりの堂々たる箱が中央に鎮座して、その奥に光り輝く魔法陣があった。
「木箱が一個だけかぁ。本当にこの世界に来てから俺のリアルラックどうなってんだよ」
奥の魔法陣はダンジョン脱出用のやつ、そして手前にあるのはボス討伐報酬が入っている宝箱。
「まぁ、開けるまではわからんけど」
ボスの宝箱にはいくつか種類がある。
最下級の木箱から始まり、銅、銀、金、虹とランクアップする。
上の宝箱が出れば出るほど中に入っているアイテムが豪勢になる仕組みで、虹になればかなり有用なレアアイテムも出ることがある。
おまけにたまに複数の宝箱が出る時もある。
俺がやった不退転の覚悟もその可能性を上げるための行動だ。
「……はい、わかってましたよーお察しの最低保証ってやつですねぇ」
その努力は報われず、宝箱の中に入っていたのは少し大粒の魔石が一個。
宝箱に入れる必要ないだろとツッコミたい気持ちを抑えて、そっとそれを摘まんで皮袋の中に入れる。
ボスから出る魔石だ。
一応、そこら辺を徘徊するモチよりもいい魔石は当然ドロップする。
売れば一個十ゼニにはなるくらいの価値がある。
そしてこれはボスが出れば絶対に手に入る物だ。
最低保証で十ゼニが定期的に入るようになるのはでかい。
おまけにこれからはスキル育成という行動も増えるから、積極的にボス戦は挑んでいける。
「んー、一周当たり効率よくいけば三十分。ダンジョンのリキャスト時間と休憩込みで四十五分ってところ。ようやく時給千円超えたくらいかな」
徐々に徐々に収入が増えて行くのは正直嬉しい。
日給換算すれば、一日八時間労働で十回くらいはダンジョンに挑めるから百ゼニは固い。
体力が保てばの話だろうけど、少なくともドロップ頼りの丘に行っていた時よりはマシだ。
「あとは、リキャスト時間が過ぎてもう一度使えるかどうかのチェックして……」
宝箱も中身を取り出したらただの箱。
消えるわけでもないし、地面にこれでもかと固定されているので持ち出すこともできない。
なので、もうこの場所には用はない。
後は周回作業の時間だ。
宝箱の奥にある魔法陣に向かって、そのまま乗る。
そうするとピカッと一瞬だけ視界が真っ白になる。
「ローディング時間はこっちの方が短いな」
ゲーム時代だと、切り替えに少し時間がかかっていたから逆に全く時間がかからないのは嬉しい。
「さてと、さすがにすぐには使えないか」
皮袋の中を整理する。
拾った魔石は籠の中、薬草もついでに籠の中に入れる。
戦利品がしょぼいから、整理はあっという間に終わってしまう。
残り時間はステータスを確認して時間を潰し。
「良し、問題なく使えるな」
次もダンジョンの鍵は問題なくできた。
「リキャスト時間の確認はわずかに光っているかどうかで判断できるのか。さて、起動したのならもったいないし、さっさと攻略しようか!」
起動したのなら仕方ないと心の中で言い訳して、今日は少しだけ寝る時間が遅くなったのであった。