軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

34 帰還

スキルを発動して振るった鎌は手ごたえを一切感じることなく、振り切ることができた。

空振りしたかと思うほどの手ごたえの無さ。

俺が放った一撃は間違いなく攻撃が当たるタイミングであり、風竜は咄嗟に避けることができるわけがない一撃であった。

その条件から算出される結果に、俺の口元に笑みが浮かぶ。

「ここで、出るか」

ボスに即死技が効く可能性なんて、ゼロに近い。

だけど、この手ごたえの無さがゼロではないことを証明してみせた。

本来であれば竜殺しの特効を付与した武器で何度も攻撃して、体力を削り、それでようやくその命に届き得る。ダンジョンボスの風竜という存在はそれほどに強い。

だが、その強大な命を儚くあっけなく散らし、風竜の首は鏡面のように滑らかな断面をずるりと滑り、そのまま地面へと落ちた。

徐々に風竜の体が灰になる。

それすなわち、風竜の命が尽きたということ。

あまりにも出来すぎている。

このタイミングで、超低確率の即死攻撃を引き寄せた。

俺の予想では、首に強大なダメージを与えてダメージアドバンテージを得る予定だった。

だけど、予想に反して、急所である逆鱗を含めての斬首攻撃は一撃で風竜の命を刈り取って見せた。

首と胴体が分かれるという凄惨な光景を作り出し、消え去る風竜の姿に飛竜たちの動揺が走った。

『■■■■■■■!!』

このまま恐慌状態になってくれれば楽なのだが、そうは問屋が卸さないと残った風竜が咆哮をあげて、飛竜たちの気を立て直した。

ここにまだ俺がいると叫ぶ彼に俺は視線を向ける。

じろりと俺を睨む風竜の目に慢心はない。

共にダンジョンを支配していた相方に正面から挑み、そして勝ってみせた子供の俺を強敵と認識した瞬間だ。

僅かの間にらみ合い、そして両者の間の空間が停滞した。

だけど、その一瞬の間が欲しかった。

どちらが攻撃の先を取るかというタイミングを奪い合える機会。

先制攻撃が欲しかった俺は、素早く鎌槍から大弓に切り替え、またもや狙撃。

狙うのは飛竜ではなく、咆哮をあげていた風竜だ。

足元に現れた木箱は後で開けるとして、今はこいつらを倒すことに全神経を集中させる。

大弓という武器の特性上、速射には向かないが射った矢の速度は速い。

俺に注目していた風竜は飛んでくる矢を躱そうと動き、実際にその矢は避けられたが俺が矢筒から抜いた矢は二本。

そう、二本掛けの射撃。

避けようにも、避ける動きが大きく必要になる射撃。

大弓の強い張力があるからこそできる技。

案の定、予想よりも大きく避ける動きを要求された風竜は、次の動作に支障が出るほど大きく動いた。

そこを狙って俺は大弓を持ったまま前進する。

ブレスはない。

来るとすれば、発動条件の早いウインドカッターか、ハンマーの二択。

ダウンバーストとエアゼロフィールドは発動に時間がかかる上に、追尾性能に難がある。

となれば、来る攻撃は読みやすい。

ウインドベールを張り直して、次の矢に警戒をしているようだけど。

風竜から狙いを逸らして大弓をわずかに上に向けると、風竜がまたもや大げさに動きその場から急速に離れようとした。

相方の風竜の倒され方がかなり印象的だったのか、視線で威圧し飛竜を遠ざけ戦いの邪魔をさせないようにするほどだ。

ボスの命令は絶対。

飛竜は即座に指示に従って、俺と風竜を遠巻きで囲むように離れた。

飛竜を傘にして防御したり、落下させてぶつけたりと取り巻きをずいぶんと利用しすぎて警戒されてしまったようだ。

ここまで離れるとさすがに大弓でも当てることは無理だ。

その代わり、飛竜のブレスの攻撃範囲からも出れたと思えば、状況としては十分だと言える。

「一対一なら負けないって顔だなぁ」

強者としての自尊。

邪魔さえなければ俺には負けないと思っている風竜の思考に思わず苦笑してしまう。

俺個人としてその対応に対して言うのなら。

「それ、悪手だよ」

風竜のスペックを知っているからこそのこの発言。

確かにこの開けた場所で、相手は空を飛べるというアドバンテージを持っている。

だが、裏を返せば空から叩き落とされれば負ける可能性を持っていると自覚しているという証左でもある。

慌てて飛竜を遠ざけたことによって、攻撃に集中しきれていない。

飛んできたウインドカッターをよけ、次の刃の隙間に体を差し込み、そのまま射撃で返せばその矢がウインドベールに阻まれる。

ウインドハンマーが空間を圧して飛んで来るが、こっちはウインドカッターと比べると遅い。

攻撃範囲も広いが、予測できれば十分に避けれる。

「あとは、タイミングか」

体の真横を風の衝撃が通り過ぎ、回り込むようにウインドカッターが飛んで来る。

空を飛び、そして縦横無尽に風の魔法を操る竜。

竜とはもっと肉弾戦を好むような印象があるかもしれないが、強靭な肉体を駆使して遠距離戦をするというのもまた戦闘スタイルの一つだろう。

そんな風竜に対して俺はできるだけ、一ヵ所にとどまるように回避して、時折矢を射かけるという行為を繰り返す。

来い来いと念じ続けるが。

「これじゃない」

一か所にとどまっていて飛んできたのはダウンバースト。

空からの空気が叩きつけられるが、それは予想できたから回避できる。

待っている攻撃モーションが来ないが焦れてくるのは俺だけではない。

「こりゃ、珍しい攻撃を」

ブレスを放たないのはその隙に攻撃されるのを理解しているから。だから魔法でちまちまと削ろうとしているのだがそれもうまくいかないことに苛立ちを募らせて急上昇した。空から垂直にブレスを放つつもりか。

確かにそれなら俺の攻撃は届かない上に、この広場には障害物がないから回避するのも難しい。

だけど、それならこっちにも考えはある。

ブレスが放出されるまでの時間は三秒ほど。

魔法使いなら防御魔法を使う、タンク役なら大盾を構える。

しかし、アタッカーである俺がここで何をするかと言えば。

「持ってきてよかった灯りの魔道具ってね」

乱戦では使えなかったが、一対一であるなら十分に使うことができる。

「魔力を限界まで込めて」

これは俺が公爵閣下に頼んで貸してもらった小道具の一つ、これ自体はただ単に灯りを作り周囲を照らすだけの道具。

このダンジョンは明るいからこの灯りの魔道具の明かりをともしても意味はないように見えるかもしれないが、この魔道具には少し改造を施し。

「一か所に明かりを集めるようにすれば」

空にいる風竜の顔めがけて光を収束して放てるようにすれば。

「目潰しってね」

探照灯のような使い方も十分にできる。

『■■■■■!?』

収束された光をもろに目に浴びれば、ブレスを吐き出すのを邪魔することくらいはできる。

しかもこの灯りの魔道具は、素材となる光の精霊石をふんだんに使った魔改造版だ。

いやぁ、幼き精霊たちの精霊回廊をせっせと掘り進めた甲斐がありますよ。

そのおかげで、普通の魔道具では出せないような光量を叩きだすことに成功している。

燃費はその光量に比例して悪くなってはいるんだけど、風竜の視界を真っ白に染め上げるほどの光量を確保できているのなら問題ない。

顔面を覆うほどの真っ白な光線。

ブレスで口の位置を固定しているから当てやすいったらありゃしない、おまけに手が短い上に、首が長いから手で覆うこともできない。

どこに俺がいるのかもわからない。

俺はひたすら探照灯を当て続け、その間に現在地から移動する。

目を閉じれば光は遮れるけど、その程度で大丈夫と思うな。

この魔改造した灯りの魔道具は瞼くらいなら普通に貫通するぞ。

時間が経てば経つほど目が光に潰されていくのだ!!

欠点はこれを持つと弓が打てなくなるから、俺も攻撃ができないことだな!!

だけど、こうやって遠距離攻撃で一方的に俺に攻撃しようとしてくる行動には突き刺さるんだよね。

特に空中にいる輩は、視界が潰れると下手したら墜落の可能性があるし。

これで落ちて来てくれたら楽でいいんだけど。

あ、ブレス止めた。

ブレスを維持するのが困難になり、とにかく光から逃げるためにその場を移動したタイミングで光を止める。

これで俺を見つけることができるはず。

その予想は当たり、良くもやってくれたなと睨みつけてくる風竜の真下に移動。

息を止め、そして魔法を使ってくれるのを待ち構えるために弓を構える。

その瞬間、俺の辺り一帯から音が無くなる。

空気が無くなったのだ。

そしてこれを待っていた。

エアゼロフィールドの効果範囲は、ドーム状のように展開される。

この展開された空間内では一切合切の空気が無くなる。

生物にとっては死のエリアと化す。

その中央にいる俺を見て、風竜が勝ったと確信したように口元で再びブレスの魔力を溜め始めた。

だけどね、世の中にはこういうアイテムもあるんですよ。

元は飛竜を叩き落とすために用意した代物、だけどなんだかんだ使う機会がなくてここまで温存できた切り札。

大弓を地面に置き、そして代わりにマジックバッグから取り出した丸い物体の突起の部分を押して、一緒に取り出したスリングショットにセット。

ゴムを思いっきり引き伸ばしてそのまま上空にうち放った。

本当だったらこれを使う予定はなかった。

使ったら最後、敵に俺の居場所を知られる上に、俺自身にも多大なる被害をもたらすのだから。

だけど、敵に見つかり、集められるだけの敵を集めてしまった現状で、なおかつ空気が一切ない空間に閉じ込められているのなら話は別だ。

凄い勢いで、俺と風竜の中間にまで飛来した物体は風竜がブレスを吐き出すよりも前に破裂し。

衝撃波を伴うほどの爆音を辺り一帯に撒き散らした。

音爆弾、風の精霊石を破裂させるように使用する音響兵器。

敵味方問わず、爆音を響かせるから敵を引き寄せるわ、自分の鼓膜に大ダメージを与えるわと使い勝手がかなり難しくて、耳栓とかで耳を防護することが必須のアイテム。

生半可な耳の防護じゃ貫通して、数時間は耳鳴りが止まらず三半規管も狂ってしまうという凶悪すぎる無差別兵器。

エアゼロフィールドの真空で、音が一切通らない空間に避難していた俺は無音の空間に身を寄せていたから平気だったけど、近くで聞いていた風竜は白目をむいて墜落してくる。

「まぁ、気絶って言っても数秒だし、風竜くらいになると墜落ダメージも最小限になるんだよねぇ」

落ちてくるのは俺の真上、大弓を回収して、その場から離れ、そして鎌槍へと持ち替える。

「ちまちまと弓で攻撃していると矢が足りなくなって倒し切れないんだ。本当、首狩りスキルが手に入って良かったよ」

風竜が二体いることも想定外だが、そもそも風竜を倒すこと自体が想定外。

公爵閣下になんて言い訳しようかなと、考えつつマジックエッジで鎌の形状を生成。

ズドンと巨体が墜落したのを目の前で見つつ、歩みは駆け足に、そして駆け足は全力疾走に。

「おかげで、こうやって!!」

地面に墜落したことで、ようやく意識が戻ったのか起き上がろうとしている風竜だが音響爆弾で三半規管がやられ、平衡感覚が狂っている。

「攻撃を通すことができる!!」

そんな相手に襲い掛かり、容赦も躊躇いもなく、スキルを発動する。

「首狩り!!」

竜の首、とりわけ風竜の首は長いからこのスキルが当てやすくて助かる!!

さすがに二回連続で即死はないけど、血しぶきが出るほどのダメージを負わせることができた。

「オラオラ!!死ね!死ね!死ね!」

そして地面に鎌槍を突き立て、竜殺しの焔魔大弓を構えると超近接で風竜の顔面に矢を打ち続ける。

リキャストタイムが終わるまで、ただひたすら急所に矢を打ち続ける。

「首狩り!!」

そしてリキャストタイムが終われば再び首に向けて鎌を振りぬく。

首のダメージと顔面のダメージ、さらに三半規管が狂っているという状況で、風竜はまともに動くことができず、ひたすら俺の攻撃を受け続けることになった。

「射る!射る!射る!首狩り!射る!射る!射る!首狩り!射る!射る!射る!首狩り!射る!射る!射る!首狩り!射る!射る!射る!首狩り!!」

魔力も、矢もすべて出し尽くす勢いで攻撃を繰り返し。

「これで死ねぇえええええええ!!」

自分のひどい形相が想像できるほどの叫びを添えて、最後の魔力で放った渾身の首狩りで風竜の首が断たれ、そこでようやく風竜が灰になり始めた。

「勝ったぞ!オラアアアアアアアア!!!」

両手を突き上げるガッツポーズ、そして足元に現れる二つ目の木箱。

クリティカルダメージをひたすらたたき出し続けてようやくつかめた勝利。

「生き残ったぞおおおおお!」

本来の目的以外のことも達成してしまった気もするが、今はそれよりも心の底から生き残れたことに関して喜びたい。

今回ばかりは死を覚悟した。

ごり押しにごり押しを重ねて、どうにか倒すことができた。

準備をしてこれなのだから本当にこんなマネ二度としたくない。

「これで、帰れる」

木箱を開けて、出現した脱出用の魔法陣に乗り早々に帰るのであった。

だけど、戦闘で疲れ、そして達成感に満ちていた俺は忘れていた。

風竜の素材を普通に担ぎ、そしてお面を放棄してそのままダンジョンを脱出するという偉業がどんな目で見られるのかということを。