軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

17 ダンジョン

「絶対に約束だからね!!」

「わかってるわよ!!明日会いに来るから!!」

「うん!」

アミナという少女はとにかく元気だった。

それも、歌という分野においてこれでもかというくらいに熱弁してくれたおかげで夕暮れを知らせる鐘の音で今俺たちは慌てて帰路についている。

「アミナと一緒の冒険楽しみね!」

「そうだな」

道を走るネルの声は背中越しだというのに笑顔だというのがわかる。

それほどアミナが大切な友達なのだろう。

まだ予定が決まっただけで、ジンクさんやテレサさんから許可も取っていないのにここまで喜んでいいのだろうか?

外に出ること自体、あの二人は最初の一回は経験と割り切ってくれたけど、二回目には消極的だった。

これは一波乱あるかもな。

喜んでいるところに水を差す気はないので、黙ってそのまま帰ったけど。

「んー、さすがによそ様の子を預かるのはだめかな」

帰宅したと同時に、アミナとの約束を守ろうとしたネルは、テレサさんでは危険だと直感し迂回路を経て多少甘いジンクさんのところに行ったが、答えは芳しくなかった。

「えー!護衛だってちゃんと雇うよ!!」

「それでもだよ、子供が二人と三人じゃ大違いだ。護衛する人数がそもそも足りないよ。それにデントほどの実力者を二人も雇うとなればお金がかかる。ネルの話だとネルがアミナちゃんの分も護衛料金を出すつもりなんだろうけど、残念だけど親としても商人としても対等じゃないやり取りじゃ許可が出せないね」

「そんなぁ」

現実的に考えればそうだろう。

お金を持っているから、護衛料金を出せる。

それで問題解決だというわけじゃない。

ジンクさんは、お金の出し方に対して不信感をだしているのだ。

「いいかいネル。本当にアミナちゃんが大事なら、お金のやり取りはしっかりとしないといけない。もし仮にアミナちゃんやその家族が怪我や病気をして急にお金が必要だというならその時は躊躇わず出しなさい。だけど、今回は違う。一時の楽しみ、そして一回の経験のためにネルがお金を出す。それは決して対等な友人関係でやることじゃない。今はいいかもしれないけど、未来にもしかしたらこのお金の件で問題が起きるかもしれないんだ」

ジンクさんの言っていることは至極真っ当だ。

今回ばかりは俺もネルを援護する気はない。

そもそもそれが必要ではなさそうだ。

「わかるかい?」

「うん」

ネルは賢い。

今は、ついつい楽しみという感情で先走って考えずに提案してしまったが、ジンクさんが真剣に説明して、感情ではなく理性で理解と納得をした。

アミナが大切だから、対等でいたいからということが大事だから。

「よしよし。これがしっかりと理解できるのはすごいことだよ」

「うん」

お金のやり取りは、下手をしなくても人間関係に上下関係を作ってしまう。

貸し借りでは貸主の方が立場が上になるケースが多い。

ジンクさんはそれで失敗した経験があるのだろうか、ネルの頭を撫でて褒めているが、ネルが喜んでいないことにも理解を示していた。

「さて!暗い話はここまでだ!テレサ、ご飯にしよう」

「やっと終わったのかい?このまま待ってたら夕食が冷めちゃうところだよ。リベルタ君も今日はうちで食べてきな。臨時収入が入ったから今日はお肉が少し多めに入っているよ!」

そのやり取りを見つつ、この後に相談することを考えるとこのシリアスなやり取りがぶち壊しになるかも。

いつもは元気なネルが、今日は物静かに夕食を進めるのは少し気まずい。

「……」

「「「……」」」

耳がぺったりと垂れているあたり元気がないのがわかりやすい。

明日アミナになんて説明しようかと考えているのが丸わかりだ。

俺、ジンクさん、テレサさんが見合わせてどうするかと視線で聞きあうくらい元気がない。

「あ、あのぉ、こんな食事時に相談するのもなんですけど、ジンクさんいいですか?」

仕方ない。

ここは少し空気を読まず俺が切り出すしかない。

「ああ、今朝がた言ってたことだね。相談するってことは君が言っていたことは成功したってことだね」

「はい、実は先日手に入れたダンジョンの鍵を使いたいんですけど、街中で使ったらまずいですよね?」

相談内容というのはダンジョンの鍵に対してだ。

ゲーム時代ではどこでも勝手に使って、そしてダンジョンを攻略していたというのが流れだ。

しかし、それはゲームの話で現実では規制があるかもしれない。

「ほう、それは何のダンジョンかな?」

「モチです」

街中はもちろん、街の近くでの使用ももしかしたら制限がかかっているかもしれない。

「うん、だったら街の中でも使っても問題ないよ」

「え、そうなんですか?」

「うん、ダンジョンの鍵の売買は我々商人も許されているからね。使うための条件もいろいろと知っているのさ。その中でモチならスタンピードを起こす心配もないから使っても問題ないことになってる。さすがにそれ以外だと許可を取る必要があったり騎士団か冒険者ギルドに届け出を出す必要があるんだ。クラス2以上のダンジョンを生成するときは冒険者ギルドと騎士団が許可を出しているエリアでしか作れないから注意してね」

「はい!」

しかし、さすがは最弱のモチ。

街中で使っても問題ないというお墨付きが出るほどの最弱保証が利くとは、これは俺にとってかなり好都合だ。

「良かったなネル!」

「え?」

そしてこの好都合はネルにも影響する。

考え事をしていたネルは俺の話を聞いていなかったのか。

俺が声をかけてようやく顔を上げた。

「冒険には行けないけど、これだったら一緒にダンジョンには挑める!しかも中身は安心安全のモチだ!」

「あ!」

そう、モチダンジョンはジンクさんが保証してくれた通り、どこでも使えて簡単に潜れるダンジョンだ。

アミナと一緒に冒険するという約束も守ることができる。

「予定は違うけど、一緒に行くことは出来るぞ」

「うん!うん!それならいいわね!!」

それを理解したネルはその場で飛び跳ねる勢いで、うなずいている。

椅子から伸びる尻尾はさっきからぶんぶんと振られている。

ネルが元気になったことでジンクさんもテレサさんもホッと安心しているようだ。

「しかし、いいのかい?君がせっかく手に入れたダンジョンの鍵だ。私たちからすれば嬉しいけど、たった一回の機会を娘の約束のために使うのは」

けれど、すぐにその顔は申し訳なさそうな顔をしている。

ダンジョンの鍵は本来であれば消耗品だ。

一度そのダンジョンを開けるために使えば、鍵は役目を終え消滅する。

そしてダンジョンはその最奥にいるボスを討伐されると消える。

最弱のモチダンジョンなら、ボスの強さもお察しで、簡単に攻略できてしまう。

その機会を使っていいのかと心配してくれているのだろう。

「大丈夫です、何の問題もありません」

「そうか、だが、商人としてそしてネルの父親としてこの借りはしっかりと返させてもらうよ」

最弱とはいえダンジョンを作れる鍵、市場価格的に見ればそこそこの値段がする。

ゲーム時代の価格で言えば安くて千ゼニ、高ければ三千ゼニくらいの価値はついていた。

この世界での価格はわからない。

けど貴重品という認識はあるようで、俺に恩を感じてくれているみたいだ。

俺の大丈夫という言葉も、ジンクさんたちは二人に世話になっているからという俺の引け目からくる言葉だと思っているかもしれないな。

俺は文字通り問題ないんだけどな。

「ご厚意だけ受け取っておきます。ごちそうさまでした。明日は早そうなので今日はもう寝ますね」

「うん、そうだね。お休み」

「ネル!あんたも今日は早く寝なさい。今のあんただと興奮しすぎて寝坊しそうなのよ」

「はーい!リベルタ、おやすみ!」

「うん、おやすみ」

けれどまだ確信はない。

今日だって、決闘の駒なる俺の知らないアイテムがあった。

この世界には俺の知識と差異がある。

今回もその可能性がある。

だからそれを確認するために、俺は夕食をごちそうになった席から立っていつもより少し早めに馬小屋に戻った。

「よし」

辺りは暗く、そして馬小屋の中も暗い。

ランタンでも買った方がいいかもと思いつつ、皮袋の中に手を突っ込む。

財布の中の硬貨の中に混じる細長い物体。

それをつかみ取って皮袋から出し、大きく深呼吸を一つ。

「そう言えば、使い方ってどうやるんだ?」

そこで気づく、ダンジョンの鍵の使い方がわからないことに。

「……ゲームと同じでいいのか?」

何か詠唱が必要だとかなり困る。

中二病を卒業したとは言わないけど、それでも羞恥心を感じる程度の大人として成熟してしまっている。

今の姿なら微笑ましく見られるかもしれないけど……

ひとまずはゲームと同じようなやり方を試すしかないか。

「っ」

生唾を飲み込み、そっと目前の空間に鍵を差し込むように押し込む。

カチ

僅かに何かがはまり込む感覚、そしてその感覚を頼りにそっと鍵を回す。

カチャリ

鍵が開いた音が響いたその直後だった。

「うお!?」

馬小屋がほのかに明るくなった。

「これが、ダンジョンの入り口」

馬小屋の中心にぽつんと開かれる縦に長い楕円状の穴。

ゲームでは薄い靄のような感じで表示されていたが、現実では異なり、くっきりと中を見通せるように現れた。

白と青が入り混じったような光に照らされる洞窟。

知っている情報と一致している。

だけど大丈夫だと言い聞かせても、本能的にこの空間に入っていいのかと忌避感が出ている。

「そうだ、鍵は」

非現実的な光景を見て、忘れていたけど、目的は別にあった。

鍵を握っていた右手を見れば。

「ある、しっかりとあるぞ」

元の形のまま、欠けたり折れたりせず、しっかりと残っている。

ダンジョンの鍵はこうやってダンジョンを生成した瞬間に砕け散るようなエフェクトで消失していた。

だけど、弱者の証が与えた不壊のスキルのおかげでそれが防がれ、今もなお原形をとどめて残っている。

「うん、これならいける」

なら次に確認すべきは中身だ。

この世界で死に戻りがあるかどうかわからない。

ゲームでは一定のデスペナルティを払うことで登録地点で復帰できるようになっていた。

しかし、それはゲームの話、現実で死んで復活するというのは淡い希望でしかない。

背中に背負っている竹槍だけが俺の武器。

ゲーム通りなら負ける気がしない。

だが、例外が存在していたら危険かもしれない。

そのせめぎ合いはあっさりと、好奇心が勝ち、そっとダンジョンへの一歩を踏みだす。

楕円形の入り口に体を潜り込ませる。

何かを感じ取ることもなく、普通に一歩踏み込むのとなんら変わりなく、ダンジョンの中に入り込むことができた。

小さな運動場程度の広さの洞窟内。

そこにモチが三匹。

俺が入ってきたことにも気づかず、跳ねるように移動している。

「奥に通路……」

風景はほぼ一緒、あとは通路の配置とモンスターの数と思いつつ鍵を大事に皮袋の中に戻して威力の上がった竹槍で攻撃するとモチは一撃で消滅。

「ドロップ率も上がってるのか?」

ダンジョンの中はフィールドよりもモンスターのアイテムドロップ率が三倍近く高くなる。

三匹倒して小さい魔石一つ。

一応最低限のドロップ上昇率の確認はできた。

強さも大して変わらない。

それならと先に進む。

「ここで二手に分かれているってことは」

通路の広さは体感で同じで、長さもたぶん一緒。

道中にモチが二体。

倒して進み、ドロップ無し。

さらに記憶にある通り途中で道が二つに分かれていた。

「たしか、左に行けば行き止まりだったはず」

正解は右、だけどマップを全部確認するためにあえて左に行けば通路は塞がっていてこれ以上前には進めないのを知らせてくる。

記憶が正しく、なら次はと元来た道を戻って今度は右の道を進む。

「今度は五匹、うん間違いない」

最初の広場と同じくらいの広さ。

そして変わったのはモチの数が増えたことと。

「あった!」

さらに、壁際の定位置に緑色の草が生えていた。

「薬草ゲット」

これはライフポーションの素材になるやつだ。

金策でも使えるし、回復素材としても使える。

これも皮袋の中に突っ込んでおいて、モチをさくっと倒す。

結果は小粒の魔石1個。

うん、俺のリアルラックの所為でドロップテーブルよりも低く感じるな。

悲しくなる現実を直視しないで、そのまま先に進む。

「あった、安全地帯」

今度は少し長めの通路だ。

道中にモチが三体いて、ドロップは魔石が一個。

そして道中に脇に掘られるような形で小さな小部屋があった。

この部屋にはモンスターがいないし、小さな泉みたいな場所が設置されていて中を覗き込む。

「綺麗だし、飲んでも大丈夫そうだな」

ゲームならこれを飲むと全回復するという、ゲームおなじみの回復スポットだ。

恐る恐る、手で泉の水をすくってまず一口。

「うん、普通の水だな」

味はいたって普通、衛生的に大丈夫か?と不安になるし、回復したときに感じるような力がみなぎるようなこともない。

気持ち疲れが取れたような気するだけ。

これもプラシーボ効果な気もする。

「モチからダメージをくらって実験してみるか?」

たぶん、道中や広場に戻ればモチはいる。

だけど、この後は。

「いや、この後はボス戦だ。余計なことはしないでおこう」

ボス部屋だ。

これ以上にないくらい重要な一戦。

気を引き締めておこう。